不動産相続の名義変更に必要な書類:手順と費用を解説

公開日: 2025/11/6

不動産相続の名義変更が2024年義務化:期限と罰則

親から不動産を相続した際、「名義変更(相続登記)はいつまでにすればいいのか」「どんな書類が必要なのか」と不安に感じる方は少なくありません。2024年4月から相続登記が義務化され、期限内に手続きしないと過料が課される可能性があります。

この記事では、不動産相続の名義変更に必要な書類、手続きの流れ、費用について、法務局・国税庁の公式情報を元に解説します。

相続登記の義務化に対応し、必要な書類を漏れなく準備できるようになります。

この記事のポイント

  • 2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内の申請が必須
  • 正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料(行政罰)が課される
  • 必要書類は「被相続人の戸籍謄本一式」「相続人の戸籍謄本・住民票」「不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書」等
  • 遺産分割協議がある場合は協議書と印鑑証明書が追加で必要

相続登記の必要書類一覧:チェックリスト形式で整理

相続登記に必要な書類は、遺産分割協議の有無により異なります。ここでは、3つのケース別に必要書類をチェックリスト形式で整理します。

共通書類(すべてのケースで必要)

法務局の公式ガイドによると、以下の書類はすべてのケースで必要です。

被相続人(亡くなった方)の書類

  • ☐ 出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍
  • ☐ 住民票の除票(または戸籍の附票)

相続人の書類

  • ☐ 全員の戸籍謄本(被相続人の死亡後に取得したもの)
  • ☐ 不動産を取得する人の住民票

不動産の書類

  • ☐ 登記事項証明書(登記簿謄本)
  • ☐ 固定資産評価証明書(最新年度のもの)

遺産分割協議がある場合に追加で必要な書類

法定相続分と異なる分け方をする場合、以下の書類が追加で必要です。

  • ☐ 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印押印)
  • ☐ 相続人全員の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内推奨)

遺産分割協議書は、相続人全員で遺産の分け方を決めた合意書です。1人でも欠けると無効になるため、全員の合意が必須です。

法定相続分通りに相続する場合の書類

法定相続分通りに相続する場合、遺産分割協議書と印鑑証明書は不要です。共通書類のみで登記申請できます。

戸籍謄本の取得方法と注意点

相続登記で最も複雑なのが、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本の収集です。転籍や婚姻が複数回ある場合、複数の市区町村から戸籍を取り寄せる必要があります。

出生から死亡までの戸籍を集める流れ

戸籍収集の基本的な流れは以下の通りです。

  1. 被相続人の死亡時の本籍地で戸籍謄本を取得
  2. その戸籍に記載された「前の本籍地」を確認
  3. 前の本籍地の市区町村で除籍謄本を取得
  4. 出生時まで遡って繰り返す

戸籍は本籍地の市区町村役場で取得します。郵送請求も可能ですが、往復で1-2週間かかる場合があります。

転籍・婚姻が複数回ある場合の複雑さ

転籍(本籍地の変更)や婚姻が複数回ある場合、戸籍が複数の市区町村に分散します。例えば、以下のようなケースです。

  • 出生地: A市
  • 婚姻時: B市に転籍
  • 転居時: C市に転籍
  • 死亡時: D市

この場合、A市→B市→C市→D市の順に戸籍を収集する必要があります。それぞれの市区町村に請求するため、時間と手間がかかります。

古い戸籍(改製原戸籍)の読み取り方

戸籍制度は何度も改正されており、古い戸籍は「改製原戸籍」として保管されています。特に昭和改製・平成改製の戸籍は手書きで記載されており、読み取りが困難な場合があります。

不明な点がある場合は、市区町村の戸籍担当窓口に相談するか、法定相続情報証明制度を活用しましょう。

法定相続情報証明制度は、法務局が相続関係を1枚の証明書にまとめる制度です。戸籍謄本の束を何度も提出する手間を省けるため、相続手続きが複数ある場合に便利です。

遺産分割協議書の作成ポイント

法定相続分と異なる分け方をする場合、遺産分割協議書の作成が必須です。協議書には以下の内容を記載します。

記載事項

  • 被相続人の氏名・死亡日・本籍
  • 相続財産の内容(不動産の所在・地番・家屋番号)
  • 誰がどの財産を相続するか
  • 協議日
  • 相続人全員の署名・実印押印

法務局のひな形を参考にしながら作成しましょう。

重要な注意点:

