生前贈与で不動産に3000万円控除は使える?制度の誤解を解説

公開日: 2025/11/6

よくある誤解:生前贈与に「3000万円控除」は使えない

親から子へ不動産を生前贈与する際、「3000万円控除」という制度を耳にすることがあります。しかし、この制度は生前贈与には適用されません

「3000万円特別控除」は国税庁によると、居住用財産(マイホーム)を売却した際の譲渡所得税の控除(租税特別措置法35条)であり、贈与税には適用されません。

よくある誤解として、「相続時精算課税制度(2500万円の特別控除)」と混同されることがありますが、これらは別の制度です。

この記事では、生前贈与で不動産を渡す際に実際に使える制度、メリット・デメリット、注意点を、国税庁法務省の公式情報を元に解説します。

制度の正しい理解により、贈与税・相続税を適切に計画し、家族間の円滑な財産移転を実現できます。

この記事のポイント

  • 「3000万円特別控除」は売却時の譲渡所得税控除であり、生前贈与の贈与税には適用されない
  • 生前贈与で実際に使える制度は「相続時精算課税(2500万円)」「暦年贈与(年110万円)」「住宅取得等資金贈与(最大1000万円)」
  • 相続時精算課税は贈与時の税負担を軽減するが、相続時に精算される
  • 不動産の生前贈与には登録免許税(2%)・不動産取得税(3-4%)が発生し、相続(0.4%)より高額
  • 個別具体的な判断は税理士に相談し、贈与税・相続税・登記費用を総合的に検討することが重要

生前贈与で実際に使える制度

生前贈与で不動産を渡す際に活用できる主な制度を整理します。

相続時精算課税制度(2500万円の特別控除)

国税庁によると、相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2500万円までの特別控除を適用できる制度です。

制度の基本的な仕組み:

  1. 贈与時: 累計2500万円までの贈与は贈与税がかからない(2024年改正により年110万円の基礎控除も適用)
  2. 相続時: 贈与した財産の価額を相続財産に加算し、相続税で精算する
  3. 税率: 2500万円を超える部分は一律20%の贈与税がかかる

重要: 2024年税制改正により、年110万円の基礎控除が新設されたため、実質的に2610万円(2500万円+110万円)まで贈与税がかからなくなりました。

暦年贈与(年110万円の基礎控除)

暦年贈与は、毎年1月1日〜12月31日の1年間に受けた贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからない制度です。

特徴:

  • 年110万円まで非課税(贈与税申告不要)
  • 相続開始前7年以内の贈与のみ相続財産に加算(2024年改正)
  • 特別な手続き不要(贈与契約書の作成推奨)

住宅取得等資金贈与の特例(最大1000万円非課税)

国税庁によると、父母・祖父母から18歳以上の子・孫への住宅取得等資金の贈与について、一定額まで非課税となる特例があります。

非課税枠(2025年時点):

  • 省エネ住宅: 1000万円
  • 一般住宅: 500万円

適用条件:

  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得・居住開始
  • 贈与税申告が必要

相続時精算課税制度と暦年贈与の比較

生前贈与には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの方式があります。

項目 暦年課税 相続時精算課税
基礎控除 年110万円 累計2500万円+年110万円(2024年改正)
税率 10-55%(累進課税) 一律20%(2500万円超の部分)
相続時の扱い 相続開始前7年以内の贈与を加算(2024年改正) 全ての贈与を加算
選択後の変更 可能 不可(一度選ぶと戻れない)

(参考: 国税庁

重要: 相続時精算課税を一度選択すると、暦年課税に戻ることはできません。贈与者(父母・祖父母)ごとに選択できますが、選択は慎重に行う必要があります。

2024年税制改正の影響

2024年税制改正により、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が新設されました。これにより、以下のメリットがあります。

  • 年110万円以下の贈与は、贈与税申告が不要になった
  • 年110万円以下の贈与は、相続時に加算されない(暦年課税と同様)
  • 実質的に2610万円(2500万円+110万円)まで贈与税がかからなくなった

(参考: 国税庁

この改正により、相続時精算課税の使い勝手が向上し、小口の贈与にも活用しやすくなりました。

不動産の生前贈与にかかる税金・費用

不動産の生前贈与には、贈与税以外にも登録免許税・不動産取得税等の費用がかかります。

登録免許税(2%)

不動産の所有権移転登記には、登録免許税がかかります。生前贈与の場合、税率は**2%**です。

計算例:

  • 不動産の評価額: 2000万円
  • 登録免許税: 2000万円 × 2% = 40万円

一方、相続の場合の登録免許税は0.4%(2000万円なら8万円)です。生前贈与は相続の5倍の費用がかかる点に注意が必要です。

(参考: 国税庁

不動産取得税(3-4%)

