個人事業主の住宅ローン審査を完全攻略|通りやすくするコツと対策

公開日: 2025/10/27

個人事業主の住宅ローン審査が厳しい理由

個人事業主やフリーランスの方が住宅購入を検討する際、「住宅ローン審査は厳しい」という話を耳にして不安を感じることが多いでしょう。会社員との違いや、審査に通るためのポイントを知りたいという方は少なくありません。

この記事では、個人事業主の住宅ローン審査が厳しい理由、審査に通りやすくするための具体的対策、金融機関選びのポイント、住宅ローン控除の注意点を、金融庁住宅金融支援機構国税庁等の公式情報を元に解説します。

個人事業主でも適切な準備を行えば、住宅ローンを組める可能性が高まります。

この記事のポイント

  • 個人事業主の住宅ローン審査は、収入の変動リスク、所得証明の複雑さ、所得が審査対象であることから会社員より厳しい
  • 確定申告3期分で安定収入を証明し、頭金を2-3割準備すれば審査に有利になる
  • フラット35は直近1年分の所得で審査され、民間ローンより審査基準が緩く個人事業主に向いている
  • 経費を多く計上すると所得が減り審査に不利になるため、節税と審査のバランスが重要
  • 住宅ローン控除は個人事業主の場合、毎年確定申告で申請が必要(自動適用されない)

個人事業主と会社員の審査基準の違い

個人事業主の住宅ローン審査が厳しい理由は、会社員との収入構造の違いにあります。三井住友銀行の公式情報によると、以下の3点が主な理由です。

収入の変動リスク(会社員との違い)

会社員は毎月固定給が支払われるため、収入が安定しています。一方、個人事業主は事業の業績により収入が変動するため、金融機関は返済能力を慎重に判断します。

項目 会社員 個人事業主
収入の安定性 高い(固定給) 低い(業績に依存)
審査対象 年収(源泉徴収票) 所得(確定申告3期分)
収入証明書類 源泉徴収票1枚 確定申告書3期分
審査難易度 低い 高い

(出典: はじめての住宅ローン

所得証明の複雑さ(確定申告3期分必要)

会社員は源泉徴収票1枚で年収を証明できますが、個人事業主は**確定申告書3期分(直近3年分)**を提出する必要があります。金融機関は3年分の所得を確認し、安定性を判断します。

所得が審査対象(経費控除後の金額)

個人事業主の審査では、**売上ではなく所得(売上-経費)**が審査対象となります。経費を多く計上して節税すると所得が減り、審査では不利になります。

: 売上1000万円、経費700万円の場合、所得は300万円。この300万円が審査の基準となります。

個人事業主が提出する必要書類

三井住友銀行によると、個人事業主が住宅ローン審査で提出する主な書類は以下の通りです。

確定申告書3期分(青色申告決算書または収支内訳書)

確定申告書3期分(直近3年分)に加えて、以下の書類も必要です。

  • 青色申告決算書(青色申告者の場合)
  • 収支内訳書(白色申告者の場合)

これらの書類で、所得の推移と事業の安定性を証明します。

本人確認書類・納税証明書

  • 本人確認書類: 運転免許証、マイナンバーカード等
  • 納税証明書: 所得税・住民税の納付状況を証明(滞納がないことを確認)

注意: 納税証明書で滞納が確認されると、審査に大きく影響します。税金・保険料は期限内に納付することが重要です。

審査に通りやすくするための5つの対策

個人事業主が住宅ローン審査に通りやすくするための具体的な対策を5つ紹介します。

確定申告3期分で安定収入を証明

金融機関は直近3期分の所得を確認します。所得が増加傾向にあると審査で有利になります。

理想的な所得推移:

  • 1年目: 300万円
  • 2年目: 350万円
  • 3年目: 400万円

所得が減少傾向にある場合は、審査で不利になる可能性があります。

頭金を多めに準備(2-3割)

頭金を多く準備すると、借入額が減り返済負担率(年収に対する年間返済額の割合)が下がるため、審査に有利になります。

: 物件価格3000万円の場合

  • 頭金0円: 借入額3000万円、返済負担率35%
  • 頭金600万円(2割): 借入額2400万円、返済負担率28%

返済負担率が低いほど審査に通りやすくなります。

フラット35を活用(審査基準が緩い)

