不動産購入の全体像と流れ
不動産購入は人生で最も大きな買い物の一つです。「何から始めればいいのか」「どのような手続きが必要なのか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、不動産購入の流れ、諸費用の内訳、契約時の注意点を、不動産ジャパン(不動産適正取引推進機構)や国土交通省の公式情報を元に解説します。
初めて不動産を購入する方でも、必要な準備と手続きを正確に把握できるようになります。
この記事のポイント
- 不動産購入は7つのステップ(予算設定→物件探し→内覧→申込→契約→ローン本審査→決済・引渡し)で進む
- 諸費用は物件価格の5-10%が目安(仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、印紙税等)
- 重要事項説明は契約前に必ず理解し、疑問点は宅地建物取引士に質問する
- 住宅ローン特約の有無・条件を確認し、審査落ちの場合に契約解除できるか確認する
- 手付金は物件価格の5-10%が相場で、契約解除時は手付金放棄または倍返しとなる
不動産購入の7つのステップ
不動産購入は以下の7つのステップで進みます。
| ステップ | 内容 | 所要期間 | 
|---|---|---|
| ①予算設定・資金計画 | 物件価格+諸費用の総額を算出 | 1-2週間 | 
| ②物件探し | ポータルサイト・不動産会社で物件を探す | 1-3ヶ月 | 
| ③内覧・現地確認 | 複数物件を比較し、条件に合う物件を絞る | 1-2ヶ月 | 
| ④購入申込・ローン事前審査 | 購入意思を示し、融資可能性を確認 | 1-2週間 | 
| ⑤売買契約 | 重要事項説明を受け、契約書に署名・手付金支払い | 1日 | 
| ⑥ローン本審査・金銭消費貸借契約 | 金融機関が詳細審査し、融資契約を締結 | 2-4週間 | 
| ⑦決済・引渡し | 残金支払い、所有権移転登記、鍵の受け取り | 1日 | 
(出典: 不動産ジャパン)
全体で3-6ヶ月程度かかることが一般的です。
予算設定から内覧まで
予算設定と資金計画(頭金・諸費用)
不動産購入の第一歩は、総額でいくら必要かを把握することです。
必要な資金の内訳
- 物件価格
- 諸費用(物件価格の5-10%)
- 引越費用・家具家電購入費(一般的な相場として引越費用は10-30万円程度、家具家電は50-100万円程度が目安)
頭金の目安
- 物件価格の2-3割が理想
- 頭金なし(フルローン)も可能だが、月々返済額・総利息額が増加し、将来売却時に残債割れのリスクが高まる
物件探しの方法(ポータルサイト・不動産会社)
物件探しは以下の方法で行います。
ポータルサイト
- SUUMO、HOME'S、at home等で物件情報を検索
- 希望エリア・予算・間取り等の条件で絞り込み
不動産会社
- 複数社に相談し、非公開物件の紹介を受ける
- 宅地建物取引士が在籍し、対応が丁寧な業者を選ぶ
相場の確認
国土交通省の不動産取引価格情報で、過去の取引価格(547万件以上のデータ)を確認できます。相場より大幅に高い物件は避けるべきです。
内覧・現地確認のチェックポイント
内覧では以下の点を確認します。
建物の状態
- 雨漏り・シロアリ被害の痕跡
- 設備(給湯器・エアコン等)の動作状況
- 壁・床の傾き、ひび割れ
周辺環境
- 日当たり・騒音・臭い
- 駅・スーパー・学校等の利便性
- 近隣住民の様子
法令制限
- 建築制限(建ぺい率・容積率)
- 用途地域(住宅専用地域か商業地域か)
複数物件を比較し、条件に合う物件を絞り込みます。
購入申込から売買契約まで
購入申込と住宅ローン事前審査
気に入った物件が見つかったら、不動産会社に「購入申込書」を提出します。これは法的拘束力のない意思表示ですが、売主は他の購入希望者との交渉を一時停止します。
同時に、金融機関に住宅ローンの事前審査を申し込みます。
事前審査で見られるポイント
- 年収・勤続年数(3年以上が理想)
- 信用情報(過去の延滞・借入)
- 健康状態(団体信用生命保険加入の可否)
- 物件の担保価値
一般的には事前審査は1-2週間程度で結果が出ますが、金融機関により異なります。
重要事項説明のチェックポイント
売買契約の前に、宅地建物取引士による「重要事項説明」が行われます。これは宅地建物取引業法で義務付けられた手続きで、物件の重要な情報が説明されます。
重要事項説明の内容
- 登記された権利関係(所有者、抵当権の有無)
- 法令制限(建築制限、用途地域)
- インフラ(上下水道、電気、ガス)
- 契約条件(手付金、違約金、引渡し時期)
- 瑕疵担保責任(売主の責任期間・範囲)
重要: 理解できない点は必ず質問し、納得してから契約に進むことが重要です。契約後に「知らなかった」と主張しても、原則として責任を問うことはできません。
売買契約と手付金の支払い
重要事項説明に納得したら、売買契約書に署名・捺印し、手付金を支払います。
手付金の相場
- 物件価格の5-10%
- 例: 3000万円の物件なら150-300万円
手付金の性質
- 契約が成立したことの証拠
- 買主が契約解除する場合: 手付金を放棄(返還されない)
- 売主が契約解除する場合: 手付金の倍額を返還
住宅ローン特約の確認
住宅ローン審査が通らなかった場合に契約を白紙解除できる「住宅ローン特約」の有無・条件を確認することが重要です。
ローン特約がない場合、審査落ちでも手付金を失うリスクがあります。
