個人間の不動産売買とは?法的な位置づけを理解する
親族や知人から不動産を購入する際、「不動産会社を通さずに直接取引できないか」と考える方は少なくありません。仲介手数料を節約できる一方で、トラブルのリスクも高まります。
この記事では、個人間の不動産売買が法的に可能であること、手続きの流れ、メリット・デメリット、注意点を、法務省や国税庁の公式情報を元に解説します。
個人間取引を安全に進めるための知識を身につけ、適切な判断ができるようになります。
この記事のポイント
- 個人間の不動産売買は法的に可能で、宅建業法は業者のみに適用される
- 仲介手数料(3,000万円の物件で約105万円)を節約できるメリットがある
- 住宅ローンが組みにくい、専門知識が必要、トラブルリスクが高いデメリットがある
- 親族間取引で時価より著しく低い価格で売買すると、みなし贈与課税の対象となる
- 司法書士・税理士への相談費用は惜しまず、契約書作成と登記手続きは専門家に依頼すべき
個人間取引の法的位置づけ
個人間の不動産売買は、法的に問題ありません。宅地建物取引業法(宅建業法)の規制は、「業として(反復継続して)不動産取引を行う場合」に適用されるため、個人の1回限りの取引は適用外です。
民法上、売買契約は当事者の合意のみで成立します。不動産会社の仲介は法律上必須ではありません。
ただし、個人間取引には専門知識が必要で、トラブルのリスクも高まります。どんな人に向いているかを理解した上で判断しましょう。
個人間取引が向いているケース:
- 親族間・知人間で信頼関係がある
- 現金購入(住宅ローンを利用しない)
- 不動産の専門知識がある、または専門家に相談できる
個人間取引が向いていないケース:
- 住宅ローンを利用する(重要事項説明書が必要)
- 不動産の知識が全くない
- トラブル時のリスクを許容できない
個人間取引のメリット・デメリット
個人間取引のメリット・デメリットを理解し、総合的に判断しましょう。
メリット:仲介手数料の節約と取引条件の自由度
仲介手数料の節約:
仲介手数料は法律で上限が定められており、一般的には以下の計算式で算出されます。
- 売買価格が400万円超の場合:
(売買価格 × 3% + 6万円)× 1.1(消費税)
節約額の例:
- 3,000万円の物件:約105万円
- 5,000万円の物件:約171万円
個人間取引では、この仲介手数料が不要になります。
取引条件の自由度:
不動産会社を介さないため、以下の点で柔軟な取引が可能です。
- 引き渡し日を自由に設定
- 残置物の処理を相談して決定
- 契約不適合責任の範囲を当事者間で合意
デメリット:トラブルリスクと住宅ローン承認の困難さ
住宅ローンが組めない:
住宅ローンを利用する場合、金融機関は「重要事項説明書」の提出を求めます。重要事項説明書は宅建士しか作成できないため、個人間取引では実質的に住宅ローンが組めません。
一部の金融機関では対応可能な場合もありますが、審査が厳しく金利も高い傾向があります。
専門知識が必要:
不動産取引には以下の専門知識が必要です。
- 契約書の作成(契約不適合責任の範囲、特約等)
- 登記手続き(所有権移転登記、抵当権抹消登記等)
- 税務処理(譲渡所得税、不動産取得税等)
専門家への相談費用(司法書士5~10万円、税理士3~5万円)が発生するため、仲介手数料の節約額が相殺される可能性があります。
トラブルリスクが高い:
個人間取引でよくあるトラブル:
- 物件に欠陥が見つかった(契約不適合責任)
- 価格トラブル(適正価格が不明)
- 住宅ローンが組めず契約が白紙撤回
不動産会社が仲介する場合、トラブル発生時に仲裁・相談が可能ですが、個人間取引では自己責任となります。
結局、個人間取引は得なのか?
