空き家の固定資産税が6倍になる仕組み
空き家を所有または相続した方の中には、「固定資産税が6倍になる」という話を聞いて不安を感じている方も多いでしょう。実際にどのような空き家が6倍になるのか、どう対策すればいいのか、正確な情報が必要です。
この記事では、空き家の固定資産税が6倍になる仕組み、特定空家の指定基準、指定プロセス、回避策と活用・処分の選択肢を、国土交通省の公式情報を元に解説します。
空き家を所有・相続した方が、正確な知識を得て適切な対策を取れるようになります。
この記事のポイント
- 固定資産税6倍は「特定空家」または「管理不全空家」に指定され勧告を受けた場合のみ
- 通常の住宅用地は固定資産税評価額×1/6の特例があるが、勧告で特例が外れる
- 特定空家の指定基準は4つ(倒壊危険、衛生有害、景観阻害、周辺環境悪化)
- 助言・指導段階で対応すれば6倍を回避可能
- 対策は最低限の管理、賃貸、売却、解体、寄付の5つ
空き家の固定資産税が6倍になる条件
「空き家の固定資産税が6倍になる」という話は事実ですが、全ての空き家が6倍になるわけではありません。6倍になるのは、空家等対策特別措置法に基づき「特定空家」または「管理不全空家」に指定され、勧告を受けた場合のみです。
通常の住宅用地には、固定資産税を軽減する「住宅用地の特例」があります。
| 土地の種類 | 固定資産税 | 都市計画税 | 
|---|---|---|
| 小規模住宅用地(200㎡以下) | 評価額×1/6 | 評価額×1/3 | 
| 一般住宅用地(200㎡超) | 評価額×1/3 | 評価額×2/3 | 
(出典: 国土交通省)
例えば、固定資産税評価額が600万円の土地(200㎡以下)なら、通常は600万円×1/6=100万円に対して課税されます(税率1.4%なら年1.4万円)。
しかし、特定空家に指定され勧告を受けると、この特例が外れ、600万円に対して課税されます(税率1.4%なら年8.4万円、6倍)。
つまり、「6倍」とは税率が上がるのではなく、特例が外れることで実質的に6倍相当になるという意味です。
特定空家の4つの指定基準
どのような空き家が特定空家に指定されるのでしょうか。国土交通省のガイドラインでは、以下の4つの基準を定めています。
倒壊等著しく保安上危険
建物が倒壊する危険がある状態です。
具体例:
- 建物が著しく傾斜している
- 基礎に亀裂・破損がある
- 屋根・外壁が著しく損傷し、剥落の危険がある
- 柱・梁が腐朽・破損している
著しく衛生上有害
周辺の衛生環境に悪影響を与える状態です。
具体例:
- ゴミが放置され、悪臭が発生している
- 害虫・害獣(ネズミ、ハチ等)が繁殖している
- 汚水が流出している
- 浄化槽が破損し、汚物が漏出している
適切な管理が行われず景観を著しく損なう
周辺の景観と著しく不調和な状態です。
具体例:
- 外壁が剥落・変色し、周辺と著しく不調和
- 窓ガラスが複数破損している
- 雑草が2m以上繁茂している
- 看板・広告物が損壊・放置されている
周辺の生活環境の保全を図るために放置不適切
周辺住民の生活環境に悪影響を与える状態です。
具体例:
- 樹木が越境し、隣地に侵入している
- 害獣が繁殖し、周辺に被害を与えている
- 不法侵入のおそれがある(施錠されていない)
- 落雪・倒木の危険がある
これらの基準に該当すると、市町村が「特定空家」として指定する可能性があります。
特定空家指定のプロセスと税額変化のタイミング
特定空家に指定されると、以下の4段階で行政措置が進みます。
ステップ1: 助言・指導
市町村が所有者に対し、適切な管理を促す助言・指導を行います。この段階では、住宅用地の特例は維持されます。
ステップ2: 勧告
助言・指導に従わない場合、市町村が「勧告」を発出します。勧告を受けた翌年度から、住宅用地の特例が外れ、固定資産税が6倍相当に上昇します。
ステップ3: 命令
勧告に従わない場合、市町村が「命令」を発出します。命令違反には50万円以下の過料が科されます。
ステップ4: 行政代執行
命令に従わない場合、市町村が強制的に建物を解体します(行政代執行)。解体費用は所有者に請求されます(数百万円)。
重要: 固定資産税が6倍になるのは、「勧告」の段階です。助言・指導の段階で適切に対応すれば、6倍を回避できます。
2023年法改正:管理不全空家の新設
