土地の売買とは?売主・買主が知っておくべき基礎知識
土地を売却・購入する際、「どんな手続きが必要なのか」「どれくらいの期間がかかるのか」と不安に感じる方は少なくありません。土地売買は建物と異なり、境界確定や地中埋設物など特有の注意点があり、事前の理解が重要です。
この記事では、土地売買の流れ・必要書類・税金・注意点を、国土交通省や国税庁の公式情報を元に解説します。
初めて土地売買に取り組む方でも、契約から引き渡しまでの全体像を理解し、スムーズに手続きを進められるようになります。
この記事のポイント
- 土地売買は査定から引き渡しまで3-6ヶ月程度が目安
- 売主側は境界確定測量(費用30-100万円・期間3-6ヶ月)が必要になる場合がある
- 買主側は重要事項説明で法令制限・権利関係を確認し、住宅ローン審査を経て決済へ
- 譲渡所得税は長期譲渡(5年超保有)20.315%・短期譲渡(5年以下)39.63%、特別控除3000万円等の節税措置あり
- 土地特有の注意点(境界確定・地中埋設物・土壌汚染・用途制限等)を事前に確認することがトラブル防止の鍵
土地売買の流れ(売主側)
売主側の手続きは、査定から引き渡しまで5つのステップに分かれます。所要期間は3-6ヶ月程度が目安です。
ステップ1: 査定・価格決定
複数の不動産会社に査定を依頼し、売却価格を決定します。査定では以下の要素が考慮されます。
- 立地(駅距離、用途地域、周辺環境)
- 土地面積・形状・接道状況
- 近隣の取引事例(国土交通省の不動産取引価格情報で確認可能)
- 地価公示・路線価等の公的価格
査定額は不動産会社により異なるため、3社以上に依頼して比較することをおすすめします。所要期間は1-2週間程度です。
ステップ2: 媒介契約の締結
不動産会社と媒介契約を締結します。媒介契約には3種類があります。
| 媒介契約の種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 専属専任媒介 | 1社のみ、自己発見取引不可 | 積極的な営業活動、レインズ登録義務あり | 他社と比較できない |
| 専任媒介 | 1社のみ、自己発見取引可 | レインズ登録義務あり | 他社と比較できない |
| 一般媒介 | 複数社可、自己発見取引可 | 複数社で競争 | 営業活動が消極的になる可能性 |
仲介手数料の上限は、売買価格が400万円超の場合、売買価格×3%+6万円+消費税です。例えば、売買価格3,000万円の場合、仲介手数料の上限は105.6万円(税込)となります。
ステップ3: 売却活動(広告・内見)
不動産会社が広告を出し、購入希望者の内見対応を行います。土地の場合、以下の準備が必要です。
- 境界標の確認(見つからない場合は境界確定測量が必要)
- 草刈り・ゴミの撤去
- 測量図・登記事項証明書の準備
所要期間は1-3ヶ月程度ですが、立地や価格により変動します。
ステップ4: 売買契約の締結
購入希望者が見つかったら、売買契約を締結します。契約時には以下を確認します。
重要事項説明書の記載内容:
- 物件の所在・面積・用途地域
- 権利関係(所有権・抵当権等)
- 法令制限(建築基準法・都市計画法等)
- インフラ整備状況(上下水道・ガス等)
- 契約不適合責任(瑕疵担保責任)の範囲
(出典: 国土交通省 重要事項説明書様式)
売買契約書の記載内容:
- 売買価格・支払方法
- 手付金の額(売買価格の5-10%が一般的)
- 引き渡し時期
- 契約解除条件
- 印紙税(2025年時点、1000万円超5000万円以下→1万円、5000万円超1億円以下→3万円、軽減措置適用で半額)
手付金は契約成立の証拠であり、買主が契約解除する場合は放棄、売主が契約解除する場合は倍返し(手付金の2倍を買主に支払う)が原則です。
ステップ5: 決済・引き渡し
契約締結から1-2ヶ月後、決済・引き渡しを行います。当日の流れは以下の通りです。
- 残代金の受領(買主→売主)
- 所有権移転登記の申請(司法書士が代行)
- 鍵・書類の引き渡し
- 固定資産税の清算(1月1日時点の所有者が納税義務を負うため、引き渡し日以降の日割り分を買主が負担)
売主側の必要書類:
- 登記済権利証または登記識別情報通知書
- 印鑑証明書(3ヶ月以内)
- 固定資産税評価証明書
- 境界確認書・測量図
