住宅ローン減税と一括払いどっちが得?損益分岐点を徹底比較

公開日: 2025/11/11

住宅ローン減税と一括払いどっちが得?基礎知識

住宅購入資金を一括で支払える余裕がある方の中には、「住宅ローンを組んで減税を受けるべきか、一括で払うべきか」と悩む方は少なくありません。

この記事では、住宅ローン減税の仕組み、一括払いのメリット・デメリット、損益分岐点の計算方法を、国税庁や住宅金融支援機構の公式情報を元に解説します。

初めて住宅ローン減税を検討する方でも、自分の状況に応じた最適な選択ができるようになります。

この記事のポイント

  • 住宅ローン控除は年末残高の0.7%を最大13年間所得税・住民税から控除(2022年以降入居者)
  • 低金利(0.5%前後)なら控除額が利息を上回るケースが多い
  • 所得税額が少ないと控除しきれない、変動金利上昇リスクにも注意
  • 一括払いは利息負担ゼロ・団信保障喪失・手元資金枯渇のリスクあり
  • 判断基準:金利水準・所得税額・家計の余裕度・金利上昇リスクへの耐性

住宅ローン控除(減税)の仕組みとメリット

住宅ローン控除(住宅ローン減税)は、住宅ローンを利用して住宅を取得した場合に、所得税・住民税から一定額を控除する制度です。

控除額の計算方法

2022年以降に入居した場合、以下のルールで控除額が決まります。

  • 控除率:年末残高の0.7%
  • 控除期間:最大13年間(新築住宅、2024年入居まで)
  • 借入限度額:長期優良住宅5,000万円、ZEH水準4,500万円、省エネ基準4,000万円、その他3,000万円

(参考: 国税庁 - 住宅ローン控除

計算例(長期優良住宅、借入5,000万円、2025年時点の変動金利0.5%前後を例に計算)

年末残高 控除額(0.7%) 年間利息(0.5%) 差額(控除額-利息)
1年目 4,850万円 33.9万円 24.3万円 +9.6万円
5年目 4,250万円 29.8万円 21.3万円 +8.5万円
10年目 3,400万円 23.8万円 17.0万円 +6.8万円

低金利(0.5%)の場合、控除額が利息を上回るため、住宅ローンを組む方が経済的に有利です。

控除を受けるための条件

住宅ローン控除を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 床面積50㎡以上(新築、2023年までの契約は40㎡以上)
  • 10年以上のローン
  • 年収3,000万円以下(2022年以降)
  • 入居時期:2025年12月31日まで(2026年以降は制度変更の可能性)

一括払いのメリットとデメリット

一括払い(現金購入)には、以下のメリット・デメリットがあります。

メリット:利息負担ゼロ・返済の心配不要

一括払いの最大のメリットは、利息負担がゼロであることです。35年間で数百万円の利息を支払う必要がなく、総支払額が最小化されます。

また、毎月の返済の心配がなく、精神的な負担が軽減されます。失業・病気などで収入が途絶えても、住宅を失うリスクがありません。

デメリット:団信保障喪失・手元資金枯渇・機会損失

一方で、一括払いには以下のデメリットがあります。

団信保障喪失リスク

住宅ローンを組むと、団体信用生命保険(団信)により、契約者が死亡・高度障害になった場合に残債が免除されます。一括払いでは団信保障がなく、万が一の際に家族に住宅ローンが残りません。

手元資金枯渇リスク

一括払いで現金が減ると、病気・失業等の緊急事態に対応できなくなる可能性があります。住宅購入後も、生活費の6ヶ月〜1年分は手元資金として残しておくことが推奨されます。

機会損失リスク

低金利(0.4%)で借りて手元資金を投資(年利3-5%)すれば、一括払いより総資産が増える可能性があります。ただし、投資にはリスクが伴うため、慎重な判断が必要です。

損益分岐点:金利0.7%が重要なライン

住宅ローン控除と一括払いの損益分岐点は、**金利0.7%**です。

金利0.7%以下:住宅ローンが有利

金利0.7%以下(控除率と同じ)の場合、控除額が利息を上回るため、住宅ローンを組む方が経済的に有利です。

住宅金融支援機構のフラット35金利推移によると、2025年時点の変動金利は0.4%前後、固定金利(35年)は1.5%前後のため、変動金利であれば控除が有利です。

金利0.7%超:一括払いが有利

金利0.7%を超える場合、利息が控除額を上回るため、一括払いの方が総支払額が少なくなります。

所得税額が少ない場合の注意点

控除は所得税額が上限です。所得税額が少ないと、控除を満額受けられません。

年収別の控除可能額(目安)

年収 所得税額(概算) 控除可能額
300万円 5万円 5万円
400万円 10万円 10万円
500万円 15万円 15万円
600万円 20万円 20万円
700万円以上 25万円以上 控除枠の上限まで