住宅ローン本審査から決済・引渡しまで
住宅ローン本審査と金銭消費貸借契約
売買契約後、金融機関が住宅ローンの本審査を行います。事前審査より詳細な審査で、以下の書類を提出します。
必要書類
- 源泉徴収票・確定申告書(収入証明)
- 住民票・印鑑証明書
- 売買契約書のコピー
- 物件の登記事項証明書
- 健康診断書(団信加入のため)
一般的には本審査は2-4週間程度で結果が出ますが、金融機関により異なります。審査通過後、金融機関と「金銭消費貸借契約」を締結します。
決済・引渡しの流れ(残金支払い・登記)
金銭消費貸借契約後、決済日(引渡し日)を迎えます。決済日は売主・買主・不動産会社・司法書士・金融機関担当者が集まり、以下の手続きを行います。
決済日の流れ
- 金融機関が買主に融資を実行
- 買主が売主に残金を支払い
- 司法書士が所有権移転登記の手続きを行う
- 売主が買主に鍵を渡す
- 固定資産税・管理費等の清算
所有権移転登記は通常1-2週間で完了し、登記識別情報(権利証)が発行されます。これで不動産購入が完了します。
不動産購入の諸費用と内訳
諸費用は物件価格とは別に必要な費用で、物件価格の5-10%が目安です。
仲介手数料(物件価格×3%+6万円)
不動産会社に支払う報酬で、上限は以下の計算式で決まります。
仲介手数料の上限
- 物件価格 × 3% + 6万円 + 消費税
- 例: 3000万円の物件なら (3000万円 × 3% + 6万円) × 1.1 = 105.6万円
(出典: 宅地建物取引業法)
仲介手数料は成功報酬のため、契約が成立しなければ支払いは不要です。
登録免許税・不動産取得税・印紙税
| 税金 | 課税対象 | 税率・目安額 | 軽減措置 | 
|---|---|---|---|
| 登録免許税 | 所有権移転登記 | 土地: 評価額の1.5% 建物: 評価額の0.3%(住宅用) | 令和9年3月31日まで | 
| 不動産取得税 | 不動産取得 | 評価額の3% | 新築住宅は軽減あり | 
| 印紙税 | 売買契約書 | 1-6万円 | 2027年3月31日まで軽減措置 | 
(出典: 国税庁)
司法書士報酬・火災保険
| 項目 | 内容 | 目安額 | 
|---|---|---|
| 司法書士報酬 | 登記手続きの代行 | 一般的な相場として5-15万円程度(地域・物件により異なる) | 
| 火災保険 | 火災・地震等のリスクに備える | 一般的な相場として20-30万円程度(10年一括払い、地域・物件により異なる) | 
司法書士報酬は自分で登記手続きを行えば節約できますが、専門知識が必要で時間もかかるため、司法書士に依頼するのが一般的です。
不動産購入の注意点とよくあるトラブル
重要事項説明の理解不足によるトラブル
不動産ジャパンのトラブル事例集によると、年間1万件超の相談のうち多くが「重要事項説明を十分に理解せず契約した」ことに起因します。
よくあるトラブル
- 購入後に境界が未確定だと判明し、隣地所有者とトラブル
- 用途制限(建築制限)を理解せず、建て替え・増築ができない
- インフラ(上下水道)の引き込み費用が別途必要だと後で判明
契約前に疑問点を全て解消し、不明な点は宅地建物取引士に質問することが重要です。
隠れた瑕疵(雨漏り・シロアリ)
中古物件では、購入後に雨漏り・シロアリ被害・設備故障等が判明するケースがあります。
対策
- ホームインスペクション(住宅診断)を事前に実施し、隠れた瑕疵をチェック
- 売買契約書で瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間・範囲を確認
- 売主が瑕疵担保責任を負わない契約の場合、買主が全額負担するリスクがある
契約解除条項の確認
売買契約書には契約解除の条件が記載されています。
契約解除のパターン
- 手付金放棄(買主が解除)
- 手付金の倍返し(売主が解除)
- 違約金(手付金を超える損害がある場合)
クーリングオフ制度
事業者の事務所以外(喫茶店、自宅等)で契約した場合、8日以内なら無条件で契約解除できる「クーリングオフ制度」が適用される場合があります。
ただし、事務所(不動産会社の店舗)で契約した場合は適用されません。
まとめ|不動産購入を成功させるために
不動産購入は7つのステップ(予算設定→物件探し→内覧→申込→契約→ローン本審査→決済・引渡し)で進みます。諸費用は物件価格の5-10%が目安で、仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、印紙税、司法書士報酬、火災保険等が含まれます。
契約前の重要事項説明は必ず理解し、疑問点は宅地建物取引士に質問することが重要です。住宅ローン特約の有無・条件を確認し、審査落ちの場合に契約解除できるか確認しましょう。
中古物件では隠れた瑕疵(雨漏り・シロアリ)に注意し、ホームインスペクション(住宅診断)を検討することをおすすめします。
次のアクション
- 総額(物件価格+諸費用)を算出し、資金計画を立てる
- 複数の不動産会社に相談し、対応の丁寧さ・専門知識を比較
- 複数物件を内覧し、条件に合う物件を絞る
- 重要事項説明を十分に理解し、納得してから契約に進む
トラブル時は不動産適正取引推進機構や国民生活センターに相談しましょう。信頼できる不動産会社・金融機関・司法書士と協力しながら、無理のない購入計画を進めることが成功の鍵です。
