不動産の生前贈与で名義変更する方法:手続きと税金を解説

公開日: 2025/11/6

不動産の生前贈与で名義変更する方法とは:手続きの全体像

親から子へ不動産を生前に譲り渡したいと考える際、「どのような手続きが必要なのか」「税金はどれくらいかかるのか」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、不動産の生前贈与による名義変更の手続き、暦年贈与と相続時精算課税の違い、税金の計算方法を国税庁法務局の公式情報を元に解説します。

生前贈与の仕組みを正しく理解し、相続との比較を含めて適切に判断できるようになります。

この記事のポイント

  • 生前贈与は早期財産移転のメリットがあるが、相続より税負担が重いケースが多い
  • 暦年贈与(年110万円非課税)と相続時精算課税(累計2500万円非課税)の2つの方法がある
  • 2024年改正で相続時精算課税に年110万円基礎控除が追加、暦年贈与の加算期間は7年に延長
  • 名義変更には贈与契約書作成→登記申請の手続きが必要
  • 登録免許税2%・不動産取得税3-4%が課され、相続(登録免許税0.4%・不動産取得税なし)より税負担が重い

生前贈与の2つの方法:暦年贈与と相続時精算課税の違い

生前贈与には、暦年贈与相続時精算課税の2つの方法があります。それぞれ非課税枠・税率・手続きが異なります。

暦年贈与(年110万円まで非課税、7年加算ルール)

暦年贈与は、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与のうち、年間110万円までが非課税となる制度です。

2024年改正の影響:

  • 従来: 相続発生前3年間の贈与は相続財産に加算
  • 改正後: 相続発生前7年間の贈与は相続財産に加算

この改正により、相続対策としての暦年贈与の効果が限定的になりました。

(出典: 国税庁 令和5年度税制改正 相続税及び贈与税の改正のあらまし

相続時精算課税(2500万円+年110万円まで非課税、元に戻せない)

相続時精算課税は、60歳以上の親等から18歳以上の子等への贈与に適用できる制度です。累計2500万円まで非課税で贈与でき、2024年から年110万円の基礎控除も追加されました。

重要な注意点: 相続時精算課税を一度選択すると、同じ贈与者からの贈与は生涯すべて相続時精算課税が適用され、暦年贈与に戻ることはできません

(出典: 国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択

2つの方法の比較表

項目 暦年贈与 相続時精算課税
非課税枠 年110万円 累計2500万円+年110万円
適用要件 なし 60歳以上→18歳以上
相続時の扱い 7年以内は相続財産に加算 全額相続財産に加算
元に戻せるか - 戻せない

ステップ1:必要書類を準備する

不動産の生前贈与による名義変更には、以下の書類が必要です。

贈与者側の必要書類

  • 印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)
  • 登記識別情報(権利証)
  • 固定資産評価証明書(最新年度のもの)

受贈者側の必要書類

  • 住民票(発行後3ヶ月以内)
  • 印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)

対象不動産の書類

  • 登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 公図
  • 固定資産評価証明書

必要書類は法務局や市区町村役場で取得できます。有効期限があるため、手続きのスケジュールを考慮して取得してください。

(参考: 法務局 不動産登記の申請書様式について

ステップ2:贈与契約書を作成する

不動産の贈与は、書面による贈与契約書の作成が必須です。口頭での贈与は税務署や法務局で認められません。

贈与契約書の必須記載事項

  1. 贈与する不動産の表示(登記簿謄本と同じ表示を使用)
  2. 贈与者の贈与の意思
  3. 受贈者の受贈の承諾
  4. 契約日
  5. 双方の署名押印

注意: 不動産の表示は、登記簿謄本に記載されている内容と完全に一致させる必要があります。誤った表示は登記申請で却下される原因となります。

贈与契約書は公正証書にする必要はありませんが、公正証書にすれば真正性が高まり税務署での証拠力が強くなります(費用は3-5万円程度)。

ステップ3:登記申請と税金の支払い

所有権移転登記の申請方法

贈与契約書と必要書類を揃えたら、管轄の法務局に所有権移転登記を申請します。

申請方法:

