住宅ローン返済中の物件を賃貸に出すことは可能か
転勤や住み替えで、「住宅ローン返済中の物件を賃貸に出せるだろうか」と考える方は少なくありません。
この記事では、住宅ローン返済中の物件を賃貸に出す際の契約違反リスク、金融機関への相談方法、アパートローンへの借り換え、税務処理の注意点を、国土交通省、国税庁の公式情報を元に解説します。
初めて賃貸に出す方でも、金融機関との契約違反を避け、適切な手続きを行えるようになります。
この記事のポイント
- 住宅ローンは「自己居住用」が前提であり、無断で賃貸に出すと契約違反になる可能性がある
- 転勤等のやむを得ない事情がある場合、金融機関に相談すれば賃貸を認められるケースが多い
- 金融機関が認めない場合、アパートローンへの借り換えが必要(金利が1-3%上昇する可能性)
- 賃貸に出すと不動産所得が発生し、確定申告が必要(住宅ローン控除は原則として使えなくなる)
- 無断で賃貸に出すと、一括返済を求められるリスクがあるため、必ず事前に金融機関に相談する
住宅ローン返済中に賃貸に出す際の契約違反リスク
住宅ローンは「自己居住用」を前提とした低金利の融資です。無断で賃貸に出すと、契約違反となる可能性があります。
住宅ローンの「自己居住用」要件とは
住宅ローンは、借主が自ら居住することを条件に、低金利(年0.5-1.5%程度)で融資されます。
国土交通省の住宅金融支援機構の資料によると、フラット35等の公的融資でも「借主本人またはその親族が居住する住宅」が融資要件とされています。
賃貸に出すと「自己居住用」ではなくなるため、金融機関との契約違反となる可能性があります。
無断で賃貸に出した場合のペナルティ
金融機関に無断で賃貸に出すと、以下のペナルティが課される可能性があります。
- 一括返済の要求: 住宅ローン残債を一括で返済するよう求められる
- 金利の引き上げ: 住宅ローン金利からアパートローン金利(年2-5%)への引き上げ
- 遅延損害金: 契約違反に対する損害金
特に一括返済を求められると、数千万円単位の返済が必要となり、経済的に大きな負担となります。
金融機関が賃貸を認めるケース
金融機関が賃貸を認める主なケースは以下の通りです。
- 転勤: 勤務先からの転勤命令により、一時的に転居する場合
- 介護: 親の介護のため実家に戻る場合
- 結婚・離婚: 配偶者の住居に転居する場合
- その他やむを得ない事情: 病気療養、子供の進学等
これらの事情がある場合、金融機関に相談すれば賃貸を認められるケースが多いです。ただし、金融機関により判断基準が異なるため、必ず事前に相談してください。
金融機関への相談と対応方法
住宅ローン返済中の物件を賃貸に出す場合、金融機関への相談が必須です。
相談時に準備すべき書類
金融機関に相談する際、以下の書類を準備するとスムーズです。
- 転勤命令書: 勤務先が発行する転勤の証明書類
- 住民票: 転居先の住所を証明する書類
- 賃貸借契約書(案): 賃貸に出す際の契約内容
- 収支計算書: 賃料収入と住宅ローン返済額の収支見込み
やむを得ない事情を証明する書類があると、金融機関が賃貸を認めやすくなります。
アパートローンへの借り換えを検討
金融機関が賃貸を認めない場合、アパートローンへの借り換えが必要です。
アパートローンの特徴:
- 金利: 年2-5%(住宅ローンより1-3%高い)
- 融資対象: 賃貸用不動産
- 審査基準: 賃料収入を返済原資として評価
アパートローンへの借り換えにより、賃貸を合法的に行えますが、金利上昇により返済額が増加する点に注意が必要です。
借り換え例:
- 住宅ローン残債: 3,000万円、金利1.0%、返済期間25年 → 月額11.3万円
- アパートローン: 3,000万円、金利3.0%、返済期間25年 → 月額14.2万円
- 月額2.9万円の増加
賃料収入で返済額の増加をカバーできるか、事前に収支計算を行うことを推奨します。
金融機関との交渉のポイント