住宅金融支援機構が提供するフラット35は、個人事業主に向いています。理由は以下の通りです。

  • 直近1年分の所得で審査(民間ローンは3期分必要)
  • 返済負担率の基準が明確(所得400万円未満は30%以下、400万円以上は35%以下)
  • 固定金利で返済計画が立てやすい

ただし、金利は変動金利より高めのため、総返済額を比較して判断してください。

経費と所得のバランスを考える

個人事業主は経費を増やすと所得が減り節税効果がありますが、住宅ローン審査では所得が低いと不利になります。

住宅購入を検討する2-3年前から、過度な経費計上を避け、所得を意識してください。ただし、事業運営に支障をきたすほど経費を削るのは本末転倒です。節税と審査のバランスを取ることが重要です。

事業用と個人用の口座を分離

事業用と個人用の口座を分離すると、資金管理が明確になり信用度が向上します。金融機関は口座の入出金履歴を確認するため、事業収入と個人支出が混在していると不信感を持たれる可能性があります。

フラット35が個人事業主に向いている理由

フラット35は、個人事業主に特に向いている住宅ローンです。以下の3つの理由があります。

直近1年分の所得で審査(民間は3期分)

民間銀行の多くは確定申告3期分(直近3年分)を必要としますが、フラット35は直近1年分の所得で審査されます。開業して間もない個人事業主でも利用しやすいのが特徴です。

返済負担率の基準が明確

住宅金融支援機構の公式情報によると、フラット35の返済負担率の基準は以下の通りです。

所得 返済負担率
400万円未満 30%以下
400万円以上 35%以下

: 所得400万円の場合、年間返済額は140万円(月々約11.7万円)まで。

固定金利で返済計画が立てやすい

フラット35は長期固定金利のため、返済期間中の金利が変わりません。事業収支が変動しやすい個人事業主にとって、返済計画が立てやすいメリットがあります。

注意: 金利は変動金利(0.5%前後)より高め(1.5%前後)のため、総返済額を比較して判断してください。

経費と所得のバランス:節税vs審査のジレンマ

個人事業主にとって、経費計上と住宅ローン審査は相反する関係にあります。

節税効果と審査への影響

経費を多く計上すると所得が減り、所得税・住民税の節税効果があります。しかし、住宅ローン審査では所得が低いと判断され、不利になります。

経費計上の度合い 節税効果 審査への影響
多い(経費700万円) 高い 不利(所得300万円)
適度(経費500万円) 中程度 有利(所得500万円)
少ない(経費300万円) 低い 有利(所得700万円)

(試算条件: 売上1000万円)

自宅兼事務所の場合の注意点

自宅兼事務所の場合、住居費(家賃、住宅ローン利息、減価償却費等)を家事按分(事業用と個人用に按分)できます。

マネーフォワード クラウド確定申告によると、住宅ローン控除への影響は以下の通りです。

事業割合 住宅ローン控除
10%以下 全額控除対象
10%超~50%以下 一部控除対象外(事業割合分)
50%超 控除対象外

推奨: 事業割合を10%以下に抑えることで、住宅ローン控除を全額受けられます。

金融機関選びのポイント:ネット銀行・地方銀行・フラット35

個人事業主が住宅ローンを選ぶ際、金融機関の種類により審査基準が異なります。

ネット銀行(金利低いが審査厳しい)

ネット銀行は金利が低い(0.3-0.5%程度)のが魅力ですが、審査が厳しい傾向にあります。

向いている人: 所得が高く(600万円以上)、3期分の所得が安定している個人事業主

地方銀行(地域密着、柔軟な審査)

地方銀行は地域密着で、取引実績があれば柔軟な審査が期待できます。

向いている人: 地方で事業を営み、地方銀行と取引実績がある個人事業主

フラット35(審査基準明確、固定金利)

フラット35は審査基準が明確で、個人事業主に最も向いている選択肢です。

向いている人: 開業して間もない、所得が安定していない、返済計画を明確にしたい個人事業主

推奨: 複数の金融機関に事前審査を申し込み、比較することをおすすめします。

住宅ローン控除の注意点(個人事業主は毎年確定申告が必要)

