住宅ローン返済中の物件を賃貸に出す方法と注意点

公開日: 2025/11/11

住宅ローン返済中の物件を賃貸に出すことは可能か

転勤や住み替えで、「住宅ローン返済中の物件を賃貸に出せるだろうか」と考える方は少なくありません。

この記事では、住宅ローン返済中の物件を賃貸に出す際の契約違反リスク、金融機関への相談方法、アパートローンへの借り換え、税務処理の注意点を、国土交通省国税庁の公式情報を元に解説します。

初めて賃貸に出す方でも、金融機関との契約違反を避け、適切な手続きを行えるようになります。

この記事のポイント

  • 住宅ローンは「自己居住用」が前提であり、無断で賃貸に出すと契約違反になる可能性がある
  • 転勤等のやむを得ない事情がある場合、金融機関に相談すれば賃貸を認められるケースが多い
  • 金融機関が認めない場合、アパートローンへの借り換えが必要(金利が1-3%上昇する可能性)
  • 賃貸に出すと不動産所得が発生し、確定申告が必要(住宅ローン控除は原則として使えなくなる)
  • 無断で賃貸に出すと、一括返済を求められるリスクがあるため、必ず事前に金融機関に相談する

住宅ローン返済中に賃貸に出す際の契約違反リスク

住宅ローンは「自己居住用」を前提とした低金利の融資です。無断で賃貸に出すと、契約違反となる可能性があります。

住宅ローンの「自己居住用」要件とは

住宅ローンは、借主が自ら居住することを条件に、低金利(年0.5-1.5%程度)で融資されます。

国土交通省の住宅金融支援機構の資料によると、フラット35等の公的融資でも「借主本人またはその親族が居住する住宅」が融資要件とされています。

賃貸に出すと「自己居住用」ではなくなるため、金融機関との契約違反となる可能性があります。

無断で賃貸に出した場合のペナルティ

金融機関に無断で賃貸に出すと、以下のペナルティが課される可能性があります。

  • 一括返済の要求: 住宅ローン残債を一括で返済するよう求められる
  • 金利の引き上げ: 住宅ローン金利からアパートローン金利(年2-5%)への引き上げ
  • 遅延損害金: 契約違反に対する損害金

特に一括返済を求められると、数千万円単位の返済が必要となり、経済的に大きな負担となります。

金融機関が賃貸を認めるケース

金融機関が賃貸を認める主なケースは以下の通りです。

  • 転勤: 勤務先からの転勤命令により、一時的に転居する場合
  • 介護: 親の介護のため実家に戻る場合
  • 結婚・離婚: 配偶者の住居に転居する場合
  • その他やむを得ない事情: 病気療養、子供の進学等

これらの事情がある場合、金融機関に相談すれば賃貸を認められるケースが多いです。ただし、金融機関により判断基準が異なるため、必ず事前に相談してください。

金融機関への相談と対応方法

住宅ローン返済中の物件を賃貸に出す場合、金融機関への相談が必須です。

相談時に準備すべき書類

金融機関に相談する際、以下の書類を準備するとスムーズです。

  • 転勤命令書: 勤務先が発行する転勤の証明書類
  • 住民票: 転居先の住所を証明する書類
  • 賃貸借契約書(案): 賃貸に出す際の契約内容
  • 収支計算書: 賃料収入と住宅ローン返済額の収支見込み

やむを得ない事情を証明する書類があると、金融機関が賃貸を認めやすくなります。

アパートローンへの借り換えを検討

金融機関が賃貸を認めない場合、アパートローンへの借り換えが必要です。

アパートローンの特徴:

  • 金利: 年2-5%(住宅ローンより1-3%高い)
  • 融資対象: 賃貸用不動産
  • 審査基準: 賃料収入を返済原資として評価

アパートローンへの借り換えにより、賃貸を合法的に行えますが、金利上昇により返済額が増加する点に注意が必要です。

借り換え例:

  • 住宅ローン残債: 3,000万円、金利1.0%、返済期間25年 → 月額11.3万円
  • アパートローン: 3,000万円、金利3.0%、返済期間25年 → 月額14.2万円
  • 月額2.9万円の増加

賃料収入で返済額の増加をカバーできるか、事前に収支計算を行うことを推奨します。

金融機関との交渉のポイント

金融機関との交渉では、以下のポイントを伝えると賃貸を認められやすくなります。

  • 一時的な賃貸: 転勤期間終了後は自己居住に戻る予定であることを明示
  • 返済能力の証明: 賃料収入と給与収入により返済能力が維持されることを示す
  • 誠実な対応: 無断で賃貸に出すのではなく、事前に相談する姿勢を示す

