専任媒介契約の仲介手数料とは|基本的な仕組み
不動産を売却する際、専任媒介契約を検討している方の中には、「仲介手数料はいくらかかるのか」「専任媒介だと手数料が高くなるのか」と不安を感じている方もいるかもしれません。
この記事では、専任媒介契約の仲介手数料の計算方法、法定上限、他の媒介契約との比較、支払いタイミング、値引き交渉の可能性まで、仲介手数料に関する情報を網羅的に解説します。
本記事は、宅地建物取引業法(宅建業法)や国土交通省の公式情報、業界データを元に作成しており、初めて不動産を売却する方でも、仲介手数料の仕組みを正確に理解できる内容となっています。
この記事のポイント
- 仲介手数料は専任媒介でも他の媒介でも金額に差はなく、上限は「物件価格×3%+6万円+消費税」(400万円超の場合)
- 専任媒介契約は1社のみに依頼する契約で、7日以内のレインズ登録義務、2週間に1回以上の報告義務あり
- 専任媒介は半年未満で売れた割合が46%と一般媒介の35.3%より高い(HOME'Sアンケート結果)
- 支払いタイミングは売買契約時と引き渡し時に半金ずつが一般的
- 仲介手数料無料・半額サービスは両手仲介により可能だが、物件選択肢が限られる可能性や囲い込みのリスクに注意が必要
(1) 仲介手数料の定義と成功報酬制
仲介手数料とは、不動産売買が成立した際に不動産会社に支払う成功報酬です。成功報酬制のため、売却が成立しない場合は支払う必要がありません。
不動産会社は、物件の査定、販売活動(広告掲載、内覧対応等)、価格交渉、契約書作成、引き渡しまでの一連のサービスを提供し、その対価として仲介手数料を受け取ります。
(2) 専任媒介契約の基本情報
専任媒介契約は、1社のみに売却を依頼する契約です。主な特徴は以下の通りです。
- 1社のみに依頼: 複数の不動産会社に同時に依頼することはできない
- レインズ登録義務: 契約から7日以内にレインズ(不動産流通標準情報システム)に物件情報を登録する義務
- 報告義務: 2週間に1回以上、販売状況を売主に報告する義務
- 自己発見取引: 売主が自分で買主を見つけた場合、仲介手数料なしで直接取引が可能
専任媒介契約により、不動産会社は積極的な販売活動を行うインセンティブが高まるため、早期売却が期待できます。
(3) 宅建業法による規制
仲介手数料は、宅地建物取引業法(宅建業法)により上限が定められています。国土交通省が標準媒介契約約款を定めており、媒介契約の種類や契約内容は法律で厳格に規定されています。
上限を超える手数料を請求することは宅建業法違反であり、行政処分の対象となります。
仲介手数料の計算方法と法定上限
仲介手数料は、物件価格に応じて上限が異なります。ここでは、速算法による計算方法と具体的な計算例を紹介します。
(1) 速算法による計算方法(物件価格×3%+6万円+消費税)
物件価格が400万円超の場合、以下の速算法で仲介手数料の上限を計算できます。
計算式:
仲介手数料(税込)= (物件価格 × 3% + 6万円) × 1.1
この計算式は、宅建業法で定められた段階別の料率を簡易的に計算する方法です。
(2) 物件価格別の計算例
具体例を見てみましょう。
例1: 物件価格3,000万円の場合
(3,000万円 × 3% + 6万円) × 1.1
= (90万円 + 6万円) × 1.1
= 105.6万円
例2: 物件価格5,000万円の場合
(5,000万円 × 3% + 6万円) × 1.1
= (150万円 + 6万円) × 1.1
= 171.6万円
例3: 物件価格1億円の場合
(1億円 × 3% + 6万円) × 1.1
= (300万円 + 6万円) × 1.1
= 336.6万円
(3) 低額物件(800万円以下)の上限(30万円)
2022年の宅建業法改正により、低額物件(800万円以下)の仲介手数料上限は30万円+消費税に設定されました。
従来、低額物件は仲介手数料が少ないため、不動産会社が積極的に扱わないケースがありましたが、この改正により、不動産会社が低額物件でも対応しやすくなりました。
(4) 仲介手数料の早見表