金融機関との交渉では、以下のポイントを伝えると賃貸を認められやすくなります。
- 一時的な賃貸: 転勤期間終了後は自己居住に戻る予定であることを明示
- 返済能力の証明: 賃料収入と給与収入により返済能力が維持されることを示す
- 誠実な対応: 無断で賃貸に出すのではなく、事前に相談する姿勢を示す
金融機関も契約違反を避けたいため、誠実に相談すれば柔軟に対応してもらえるケースが多いです。
賃貸に出す際の税務処理と確定申告
住宅ローン返済中の物件を賃貸に出すと、税務処理が複雑になります。
住宅ローン控除の適用終了
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、自己居住用の住宅に適用される所得控除です。
国税庁によると、賃貸に出すと「自己居住用」ではなくなるため、住宅ローン控除は原則として使えなくなります。
転勤等で一時的に賃貸に出す場合、再び自己居住に戻せば住宅ローン控除を再適用できる場合があります。詳細は税務署に確認してください。
不動産所得の確定申告が必要
賃貸に出すと、賃料収入が不動産所得として課税されます。
国税庁によると、不動産所得は以下の計算式で算出されます。
不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費
- 総収入金額: 賃料、更新料、礼金等
- 必要経費: 管理費、修繕費、固定資産税、減価償却費、住宅ローン利息(元金は含まれない)等
不動産所得が年間20万円を超える場合、確定申告が必要です。
減価償却費と住宅ローン利息の計上
賃貸に出すと、建物部分の減価償却費を必要経費として計上できます。
減価償却費の計算例:
- 建物取得価額: 2,000万円
- 耐用年数: 木造22年、鉄筋コンクリート47年
- 定額法: 2,000万円 ÷ 22年 = 約91万円/年
住宅ローン利息も必要経費として計上できますが、元金部分は経費にならない点に注意が必要です。
よくあるトラブル事例と防止策
住宅ローン返済中の賃貸で起こりやすいトラブルを見ていきましょう。
無断で賃貸に出して一括返済を求められた事例
事例: 転勤で一時的に賃貸に出すつもりで、金融機関に相談せずに賃貸契約を締結。金融機関に発覚し、一括返済を求められた。
防止策: 必ず事前に金融機関に相談する。やむを得ない事情がある場合、金融機関は柔軟に対応してくれるケースが多い。
住宅ローン控除を受け続けて税務署から指摘された事例
事例: 賃貸に出した後も住宅ローン控除を受け続け、税務署の調査で指摘を受けた。過去の控除分を返還し、延滞税が課された。
防止策: 賃貸に出すと住宅ローン控除は原則として使えなくなる。確定申告で正しく申告する。
賃料収入が住宅ローン返済額を下回り赤字になった事例
事例: 賃料収入8万円/月に対し、住宅ローン返済額12万円/月で、月額4万円の赤字。給与収入で補填することになり、家計が圧迫された。
防止策: 事前に収支計算を行い、賃料収入で返済額をカバーできるか確認する。赤字が続く場合、売却も検討する。
まとめ:住宅ローン返済中の賃貸は金融機関への相談が必須
住宅ローンは「自己居住用」が前提であり、無断で賃貸に出すと契約違反となり、一括返済を求められるリスクがあります。
転勤・介護等のやむを得ない事情がある場合、金融機関に相談すれば賃貸を認められるケースが多いです。転勤命令書・住民票等の証明書類を準備し、誠実に相談することが重要です。
金融機関が認めない場合、アパートローンへの借り換えが必要ですが、金利が1-3%上昇する可能性があるため、賃料収入で返済額の増加をカバーできるか事前に収支計算を行ってください。
賃貸に出すと不動産所得が発生し、確定申告が必要です。住宅ローン控除は原則として使えなくなる点にも注意が必要です。
無断で賃貸に出すリスクを避けるため、必ず事前に金融機関に相談し、適切な手続きを行いましょう。税務処理については税理士に相談することを推奨します。