金融機関も契約違反を避けたいため、誠実に相談すれば柔軟に対応してもらえるケースが多いです。

賃貸に出す際の税務処理と確定申告

住宅ローン返済中の物件を賃貸に出すと、税務処理が複雑になります。

住宅ローン控除の適用終了

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、自己居住用の住宅に適用される所得控除です。

国税庁によると、賃貸に出すと「自己居住用」ではなくなるため、住宅ローン控除は原則として使えなくなります

転勤等で一時的に賃貸に出す場合、再び自己居住に戻せば住宅ローン控除を再適用できる場合があります。詳細は税務署に確認してください。

不動産所得の確定申告が必要

賃貸に出すと、賃料収入が不動産所得として課税されます。

国税庁によると、不動産所得は以下の計算式で算出されます。

不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費

  • 総収入金額: 賃料、更新料、礼金等
  • 必要経費: 管理費、修繕費、固定資産税、減価償却費、住宅ローン利息(元金は含まれない)等

不動産所得が年間20万円を超える場合、確定申告が必要です。

減価償却費と住宅ローン利息の計上

賃貸に出すと、建物部分の減価償却費を必要経費として計上できます。

減価償却費の計算例:

  • 建物取得価額: 2,000万円
  • 耐用年数: 木造22年、鉄筋コンクリート47年
  • 定額法: 2,000万円 ÷ 22年 = 約91万円/年

住宅ローン利息も必要経費として計上できますが、元金部分は経費にならない点に注意が必要です。

よくあるトラブル事例と防止策

住宅ローン返済中の賃貸で起こりやすいトラブルを見ていきましょう。

無断で賃貸に出して一括返済を求められた事例

事例: 転勤で一時的に賃貸に出すつもりで、金融機関に相談せずに賃貸契約を締結。金融機関に発覚し、一括返済を求められた。

防止策: 必ず事前に金融機関に相談する。やむを得ない事情がある場合、金融機関は柔軟に対応してくれるケースが多い。

住宅ローン控除を受け続けて税務署から指摘された事例

事例: 賃貸に出した後も住宅ローン控除を受け続け、税務署の調査で指摘を受けた。過去の控除分を返還し、延滞税が課された。

防止策: 賃貸に出すと住宅ローン控除は原則として使えなくなる。確定申告で正しく申告する。

賃料収入が住宅ローン返済額を下回り赤字になった事例

事例: 賃料収入8万円/月に対し、住宅ローン返済額12万円/月で、月額4万円の赤字。給与収入で補填することになり、家計が圧迫された。

防止策: 事前に収支計算を行い、賃料収入で返済額をカバーできるか確認する。赤字が続く場合、売却も検討する。

まとめ:住宅ローン返済中の賃貸は金融機関への相談が必須

住宅ローンは「自己居住用」が前提であり、無断で賃貸に出すと契約違反となり、一括返済を求められるリスクがあります。

転勤・介護等のやむを得ない事情がある場合、金融機関に相談すれば賃貸を認められるケースが多いです。転勤命令書・住民票等の証明書類を準備し、誠実に相談することが重要です。

金融機関が認めない場合、アパートローンへの借り換えが必要ですが、金利が1-3%上昇する可能性があるため、賃料収入で返済額の増加をカバーできるか事前に収支計算を行ってください。

賃貸に出すと不動産所得が発生し、確定申告が必要です。住宅ローン控除は原則として使えなくなる点にも注意が必要です。

無断で賃貸に出すリスクを避けるため、必ず事前に金融機関に相談し、適切な手続きを行いましょう。税務処理については税理士に相談することを推奨します。

よくある質問

Q1住宅ローン返済中の物件を無断で賃貸に出すとどうなりますか?

A1金融機関との契約違反となり、一括返済を求められる可能性があります。住宅ローンは「自己居住用」を前提とした低金利融資であり、無断で賃貸に出すと契約条件に違反します。一括返済を求められると数千万円単位の返済が必要となるため、必ず事前に金融機関に相談してください。

Q2転勤で一時的に賃貸に出す場合も金融機関の承諾が必要ですか?

A2はい、必要です。ただし、転勤等のやむを得ない事情がある場合、金融機関は賃貸を認めてくれるケースが多いです。転勤命令書や住民票等の証明書類を準備し、事前に金融機関に相談してください。一時的な賃貸であり、転勤期間終了後は自己居住に戻る予定であることを伝えると、承諾を得やすくなります。

Q3賃貸に出すと住宅ローン控除は使えなくなりますか?

A3原則として使えなくなります。住宅ローン控除は自己居住用の住宅に適用される所得控除であり、賃貸に出すと適用要件を満たさなくなります。転勤等で一時的に賃貸に出す場合、再び自己居住に戻せば住宅ローン控除を再適用できる場合がありますが、詳細は税務署に確認してください。

Q4アパートローンへの借り換えにはどれくらいコストがかかりますか?

A4アパートローンの金利は年2-5%と、住宅ローン(年0.5-1.5%)より1-3%高くなります。例えば、残債3,000万円・返済期間25年の場合、金利1.0%から3.0%への引き上げにより月額返済額が2.9万円増加します。また、借り換え時には事務手数料(数十万円)や登記費用(10-30万円)も必要です。賃料収入でこれらのコスト増加をカバーできるか、事前に収支計算を行ってください。