土地を贈与する手続きとは?全体の流れを把握しよう
親から子へ土地を贈与する予定の方や、贈与を受ける方の中には、「手続きはどうすればいいのか」「贈与税はいくらかかるのか」「相続との違いは何か」と不安に感じる方は少なくありません。
土地の贈与は①贈与契約書作成→②所有権移転登記→③贈与税申告の3ステップで行います。費用は登録免許税(評価額の2%)、不動産取得税(評価額の3%)、司法書士報酬(5-10万円)、贈与税(土地評価額による)が必要で、相続(登録免許税0.4%、不動産取得税非課税)と比べて高コストです。この記事では、土地贈与の手続き、贈与税の計算方法、節税対策を、国税庁の公式情報を元に解説します。
初めて土地を贈与する方でも、手続きの流れと税負担が正確に理解できるようになります。
この記事のポイント
- 土地の贈与は①贈与契約書作成→②所有権移転登記→③贈与税申告の3ステップで行う
- 登録免許税は評価額の2%で相続(0.4%)の5倍と高額、不動産取得税も評価額の3%(相続は非課税)
- 贈与税は土地の評価額(路線価で算出、市場価格の約8割)から基礎控除110万円を引いた額に累進税率(10%-55%)を適用
- 相続時精算課税制度(2500万円+110万円非課税)は小規模宅地等の特例が使えなくなり、将来の相続税が大幅に増える可能性がある
- 暦年贈与で毎年同額・同時期に贈与すると「定期贈与」とみなされ、初年度に全額課税されるリスクがある
ステップ1:贈与契約書を作成する
贈与契約は口頭でも成立しますが、書面作成を強く推奨します。
贈与契約書の必要事項
大東建託によると、贈与契約書には以下の事項を記載する必要があります。
贈与契約書の必須事項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 贈与者・受贈者 | 氏名・住所 |
| 土地の情報 | 所在地・地番・地積(登記簿謄本と一致) |
| 贈与日 | 具体的な日付 |
| 署名・捺印 | 両者の署名・捺印(実印推奨) |
書面作成を推奨する理由
- 撤回防止: 口頭での贈与は撤回される可能性がある
- 税務署への証明: 贈与税申告時に添付書類として必要
- 登記時の添付書類: 所有権移転登記に必要
必要書類のチェックリスト
贈与手続きに必要な書類をチェックリストで確認しましょう。
必要書類一覧
- ✅ 贈与契約書
- ✅ 登記済証(権利証)または登記識別情報
- ✅ 印鑑証明書(贈与者・受贈者両方、3か月以内)
- ✅ 固定資産評価証明書(最新年度)
- ✅ 住民票(受贈者)
- ✅ 登記簿謄本(土地の現状確認用)
ステップ2:所有権移転登記を行う
所有権移転登記は法務局で行います。
登録免許税と不動産取得税
司法書士法人スマ相続によると、登録免許税は評価額の2%で、相続(0.4%)の5倍と高額です。
登録免許税と不動産取得税の比較
| 項目 | 贈与 | 相続 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 評価額の2% | 評価額の0.4% |
| 不動産取得税 | 評価額の3% | 非課税 |
例:評価額1000万円の土地の場合
贈与の場合:
- 登録免許税:1000万円 × 2% = 20万円
- 不動産取得税:1000万円 × 3% = 30万円
- 合計:50万円
相続の場合:
- 登録免許税:1000万円 × 0.4% = 4万円
- 不動産取得税:非課税
- 合計:4万円
贈与は相続より46万円も高額になります。
司法書士への依頼
登記手続きは複雑なため、司法書士への依頼が一般的です。司法書士報酬は5-10万円程度です。
司法書士に依頼する場合の費用総額
| 項目 | 金額(評価額1000万円の場合) |
|---|---|
| 登録免許税 | 20万円 |
| 不動産取得税 | 30万円 |
| 司法書士報酬 | 5-10万円 |
| 合計 | 55-60万円 |
ステップ3:贈与税を計算・申告する
贈与税は土地の評価額から基礎控除110万円を引いた額に累進税率を適用します。
土地の評価額を調べる(路線価方式・倍率方式)
国税庁によると、土地の評価額は路線価方式または倍率方式で算出します。
路線価方式と倍率方式
| 方式 | 適用地域 | 計算方法 |
|---|---|---|
| 路線価方式 | 市街地 | 路線価(1㎡あたりの価格)× 土地面積 |
| 倍率方式 | 郊外(路線価がない地域) | 固定資産税評価額 × 倍率 |
注意: 路線価は市場価格の約8割で、購入価格より高く評価される場合もあります。想定外の贈与税が発生するリスクがあるため、国税庁の路線価図で事前に確認してください。
暦年課税の贈与税計算方法
国税庁によると、贈与税は以下の計算式で算出します。
贈与税の計算式
贈与税 = (土地の評価額 − 基礎控除110万円) × 税率 − 控除額
贈与税の税率表(暦年課税、一般贈与)
| 課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | - |
| 300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 1000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 1500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 3000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 3000万円超 | 55% | 400万円 |
例:評価額1000万円の土地を贈与した場合
課税価格 = 1000万円 − 110万円 = 890万円
贈与税 = 890万円 × 40% − 125万円 = 231万円
申告期限と納付方法
贈与税の申告期限は贈与の翌年2月1日〜3月15日です。期限を過ぎると加算税・延滞税が発生します。
申告・納付の流れ
- 土地の評価額を算出
- 贈与税を計算
- 贈与税申告書を税務署へ提出(郵送または電子申告)
- 贈与税を納付(現金・振込・クレジットカード)
節税対策:相続時精算課税制度と暦年贈与の活用
贈与税を軽減できる制度がありますが、注意点も多くあります。
相続時精算課税制度(2500万円+110万円非課税)
国税庁によると、相続時精算課税制度は60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できます。
相続時精算課税制度の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 非課税枠 | 2500万円+110万円(2024年以降) |
| 適用対象 | 60歳以上の父母・祖父母→18歳以上の子・孫 |
| メリット | 高額な財産を一度に非課税で贈与できる |
| デメリット | 小規模宅地等の特例が使えなくなる |
重要な注意点
横浜相続税相談窓口によると、相続時精算課税制度を選択すると、小規模宅地等の特例(評価額を最大80%減額)が使えなくなり、将来の相続税が大幅に増える可能性があります。
例:評価額4000万円の土地を相続時精算課税で贈与した場合
- 贈与時: 非課税(2500万円+110万円の枠内)
- 相続時: 小規模宅地特例が使えず、4000万円がそのまま相続財産に加算
小規模宅地特例を使えば800万円(4000万円 × 20%)に減額できたところ、相続時精算課税を選ぶと3200万円分の相続税が増える可能性があります。
重要: 一度選択すると取り消せないため、税理士に試算してもらってから判断すべきです。
暦年贈与の注意点(定期贈与の落とし穴)
暦年贈与は毎年110万円以内なら非課税ですが、毎年同額・同時期に贈与すると「定期贈与」とみなされ、初年度に全額課税されるリスクがあります。
定期贈与とは
- 毎年同額(例:毎年100万円)
- 同時期(例:毎年1月1日)
- 複数年にわたる贈与
これらの条件が揃うと、初年度に贈与の総額が課税される可能性があります。
回避方法
- 贈与額を変える(1年目100万円、2年目80万円等)
- 贈与時期を変える(1年目1月、2年目6月等)
- 毎年贈与契約書を作成する
節税できないケース
司法書士法人スマ相続によると、土地の生前贈与は以下の理由で節税にならないケースも多いです。
生前贈与が不利になるケース
- 登録免許税が相続の5倍(2% vs 0.4%)
- 不動産取得税が課税される(相続は非課税)
- 小規模宅地等の特例が使えない(相続時精算課税の場合)
一般的に相続の方が税負担が軽いですが、贈与は生前に財産を移転でき、相続トラブル防止のメリットがあります。
相続と贈与の違いを比較表で理解する
贈与と相続の違いを表形式で整理します。
贈与と相続の比較
| 項目 | 贈与 | 相続 |
|---|---|---|
| タイミング | 生前 | 死後 |
| 登録免許税 | 評価額の2% | 評価額の0.4% |
| 不動産取得税 | 評価額の3% | 非課税 |
| 基礎控除 | 110万円/年(暦年課税) | 3000万円+600万円×法定相続人数 |
| 税率 | 10-55%(累進課税) | 10-55%(累進課税) |
| 小規模宅地特例 | 使えない(相続時精算課税の場合) | 使える(評価額を最大80%減額) |
| 司法書士報酬 | 5-10万円 | 5-10万円 |
結論
一般的に相続の方が税負担が軽いですが、贈与は生前に財産を移転できるメリットがあります。どちらを選ぶべきかは個別の状況によるため、税理士への相談を推奨します。
まとめ:専門家への相談が成功の鍵
土地の贈与は①契約書作成→②登記→③贈与税申告の3ステップで行いますが、登録免許税・不動産取得税・贈与税が高額になりやすく、節税対策も複雑です。
相続時精算課税制度や暦年贈与の活用で節税できる場合もありますが、要件が厳しく将来の相続税に影響します。特に相続時精算課税は小規模宅地特例が使えなくなり、将来の相続税が大幅に増える可能性があるため、慎重に判断すべきです。
次のアクションとして、土地の評価額を国税庁の路線価図で確認し、贈与税を試算すること、税理士(贈与税の計算・節税対策)と司法書士(登記手続き)への相談を強く推奨します。個別具体的な判断は専門家の助言が不可欠です。