  • 窓口申請: 法務局に直接持参
  • オンライン申請: 登記・供託オンライン申請システムを利用
  • 郵送申請: 管轄法務局に郵送

司法書士に依頼することも可能です(報酬の相場は5-10万円)。

(参考: 法務局 不動産登記の申請書様式について

登録免許税の計算と納付

登録免許税は、固定資産税評価額の**2%**です。

計算例:

  • 固定資産税評価額: 2000万円
  • 登録免許税: 2000万円 × 2% = 40万円

参考: 相続の場合は固定資産税評価額の0.4%のため、贈与は相続の5倍の税負担となります。

(出典: 法務局 登録免許税の計算

贈与税・不動産取得税の申告

贈与税:

  • 翌年2-3月に確定申告
  • 土地は路線価、建物は固定資産税評価額で計算
  • 暦年贈与なら110万円超、相続時精算課税なら2500万円超(+年110万円)で課税

不動産取得税:

  • 固定資産税評価額 × 3-4%
  • 都道府県から納税通知が届く(贈与は軽減措置なし)

(出典: 国税庁 No.4602 土地家屋の評価

生前贈与と相続の税金比較:どちらが有利か

生前贈与と相続では、税負担が大きく異なります。

税金の比較(評価額2000万円の不動産)

項目 生前贈与 相続
登録免許税 40万円(2%) 8万円(0.4%)
不動産取得税 60-80万円(3-4%) なし
贈与税/相続税 評価額により異なる 評価額により異なる
合計(税のみ) 100-120万円+贈与税 8万円+相続税

生前贈与は、登録免許税・不動産取得税だけで100万円以上の負担となります。相続なら登録免許税8万円のみ(不動産取得税は非課税)です。

結論: 生前贈与が必ずしも有利とは限りません。税理士に試算を依頼し、生前贈与と相続のどちらが総合的に有利かを判断することが重要です。

まとめ:生前贈与の名義変更は専門家への相談が必須

不動産の生前贈与は、早期財産移転のメリットがありますが、相続より税負担が重いケースが多いです。

暦年贈与と相続時精算課税の選択、遺留分侵害の問題、税金の計算等は複雑であり、個別の状況により最適解が異なります。税理士・司法書士への相談が必須です。

まずは税理士に試算を依頼し、生前贈与と相続のどちらが総合的に有利かを判断してください。その上で、ライフプランや家族の状況を考慮しながら、柔軟に検討することをおすすめします。

よくある質問

Q1相続時精算課税を選択すると二度と暦年贈与に戻れませんか?

A1その通りです。相続時精算課税を一度選択すると、同じ贈与者からの贈与は生涯すべて相続時精算課税が適用され、暦年贈与の110万円非課税枠は使えなくなります。この選択は取り消せないため、将来の贈与計画も含めて慎重に判断する必要があります。選択前に税理士に相談することを強くおすすめします。

Q2贈与税がゼロでも登録免許税や不動産取得税は課税されますか?

A2課税されます。贈与税と登録免許税・不動産取得税は別の税金です。例えば、暦年贈与で評価額110万円以下の不動産なら贈与税はゼロですが、登録免許税(評価額×2%)と不動産取得税(評価額×3-4%)は必ず課税されます。贈与税がゼロでも諸費用がかかる点に注意してください。

Q3生前贈与すると他の相続人とトラブルになりますか?

A3遺留分(法定相続分の1/2)を侵害する贈与の場合、将来相続時に他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。特に、不動産は高額であるため、他の相続人の遺留分を侵害するリスクが高くなります。事前に相続人全員と相談し、理解を得ておくことをおすすめします。

Q4贈与契約書は公正証書にする必要がありますか?

A4法的には必須ではありませんが、公正証書にすれば真正性が高まり税務署での証拠力が強くなります。費用は3-5万円程度です。簡易な契約書(私文書)でも、双方の署名押印があり、贈与する不動産の表示・贈与の意思・受贈の承諾が明記されていれば有効です。不安な場合は司法書士に相談してください。

Q5司法書士に依頼する場合の費用はいくらですか?

A5司法書士の報酬は5-10万円が相場です。ただし、登録免許税(固定資産税評価額×2%)は別途必要です。例えば、評価額2000万円の不動産なら、登録免許税40万円+司法書士報酬5-10万円=45-50万円程度となります。複雑な案件や遠方の不動産の場合は、報酬が高くなることがあります。