生前贈与と相続、どちらが得かは状況次第
親から土地を受け継ぐ際、「生前贈与と相続、どちらが税負担が少ないのか」と悩む方は少なくありません。
この記事では、土地の生前贈与と相続の税金比較と判断基準について、国税庁や法務省の公式情報を元に解説します。
結論から言うと、答えは状況次第です。土地の評価額、家族構成、他の相続財産の有無、将来の資産増減見込みなど、複数の要素により最適な選択は変わります。また、税金だけでなく、登記費用や不動産取得税などの付随コストも考慮する必要があります。
この記事のポイント
- 生前贈与と相続の有利・不利は土地の評価額や家族構成により異なる
- 2024年改正で生前贈与加算期間が3年から7年に延長された
- 小規模宅地等の特例(評価額80%減)は相続のみ適用可能
- 登記費用・不動産取得税は相続の方が大幅に安い
- 最終的には税理士への相談が必須
相続税と贈与税の仕組み比較
生前贈与と相続の有利・不利を判断するには、まず相続税と贈与税の基本的な仕組みを理解する必要があります。
相続税の計算方法と基礎控除
相続税は、被相続人(亡くなった方)の遺産総額から基礎控除を差し引いた金額に課税されます。
基礎控除額: 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
例えば、法定相続人が2人の場合、基礎控除は4,200万円となります。遺産総額がこれ以下であれば相続税はゼロです。
相続税の税率は10-55%の累進課税で、国税庁の公式サイトに詳細が掲載されています。
暦年課税(年110万円の基礎控除)
暦年課税は、年間110万円までの贈与が非課税となる通常の贈与税制度です。110万円以下なら贈与税はゼロで、申告も不要です。
ただし、2024年1月以降、相続開始前7年以内の贈与は相続税の課税対象に加算されるようになりました(従来は3年間)。延長された4年分については、合計100万円まで非課税です。
相続時精算課税制度(2024年改正のポイント)
相続時精算課税制度は、60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で選択できる制度です。
特徴:
- 2,500万円まで贈与税非課税
- 2024年から年110万円の基礎控除が新設された
- 相続時に贈与額を相続財産に加算して相続税を計算
- 一度選択すると暦年課税に戻れない(不可逆的な選択)
国税庁の資料によると、2024年改正で年110万円の基礎控除が追加され、少額の生前贈与がしやすくなりました。
2024年改正:生前贈与加算期間が3年→7年に延長
2024年1月以降、相続開始前の生前贈与加算期間が3年から7年に延長されました。これにより、相続直前の駆け込み贈与による節税効果が制限されています。
具体的なシミュレーション比較
生前贈与と相続の有利・不利を、具体的な金額でシミュレーションしてみましょう。
ケース1:土地評価額3,000万円、相続人2人
前提:
- 土地評価額: 3,000万円
- 法定相続人: 2人
- 他の相続財産: なし
相続の場合:
- 相続税の基礎控除: 3,000万円 + 600万円 × 2人 = 4,200万円
- 課税対象: 3,000万円 - 4,200万円 = 0円(基礎控除以内のため相続税ゼロ)
- 登録免許税: 3,000万円 × 0.4% = 12万円
- 不動産取得税: 非課税
生前贈与の場合(相続時精算課税):
- 贈与税: 2,500万円まで非課税、超過分500万円に対して20% = 100万円
- 登録免許税: 3,000万円 × 2% = 60万円
- 不動産取得税: 3,000万円 × 3% = 90万円(軽減措置適用後)
結論: このケースでは、相続が圧倒的に有利です。相続税がゼロで、登記費用も安いためです。
ケース2:土地評価額8,000万円、相続人1人
前提:
- 土地評価額: 8,000万円
- 法定相続人: 1人
- 他の相続財産: なし
相続の場合:
- 相続税の基礎控除: 3,000万円 + 600万円 × 1人 = 3,600万円
- 課税対象: 8,000万円 - 3,600万円 = 4,400万円
- 相続税: 約680万円(税率20%、控除200万円)
- 登録免許税: 8,000万円 × 0.4% = 32万円
生前贈与の場合(相続時精算課税):
