自営業が住宅ローンを組む際の課題
自営業やフリーランスの方が住宅購入を検討する際、「住宅ローンの審査に通るのか」と不安を感じることは少なくありません。会社員と比べて収入の変動が大きく、審査基準も厳しいと言われています。
この記事では、自営業が住宅ローンを組みやすい金融機関の特徴、審査に通りやすくなる方法、必要書類や注意点を、国土交通省や金融機関の公式情報を元に解説します。
自営業でも住宅ローンを組める可能性を高める具体的な方法を身につけることができます。
この記事のポイント
- 自営業の住宅ローン審査では、3期連続黒字・確定申告書3期分が一般的な基準となる
- フラット35は団信任意・勤続年数不問で自営業に対して最も柔軟な審査基準を持つ
- 地方銀行・信用金庫・ネット銀行は、メガバンクより柔軟な審査を行う傾向にある
- 頭金を多めに用意する、配偶者との連帯債務で世帯年収を合算するなどの対策が有効
- 事業年数が3年未満、赤字決算、大幅な所得変動がある場合は審査通過が難しくなる
自営業の住宅ローン審査基準
自営業の住宅ローン審査は、会社員と比べて収入の安定性が重視されます。
一般的な審査基準
金融機関が自営業に求める一般的な審査基準は以下の通りです。
| 項目 | 基準 | 理由 |
|---|---|---|
| 事業年数 | 3年以上 | 事業の継続性を確認 |
| 所得状況 | 3期連続黒字 | 安定した収入を確認 |
| 提出書類 | 確定申告書3期分 | 所得の推移を確認 |
| 所得の安定性 | 大幅な変動なし | 返済能力を確認 |
(参考: 国土交通省 令和6年度 民間住宅ローンの実態に関する調査)
国土交通省の調査によると、金融機関が審査で重視する項目は「完済時年齢」(99.1%)、「健康状態」(98.2%)、「担保評価」(97.7%)に次いで、「勤続年数」(95.3%)、「年収」(95.0%)が続きます。自営業の場合、「勤続年数」は「事業年数」に読み替えられ、3年以上が目安とされています。
会社員との違い
自営業と会社員の審査基準の違いを整理します。
| 項目 | 会社員 | 自営業 |
|---|---|---|
| 収入証明 | 源泉徴収票 | 確定申告書3期分 |
| 勤続年数 | 1年以上が目安 | 事業年数3年以上が目安 |
| 所得の計算 | 額面年収 | 課税所得(経費控除後) |
| 審査の厳しさ | 標準 | 厳しい傾向 |
自営業の場合、経費を多く計上すると課税所得が減り、住宅ローンの借入可能額が少なくなります。そのため、住宅ローンを検討する際は、経費計上と課税所得のバランスを考慮する必要があります。
自営業が通りやすい銀行の特徴
自営業が住宅ローンを組みやすい金融機関には、共通する特徴があります。
フラット35が最も柔軟
フラット35は、住宅金融支援機構が提供する長期固定金利住宅ローンで、自営業に対して最も柔軟な審査基準を持っています。
フラット35の特徴:
- 団信加入が任意: 健康上の理由で団信に入れなくても借りられる
- 勤続年数不問: 事業年数の条件が緩やか
- 所得の計算: 課税所得を基準とするが、他の金融機関より柔軟
- 固定金利: 金利変動のリスクがない
(参考: フラット35)
フラット35は、民間金融機関で断られた自営業者の受け皿としての役割を果たしており、事業年数が短い場合や所得が不安定な場合でも審査に通る可能性があります。
地方銀行・信用金庫
地方銀行や信用金庫は、地域密着型の営業を行っており、メガバンクより柔軟な審査を行う傾向にあります。
地方銀行・信用金庫の特徴:
- 地元の自営業者に対して理解がある
- 事業の実態を個別に判断する傾向
- 預金取引や事業取引の実績があると有利
- 金利はメガバンクより若干高い場合がある
地方銀行や信用金庫は、顧客との長期的な関係を重視するため、事業の実態や地域での評判を考慮して審査を行うことがあります。
ネット銀行
ネット銀行は、審査基準が比較的柔軟で、手続きがオンラインで完結するため便利です。
ネット銀行の特徴:
- 審査基準が比較的柔軟
- 金利が低い傾向
- 手続きがオンラインで完結
- 事前審査が早い(数日程度)
ネット銀行は、店舗運営コストがかからないため、金利を低く設定できる場合があります。ただし、対面での相談ができないため、書類の準備や手続きは自分で行う必要があります。
審査に通りやすくなる方法
自営業が住宅ローンの審査に通りやすくなる方法を具体的に解説します。
確定申告書で安定した所得を示す
住宅ローンの審査では、確定申告書3期分の提出が求められます。
審査で評価されるポイント:
- 3期連続黒字: 安定した収入があることを示す
- 所得の推移: 年々増加、または安定している
- 大幅な変動がない: 前年比で±30%以内が目安
注意点:
- 経費を多く計上すると課税所得が減り、借入可能額が少なくなる
- 住宅ローンを検討する場合は、経費計上と課税所得のバランスを考慮する
- 青色申告の場合、青色申告特別控除(最大65万円)を活用すると節税できるが、課税所得は減る
確定申告書は、自営業の収入証明として最も重要な書類です。住宅ローンを検討する数年前から、課税所得を意識した申告を行うことが推奨されます。
頭金を多めに用意する