生前贈与で不動産を取得した場合、受贈者に不動産取得税がかかります。税率は以下の通りです。

不動産種別 税率 軽減措置
土地 3% 宅地は評価額の1/2で計算
住宅(建物) 3% 新築住宅は1200万円控除

計算例(土地2000万円、建物1000万円の場合):

  • 土地: 2000万円 × 1/2 × 3% = 30万円
  • 建物: (1000万円 - 1200万円) × 3% = 0円(控除により非課税)
  • 合計: 30万円

一方、相続の場合は不動産取得税が非課税です。生前贈与は相続より税負担が重い点を理解してください。

(参考: 総務省

司法書士報酬(5-10万円)

不動産の所有権移転登記は司法書士に依頼するのが一般的です。報酬は5万円~10万円が目安です。

費用の比較(生前贈与vs相続)

項目 生前贈与 相続
贈与税・相続税 相続時精算課税なら2500万円まで非課税 基礎控除3000万円+600万円×法定相続人数
登録免許税 2% 0.4%
不動産取得税 3-4% 非課税
司法書士報酬 5-10万円 5-10万円

評価額2000万円の不動産の場合:

  • 生前贈与: 登録免許税40万円+不動産取得税30万円+司法書士報酬8万円 = 78万円
  • 相続: 登録免許税8万円+司法書士報酬8万円 = 16万円

生前贈与は相続の約5倍の費用がかかる点に注意が必要です。

相続時精算課税制度のメリット・デメリット

相続時精算課税制度を活用するメリット・デメリットを整理します。

メリット

  • 贈与時の税負担を軽減: 累計2500万円までの贈与は贈与税がかからない(2024年改正により年110万円の基礎控除も適用)
  • 相続税対策: 将来値上がりする資産(賃貸不動産、株式等)を早期に贈与することで、相続財産を圧縮できる
  • 生前に財産を移転: 相続時のトラブルを避け、円滑な財産移転が可能
  • 小口贈与が可能: 2024年改正により、年110万円以下の贈与は申告不要で相続時に加算されない

デメリット

  • 登記費用・不動産取得税が高額: 相続(0.4%)に比べ、生前贈与(2%+3-4%)は費用が高い
  • 一度選ぶと戻れない: 相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻れない
  • 相続時に加算される: 贈与した財産の価額が相続財産に加算され、相続税で精算される
  • 小規模宅地等の特例が使えない: 相続時精算課税で贈与した不動産は、小規模宅地等の特例(相続税の評価額を最大80%減額)が適用されない

(参考: 国税庁

どんな人に向いているか

相続時精算課税制度は以下のような人に向いています。

  • 将来値上がりする資産(賃貸不動産、株式等)を早期に贈与したい
  • 相続税の基礎控除内に収まる見込みがあり、相続税がかからない
  • 生前に財産を移転し、相続時のトラブルを避けたい

一方、以下のような人には向いていません。

  • 相続税の基礎控除を超える財産があり、小規模宅地等の特例を活用したい
  • 将来値下がりする資産を贈与したい(相続時に贈与時の価額で加算されるため不利)
  • 暦年課税で年110万円ずつ贈与したい

注意点とよくある誤解

相続時精算課税制度を活用する際の注意点と、よくある誤解を整理します。

「3000万円控除」は生前贈与には使えない

繰り返しになりますが、「3000万円特別控除」は国税庁によると、居住用財産を売却した際の譲渡所得税の控除(租税特別措置法35条)であり、生前贈与の贈与税には適用されません。

生前贈与で使えるのは「相続時精算課税(2500万円)」「暦年贈与(年110万円)」「住宅取得等資金贈与(最大1000万円)」です。

贈与税申告が必要

相続時精算課税制度を選択する場合、初回の贈与時に贈与税申告が必須です。申告期限は贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日です。