2023年12月に空家等対策特別措置法が改正され、現在施行されています。この改正により「管理不全空家」という新しい区分が設けられました。
管理不全空家とは、特定空家になる前の段階で、適切な管理が行われていないため特定空家になるおそれのある空き家です。
管理不全空家に指定されると、助言・指導の対象となり、放置すると勧告→特例除外(6倍)の対象になります。
この改正により、市町村は早期の段階で所有者に管理を促すことができるようになりました。空き家を所有している方は、定期的な管理がより重要になっています。
特定空家の指定回避策と活用・処分の選択肢
特定空家に指定されないため、または指定された場合の対策として、以下の5つの選択肢があります。
最低限の管理(指定回避)
定期的な管理を行うことで、特定空家の指定を回避できます。
必要な管理:
- 月1回程度の巡回(外観チェック、郵便物回収)
- 年2-3回の草刈り・樹木の剪定
- 窓の施錠確認
- 雨漏り・破損の早期発見
費用: 自分で行えば年数万円、管理会社に委託すると年10-20万円程度(一般的な相場として)
最低限の管理を行うことで、倒壊危険・衛生有害・景観阻害・周辺環境悪化を防ぎ、特定空家指定を回避できます。
賃貸活用
空き家を賃貸に出すことで、家賃収入を得ながら管理できます。
活用方法:
- 一般賃貸: 不動産会社に仲介依頼
- 空き家バンク: 自治体の無料マッチングサービス
- リノベーション: 改修して賃貸価値を高める
注意点: 築年数が古い、駅から遠い等の場合、借り手が見つからない可能性もあります。
売却
空き家を売却して現金化します。
売却方法:
- 不動産会社に仲介依頼
- 空き家バンクに登録(自治体の無料サービス)
- 解体後に更地として売却
注意点: 市場価値が低い場合、買い手が見つからないこともあります。複数の不動産会社に査定を依頼し、適正価格を把握しましょう。
解体(更地化)
建物を解体して更地にします。
メリット:
- 建物分の固定資産税がなくなる
- 管理の手間が不要
- 倒壊リスクがなくなる
デメリット:
- 解体費用(木造住宅で100-200万円程度、解体業者による一般的な相場として)
- 土地の住宅用地特例が外れ、土地の固定資産税が最大6倍に上昇
- 建物の固定資産税が低い場合、解体後の方が総額で高くなることもある
重要: 解体前に、解体後の税額を試算することが必須です。自治体の固定資産税課に相談しましょう。
寄付・国庫帰属
自治体への寄付または相続土地国庫帰属制度の利用を検討します。
自治体への寄付:
- 自治体が受け入れを判断(公共利用の見込みがある場合のみ)
- 受け入れ不確定
相続土地国庫帰属制度:
- 2023年4月施行の新制度
- 審査が厳格(建物がない、担保権がない、境界明確等)
- 負担金10-20万円が必要
空き家に関するその他の注意点
相続登記の義務化(2024年4月施行)
2024年4月から、相続登記が義務化されました。相続発生から3年以内に登記が必要で、違反時は10万円以下の過料が科されます。
空き家を相続した場合でも、必ず相続登記を行いましょう。
所有者の管理責任
空き家でも、所有者の管理責任は残ります。倒壊・火災等で第三者に損害を与えると、損害賠償責任を負う可能性があります。
相続放棄しても、次の管理者(相続財産清算人)が決まるまで管理責任は残ります。「相続放棄すれば責任なし」という誤解に注意してください。
自治体の補助金制度
多くの自治体が、空き家の解体費用・リフォーム費用の一部を助成しています。
例:
- 解体費用補助: 上限50-100万円
- リフォーム費用補助: 上限50-150万円
自治体の空き家対策窓口に問い合わせ、利用可能な制度を確認しましょう。
まとめ
空き家の固定資産税6倍は、特定空家または管理不全空家に指定され勧告を受けた場合のみです。指定基準は倒壊危険、衛生有害、景観阻害、周辺環境悪化の4つで、勧告前の助言・指導段階で対応すれば6倍を回避できます。
対策は、最低限の管理、賃貸、売却、解体、寄付の5つです。最低限の管理(定期巡回・草刈り等)で指定を回避するか、売却・活用で手放すかを検討しましょう。
次のアクションとして、空き家の現状を確認し、市町村の空き家対策窓口または不動産会社に相談することをおすすめします。相続登記の義務化(2024年4月)にも対応し、適切な管理または処分を進めましょう。
放置せず、早めの対策が重要です。
