不動産の生前贈与とは?基本的な仕組みと活用場面
親から子への不動産の引継ぎを検討する際、「生前贈与と相続、どちらが有利なのか」「税金はいくらかかるのか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、不動産の生前贈与の仕組み、贈与税の計算方法と特例(暦年課税・相続時精算課税)、生前贈与と相続の税額比較、名義変更の手続きを、国税庁の公式情報を元に解説します。
初めて不動産の生前贈与を検討する方でも、税金の仕組みを正しく理解し、適切な判断ができるようになります。
この記事のポイント
- 不動産の生前贈与は贈与税(基礎控除110万円/年)、登録免許税2%、不動産取得税3-4%がかかる
- 相続時精算課税制度を使えば2,500万円まで非課税で贈与できるが、相続時に持ち戻される(贈与財産が相続財産に加算される)
- 住宅取得資金贈与の非課税特例(最大1,000万円)を活用すれば、贈与税を大幅に削減できる
- 生前贈与と相続の税額比較では、相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)以下なら相続が有利
- 名義変更は登記申請が必要で、司法書士に依頼する場合は5-10万円の費用がかかる
生前贈与にかかる税金の全体像
贈与税の基礎控除(110万円/年)
国税庁の公式サイトによると、贈与税には年間110万円の基礎控除があります。
暦年課税の基礎控除:
- 1年間(1月1日~12月31日)に受けた贈与額が110万円以下なら贈与税は非課税
- 110万円を超える部分に対して贈与税が課される
例えば、評価額3,000万円の不動産を一括で贈与すると、基礎控除110万円を超えるため、(3,000万円 - 110万円) = 2,890万円に対して贈与税が課されます。
登録免許税(固定資産税評価額の2%)
不動産の名義変更(所有権移転登記)には、登録免許税が課されます。
贈与による登録免許税:
- 税率: 固定資産税評価額の2%
- 計算例: 評価額3,000万円の場合、3,000万円 × 2% = 60万円
相続の場合は0.4%なので、贈与の方が5倍高くなります。
不動産取得税(評価額の3-4%)
不動産を取得した際に都道府県が課税する地方税です。
不動産取得税:
- 土地: 評価額の3%(2027年3月31日まで軽減措置)
- 建物(住宅): 評価額の3%
- 建物(非住宅): 評価額の4%
- 計算例: 評価額3,000万円の土地の場合、3,000万円 × 3% = 90万円
相続の場合は非課税なので、贈与の方が負担が大きくなります。
贈与税の計算方法と税率(暦年課税)
一般贈与と特例贈与の違い
国税庁の贈与税率表によると、贈与税率は「一般贈与」と「特例贈与」の2種類があります。
特例贈与(直系尊属からの贈与):
- 18歳以上の子・孫が直系尊属(父母・祖父母)から受ける贈与
- 税率が一般贈与より低い
一般贈与:
- 上記以外の贈与(兄弟間、夫婦間等)
贈与税の速算表(特例贈与)
特例贈与の税率は以下の通りです。
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 | 
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | - | 
| 400万円以下 | 15% | 10万円 | 
| 600万円以下 | 20% | 30万円 | 
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 | 
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 | 
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 | 
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 | 
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 | 
贈与税の計算例(評価額3,000万円の不動産)
条件:
- 評価額: 3,000万円
- 基礎控除: 110万円
- 課税価格: 3,000万円 - 110万円 = 2,890万円
計算(国税庁の贈与税速算表を使用):
- 税率: 45%(2,890万円は1,500万円超3,000万円以下)
- 控除額: 265万円
- 贈与税: 2,890万円 × 45% - 265万円 = 1,035.5万円
評価額3,000万円の不動産を一括で贈与すると、贈与税が1,000万円以上かかります。
相続時精算課税制度の活用
相続時精算課税制度とは
国税庁の公式サイトによると、相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで非課税で贈与できる制度です。
制度の概要:
- 累計2,500万円まで非課税
- 2,500万円を超える部分は一律20%の贈与税
- 相続時に贈与財産を相続財産に加算(持ち戻し)
- 一度選択すると暦年課税に戻れない
2024年改正で110万円の基礎控除が追加
2024年1月1日以降の贈与から、相続時精算課税制度でも年110万円の基礎控除が追加されました。
改正後のメリット:
- 年110万円以下の贈与は相続時に持ち戻されない(贈与財産が相続財産に加算されない)
- 年110万円を超える部分は2,500万円まで非課税(相続時に持ち戻し)
この改正により、相続時精算課税制度の使い勝手が向上しました。
相続時精算課税のメリット・デメリット
メリット:
- 2,500万円まで非課税で贈与できる
- 将来値上がりが予想される不動産(再開発エリア等)は贈与時の評価額で固定される
- 収益不動産の家賃収入を子に移転できる
デメリット:
- 相続時に贈与財産が持ち戻される(贈与財産が相続財産に加算される)ため、相続税の節税効果は限定的
- 一度選択すると暦年課税に戻れない
- 小規模宅地等の特例が使えなくなる場合がある
住宅取得資金贈与の非課税特例
非課税枠(最大1,000万円)
国税庁の公式サイトによると、親や祖父母から住宅取得資金の贈与を受ける場合、最大1,000万円まで非課税となる特例があります。
非課税枠(2025年12月31日まで、執筆時点。最新の適用期限は国税庁のウェブサイトをご確認ください):
- 省エネ等住宅: 1,000万円
- 一般住宅: 500万円
適用要件(18歳以上の子・孫、新築・取得・増改築)
主な要件:
- 贈与を受ける人が18歳以上
- 贈与年の合計所得金額が2,000万円以下
- 新築・取得・増改築のための資金であること
- 床面積が50㎡以上240㎡以下
- 贈与年の翌年3月15日までに居住開始
これらの要件を満たせば、最大1,000万円まで非課税で贈与できます。
暦年課税・相続時精算課税との併用
住宅取得資金贈与の非課税特例は、暦年課税・相続時精算課税と併用できます。
併用例:
- 住宅取得資金贈与の非課税特例: 1,000万円
- 暦年課税の基礎控除: 110万円
- 合計: 1,110万円まで非課税
または
- 住宅取得資金贈与の非課税特例: 1,000万円
- 相続時精算課税: 2,500万円
- 合計: 3,500万円まで非課税(相続時に2,500万円分は持ち戻し)
生前贈与と相続の税額比較
相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)
相続税には基礎控除があります。
相続税の基礎控除:
3,000万円 + 600万円 × 相続人数
例:
- 相続人2人(配偶者・子1人): 3,000万円 + 600万円 × 2 = 4,200万円
- 相続人3人(配偶者・子2人): 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
相続財産が基礎控除以下なら相続税は非課税です。
小規模宅地等の特例(居住用330㎡まで80%減額)
相続では租税特別措置法第69条の4に基づく小規模宅地等の特例が使えます。
居住用宅地の特例:
- 330㎡まで評価額を80%減額
- 計算例: 評価額3,000万円の土地(200㎡)の場合、3,000万円 × 20% = 600万円で評価
この特例により、相続税が大幅に削減されます。
生前贈与が有利なケース・相続が有利なケース
生前贈与が有利なケース:
- 相続財産が基礎控除を大幅に超える(1億円以上)
- 将来値上がりが予想される不動産(再開発エリア等)
- 収益不動産の家賃収入を子に移転したい
相続が有利なケース:
- 相続財産が基礎控除以下(4,200万円以下、相続人2人の場合)
- 小規模宅地等の特例を活用したい
- 登録免許税・不動産取得税の負担を抑えたい
一般的には、相続財産が基礎控除以下なら相続が有利、基礎控除を大幅に超えるなら生前贈与を検討すべきです。
不動産の名義変更手続きと費用
登記申請の流れ(法務局への申請)
不動産の名義変更には、法務局への登記申請が必要です。
登記申請の流れ:
- 贈与契約書の作成
- 必要書類の取得(登記済権証・印鑑証明書・住民票等)
- 登記申請書の作成
- 法務局への申請
- 登記完了(約1-2週間)
必要書類(登記済権証・印鑑証明書・住民票等)
必要書類:
- 贈与契約書
- 登記済権証(または登記識別情報)
- 贈与者の印鑑証明書
- 受贈者の住民票
- 固定資産税評価証明書
- 登記申請書
これらの書類を揃えて法務局に申請します。
司法書士に依頼する場合の費用(5-10万円)
自分で登記申請することも可能ですが、書類不備のリスクがあるため、司法書士に依頼するのが一般的です。
司法書士報酬の相場:
- 5-10万円(物件の評価額・複雑さにより異なる)
これに登録免許税(評価額の2%)、不動産取得税(評価額の3-4%)が加算されます。
まとめ:生前贈与は税額シミュレーションと専門家相談が鍵
不動産の生前贈与は、贈与税(基礎控除110万円/年)、登録免許税2%、不動産取得税3-4%がかかり、相続より税負担が大きい場合があります。
相続時精算課税制度を使えば2,500万円まで非課税で贈与できますが、相続時に持ち戻される(贈与財産が相続財産に加算される)ため節税効果は限定的です。住宅取得資金贈与の非課税特例(最大1,000万円)を活用すれば、贈与税を大幅に削減できます。
一般的には、相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)以下なら相続が有利、基礎控除を大幅に超えるなら生前贈与を検討すべきです。
次のアクションとして、国税庁の贈与税・相続税シミュレーションを活用して税額を試算し、税理士に相談することをおすすめします。