以下は、物件価格別の仲介手数料(税込)の早見表です。
| 物件価格 | 仲介手数料(税込) |
|---|---|
| 1,000万円 | 39.6万円 |
| 2,000万円 | 72.6万円 |
| 3,000万円 | 105.6万円 |
| 4,000万円 | 138.6万円 |
| 5,000万円 | 171.6万円 |
| 6,000万円 | 204.6万円 |
| 1億円 | 336.6万円 |
この表はあくまで上限であり、不動産会社によっては割引がある場合もあります。
専任媒介契約の特徴と他の媒介契約との比較
媒介契約には、専任媒介契約の他に、一般媒介契約と専属専任媒介契約の3種類があります。それぞれの違いを理解し、自分に合った契約を選びましょう。
(1) 専任媒介契約の特徴(1社のみ、レインズ登録義務、報告義務)
前述の通り、専任媒介契約の主な特徴は以下の通りです。
- 1社のみに依頼: 複数社に依頼不可
- レインズ登録義務: 7日以内に登録
- 報告義務: 2週間に1回以上
- 自己発見取引: 可能
- 契約期間: 最長3ヶ月(更新可能)
(2) 一般媒介契約との違い
一般媒介契約は、複数社に同時に依頼できる契約です。
| 項目 | 専任媒介 | 一般媒介 |
|---|---|---|
| 依頼社数 | 1社のみ | 複数社 |
| レインズ登録義務 | あり(7日以内) | なし |
| 報告義務 | あり(2週間に1回以上) | なし |
| 自己発見取引 | 可能 | 可能 |
| 契約期間 | 最長3ヶ月 | 制限なし |
一般媒介契約は、複数社に依頼できるため「競争により高値で売れる」と期待されますが、レインズ登録義務や報告義務がないため、販売活動の透明性が低いというデメリットがあります。
(3) 専属専任媒介契約との違い
専属専任媒介契約は、専任媒介契約よりもさらに制約が厳しい契約です。
| 項目 | 専任媒介 | 専属専任媒介 |
|---|---|---|
| 自己発見取引 | 可能 | 不可 |
| レインズ登録義務 | 7日以内 | 5日以内 |
| 報告義務 | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
専属専任媒介契約は、自己発見取引ができないため、売主が自分で買主を見つけた場合でも仲介手数料が発生します。一方、不動産会社の報告頻度が高いため、販売状況を詳細に把握できます。
(4) 売却期間の比較データ(専任46%、一般35.3%)
HOME'Sのアンケート調査によると、専任媒介契約は半年未満で売れた割合が46%、一般媒介契約は35.3%でした。
専任媒介契約の方が早期売却につながりやすい傾向があります。これは、不動産会社が1社のみに依頼されるため、積極的な販売活動を行うインセンティブが高いためと考えられます。
(5) どの契約を選ぶべきか
専任媒介契約が向いているケース:
- 早期売却を希望する場合
- 不動産会社に積極的な販売活動を期待する場合
- 販売状況を定期的に報告してほしい場合
一般媒介契約が向いているケース:
- 人気エリアで需要が高い物件
- 複数社に依頼して幅広く買主を探したい場合
専属専任媒介契約が向いているケース:
- 不動産会社に全面的に任せたい場合
- 頻繁な報告を希望する場合
仲介手数料の支払いタイミングと相場
仲介手数料は、いつ支払うのでしょうか。また、仲介手数料に含まれるサービスや追加費用についても確認しましょう。
(1) 支払いタイミング(売買契約時・引き渡し時)
仲介手数料の支払いタイミングは、売買契約時に半金、物件引き渡し時に半金が一般的です。
例: 仲介手数料105.6万円の場合
- 売買契約時: 52.8万円
- 物件引き渡し時: 52.8万円
成功報酬制のため、売買契約が締結されるまで支払う必要はありません。また、売買契約後に何らかの理由で契約が解除された場合、引き渡し時の残金は支払わなくて済む場合があります(契約書の内容により異なります)。
(2) 仲介手数料に含まれるサービス
仲介手数料には、以下のサービスが含まれます。
- 物件の査定