- 身分証明書
所有権移転登記の費用(登録免許税・司法書士報酬)は買主負担が一般的です。
土地売買の流れ(買主側)
買主側の手続きも5つのステップに分かれます。
ステップ1: 土地探し・情報収集
土地探しの方法は以下の通りです。
- 不動産ポータルサイト(SUUMO、HOME'S等)
- 不動産会社への直接相談
- 国土交通省の不動産取引価格情報で近隣相場を確認
希望条件(予算・立地・面積・用途地域等)を明確にし、複数の物件を比較することをおすすめします。
ステップ2: 現地調査・重要事項説明
現地調査では、以下を確認します。
- 接道状況(建築基準法の接道義務:幅員4m以上の道路に2m以上接道)
- 境界標の有無
- 隣地の状況(越境物・境界トラブルの有無)
- 用途地域・建ぺい率・容積率(市区町村のWebサイトで確認可能)
- インフラ整備状況(上下水道・ガス・電気の引き込み状況)
重要事項説明は、宅地建物取引士が契約前に行う説明義務(宅建業法35条)です。物件情報・法令制限・権利関係等を詳細に説明し、買主が十分理解した上で契約に進みます。
ステップ3: 売買契約の締結
売主側と同様、売買契約書に署名・押印し、手付金を支払います。契約締結後8日以内であれば、クーリングオフ制度により無条件解除が可能です(ただし、事務所等での契約締結時は適用外)。
ステップ4: 住宅ローン申込・審査
住宅ローンを利用する場合、金融機関に申込を行います。審査期間は1-2週間程度です。
住宅ローン利用時の必要書類:
- 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)
- 収入証明書(源泉徴収票・確定申告書等)
- 売買契約書・重要事項説明書
- 物件の登記事項証明書
住宅ローンが承認されない場合、「ローン特約」により契約を白紙解除できる条項を設けることが一般的です。
ステップ5: 決済・所有権移転登記
売主側と同様、決済日に残代金を支払い、所有権移転登記を行います。登記費用(登録免許税・司法書士報酬)は買主負担が一般的で、登録免許税は土地の固定資産税評価額の2%(2025年時点)です。
土地売買でかかる税金と費用
土地売買では、売主・買主双方に税金・費用が発生します。
譲渡所得税の計算方法(売主側)
土地売却により利益が出た場合、譲渡所得税が課されます。計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡収入 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除
- 譲渡収入: 売却価格
- 取得費: 購入時の価格・仲介手数料・登記費用等(不明な場合は譲渡収入の5%)
- 譲渡費用: 仲介手数料・測量費・解体費等
- 特別控除: 居住用財産3000万円控除、公共事業5000万円控除等
(出典: 国税庁 No.1440 譲渡所得)
税率(2025年時点):
- 長期譲渡所得(5年超保有): 所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315% = 20.315%
- 短期譲渡所得(5年以下保有): 所得税30% + 住民税9% + 復興特別所得税0.63% = 39.63%
計算例:
- 譲渡収入: 3,000万円
- 取得費: 2,000万円
- 譲渡費用: 100万円(仲介手数料・測量費等)
- 保有期間: 8年(長期譲渡所得)
譲渡所得 = 3,000万円 - 2,000万円 - 100万円 = 900万円
譲渡所得税 = 900万円 × 20.315% = 約183万円
不動産取得税・印紙税(買主側)
不動産取得税: 土地取得時に課される地方税で、固定資産税評価額の3%が課税されます(2027年3月31日まで軽減措置適用)。
印紙税: 売買契約書に貼付する印紙税は、売買価格に応じて決定されます(2027年3月31日まで軽減措置適用で半額)。
| 売買価格 | 印紙税(軽減後) |
|---|---|
| 1000万円超5000万円以下 | 1万円 |
| 5000万円超1億円以下 | 3万円 |
| 1億円超5億円以下 | 6万円 |
(出典: 国税庁)
仲介手数料・登記費用(双方)