頭金を多めに用意することで、借入額を減らし、返済負担率を下げることができます。
頭金の効果:
- 返済負担率が下がる: 年収に対する返済額の割合が減る
- 金融機関からの評価が高まる: 自己資金があることで返済能力を示せる
- 金利が優遇される場合がある: 頭金20%以上で金利優遇を受けられる金融機関もある
例:
- 物件価格: 4,000万円
- 頭金なし: 借入額4,000万円 → 返済負担率35%(年収500万円の場合)
- 頭金800万円: 借入額3,200万円 → 返済負担率28%
返済負担率が手取り年収の25%以内に収まれば、審査に通りやすくなります。
配偶者との連帯債務
配偶者や親族と連帯債務契約を結ぶことで、世帯年収を合算して審査を受けることができます。
連帯債務のメリット:
- 世帯年収を合算できるため、借入可能額が増える
- 返済負担率が下がる
- 住宅ローン控除を夫婦それぞれで受けられる
連帯債務と連帯保証の違い:
- 連帯債務: 夫婦がそれぞれ債務者となり、両方の年収を合算できる
- 連帯保証: 主債務者が返済できない場合に保証人が返済義務を負う
配偶者が会社員の場合、安定した収入として評価されるため、審査に通りやすくなります。
事業の継続性を示す資料を準備
確定申告書以外に、事業の継続性を示す資料を準備することで、審査に有利になる場合があります。
有効な資料:
- 取引先との契約書: 継続的な取引があることを示す
- 事業計画書: 今後の事業見通しを示す
- 預金通帳: 事業用口座の取引履歴
- 納税証明書: 税金を滞納していないことを示す
これらの資料は必須ではありませんが、金融機関によっては追加で提出を求められる場合があります。
自営業が避けるべきケース
以下のようなケースでは、住宅ローンの審査に通りにくくなります。
事業年数が3年未満
事業を始めたばかりで確定申告が2期分しかない場合、多くの金融機関では審査に通りにくくなります。
対処法:
- 3期分の確定申告が揃うまで待つ
- フラット35など、事業年数の条件が緩やか な金融機関を検討する
- 配偶者が会社員の場合、配偶者名義で借りることも検討
赤字決算がある
直近3期のうち1期でも赤字決算がある場合、審査に通りにくくなります。
対処法:
- 赤字を解消してから申し込む
- 赤字の理由が一時的なもの(設備投資等)であることを説明する資料を準備
- フラット35など、審査基準が柔軟な金融機関を検討
大幅な所得変動
年によって所得が大きく変動している場合(前年比±30%以上)、収入の安定性が疑われます。
対処法:
- 所得が安定してから申し込む
- 変動の理由を説明する資料を準備(特定の大口案件等)
- 複数年の平均所得で判断してもらえる金融機関を検討
経費を計上しすぎている
経費を多く計上すると課税所得が減り、借入可能額が少なくなります。
対処法:
- 住宅ローンを検討する年は、経費計上を抑えて課税所得を増やす
- 数年前から計画的に課税所得を調整する
必要書類と審査の流れ
自営業が住宅ローンを申し込む際の必要書類と審査の流れを解説します。
必要書類
自営業が住宅ローンを申し込む際、以下の書類が必要です。
必須書類:
- 確定申告書3期分: 税務署の受領印があるもの
- 納税証明書: 税金を滞納していないことを証明
- 本人確認書類: 運転免許証、パスポート等
- 物件資料: 売買契約書、重要事項説明書等
追加で求められる場合がある書類:
- 事業の許認可証: 建設業許可証、宅建業免許等
- 取引先との契約書: 継続的な取引を証明
- 預金通帳のコピー: 事業用口座の取引履歴
確定申告書は、税務署の受領印があるものが必須です。e-Taxで申告した場合は、受信通知(メール詳細)を印刷して添付します。
審査の流れ
住宅ローンの審査は、以下の流れで進みます。
- 事前審査: 金融機関に申し込み、仮審査を受ける(1週間〜2週間)
- 本審査: 事前審査通過後、正式に本審査を申し込む(2週間〜1ヶ月)
- 契約: 本審査通過後、金銭消費貸借契約を締結
- 融資実行: 物件引渡し時に融資が実行される
事前審査では、確定申告書や納税証明書を提出し、借入可能額の目安を確認します。本審査では、物件の担保評価や団信の健康告知が行われます。
まとめ
自営業が住宅ローンを組む際は、3期連続黒字・確定申告書3期分が一般的な基準となります。フラット35は団信任意・勤続年数不問で自営業に対して最も柔軟な審査基準を持ち、地方銀行・信用金庫・ネット銀行もメガバンクより柔軟な審査を行う傾向にあります。
審査に通りやすくなる方法として、確定申告書で安定した所得を示す、頭金を多めに用意する、配偶者との連帯債務で世帯年収を合算するなどの対策が有効です。事業年数が3年未満、赤字決算、大幅な所得変動がある場合は審査通過が難しくなるため、事前に対策を講じることが重要です。
次のアクションとして、①まず自分の確定申告書3期分を確認し、所得の推移を把握する、②複数の金融機関(フラット35、地方銀行、ネット銀行等)に事前審査を申し込む、③審査結果を比較して有利な金融機関を選ぶことを推奨します。信頼できるファイナンシャルプランナーや住宅ローンアドバイザーに相談しながら、無理のない資金計画を立てましょう。
