相続不動産の譲渡所得税|特例・計算方法を完全解説

公開日: 2025/11/11

相続不動産の譲渡所得税とは?相続税との違いを理解する

相続で取得した不動産を売却する際、「相続税を払ったのにまた税金がかかるのか」と疑問を感じる方は少なくありません。

この記事では、相続不動産の譲渡所得税の仕組み、計算方法、相続税との違い、特例を活用した節税対策を、国税庁の公式情報を元に解説します。

相続不動産の売却を検討している方にとって、税金の負担を正確に理解し、適切な対策を立てられるようになります。

この記事のポイント

  • 相続税と譲渡所得税は別制度であり、相続税がかからなくても譲渡所得税は発生する可能性がある
  • 譲渡所得税の計算式は「(売却価格-取得費-譲渡費用-特別控除)× 税率」で、長期20.315%、短期39.63%の税率が適用される
  • 相続不動産の取得費は被相続人が購入した時の価格を引き継ぎ、不明時は売却価格の5%(概算取得費)を適用
  • 取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)・空き家特例(3000万円控除)等を活用すれば大幅減額可能

譲渡所得税の計算方法|5つの要素で決まる

譲渡所得税は、不動産を売却した際の利益(譲渡所得)にかかる税金です。以下の計算式で算出されます。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除

譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率

計算式:(売却価格-取得費-譲渡費用-特別控除)× 税率

売却価格から取得費、譲渡費用、特別控除を差し引いた金額が譲渡所得となり、これに税率を乗じて税額が決まります。

税率は所有期間で変わる|長期20.315%、短期39.63%

所有期間によって税率が大きく異なります。

区分 所有期間 税率 内訳
長期譲渡所得 5年超 20.315% 所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%
短期譲渡所得 5年以下 39.63% 所得税30% + 住民税9% + 復興特別所得税0.63%

(出典: 国税庁

所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定されます。相続不動産の場合、被相続人が取得した時点から数えます。

復興特別所得税の上乗せ(2037年まで)

平成25年から令和19年(2037年)まで、所得税額の2.1%が復興特別所得税として上乗せされます。東日本大震災の復興財源として徴収されるものです。

相続不動産の取得費はどう計算する?被相続人の購入価格を引き継ぐ

相続不動産の取得費は、被相続人(亡くなった人)が購入した時の価格を引き継ぎます。相続人が相続した時点の価格ではない点に注意が必要です。

被相続人が購入した時の価格が基準

国税庁の公式ページによると、相続不動産の取得費は被相続人の取得費を引き継ぎます。

例えば、被相続人が20年前に2000万円で購入した不動産を相続し、3000万円で売却した場合、取得費は2000万円(相続時の評価額ではない)となります。

建物は減価償却を差し引く

建物は経年劣化により価値が減少するため、取得費から減価償却費を差し引きます。

減価償却の計算方法:

  • 木造住宅:耐用年数22年
  • RC造(鉄筋コンクリート造):耐用年数47年

減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

取得費不明の場合は概算取得費(売却価格の5%)

先祖代々の土地等で購入価格が不明な場合、売却価格の5%を取得費とみなす概算取得費を適用できます。

ただし、実際の取得費が判明すれば、そちらを使用する方が有利になるケースもあります。売買契約書・領収書・通帳記録等の資料を探すことをおすすめします。

相続税額の取得費加算の特例|相続税の一部を取得費に加算できる

相続開始から3年10ヶ月以内に相続財産を売却すると、相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。

適用要件:相続開始から3年10ヶ月以内の売却

国税庁の公式ページによると、以下の要件を満たす必要があります。

  • 相続または遺贈により財産を取得している
  • 相続税が課税されている
  • 相続開始の翌日から相続税申告期限(10ヶ月)の翌日以後3年以内に売却している

計算方法と節税効果

取得費に加算できる相続税額 = 相続税額 × 売却した財産の相続税評価額 ÷ 相続税の課税価格

例:相続税200万円、売却不動産の評価額5000万円、課税価格1億円の場合

  • 加算額 = 200万円 × 5000万円 ÷ 1億円 = 100万円

この100万円を取得費に加算できるため、譲渡所得が減り、譲渡所得税を大幅に減額できます。

併用可能な特例(空き家特例等)