仲介手数料: 不動産会社に支払う成功報酬で、上限は以下の通りです(400万円超の場合)。
仲介手数料(上限) = 売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税
例: 売買価格3,000万円の場合、仲介手数料(上限)= 3,000万円 × 3% + 6万円 + 消費税 = 105.6万円(税込)
登記費用: 所有権移転登記の登録免許税(土地の固定資産税評価額の2%)と司法書士報酬(5-10万円程度)がかかります。
節税のための特別控除
国税庁によると、以下の特別控除を適用できる場合があります。
- 居住用財産の3000万円特別控除: 居住用財産を譲渡した場合、3000万円まで譲渡所得から控除
- 公共事業等の5000万円特別控除: 公共事業のために土地を譲渡した場合、5000万円まで控除
- 相続空き家の3000万円特別控除: 相続した空き家を譲渡した場合、要件を満たせば3000万円まで控除
詳細は税理士に相談することをおすすめします。
土地売買特有の注意点
土地売買には、建物売買と異なる特有のリスクがあります。
境界確定測量の必要性と手続き
境界確定測量とは: 隣地所有者立会いのもと、土地家屋調査士が境界を確定する測量です。買主が住宅ローンを利用する場合、金融機関が境界確定を条件とすることが多いです。
費用相場: 30-100万円(土地の面積・形状により変動)
所要期間: 3-6ヶ月(隣地所有者との調整に時間がかかる場合あり)
手続きの流れ:
- 土地家屋調査士に依頼
- 隣地所有者に立会いを依頼
- 境界標の設置・測量図の作成
- 境界確認書に署名・押印
境界が確定していない土地は、売却後に隣地とのトラブルに発展するリスクがあるため、売却前に境界確定測量を実施することを推奨します。
地中埋設物・土壌汚染のリスク
地中埋設物: コンクリートガラ・産業廃棄物・旧建物の基礎等が地中に埋まっている場合、撤去費用(数十万円~数百万円)が発生します。契約前に売主・買主間で費用負担を明確にする必要があります。
土壌汚染: 過去に工場・ガソリンスタンド等があった土地は、土壌汚染調査が必要です。汚染が発覚した場合、浄化費用(数百万円~数千万円)がかかるため、契約前に調査を実施することをおすすめします。
契約不適合責任: 民法改正(2020年)により、売主は契約内容との不一致について責任を負います。地中埋設物・土壌汚染が発覚した場合、買主は売主に対して損害賠償請求・契約解除を求めることができます。
用途制限・建築制限の確認
用途地域: 都市計画法により、土地の用途(住宅・商業・工業等)が制限されています。用途地域は市区町村のWebサイトで確認できます。
建築制限: 以下の制限があり、建築可能な建物の規模・形状が決まります。
- 建ぺい率: 敷地面積に対する建築面積の割合
- 容積率: 敷地面積に対する延床面積の割合
- 高さ制限: 北側斜線制限・道路斜線制限等
- 接道義務: 幅員4m以上の道路に2m以上接道
購入前に建築制限を確認し、希望する建物が建築可能かを確認することをおすすめします。
契約不適合責任(瑕疵担保責任)
民法改正(2020年)により、「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変更され、買主保護が強化されました。売主は契約内容との不一致について責任を負い、買主は以下を請求できます。
- 追完請求: 修補・代替物の引き渡し
- 代金減額請求: 契約不適合の程度に応じた代金減額
- 損害賠償請求: 契約不適合により生じた損害の賠償
- 契約解除: 契約不適合が重大な場合
売買契約書で責任の範囲・期間を明記することが重要です。
まとめ:土地売買は専門家と一緒に進めよう
土地売買は、売主・買主双方にとって契約から引き渡しまで3-6ヶ月程度かかる大きな取引です。売主側は境界確定測量・譲渡所得税の計算、買主側は重要事項説明の確認・住宅ローン審査等、多くの手続きが必要です。
土地特有の注意点(境界確定・地中埋設物・土壌汚染・用途制限等)を事前に確認し、トラブルを未然に防ぐことが重要です。仲介手数料・譲渡所得税等の費用も事前に把握しておくことで、無理のない資金計画を立てられます。
信頼できる不動産会社や司法書士、税理士等の専門家に相談しながら、安全かつスムーズに土地売買を進めましょう。
