個人間の不動産売買は可能?手続き・リスク・費用を解説

公開日: 2025/11/1

個人間の不動産売買とは?法的な位置づけを理解する

親族や知人から不動産を購入する際、「不動産会社を通さずに直接取引できないか」と考える方は少なくありません。仲介手数料を節約できる一方で、トラブルのリスクも高まります。

この記事では、個人間の不動産売買が法的に可能であること、手続きの流れ、メリット・デメリット、注意点を、法務省国税庁の公式情報を元に解説します。

個人間取引を安全に進めるための知識を身につけ、適切な判断ができるようになります。

この記事のポイント

  • 個人間の不動産売買は法的に可能で、宅建業法は業者のみに適用される
  • 仲介手数料(3,000万円の物件で約105万円)を節約できるメリットがある
  • 住宅ローンが組みにくい、専門知識が必要、トラブルリスクが高いデメリットがある
  • 親族間取引で時価より著しく低い価格で売買すると、みなし贈与課税の対象となる
  • 司法書士・税理士への相談費用は惜しまず、契約書作成と登記手続きは専門家に依頼すべき

個人間取引の法的位置づけ

個人間の不動産売買は、法的に問題ありません。宅地建物取引業法(宅建業法)の規制は、「業として(反復継続して)不動産取引を行う場合」に適用されるため、個人の1回限りの取引は適用外です。

民法上、売買契約は当事者の合意のみで成立します。不動産会社の仲介は法律上必須ではありません。

ただし、個人間取引には専門知識が必要で、トラブルのリスクも高まります。どんな人に向いているかを理解した上で判断しましょう。

個人間取引が向いているケース

  • 親族間・知人間で信頼関係がある
  • 現金購入(住宅ローンを利用しない)
  • 不動産の専門知識がある、または専門家に相談できる

個人間取引が向いていないケース

  • 住宅ローンを利用する(重要事項説明書が必要)
  • 不動産の知識が全くない
  • トラブル時のリスクを許容できない

個人間取引のメリット・デメリット

個人間取引のメリット・デメリットを理解し、総合的に判断しましょう。

メリット:仲介手数料の節約と取引条件の自由度

仲介手数料の節約

仲介手数料は法律で上限が定められており、一般的には以下の計算式で算出されます。

  • 売買価格が400万円超の場合:(売買価格 × 3% + 6万円)× 1.1(消費税)

節約額の例

  • 3,000万円の物件:約105万円
  • 5,000万円の物件:約171万円

個人間取引では、この仲介手数料が不要になります。

取引条件の自由度

不動産会社を介さないため、以下の点で柔軟な取引が可能です。

  • 引き渡し日を自由に設定
  • 残置物の処理を相談して決定
  • 契約不適合責任の範囲を当事者間で合意

デメリット:トラブルリスクと住宅ローン承認の困難さ

住宅ローンが組めない

住宅ローンを利用する場合、金融機関は「重要事項説明書」の提出を求めます。重要事項説明書は宅建士しか作成できないため、個人間取引では実質的に住宅ローンが組めません。

一部の金融機関では対応可能な場合もありますが、審査が厳しく金利も高い傾向があります。

専門知識が必要

不動産取引には以下の専門知識が必要です。

  • 契約書の作成(契約不適合責任の範囲、特約等)
  • 登記手続き(所有権移転登記、抵当権抹消登記等)
  • 税務処理(譲渡所得税、不動産取得税等)

専門家への相談費用(司法書士5~10万円、税理士3~5万円)が発生するため、仲介手数料の節約額が相殺される可能性があります。

トラブルリスクが高い

個人間取引でよくあるトラブル:

  • 物件に欠陥が見つかった(契約不適合責任)
  • 価格トラブル(適正価格が不明)
  • 住宅ローンが組めず契約が白紙撤回

不動産会社が仲介する場合、トラブル発生時に仲裁・相談が可能ですが、個人間取引では自己責任となります。

結局、個人間取引は得なのか?