住宅ローン控除は、年末時点の住宅ローン残高の0.7%が所得税・住民税から控除される制度です。国税庁によると、個人事業主の場合、以下の点に注意が必要です。

毎年確定申告で申請が必要

会社員は1年目のみ確定申告で申請し、2年目以降は年末調整で自動適用されます。しかし、個人事業主は毎年確定申告で申請が必要です(自動適用されません)。

自宅兼事務所の場合の控除額

自宅兼事務所の場合、事業割合10%以下なら全額控除対象です。10%超は事業割合分が控除対象外になります。

: 住宅ローン残高3000万円、事業割合20%の場合

  • 控除対象額: 3000万円×80%=2400万円
  • 控除額: 2400万円×0.7%=16.8万円

まとめ:個人事業主でも住宅ローンは組める、適切な準備を

個人事業主の住宅ローン審査は会社員より厳しいですが、適切な準備を行えば借入は可能です。確定申告3期分で安定収入を証明し、頭金を2-3割準備すれば審査に有利になります。

フラット35は直近1年分の所得で審査され、民間ローンより審査基準が緩いため個人事業主に向いています。経費を多く計上すると所得が減り審査に不利になるため、節税と審査のバランスを取ることが重要です。

住宅ローン控除は個人事業主の場合、毎年確定申告で申請が必要です。自宅兼事務所の場合、事業割合を10%以下に抑えることで全額控除を受けられます。

複数の金融機関に事前審査を申し込み、比較することをおすすめします。金融機関や住宅ローンアドバイザーに相談しながら、自身の事業計画に合った返済計画を立ててください。

よくある質問

Q1個人事業主は住宅ローンを組めないのですか?

A1組めます。審査は厳しいですが、確定申告3期分で安定収入を証明し、頭金を2-3割準備すれば借入可能です。フラット35は直近1年分の所得で審査され、民間ローンより審査基準が緩く個人事業主に有利です。開業して間もない方でもフラット35なら利用しやすいのが特徴です。複数の金融機関に事前審査を申し込み、比較することをおすすめします。

Q2確定申告で経費を多く計上すると審査に不利ですか?

A2不利になります。経費を増やすと所得が減り、審査で不利です。住宅購入を検討する2-3年前から、過度な経費計上を避け、所得を意識してください。例えば、売上1000万円で経費700万円なら所得300万円、経費500万円なら所得500万円となり、後者の方が審査に有利です。ただし事業運営に支障をきたすほど経費を削るのは本末転倒です。節税と審査のバランスを取ることが重要です。

Q3フラット35と民間ローンはどちらが良いですか?

A3個人事業主にはフラット35が有利です。直近1年分の所得で審査され、審査基準が明確(返済負担率30-35%)です。民間ローンは確定申告3期分が必要で審査が厳しい傾向にあります。ただし金利はフラット35(1.5%前後)が変動金利(0.5%前後)より高めのため、総返済額を比較して判断してください。返済計画を明確にしたい方はフラット35、金利を抑えたい方は民間の変動金利が向いています。

Q4自宅兼事務所の場合、住宅ローン控除は受けられますか?

A4事業割合10%以下なら全額控除対象です。10%超は事業割合分が控除対象外になります。例えば、住宅ローン残高3000万円、事業割合20%の場合、控除対象額は3000万円×80%=2400万円となり、控除額は16.8万円です。家事按分(住居費を事業用と個人用に按分)で事業割合を調整し、10%以下に抑えることで全額控除を受けられます。

Q5個人事業主が住宅ローンで落ちる理由は何ですか?

A5主な理由は①所得が不安定(3期分で増減が大きい)、②所得が低い(経費を多く計上して節税しすぎ)、③頭金不足、④納税証明書で滞納がある、⑤返済負担率が高い(年収に対する年間返済額の割合が30-35%を超える)です。対策として、確定申告3期分で所得を安定させ、頭金を2-3割準備し、税金・保険料を期限内に納付することが重要です。事前審査で金融機関に確認してください。