- 贈与税: 2,500万円まで非課税、超過分5,500万円に対して20% = 1,100万円
- ただし相続時に相続財産として加算され、最終的な相続税は約680万円
- 登録免許税: 8,000万円 × 2% = 160万円
- 不動産取得税: 8,000万円 × 3% = 240万円(軽減措置適用後)
結論: このケースでも、登記費用・不動産取得税の差額(368万円)により相続が有利です。
ケース3:小規模宅地等の特例が使える場合
小規模宅地等の特例は、相続した土地の評価額を50-80%減額できる特例です。自宅用地は330㎡まで80%減、賃貸用地は200㎡まで50%減となります。
重要: この特例は相続のみ適用可能で、生前贈与では使えません。
例: 土地評価額8,000万円の自宅用地を相続
- 小規模宅地特例適用: 8,000万円 × 80%減 = 1,600万円に評価
- 相続税の基礎控除以内に収まる可能性が高く、大幅な節税効果
小規模宅地等の特例が使える場合、生前贈与は節税機会の大きな損失となります。
生前贈与のメリットとデメリット
メリット:相続財産の圧縮、早期の資産承継
生前贈与の主なメリットは以下の通りです。
- 相続財産の圧縮: 将来的な相続税を減らせる可能性がある
- 早期の資産承継: 受贈者が確定しており、計画的に資産を移転できる
- 安心感: 生前に渡すことで、相続トラブルを防ぐ効果がある
デメリット:小規模宅地特例が使えない、登記費用が高い
一方で、生前贈与には以下のデメリットがあります。
- 小規模宅地等の特例が使えない: 評価額80%減の節税機会を失う
- 登録免許税が5倍: 相続0.4%に対し、贈与は2%
- 不動産取得税が課税: 相続は非課税だが、贈与は3%課税
- 遺留分侵害額請求のリスク: 相続人への生前贈与は相続開始前10年間まで遺留分計算の対象となり、後の相続トラブルの原因となる可能性がある
相続時精算課税の不可逆性
相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻ることはできません。この不可逆的な選択であることを十分に理解した上で、慎重に判断する必要があります。
相続のメリットとデメリット
メリット:小規模宅地特例、登記費用が安い
相続の主なメリットは以下の通りです。
- 小規模宅地等の特例: 評価額を50-80%減額できる強力な節税策
- 登録免許税が安い: 評価額の0.4%(贈与は2%)
- 不動産取得税が非課税: 贈与では3%課税
デメリット:遺産分割協議の必要、相続登記義務化
一方で、相続には以下のデメリットがあります。
- 遺産分割協議の必要: 相続人全員の合意が必要で、トラブルになるリスクがある
- 相続登記の義務化: 2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内の登記を怠ると10万円以下の過料が科される可能性がある
判断基準と専門家への相談
生前贈与が有利なケース
以下の場合、生前贈与が有利になる可能性があります。
- 相続財産が基礎控除を大きく超える
- 将来的な資産価値上昇が見込まれる
- 受贈者を確定させたい(相続トラブルを避けたい)
相続が有利なケース
以下の場合、相続が有利になる可能性が高いです。
- 相続財産が基礎控除以内に収まる
- 小規模宅地等の特例が使える
- 登記費用を抑えたい
相談時に準備すべき情報
税理士への相談時には、以下の情報を準備しておくとスムーズです。
- 土地の評価額(固定資産税評価額、路線価等)
- 家族構成(法定相続人の人数)
- 他の相続財産の有無(預金、有価証券等)
- 将来の資産増減見込み(不動産の値上がり、収入変化等)
- 小規模宅地等の特例の適用可能性
まとめ:生前贈与と相続の選択は慎重に
生前贈与と相続のどちらが得かは、状況次第で一律の答えはありません。
2024年改正の影響(生前贈与加算期間7年、相続時精算課税の基礎控除新設)、小規模宅地特例の重要性、付随コスト(登記費用・不動産取得税)の差額を総合的に考慮する必要があります。
特に、小規模宅地等の特例が使える場合は相続が圧倒的に有利で、生前贈与は節税機会の大きな損失となる可能性があります。
最終的には、専門家(税理士)への相談が必須です。土地の評価額、家族構成、他の相続財産の有無、将来の資産増減見込みを整理した上で、個別具体的なアドバイスを受けることをおすすめします。