  • 相続人全員の合意と実印押印が必須
  • 1人でも欠けると無効
  • 連絡が取れない相続人がいる場合は、不在者財産管理人の選任等、別の手続きが必要

遺産分割協議書の作成に不安がある場合は、司法書士や弁護士にチェックを依頼することをおすすめします。

名義変更にかかる費用:登録免許税の計算方法

相続登記には、登録免許税(国税)がかかります。税額は以下の式で計算します。

登録免許税の計算式(固定資産税評価額×0.4%)

登録免許税 = 固定資産税評価額 × 0.4%

例えば、固定資産税評価額が2000万円の土地と建物を相続する場合:

  • 2000万円 × 0.4% = 8万円

登録免許税は1000円未満切り捨てのため、7万9999円の場合は7万9000円となります。

固定資産評価証明書の見方(課税標準額と評価額の違い)

固定資産評価証明書には「価格」「課税標準額」の2つの欄がありますが、登録免許税の計算に使うのは「価格」欄です。

項目 内容 登録免許税の計算
価格 固定資産税評価額 ✅ この金額を使用
課税標準額 軽減措置適用後の額 ❌ 使用しない

「課税標準額」を誤って使用すると、税額を間違えるため注意が必要です。

収入印紙での納付方法

登録免許税は、収入印紙を購入して登記申請書に貼付して納付します。郵便局や法務局で購入できます。

司法書士に依頼する場合の費用:

  • 報酬相場: 5-10万円程度
  • 内容: 書類収集・作成・申請をすべて代行

自分で手続きする場合は登録免許税のみで済みますが、書類収集と作成に時間と手間がかかります。

法務局への申請方法:窓口・郵送・オンライン

相続登記の申請方法は3つあります。

窓口申請(不動産所在地を管轄する法務局)

不動産の所在地を管轄する法務局の窓口で申請します。窓口申請のメリットは、不備があればその場で指摘を受けられることです。

法務局の所在地は、法務局ウェブサイトで確認できます。

郵送申請(遠方の場合に便利)

遠方の場合は、郵送で申請できます。書留郵便で送付し、返信用封筒(切手貼付)を同封します。

郵送申請のデメリットは、不備があると補正のやり取りに時間がかかることです。

オンライン申請(登記・供託オンライン申請システム)

オンライン申請も可能ですが、電子署名(マイナンバーカード等)が必要です。慣れている方向けの方法です。

申請後の流れ:

  1. 申請後1-2週間で登記完了
  2. 登記識別情報通知(権利証)が交付される
  3. 登記事項証明書を取得し、名義変更を確認

まとめ:自分でやるか専門家に依頼するか

相続登記は、2024年4月から義務化され、相続を知った日から3年以内の申請が必須となりました。必要書類は被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本・住民票、不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書等です。遺産分割協議がある場合は協議書と印鑑証明書が追加で必要です。

戸籍収集は転籍・婚姻が複数回ある場合に非常に複雑で、特に古い戸籍は読み取りが困難です。自力で手続きすることも可能ですが、時間と手間を考えると司法書士への依頼も選択肢です(費用5-10万円程度)。

義務化により期限があるため、早めに着手することが重要です。法務局の無料相談窓口(予約制)も活用しながら、確実に手続きを完了させましょう。

よくある質問

Q1戸籍謄本に有効期限はありますか?

A1相続登記に使用する戸籍謄本に有効期限はありません。ただし、被相続人の死亡後に取得したものである必要があります。例えば、生前に取得した戸籍謄本では相続人の確定ができないため、死亡後に改めて取得する必要があります。古い戸籍でも死亡後に取得したものであれば使用可能です。

Q2遺言書がある場合は遺産分割協議書は不要ですか?

A2遺言書で不動産の相続人が指定されていれば遺産分割協議書は不要です。遺言書(検認済証明書付き)と相続人全員の戸籍謄本があれば登記可能です。ただし、遺言書が自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認手続きが必要です(法務局保管の自筆証書遺言は検認不要)。公正証書遺言の場合は検認不要で、遺言書の正本または謄本をそのまま使用できます。

Q3相続人の中に未成年者がいる場合はどうなりますか?

A3未成年者と親権者の利益が相反する場合、家庭裁判所で特別代理人の選任が必要です。例えば、母と未成年の子が共同相続人の場合、母が単独で協議書に署名することはできません。これは利益相反行為にあたるためです。特別代理人選任の申立ては家庭裁判所で行い、選任された特別代理人が未成年者の代わりに協議に参加します。

Q4登録免許税は分割払いできますか?

A4登録免許税は分割払い不可です。申請時に全額を収入印紙で納付する必要があります。納税できない場合は登記申請自体ができません。例えば、評価額2000万円の不動産の場合、登録免許税は8万円となり、この金額を収入印紙で一括納付します。登記申請書に収入印紙を貼付して提出する形式のため、分割納付の仕組みはありません。