不動産の生前贈与を完全解説!贈与税の計算方法と相続との比較

公開日: 2025/10/27

不動産の生前贈与とは?基本的な仕組みと活用場面

親から子への不動産の引継ぎを検討する際、「生前贈与と相続、どちらが有利なのか」「税金はいくらかかるのか」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、不動産の生前贈与の仕組み、贈与税の計算方法と特例(暦年課税・相続時精算課税)、生前贈与と相続の税額比較、名義変更の手続きを、国税庁の公式情報を元に解説します。

初めて不動産の生前贈与を検討する方でも、税金の仕組みを正しく理解し、適切な判断ができるようになります。

この記事のポイント

  • 不動産の生前贈与は贈与税(基礎控除110万円/年)、登録免許税2%、不動産取得税3-4%がかかる
  • 相続時精算課税制度を使えば2,500万円まで非課税で贈与できるが、相続時に持ち戻される(贈与財産が相続財産に加算される)
  • 住宅取得資金贈与の非課税特例(最大1,000万円)を活用すれば、贈与税を大幅に削減できる
  • 生前贈与と相続の税額比較では、相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)以下なら相続が有利
  • 名義変更は登記申請が必要で、司法書士に依頼する場合は5-10万円の費用がかかる

生前贈与にかかる税金の全体像

贈与税の基礎控除(110万円/年)

国税庁の公式サイトによると、贈与税には年間110万円の基礎控除があります。

暦年課税の基礎控除:

  • 1年間(1月1日~12月31日)に受けた贈与額が110万円以下なら贈与税は非課税
  • 110万円を超える部分に対して贈与税が課される

例えば、評価額3,000万円の不動産を一括で贈与すると、基礎控除110万円を超えるため、(3,000万円 - 110万円) = 2,890万円に対して贈与税が課されます。

登録免許税(固定資産税評価額の2%)

不動産の名義変更(所有権移転登記)には、登録免許税が課されます。

贈与による登録免許税:

  • 税率: 固定資産税評価額の2%
  • 計算例: 評価額3,000万円の場合、3,000万円 × 2% = 60万円

相続の場合は0.4%なので、贈与の方が5倍高くなります。

不動産取得税(評価額の3-4%)

不動産を取得した際に都道府県が課税する地方税です。

不動産取得税:

  • 土地: 評価額の3%(2027年3月31日まで軽減措置)
  • 建物(住宅): 評価額の3%
  • 建物(非住宅): 評価額の4%
  • 計算例: 評価額3,000万円の土地の場合、3,000万円 × 3% = 90万円

相続の場合は非課税なので、贈与の方が負担が大きくなります。

贈与税の計算方法と税率(暦年課税)

一般贈与と特例贈与の違い

国税庁の贈与税率表によると、贈与税率は「一般贈与」と「特例贈与」の2種類があります。

特例贈与(直系尊属からの贈与):

  • 18歳以上の子・孫が直系尊属(父母・祖父母)から受ける贈与
  • 税率が一般贈与より低い

一般贈与:

  • 上記以外の贈与(兄弟間、夫婦間等)

贈与税の速算表(特例贈与)

特例贈与の税率は以下の通りです。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% -
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

贈与税の計算例(評価額3,000万円の不動産)

条件:

  • 評価額: 3,000万円
  • 基礎控除: 110万円
  • 課税価格: 3,000万円 - 110万円 = 2,890万円

計算(国税庁の贈与税速算表を使用):

  • 税率: 45%(2,890万円は1,500万円超3,000万円以下)
  • 控除額: 265万円
  • 贈与税: 2,890万円 × 45% - 265万円 = 1,035.5万円

評価額3,000万円の不動産を一括で贈与すると、贈与税が1,000万円以上かかります。

相続時精算課税制度の活用

相続時精算課税制度とは

国税庁の公式サイトによると、相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで非課税で贈与できる制度です。

制度の概要:

  • 累計2,500万円まで非課税
  • 2,500万円を超える部分は一律20%の贈与税
  • 相続時に贈与財産を相続財産に加算(持ち戻し)
  • 一度選択すると暦年課税に戻れない