個人間取引が「得」かどうかは、状況によって異なります。

総合判断の目安

項目 仲介あり 個人間取引
仲介手数料 約105万円(3,000万円物件) 0円
専門家費用 不要(仲介業者が手配) 司法書士5~10万円、税理士3~5万円
住宅ローン 利用可能 困難
トラブル対応 仲介業者が対応 自己責任

結論

  • 現金購入で専門知識がある場合:個人間取引でも問題ない
  • 住宅ローンを利用する場合:仲介業者の利用を推奨
  • 不動産の知識が全くない場合:仲介業者の利用を推奨

個人間取引の流れ:7ステップで理解する

個人間取引の全体像を7ステップで整理します。

ステップ1:売買条件の合意

まず、売主と買主が以下の条件を合意します。

  • 売買価格
  • 引き渡し日
  • 手付金の金額・支払時期
  • 残金決済の時期
  • 契約不適合責任の範囲

口頭での合意だけでなく、メモや覚書を作成しておくと安心です。

ステップ2:売買契約書の作成

売買契約書は、取引の根幹となる重要な書類です。司法書士や弁護士に作成を依頼することを強く推奨します。

契約書に記載すべき事項

  • 物件の表示(所在、地番、地積等)
  • 売買代金
  • 手付金の額
  • 残金決済の期日
  • 引き渡し時期
  • 契約不適合責任の範囲・期間
  • 公租公課の負担
  • 特約事項

無料のテンプレートは個別事情に対応していないため、専門家への依頼が安全です。

ステップ3:手付金の授受

契約締結時に、買主が売主に手付金を支払います。手付金は売買代金の5~10%が一般的です。

手付金の受領書を作成し、双方で保管しましょう。

ステップ4:残金決済

残金決済時に、以下の手続きを行います。

  1. 買主が売主に残金を支払う
  2. 売主が買主に物件の鍵・関係書類を引き渡す
  3. 固定資産税・都市計画税の精算

金融機関で決済を行うと、安全性が高まります。

ステップ5:所有権移転登記

残金決済後、速やかに所有権移転登記を行います。登記手続きは司法書士に依頼することが一般的です。

法務省の公式サイトで手続きの詳細を確認できます。

登記に必要な費用

  • 登録免許税(固定資産税評価額の約2%、軽減措置適用時0.3%)
  • 司法書士報酬(5~10万円)

ステップ6:税務申告

売主・買主それぞれが税務申告を行います。

売主の税務処理

  • 譲渡所得税の申告(確定申告)

買主の税務処理

  • 不動産取得税の納付
  • 固定資産税の納付

ステップ7:引き渡し

最終的に物件の引き渡しを行います。残置物の処理、鍵の引き渡し、設備の動作確認等を行いましょう。

個人間取引の費用:何にいくらかかるのか

個人間取引で発生する費用を整理します。

必須費用:登録免許税、印紙税、司法書士報酬

登録免許税

  • 所有権移転登記:固定資産税評価額の2%
  • 軽減措置適用時:0.3%(2027年3月31日まで、住宅用家屋)

印紙税

  • 売買契約書に貼付する印紙代
  • 軽減措置適用時:1,000万円超5,000万円以下で1万円(2027年3月31日まで)

(出典: 国税庁

司法書士報酬

  • 所有権移転登記:5~10万円
  • 抵当権抹消登記:1~3万円

節約できる費用:仲介手数料

仲介手数料(3,000万円の物件で約105万円)が不要になります。

追加費用:契約書作成費用、税理士報酬

契約書作成費用

  • 司法書士・弁護士への依頼:3~5万円

税理士報酬

  • 譲渡所得税の申告:3~5万円

親族間取引の注意点:みなし贈与課税のリスク

親族間取引では、税務上の特別なリスクがあります。

時価より著しく低い価格での取引は要注意

親族間取引で時価(市場価格)より著しく低い価格で取引した場合、時価との差額が「贈与」とみなされ、贈与税が課される可能性があります。

国税庁によると、「著しく低い価額」に明確な基準はありませんが、一般的には時価の70~80%以下が該当すると考えられています。

みなし贈与課税の具体例

  • 時価:3,000万円
  • 売買価格:1,000万円
  • 差額:2,000万円

差額2,000万円に対して贈与税が課されます。

贈与税の計算(一般贈与の場合):