2024年改正により、年110万円以下の贈与は申告不要となりましたが、110万円を超える贈与を受けた場合は申告が必要です。

相続時に贈与時の価額で加算

相続時精算課税で贈与した財産は、贈与時の価額で相続財産に加算されます。

例えば、贈与時の不動産評価額が2000万円で、相続時に1500万円に下がっていた場合、相続財産には2000万円が加算されます(値下がりリスクあり)。

一方、賃貸不動産や株式等、将来値上がりする資産を贈与する場合は、贈与時の低い価額で固定されるメリットがあります。

小規模宅地等の特例が使えない

相続時精算課税で贈与した不動産は、小規模宅地等の特例(相続税の評価額を最大80%減額)が適用されません。

小規模宅地等の特例は、相続税の節税効果が非常に大きいため、相続時精算課税を選択する前に税理士に相談し、どちらが有利か検討してください。

(参考: 国税庁

暦年課税に戻れない

相続時精算課税を一度選択すると、暦年課税に戻ることはできません。贈与者(父母・祖父母)ごとに選択できますが、選択は慎重に行ってください。

例えば、父からの贈与に相続時精算課税を選択した場合、父からの今後の贈与はすべて相続時精算課税が適用されます(母からの贈与は別途選択可能)。

まとめ:税理士に相談し、総合的に判断を

生前贈与で不動産を渡す際、「3000万円控除」は使えません。「3000万円特別控除」は売却時の譲渡所得税控除であり、生前贈与には適用されません。

生前贈与で実際に使える制度は、「相続時精算課税(2500万円)」「暦年贈与(年110万円)」「住宅取得等資金贈与(最大1000万円)」です。相続時精算課税は贈与時の税負担を軽減する制度ですが、相続時に精算される点に注意が必要です。

不動産の生前贈与には登録免許税(2%)・不動産取得税(3-4%)が発生し、相続(0.4%)より高額です。また、小規模宅地等の特例が使えない等のデメリットもあります。

2024年税制改正により、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が新設され、使い勝手が向上しました。年110万円以下の贈与は申告不要で相続時に加算されないため、小口の贈与にも活用しやすくなりました。

個別具体的な判断は税理士に相談し、贈与税・相続税・登記費用を総合的に検討してください。将来値上がりする資産を早期に贈与したい場合や、相続税の基礎控除内に収まる見込みがある場合は、相続時精算課税が有利になる可能性があります。

よくある質問

Q1生前贈与で3000万円控除は使えますか?

A1使えません。「3000万円特別控除」は国税庁によると、居住用財産(マイホーム)を売却した際の譲渡所得税の控除(租税特別措置法35条)であり、生前贈与の贈与税には適用されません。生前贈与で実際に使える制度は、相続時精算課税(2500万円)、暦年贈与(年110万円)、住宅取得等資金贈与(最大1000万円)です。

Q2相続時精算課税を選ぶと贈与税は完全に免除されますか?

A2免除されません。累計2500万円までの贈与は贈与税がかかりませんが、相続時に贈与した財産の価額が相続財産に加算され、相続税で精算されます。2024年改正により年110万円の基礎控除も新設されましたが、あくまで「贈与時の税負担を先送りする制度」であり、完全に免税されるわけではありません。ただし、相続税の基礎控除内に収まれば、結果的に税負担が発生しない場合もあります。

Q3暦年課税と相続時精算課税、どちらが有利ですか?

A3個別の状況により異なります。暦年課税は年110万円まで非課税で、相続開始前7年以内の贈与のみ加算されます。相続時精算課税は累計2500万円+年110万円まで非課税ですが、全ての贈与が相続時に加算されます。将来値上がりする資産を早期に贈与したい場合は相続時精算課税が有利、小規模宅地等の特例を活用したい場合は暦年課税または相続が有利です。税理士に相談し、総合的に判断してください。

Q4不動産の生前贈与と相続、どちらが費用が安いですか?

A4相続の方が圧倒的に安いです。生前贈与は登録免許税2%+不動産取得税3-4%+司法書士報酬で、評価額2000万円の不動産なら約78万円かかります。相続は登録免許税0.4%+司法書士報酬で、約16万円です。生前贈与は相続の約5倍の費用がかかる点に注意してください。ただし、将来値上がりする資産や、相続時のトラブルを避けたい場合は、生前贈与が有利になる可能性もあります。

Q5小規模宅地等の特例とは何ですか?

A5相続税の評価額を最大80%減額する特例です。被相続人が居住していた宅地(330㎡まで)または事業用宅地(400㎡まで)が対象です。例えば、評価額5000万円の自宅を相続する場合、特例適用で1000万円(80%減額)に評価されます。ただし、相続時精算課税で贈与した不動産は、この特例が適用されません。相続税の節税効果が非常に大きいため、相続時精算課税を選択する前に税理士に相談してください。

Q62024年税制改正で何が変わりましたか?

A6相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設されました。これにより、①年110万円以下の贈与は贈与税申告が不要、②年110万円以下の贈与は相続時に加算されない、③実質的に2610万円(2500万円+110万円)まで贈与税がかからない、というメリットがあります。この改正により、相続時精算課税の使い勝手が向上し、小口の贈与にも活用しやすくなりました。