所有者不明土地管理制度とは?2023年4月施行の新制度
隣地の所有者が分からず、境界確定や土地の売却ができずに困っている方は少なくありません。
この記事では、2023年4月に施行され、現在運用中の所有者不明土地管理制度の仕組みと申立て方法について、法務省や裁判所の公式情報を元に解説します。
この制度は、所有者不明の土地を対象に管理人を選任し、保存・管理・売却等を行う仕組みです。従来の不在者財産管理制度と比べて、特定の土地のみを対象とするため、申立てのハードルが下がり、費用も抑えられる点が特徴です。
この記事のポイント
- 2023年4月施行の民法改正により、土地単位で管理できる新制度が創設された
- 申立てできるのは利害関係人(隣地所有者・共有者等)または地方公共団体の長
- 予納金(10-50万円程度)や管理人報酬が必要
- 管理人は保存・管理行為を単独で可能だが、売却等の処分は裁判所の許可が必要
- 従来の不在者財産管理制度と比べて、土地単位で対応できる点が大きな違い
所有者不明土地問題の現状
所有者不明土地は、日本全国で深刻な問題となっています。
所有者不明土地の規模
国土交通省の調査によると、所有者不明土地は全国の約2割に達し、その面積は九州本島に匹敵すると言われています。相続登記の未了、所有者の所在不明、登記情報の古さなどが主な原因です。
所有者不明土地が引き起こす問題
所有者不明土地は、以下のような問題を引き起こします。
- 公共事業の遅延: 道路・防災施設の整備ができない
- 民間取引の阻害: 隣地の境界確定ができず、売却・建築に支障
- 土地の荒廃: 管理されず、雑草・害虫の発生源に
- 地域の衰退: 空き地が増え、地域の魅力が低下
このような問題に対応するため、2023年4月に所有者不明土地管理制度が創設されました。
所有者不明土地管理制度の基本的な仕組み
所有者不明土地管理制度は、民法改正(2023年4月施行)により創設された制度です。
制度の目的と対象
目的: 所有者不明の土地を適切に管理し、公共事業や民間取引を円滑化する
対象: 所有者不明の土地(建物も対象とする所有者不明建物管理制度もあり)
「所有者不明」とは、以下のいずれかに該当する場合を指します。
- 登記簿上の所有者が不明
- 所有者の所在が不明(住所変更未登記、連絡が取れない等)
- 相続人全員が相続放棄し、所有者がいない
申立てできる人
所有者不明土地管理制度の申立てができるのは、以下の人です。
- 利害関係人: 隣地所有者、共有者、債権者等
- 地方公共団体の長: 市区町村長、都道府県知事等
「利害関係人」とは、所有者不明土地により何らかの不利益を受けている人を指します。例えば、隣地の境界確定ができず売却に支障がある場合、隣地所有者は利害関係人として申立てができます。
管理人の権限
裁判所が選任した管理人(弁護士・司法書士等の専門家)は、以下の権限を持ちます。
- 保存・管理行為: 単独で可能(草刈り、境界確定、賃貸等)
- 処分行為: 裁判所の許可が必要(売却、担保設定等)
管理人は土地の所有者ではなく、あくまで管理する立場です。売却する場合は、裁判所の許可を得た上で、買い手を見つける必要があります。
従来の不在者財産管理制度との違い
従来の不在者財産管理制度と所有者不明土地管理制度の違いは以下の通りです。
| 項目 | 不在者財産管理制度 | 所有者不明土地管理制度 | 
|---|---|---|
| 対象 | 不在者の財産全体 | 特定の土地のみ | 
| 申立ての要件 | 不在者の財産全体を管理する必要性 | 特定の土地の管理の必要性 | 
| 予納金 | 高額(数十万円〜数百万円) | 比較的低額(10-50万円程度) | 
| 申立てのハードル | 高い | 低い | 
所有者不明土地管理制度は、特定の土地のみを対象とするため、費用が抑えられ、申立てのハードルが下がりました。