取得費加算の特例と空き家特例(3000万円控除)は併用できません。どちらか有利な方を選択する必要があります。個別事情で有利不利が異なるため、税理士への相談が推奨されます。

空き家特例で3000万円控除|昭和56年以前の建物が対象

昭和56年5月31日以前に建築された相続空き家を、一定の要件を満たして売却すると、3000万円または2000万円の特別控除が受けられます。

適用要件:耐震基準適合または解体後売却

国税庁の公式ページによると、以下の要件を満たす必要があります。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された建物
  • 相続開始直前まで被相続人が一人で居住していた
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
  • 売却価格が1億円以下
  • 以下のいずれかを満たす
    • 耐震基準に適合するようリフォーム後に売却
    • 建物を解体して土地のみで売却

控除額は3000万円または2000万円(2027年12月31日まで)

2027年12月31日までに売却した場合、以下の控除が受けられます。

  • 2023年12月31日以前の相続:3000万円控除
  • 2024年1月1日以降の相続:2000万円控除

国土交通省が推奨する空き家対策

国土交通省は、空き家の発生を抑制するため、この特例を政策的に推進しています。空き家の放置は近隣住民への悪影響や治安悪化につながるため、早期の売却・活用が推奨されています。

節税対策のポイントと税理士への相談タイミング

相続不動産の売却で譲渡所得税を抑えるポイントは以下の通りです。

  • 取得費加算の特例・空き家特例の活用: 適用要件を満たす場合、大幅な減額が期待できる
  • 実際の取得費を証明する資料の収集: 概算取得費(5%)より有利になる可能性がある
  • 長期譲渡所得の税率適用を狙ったタイミング調整: 所有期間5年超で税率が半減

個別具体的な税額計算や申告は税理士への相談が必須です。税理士法により、税理士以外が有償で税務相談を行うことは禁止されています。

特に以下のケースでは早めの相談が推奨されます。

  • 取得費が不明で概算取得費を適用する場合
  • 複数の特例を比較検討したい場合
  • 共有持分がある場合

まとめ|相続不動産の譲渡所得税は特例活用で大幅減額可能

相続不動産の譲渡所得税は、被相続人の取得費を引き継ぐため、概算取得費(5%)より有利になる可能性があります。

取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)・空き家特例(3000万円控除)等を活用すれば、税負担を大幅に減額できます。

相続税と譲渡所得税は別制度であることを理解し、適切な特例を選択することが重要です。税理士への相談・国税庁の公式ページ確認を次のステップとして検討することをおすすめします。

よくある質問

Q1相続税を払ったのに譲渡所得税もかかるのですか?

A1相続税と譲渡所得税は別制度です。相続時にかかる税金と売却時の利益にかかる税金は別物です。ただし取得費加算の特例を使えば、相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得税を減額できます(相続開始から3年10ヶ月以内の売却が条件)。

Q2取得費が不明な場合はどうすればいいですか?

A2売却価格の5%を取得費とみなす概算取得費を適用できます。ただし実際の購入価格が判明すれば、そちらを使用する方が有利になるケースもあります。売買契約書・領収書・通帳記録等の資料を探し、税理士に相談することをおすすめします。

Q3空き家特例と取得費加算の特例は併用できますか?

A3併用できません。空き家特例(3000万円控除)を選ぶか、取得費加算の特例を選ぶか、どちらか有利な方を選択する必要があります。個別事情で有利不利が異なるため、税理士への相談が推奨されます。

Q4相続不動産の所有期間はいつから数えますか?

A4被相続人が取得した時点から数えます。相続人が相続した時点ではありません。例えば被相続人が20年前に購入した不動産を相続後すぐに売却しても、所有期間は20年とみなされ、長期譲渡所得(税率20.315%)が適用されます。