- 販売活動(広告掲載、内覧対応、レインズ登録等)
- 価格交渉のサポート
- 売買契約書の作成
- 重要事項説明書の作成
- 引き渡しまでの調整
これらの基本的なサービスは、仲介手数料に含まれており、追加費用は発生しません。
(3) 追加費用が発生するケース
一部のサービスについては、追加費用が発生する場合があります。
- 特別な広告: 大手メディアへの広告掲載、プロカメラマンによる撮影等
- 測量費: 境界確定のための測量(30-100万円程度)
- 解体費: 建物を解体して更地にする場合(数百万円規模)
これらの費用は、仲介手数料とは別に発生するため、事前に不動産会社に確認しましょう。
仲介手数料を抑える方法と注意点
仲介手数料は高額になるため、抑える方法を知りたい方も多いでしょう。ここでは、仲介手数料無料・半額サービスの仕組みと注意点を解説します。
(1) 仲介手数料無料・半額サービスの仕組み(両手仲介)
仲介手数料無料・半額サービスは、両手仲介により実現されることが多いです。
両手仲介とは、1社が売主・買主双方から仲介手数料を受け取る取引形態です。例えば、売主から105.6万円、買主から105.6万円を受け取る場合、合計211.2万円の収益が得られます。このため、片方の手数料を無料・割引にしても、不動産会社は十分な収益を確保できます。
また、売主からの広告料で収益を確保するケースもあります。
(2) 仲介手数料無料のデメリット(物件選択肢の制限)
仲介手数料無料・半額サービスには、以下のデメリットがあります。
- 物件選択肢が限られる: 売主から手数料を受け取れる物件のみ紹介される可能性がある
- サービスの質が低下する: 一部の不動産会社では、無料サービスの顧客へのサポートが手薄になる場合がある
- 追加費用が発生する: 仲介手数料は無料でも、他の名目(書類作成費、広告費等)で費用請求される場合がある
これらのデメリットを理解した上で、仲介手数料無料サービスを利用しましょう。
(3) 囲い込みのリスクとレインズ登録証の確認
専任媒介契約で注意すべきなのが、囲い込みです。
囲い込みとは、自社で買主を見つけるために他社に物件情報を開示しない行為です。両手仲介により高い収益を得るため、レインズに登録したように見せかけて、実際には他社に情報を開示しないケースがあります。
囲い込みは宅建業法違反ですが、一部の不動産会社で行われているのが実情です。
対策: 専任媒介契約を締結したら、不動産会社にレインズ登録証の提示を求めましょう。レインズ登録証により、物件情報が正しく登録されているかを確認できます。
(4) 値引き交渉の可能性とリスク
仲介手数料は上限が定められていますが、下限はありません。そのため、値引き交渉は可能です。
ただし、以下のリスクに注意が必要です。
- サービスの質が低下する: 仲介手数料を値引きすると、不動産会社のモチベーションが下がり、販売活動が手薄になる可能性がある
- 囲い込みのリスク: 値引きにより収益が減るため、両手仲介により収益を確保しようとして囲い込みが行われる可能性がある
値引き交渉は、不動産会社との信頼関係を損なわない範囲で行うことを推奨します。
まとめ|専任媒介契約を選ぶべきケース
専任媒介契約の仲介手数料は、他の媒介契約(一般媒介、専属専任媒介)と同じく、物件価格×3%+6万円+消費税(400万円超の場合)が上限です。専任媒介だからといって手数料が高くなることはありません。
専任媒介契約は、1社のみに依頼する契約ですが、レインズ登録義務や報告義務があるため、不動産会社が積極的な販売活動を行うインセンティブが高まります。実際、HOME'Sのアンケート調査では、専任媒介契約は半年未満で売れた割合が46%と一般媒介の35.3%より高い結果が出ています。
仲介手数料無料・半額サービスは魅力的ですが、物件選択肢の制限、囲い込みのリスク、サービスの質の低下等のデメリットがあるため、総合的に判断することが重要です。
信頼できる不動産会社を選び、レインズ登録証の確認や定期的な報告を求めることで、安心して売却活動を進めましょう。契約内容に不明点がある場合は、宅地建物取引士に確認することを推奨します。