所有者不明土地管理制度の申立て手続き
申立ての流れを時系列で解説します。
ステップ1:所有者の調査
まず、所有者が本当に不明であることを調査します。
調査方法:
- 登記簿(登記事項証明書)で所有者の氏名・住所を確認
- 戸籍・住民票で現在の所在を確認
- 法務局の事前通知制度を利用(所有者に本人確認の通知を送付)
調査の結果、所有者の所在が判明した場合は、管理制度の申立てはできません。
ステップ2:家庭裁判所への申立て
所有者が不明であることを確認したら、家庭裁判所に管理命令の申立てを行います。
必要書類:
- 申立書
- 登記事項証明書(土地)
- 所有者調査報告書(戸籍・住民票の調査結果)
- 利害関係を証明する書類(隣地の登記事項証明書、売買契約書等)
- 土地の固定資産評価証明書
ステップ3:予納金の納付
申立てと同時に、予納金を裁判所に納付します。
予納金の目安: 10-50万円程度(土地の規模・管理の複雑さにより異なる)
予納金は、管理人の報酬や管理費用に充てられます。管理終了時に余剰があれば返還されますが、不足した場合は追加納付が必要になることもあります。
ステップ4:審理・審問
裁判所が申立ての内容を審理し、必要に応じて申立人や関係者への審問(面談)を行います。
ステップ5:管理命令の発令と管理人の選任
裁判所が管理の必要性を認めると、管理命令が発令され、管理人が選任されます。管理人は通常、弁護士・司法書士等の専門家が選任されます。
ステップ6:管理業務の実施
管理人が選任されると、以下のような管理業務を実施します。
- 土地の現状確認・保存
- 境界確定(隣地所有者との協議)
- 売却手続き(裁判所の許可を得た上で買い手を探す)
- 賃貸(収益を上げて管理費用に充てる)
売却が成立した場合、売却代金から管理費用・報酬を差し引いた残額が、最終的に所有者に帰属します(所有者が判明した場合)。
所有者不明土地管理制度の費用
所有者不明土地管理制度を利用するには、以下の費用がかかります。
申立て手数料
家庭裁判所への申立て手数料は、収入印紙で数千円程度です。
予納金
予納金は、管理人の報酬や管理費用に充てられます。
目安: 10-50万円程度
土地の規模が大きい、管理が複雑な場合は、予納金が高額になることがあります。裁判所が個別に金額を決定します。
専門家報酬
申立てを司法書士・弁護士に依頼する場合、別途報酬が必要です。
目安: 10-30万円程度(案件の複雑さにより異なります)
自分で申立てを行うこともできますが、書類の準備や所有者調査が複雑なため、専門家への依頼が一般的です。
所有者不明土地管理制度の注意点
管理人は必ず売却できるわけではない
管理人が選任されても、必ず売却できるわけではありません。裁判所の許可が必要で、買い手が見つからない場合もあります。
費用負担は申立人
予納金や専門家報酬は、基本的に申立人が負担します。売却が成立した場合、売却代金から一部回収できる可能性がありますが、売却できない場合は回収できません。
所有者が判明した場合
管理命令の発令後に所有者が判明した場合、管理命令は取り消されます。ただし、それまでにかかった費用は返還されません。
まとめ:所有者不明土地管理制度の活用を検討しよう
所有者不明土地管理制度は、2023年4月に施行された新しい制度で、特定の土地のみを対象とするため、従来の不在者財産管理制度より申立てのハードルが下がりました。
申立てできるのは利害関係人(隣地所有者・共有者等)または地方公共団体の長で、予納金(10-50万円程度)や管理人報酬が必要です。管理人は保存・管理行為を単独で可能ですが、売却等の処分は裁判所の許可が必要です。
隣地が所有者不明で困っている場合、まずは所有者の調査を行い、本当に不明であることを確認しましょう。その上で、司法書士・弁護士に相談し、管理制度の申立てを検討することをおすすめします。