  • 基礎控除:110万円
  • 課税対象:1,890万円
  • 贈与税:約585万円(税率30%、控除90万円)

適正価格での取引を推奨する理由

適正価格(時価)での取引を行うことで、みなし贈与課税のリスクを回避できます。

適正価格の確認方法

  • 不動産鑑定士の査定を取得
  • 複数の不動産会社に査定を依頼
  • 固定資産税評価額の1.2~1.4倍を目安にする

売主側も、時価より著しく低い価格での売買は、譲渡所得税の計算で不利になる可能性があります(国税庁)。

個人間取引のトラブル事例と対策

実際のトラブル事例を知り、対策を講じましょう。

契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)のトラブル

事例

  • 引き渡し後、雨漏りが発覚
  • 契約書に契約不適合責任の免責特約があり、売主は責任を負わない
  • 買主が修理費用を全額負担

対策

  • 契約不適合責任の免責特約を安易に設定しない
  • 一定期間(例:引き渡しから3ヶ月)は売主が責任を負う条項を設定
  • 専門家(建築士等)によるインスペクション(建物状況調査)を実施

価格トラブル・支払いトラブル

事例

  • 残金決済時に買主が支払いを拒否
  • 契約書に違約金条項がなく、法的対応が困難

対策

  • 契約書に違約金条項を設定
  • 手付金を設定し、契約の拘束力を高める
  • 金融機関で決済を行い、第三者の立ち会いを確保

住宅ローン不承認によるトラブル

事例

  • 買主が住宅ローンを申し込むが、重要事項説明書がなく審査が通らない
  • 契約が白紙撤回され、手付金の扱いでトラブル

対策

  • 住宅ローンを利用する場合は、事前に金融機関に個人間取引が可能か確認
  • 住宅ローン特約(ローンが組めなかった場合の白紙撤回条項)を契約書に明記
  • 買主が現金購入できる場合のみ個人間取引を検討

まとめ:個人間取引を安全に進めるために

個人間の不動産売買は法的に可能ですが、専門知識とリスク管理が必須です。

仲介手数料を節約できるメリットはありますが、司法書士・税理士への相談費用は惜しまないことをおすすめします。住宅ローンを利用する場合は、実質的に不可能なため、仲介業者の利用を推奨します。

親族間取引では、時価(市場価格)での取引を行い、みなし贈与課税のリスクを回避しましょう。

次のアクション:

  • 司法書士・税理士への相談
  • 不動産鑑定士による適正価格の査定
  • 金融機関への事前相談(住宅ローンを利用する場合)

不安な場合は、信頼できる専門家に相談しながら、安全に取引を進めましょう。

よくある質問

Q1個人間取引で住宅ローンは組めますか?

A1非常に困難です。住宅ローンには重要事項説明書が必須ですが、これは宅建士しか作成できません。一部の金融機関では対応可能ですが、審査が厳しく金利も高い傾向があります。住宅ローン利用を希望する場合は仲介業者の利用を推奨します。

Q2契約書のテンプレートをダウンロードすれば大丈夫ですか?

A2不十分です。無料テンプレートは個別事情(物件の特性、取引条件、契約不適合責任の範囲等)に対応していません。契約書の不備はトラブルの原因となるため、司法書士や弁護士への相談を強く推奨します。

Q3親族間で相続税評価額で売買すれば安全ですか?

A3危険です。時価より著しく低い価格での取引は、差額がみなし贈与として贈与税の対象になります。相続税評価額は通常、時価の70~80%程度のため、時価(市場価格)での取引を推奨します。不動産鑑定士の査定を取得するのが安全です。

Q4契約不適合責任を全て免除する特約は有効ですか?

A4有効ですが慎重に検討すべきです。売主は責任を逃れられますが、買主は物件に欠陥があっても保護されません。親族間取引で信頼関係がある場合でも、一定期間(例:引き渡しから3ヶ月)は売主が責任を負う条項を設定するのが公平です。