住宅ローン返済を援助してもらうと贈与税がかかる?

公開日: 2025/11/11

住宅ローン返済の援助と贈与税:いつ課税されるか

親から住宅資金の援助を受ける際、「贈与税がかかるのではないか」と不安に感じる方は多いです。

この記事では、住宅ローンに関連する贈与税の仕組み、非課税枠の活用方法、注意すべきリスクを、国税庁国土交通省の公式情報を元に解説します。

住宅取得時の援助と住宅ローン返済中の援助では、贈与税の扱いが大きく異なります。この記事を読めば、適切な方法で親からの援助を受け、贈与税を回避する方法が分かります。

この記事のポイント

  • 住宅取得時(購入・新築)の援助は「住宅取得等資金の贈与税非課税措置」で最大1,000万円まで非課税
  • 住宅ローン返済中の援助は原則として贈与税の対象(年110万円以下なら暦年贈与で非課税)
  • 非課税措置の適用には要件があり、申告義務を怠ると非課税を受けられない
  • 住宅ローン控除への影響を考慮する必要がある(贈与額を住宅価格から差し引く)
  • 相続時精算課税制度を活用すれば、2,500万円まで贈与税がかからない選択肢もある

住宅取得等資金の贈与税非課税措置:最大1,000万円まで非課税

国税庁によると、父母・祖父母(直系尊属)から住宅購入・新築資金の贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば最大1,000万円まで非課税となります。

この制度は令和6年1月1日〜令和8年12月31日までの期間限定です。

非課税枠の金額(省エネ等住宅1,000万円、その他500万円)

非課税枠は住宅の性能により異なります。

住宅の種類 非課税枠 要件
省エネ等住宅 1,000万円 ZEH水準(断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上)を満たす住宅
その他の住宅 500万円 上記以外の一般的な住宅

国土交通省によると、令和6年度税制改正で非課税枠が延長され、省エネ性能要件がZEH水準に変更されました。

適用要件(受贈者の年齢・所得制限、直系尊属からの贈与)

非課税措置を受けるには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

受贈者(贈与を受ける人)の要件:

  • 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上
  • 合計所得金額が2,000万円以下
  • 贈与者の直系卑属(子・孫)であること

贈与者の要件:

  • 受贈者の直系尊属(父母・祖父母)であること
  • 配偶者の父母や兄弟姉妹からの贈与は対象外

住宅の要件:

  • 床面積が50㎡以上240㎡以下
  • 中古住宅の場合は築年数等の要件あり
  • 取得後1年以内に居住すること

詳細な要件は国税庁のパンフレットをご確認ください。

良質な住宅の要件(ZEH水準)

省エネ等住宅として1,000万円の非課税枠を受けるには、以下のいずれかの基準を満たす必要があります。

  • ZEH水準: 断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上
  • 長期優良住宅: 長期優良住宅の認定を受けた住宅
  • 低炭素住宅: 低炭素建築物の認定を受けた住宅

これらの基準を満たすかどうかは、住宅会社や建築士に確認してください。

住宅ローン返済中の援助:原則課税だが年110万円以下なら非課税

住宅ローン返済中の援助は、住宅取得等資金の贈与税非課税措置の対象外です。原則として贈与税の対象となりますが、年110万円以下なら暦年贈与の非課税枠を活用できます。

住宅ローン返済資金は非課税特例の対象外

住宅会社の解説によると、住宅取得等資金の贈与税非課税措置は、住宅の取得・新築・増改築のための資金に限定されており、住宅ローンの返済資金は対象外とされています。

つまり、以下のような援助は原則として贈与税の対象となります。

  • 毎月の住宅ローン返済を親が肩代わりする
  • 住宅ローンの残債を親が一括返済する
  • 親が直接金融機関に返済する

ただし、年間110万円以下の援助であれば、次に説明する暦年贈与の非課税枠を活用できます。

暦年贈与の活用(年110万円以内なら非課税)

暦年贈与とは、1月1日〜12月31日の1年間に受け取った贈与が110万円以下なら贈与税がかからない制度です。この制度は目的を問わず、誰からの贈与でも適用可能です。

年間贈与額 贈与税 備考
110万円以下 非課税 申告不要
110万円超 課税 超過分に対して贈与税が発生、申告必要

例えば、親が毎月9万円(年間108万円)の住宅ローン返済を肩代わりする場合、年110万円以下のため贈与税はかかりません。

ただし、注意すべき点があります。毎年定期的に一定額を贈与する場合、税務署に「総額の贈与」とみなされるリスクがあります。詳しくは後述の「注意すべきリスク」をご確認ください。

住宅ローン控除への影響:贈与額を住宅価格から差し引く

住宅取得等資金の贈与を受けた場合、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の計算に影響があります。

SBI新生銀行の解説によると、住宅ローン控除の対象となる住宅の取得価格は、贈与を受けた金額を差し引いた額となります。

具体例:

  • 住宅価格: 5,000万円
  • 親からの贈与: 1,000万円(非課税措置適用)
  • 住宅ローン借入額: 4,000万円

この場合、住宅ローン控除の計算基礎となる住宅の取得価格は、5,000万円 - 1,000万円 = 4,000万円となります。

住宅ローン控除は借入残高の一定割合(0.7%)を所得税から控除する制度ですが、住宅の取得価格が上限となるため、贈与を受けた分だけ控除額が減少する可能性があります。

贈与を受けるかどうかは、住宅ローン控除への影響も考慮して判断することをおすすめします。

注意すべきリスク:申告漏れのペナルティと定期贈与

贈与税の非課税措置を受ける際には、以下のリスクに注意が必要です。

申告義務を怠ると非課税措置を受けられない

住宅取得等資金の贈与税非課税措置を受けるには、贈与税の申告が必須です。贈与額が非課税枠以内でも、申告しなければ非課税措置を受けられません。

財形住宅金融の注意喚起によると、申告義務を怠ると以下のペナルティが発生します。

  • 非課税措置を受けられず、全額が贈与税の対象となる
  • 無申告加算税(本来の税額の15-20%)が課される
  • 延滞税が課される

申告の手続き:

  • 申告期限: 贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日
  • 必要書類: 贈与税申告書、戸籍謄本、住宅の登記事項証明書、住宅性能証明書(省エネ等住宅の場合)等

詳細は国税庁のパンフレットをご確認ください。

定期的な一定額贈与は総額の贈与とみなされるリスク

暦年贈与を活用して毎年110万円以内の援助を受ける際、注意すべき点があります。

毎年定期的に一定額を贈与する場合、税務署に「最初から総額を贈与する約束があった」とみなされ、総額に対して贈与税が課される可能性があります。

リスクのある例:

  • 毎年110万円を10年間贈与する契約を最初から結んでいる
  • 合計1,100万円の贈与とみなされ、贈与税が課される

リスクを回避する方法:

  • 毎年の贈与額を変動させる(100万円、90万円、105万円等)
  • 贈与の都度、贈与契約書を作成する
  • 贈与のタイミングを不定期にする

このリスクは実務上グレーゾーンですが、税務調査で指摘される可能性があるため、慎重に対応することをおすすめします。

まとめ:適切な活用で贈与税を回避しよう

住宅ローンに関連する贈与税は、援助を受けるタイミングにより扱いが大きく異なります。

住宅取得時の援助:

  • 非課税枠(省エネ等住宅1,000万円、その他500万円)を活用
  • 令和8年12月31日までの期限付き
  • 申告義務を必ず守る

住宅ローン返済中の援助:

  • 年110万円以下に抑える(暦年贈与)
  • 定期的な一定額贈与は避ける

住宅ローン控除への影響:

  • 贈与額を住宅価格から差し引く必要がある
  • 控除額が減少する可能性を考慮

個別具体的な税務アドバイスは税理士にご相談ください。贈与税の仕組みを正しく理解し、適切な方法で親からの援助を受けることで、無理のない住宅取得を実現しましょう。

よくある質問

Q1住宅ローン返済を親に肩代わりしてもらうのは贈与税がかかりますか?

A1原則として贈与税の対象となります。ただし、年間110万円以下の援助なら暦年贈与の非課税枠内で贈与税はかかりません。例えば、毎月9万円程度(年間108万円)の援助なら非課税です。ただし、毎年定期的に一定額を贈与する場合、税務署に総額の贈与とみなされるリスクがあるため、贈与額を変動させる等の工夫が必要です。

Q2相続時精算課税制度を使えば贈与税はかかりませんか?

A260歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与なら、相続時精算課税制度を選択することで2,500万円まで贈与税がかかりません。ただし、相続時に精算され、相続税の対象となります。また、この制度を一度選択すると暦年贈与(年110万円の非課税枠)が使えなくなるため、慎重に判断する必要があります。住宅取得等資金の非課税措置との併用も可能です。

Q3夫婦間で住宅ローン返済を肩代わりすると贈与税がかかりますか?

A3原則として贈与税の対象となります。ただし、夫婦の財産形成に必要な費用(生活費・教育費)は贈与税がかかりません。住宅ローン返済は通常の生活費に含まれないため、年間110万円を超える肩代わりは贈与税の対象となります。夫婦でペアローンや連帯債務を組むことで、各自の収入に応じた返済を行う方法も検討できます。

Q4贈与ではなく「貸付」にすれば贈与税はかかりませんか?

A4金銭消費貸借契約を結び、利息を付けて返済する実態があれば貸付とみなされ、贈与税はかかりません。ただし、契約書を作成せず返済の実態がない場合、税務署に贈与とみなされるリスクがあります。貸付とするには、①契約書の作成、②返済計画の明確化、③実際の返済実績、④適正な利息設定が必要です。形式だけでは認められないため注意が必要です。