2024年改正で110万円の基礎控除が追加

2024年1月1日以降の贈与から、相続時精算課税制度でも年110万円の基礎控除が追加されました。

改正後のメリット:

  • 年110万円以下の贈与は相続時に持ち戻されない(贈与財産が相続財産に加算されない)
  • 年110万円を超える部分は2,500万円まで非課税(相続時に持ち戻し)

この改正により、相続時精算課税制度の使い勝手が向上しました。

相続時精算課税のメリット・デメリット

メリット:

  • 2,500万円まで非課税で贈与できる
  • 将来値上がりが予想される不動産(再開発エリア等)は贈与時の評価額で固定される
  • 収益不動産の家賃収入を子に移転できる

デメリット:

  • 相続時に贈与財産が持ち戻される(贈与財産が相続財産に加算される)ため、相続税の節税効果は限定的
  • 一度選択すると暦年課税に戻れない
  • 小規模宅地等の特例が使えなくなる場合がある

住宅取得資金贈与の非課税特例

非課税枠(最大1,000万円)

国税庁の公式サイトによると、親や祖父母から住宅取得資金の贈与を受ける場合、最大1,000万円まで非課税となる特例があります。

非課税枠(2025年12月31日まで、執筆時点。最新の適用期限は国税庁のウェブサイトをご確認ください):

  • 省エネ等住宅: 1,000万円
  • 一般住宅: 500万円

適用要件(18歳以上の子・孫、新築・取得・増改築)

主な要件:

  • 贈与を受ける人が18歳以上
  • 贈与年の合計所得金額が2,000万円以下
  • 新築・取得・増改築のための資金であること
  • 床面積が50㎡以上240㎡以下
  • 贈与年の翌年3月15日までに居住開始

これらの要件を満たせば、最大1,000万円まで非課税で贈与できます。

暦年課税・相続時精算課税との併用

住宅取得資金贈与の非課税特例は、暦年課税・相続時精算課税と併用できます。

併用例:

  • 住宅取得資金贈与の非課税特例: 1,000万円
  • 暦年課税の基礎控除: 110万円
  • 合計: 1,110万円まで非課税

または

  • 住宅取得資金贈与の非課税特例: 1,000万円
  • 相続時精算課税: 2,500万円
  • 合計: 3,500万円まで非課税(相続時に2,500万円分は持ち戻し)

生前贈与と相続の税額比較

相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)

相続税には基礎控除があります。

相続税の基礎控除:

3,000万円 + 600万円 × 相続人数

例:

  • 相続人2人(配偶者・子1人): 3,000万円 + 600万円 × 2 = 4,200万円
  • 相続人3人(配偶者・子2人): 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円

相続財産が基礎控除以下なら相続税は非課税です。

小規模宅地等の特例(居住用330㎡まで80%減額)

相続では租税特別措置法第69条の4に基づく小規模宅地等の特例が使えます。

居住用宅地の特例:

  • 330㎡まで評価額を80%減額
  • 計算例: 評価額3,000万円の土地(200㎡)の場合、3,000万円 × 20% = 600万円で評価

この特例により、相続税が大幅に削減されます。

生前贈与が有利なケース・相続が有利なケース

生前贈与が有利なケース:

  • 相続財産が基礎控除を大幅に超える(1億円以上)
  • 将来値上がりが予想される不動産(再開発エリア等)
  • 収益不動産の家賃収入を子に移転したい

相続が有利なケース:

  • 相続財産が基礎控除以下(4,200万円以下、相続人2人の場合)
  • 小規模宅地等の特例を活用したい
  • 登録免許税・不動産取得税の負担を抑えたい

一般的には、相続財産が基礎控除以下なら相続が有利、基礎控除を大幅に超えるなら生前贈与を検討すべきです。

不動産の名義変更手続きと費用

登記申請の流れ(法務局への申請)

不動産の名義変更には、法務局への登記申請が必要です。

登記申請の流れ:

  1. 贈与契約書の作成
  2. 必要書類の取得(登記済権証・印鑑証明書・住民票等)
  3. 登記申請書の作成
  4. 法務局への申請
  5. 登記完了(約1-2週間)

必要書類(登記済権証・印鑑証明書・住民票等)

必要書類:

  • 贈与契約書
  • 登記済権証(または登記識別情報)
  • 贈与者の印鑑証明書
  • 受贈者の住民票
  • 固定資産税評価証明書
  • 登記申請書

これらの書類を揃えて法務局に申請します。

司法書士に依頼する場合の費用(5-10万円)

自分で登記申請することも可能ですが、書類不備のリスクがあるため、司法書士に依頼するのが一般的です。

司法書士報酬の相場:

  • 5-10万円(物件の評価額・複雑さにより異なる)

これに登録免許税(評価額の2%)、不動産取得税(評価額の3-4%)が加算されます。

まとめ:生前贈与は税額シミュレーションと専門家相談が鍵

不動産の生前贈与は、贈与税(基礎控除110万円/年)、登録免許税2%、不動産取得税3-4%がかかり、相続より税負担が大きい場合があります。

相続時精算課税制度を使えば2,500万円まで非課税で贈与できますが、相続時に持ち戻される(贈与財産が相続財産に加算される)ため節税効果は限定的です。住宅取得資金贈与の非課税特例(最大1,000万円)を活用すれば、贈与税を大幅に削減できます。

一般的には、相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)以下なら相続が有利、基礎控除を大幅に超えるなら生前贈与を検討すべきです。

次のアクションとして、国税庁の贈与税・相続税シミュレーションを活用して税額を試算し、税理士に相談することをおすすめします。

よくある質問

Q1不動産を生前贈与すると、いくら税金がかかりますか?

A1評価額3,000万円の不動産を一括で贈与すると、贈与税約1,035万円(計算式: (3,000万円-110万円) × 45% - 265万円)、登録免許税60万円(評価額の2%)、不動産取得税90万円(土地3%)の合計約1,185万円がかかります。暦年課税の基礎控除110万円/年を活用し、毎年110万円以下の持分を贈与すれば贈与税を削減できますが、27年以上かかるため現実的ではありません。相続時精算課税制度や住宅取得資金贈与の非課税特例を活用することで、税負担を軽減できます。

Q2生前贈与と相続、どちらが税金が安いですか?

A2相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)以下なら相続が有利です。例えば、相続人2人の場合、基礎控除4,200万円以下なら相続税は非課税です。また、相続では租税特別措置法第69条の4に基づく小規模宅地等の特例(居住用330㎡まで80%減額)が使えるため、評価額3,000万円の土地でも600万円で評価され、相続税が大幅に削減されます。一方、相続財産が基礎控除を大幅に超える場合(1億円以上)は、生前贈与を検討する価値があります。

Q3相続時精算課税制度を使うと、相続税が安くなりますか?

A3相続税の節税効果は限定的です。相続時精算課税制度は2,500万円まで非課税で贈与できますが、相続時に贈与財産が持ち戻される(贈与財産が相続財産に加算される)ため、最終的な相続税額は変わりません。ただし、将来値上がりが予想される不動産(再開発エリア等)は贈与時の評価額で固定されるため、値上がり分の相続税を回避できます。また、収益不動産の家賃収入を子に移転することで、相続財産の増加を抑えられるメリットがあります。

Q4住宅取得資金贈与の非課税特例はどう使えばいいですか?

A4親や祖父母から子・孫への住宅取得資金の贈与について、最大1,000万円まで非課税で贈与できます(省エネ等住宅の場合、2025年12月31日まで。執筆時点。最新の適用期限は国税庁のウェブサイトをご確認ください)。暦年課税の基礎控除110万円と併用すれば、合計1,110万円まで非課税です。または、相続時精算課税と併用すれば、合計3,500万円まで非課税(2,500万円分は相続時に持ち戻し)で贈与できます。適用要件(18歳以上、所得2,000万円以下、床面積50㎡以上等)を満たす必要があります。

Q5不動産の名義変更は自分でできますか?

A5可能です。法務局で必要書類を揃えて登記申請すれば、司法書士報酬(5-10万円)を節約できます。ただし、書類不備で再申請になるリスク、贈与契約書の作成ミス(後日トラブルの原因)、贈与税・不動産取得税の申告漏れ等のリスクがあります。特に高額な不動産の場合は、司法書士・税理士に依頼することで、これらのリスクを回避できます。