個人間取引が「得」かどうかは、状況によって異なります。
総合判断の目安:
| 項目 | 仲介あり | 個人間取引 |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 約105万円(3,000万円物件) | 0円 |
| 専門家費用 | 不要(仲介業者が手配) | 司法書士5~10万円、税理士3~5万円 |
| 住宅ローン | 利用可能 | 困難 |
| トラブル対応 | 仲介業者が対応 | 自己責任 |
結論:
- 現金購入で専門知識がある場合:個人間取引でも問題ない
- 住宅ローンを利用する場合:仲介業者の利用を推奨
- 不動産の知識が全くない場合:仲介業者の利用を推奨
個人間取引の流れ:7ステップで理解する
個人間取引の全体像を7ステップで整理します。
ステップ1:売買条件の合意
まず、売主と買主が以下の条件を合意します。
- 売買価格
- 引き渡し日
- 手付金の金額・支払時期
- 残金決済の時期
- 契約不適合責任の範囲
口頭での合意だけでなく、メモや覚書を作成しておくと安心です。
ステップ2:売買契約書の作成
売買契約書は、取引の根幹となる重要な書類です。司法書士や弁護士に作成を依頼することを強く推奨します。
契約書に記載すべき事項:
- 物件の表示(所在、地番、地積等)
- 売買代金
- 手付金の額
- 残金決済の期日
- 引き渡し時期
- 契約不適合責任の範囲・期間
- 公租公課の負担
- 特約事項
無料のテンプレートは個別事情に対応していないため、専門家への依頼が安全です。
ステップ3:手付金の授受
契約締結時に、買主が売主に手付金を支払います。手付金は売買代金の5~10%が一般的です。
手付金の受領書を作成し、双方で保管しましょう。
ステップ4:残金決済
残金決済時に、以下の手続きを行います。
- 買主が売主に残金を支払う
- 売主が買主に物件の鍵・関係書類を引き渡す
- 固定資産税・都市計画税の精算
金融機関で決済を行うと、安全性が高まります。
ステップ5:所有権移転登記
残金決済後、速やかに所有権移転登記を行います。登記手続きは司法書士に依頼することが一般的です。
法務省の公式サイトで手続きの詳細を確認できます。
登記に必要な費用:
- 登録免許税(固定資産税評価額の約2%、軽減措置適用時0.3%)
- 司法書士報酬(5~10万円)
ステップ6:税務申告
売主・買主それぞれが税務申告を行います。
売主の税務処理:
- 譲渡所得税の申告(確定申告)
買主の税務処理:
- 不動産取得税の納付
- 固定資産税の納付
ステップ7:引き渡し
最終的に物件の引き渡しを行います。残置物の処理、鍵の引き渡し、設備の動作確認等を行いましょう。
個人間取引の費用:何にいくらかかるのか
個人間取引で発生する費用を整理します。
必須費用:登録免許税、印紙税、司法書士報酬
登録免許税:
- 所有権移転登記:固定資産税評価額の2%
- 軽減措置適用時:0.3%(2027年3月31日まで、住宅用家屋)
印紙税:
- 売買契約書に貼付する印紙代
- 軽減措置適用時:1,000万円超5,000万円以下で1万円(2027年3月31日まで)
(出典: 国税庁)
司法書士報酬:
- 所有権移転登記:5~10万円
- 抵当権抹消登記:1~3万円
節約できる費用:仲介手数料
仲介手数料(3,000万円の物件で約105万円)が不要になります。
追加費用:契約書作成費用、税理士報酬
契約書作成費用:
- 司法書士・弁護士への依頼:3~5万円
税理士報酬:
- 譲渡所得税の申告:3~5万円
親族間取引の注意点:みなし贈与課税のリスク
親族間取引では、税務上の特別なリスクがあります。
時価より著しく低い価格での取引は要注意
親族間取引で時価(市場価格)より著しく低い価格で取引した場合、時価との差額が「贈与」とみなされ、贈与税が課される可能性があります。
国税庁によると、「著しく低い価額」に明確な基準はありませんが、一般的には時価の70~80%以下が該当すると考えられています。
みなし贈与課税の具体例
例:
- 時価:3,000万円
- 売買価格:1,000万円
- 差額:2,000万円
差額2,000万円に対して贈与税が課されます。
贈与税の計算(一般贈与の場合):
- 基礎控除:110万円
- 課税対象:1,890万円
- 贈与税:約585万円(税率30%、控除90万円)
適正価格での取引を推奨する理由
適正価格(時価)での取引を行うことで、みなし贈与課税のリスクを回避できます。
適正価格の確認方法:
- 不動産鑑定士の査定を取得
- 複数の不動産会社に査定を依頼
- 固定資産税評価額の1.2~1.4倍を目安にする
売主側も、時価より著しく低い価格での売買は、譲渡所得税の計算で不利になる可能性があります(国税庁)。
個人間取引のトラブル事例と対策
実際のトラブル事例を知り、対策を講じましょう。
契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)のトラブル
事例:
- 引き渡し後、雨漏りが発覚
- 契約書に契約不適合責任の免責特約があり、売主は責任を負わない
- 買主が修理費用を全額負担
対策:
- 契約不適合責任の免責特約を安易に設定しない
- 一定期間(例:引き渡しから3ヶ月)は売主が責任を負う条項を設定
- 専門家(建築士等)によるインスペクション(建物状況調査)を実施
価格トラブル・支払いトラブル
事例:
- 残金決済時に買主が支払いを拒否
- 契約書に違約金条項がなく、法的対応が困難
対策:
- 契約書に違約金条項を設定
- 手付金を設定し、契約の拘束力を高める
- 金融機関で決済を行い、第三者の立ち会いを確保
住宅ローン不承認によるトラブル
事例:
- 買主が住宅ローンを申し込むが、重要事項説明書がなく審査が通らない
- 契約が白紙撤回され、手付金の扱いでトラブル
対策:
- 住宅ローンを利用する場合は、事前に金融機関に個人間取引が可能か確認
- 住宅ローン特約(ローンが組めなかった場合の白紙撤回条項)を契約書に明記
- 買主が現金購入できる場合のみ個人間取引を検討
まとめ:個人間取引を安全に進めるために
個人間の不動産売買は法的に可能ですが、専門知識とリスク管理が必須です。
仲介手数料を節約できるメリットはありますが、司法書士・税理士への相談費用は惜しまないことをおすすめします。住宅ローンを利用する場合は、実質的に不可能なため、仲介業者の利用を推奨します。
親族間取引では、時価(市場価格)での取引を行い、みなし贈与課税のリスクを回避しましょう。
次のアクション:
- 司法書士・税理士への相談
- 不動産鑑定士による適正価格の査定
- 金融機関への事前相談(住宅ローンを利用する場合)
不安な場合は、信頼できる専門家に相談しながら、安全に取引を進めましょう。