年収400万円以下の場合、控除枠(最大35万円)を満額活用できない可能性があります。

ケース別の判断基準:どちらを選ぶべきか

住宅ローン減税と一括払いのどちらが得かは、以下の基準で判断してください。

ケース1:低金利+高所得+手元資金に余裕あり → 住宅ローンが有利

以下の条件を満たす場合、住宅ローンを組む方が経済的に有利です。

  • 金利0.7%以下(変動金利0.4%前後)
  • 年収600万円以上(控除を満額活用可能)
  • 手元資金に余裕あり(生活費の6ヶ月〜1年分を残せる)

控除額が利息を上回り、手元資金も確保できるため、住宅ローンを組む方が総資産が増えます。

ケース2:高金利+低所得+手元資金が限られる → 一括払いが有利

以下の条件を満たす場合、一括払いの方が経済的に有利です。

  • 金利0.7%超(固定金利1.5%など)
  • 年収400万円以下(控除を満額活用できない)
  • 手元資金が限られる(一括払い後も生活費を確保できる)

利息が控除を上回り、控除も満額活用できないため、一括払いの方が総支払額が少なくなります。

ケース3:変動金利上昇リスクが心配 → 一括払いまたは繰上返済

変動金利は、日銀の政策金利により変動します。今後、金利が0.7%を超えると、利息が控除を上回る可能性があります。

金利上昇リスクを避けたい場合は、一括払いまたは繰上返済を検討してください。

住宅ローン減税と一括払いのシミュレーション例

具体的な数値例で、住宅ローン減税と一括払いを比較します。

前提条件

  • 物件価格:5,000万円
  • 頭金:1,000万円
  • 借入額:4,000万円
  • 金利:0.5%(変動金利)
  • 返済期間:35年
  • 年収:600万円(所得税額20万円/年)

パターン1:住宅ローン(控除あり)

項目 金額
総返済額 4,373万円(元金4,000万円+利息373万円)
控除額(13年間) 280万円(20万円×13年+α)
実質負担 4,093万円

パターン2:一括払い

項目 金額
総支払額 4,000万円(元金のみ)
控除額 0円
実質負担 4,000万円

結論:住宅ローン(控除あり)の方が、実質負担が93万円多くなります。ただし、手元資金を投資(年利3%)に回せば、総資産が増える可能性があります。

まとめ:自分の状況に応じた最適な選択を

住宅ローン減税と一括払いのどちらが得かは、金利水準・所得税額・家計の余裕度により異なります。

  • 低金利(0.5%前後)+高所得(600万円以上):住宅ローンが有利
  • 高金利(0.7%超)+低所得(400万円以下):一括払いが有利
  • 変動金利上昇リスクが心配:一括払いまたは繰上返済

住宅ローン控除は2025年入居までの制度のため、2026年以降は制度変更の可能性があります。最新情報は国税庁の公式サイトで確認してください。

ファイナンシャルプランナーや金融機関に相談し、自分の状況に応じた最適な選択をすることをおすすめします。

よくある質問

Q1住宅ローン控除を満額受けるには年収いくら必要ですか?

A1控除枠は最大で年35万円(長期優良住宅、借入5,000万円の場合)ですが、所得税額が上限です。年収600万円以上であれば、所得税額が20万円以上となり、控除枠の一部を活用できます。控除枠を満額活用するには年収700万円以上が目安です。詳細は給与所得控除・基礎控除等により変動するため、ファイナンシャルプランナーや税理士に相談することをおすすめします。

Q2変動金利が0.7%を超えたらどうすればいいですか?

A2金利が0.7%を超えると、利息が控除額を上回り、住宅ローンの経済的メリットが減少します。この場合、繰上返済(一部または全部)を検討してください。繰上返済には「返済額軽減型」と「期間短縮型」があり、期間短縮型の方が総利息を大きく削減できます。ただし、手元資金を残すことも重要なため、生活費の6ヶ月〜1年分を確保した上で繰上返済を判断しましょう。

Q3団体信用生命保険(団信)の保障額はどのくらいですか?

A3団信の保障額は、住宅ローンの残債額です。契約者が死亡・高度障害になった場合、残債が全額免除されます。例えば、残債3,000万円の時点で死亡した場合、3,000万円の保障が適用されます。一括払いまたは繰上返済で残債が減ると、団信の保障額も減少します。家族の生活を守るために団信保障を重視する場合は、一括払いよりも住宅ローンを組む方が安心です。

Q4繰上返済すると住宅ローン控除はどうなりますか?

A4繰上返済すると、年末残高が減るため、控除額も減少します。控除期間中(最大13年間)は、繰上返済よりも手元資金を残す方が経済的に有利な場合があります。ただし、金利が0.7%を超える場合は、繰上返済の方が総支払額が少なくなります。繰上返済のタイミングは、金利水準・控除期間の残り年数・手元資金の余裕度を考慮して判断してください。

Q52026年以降も住宅ローン控除は利用できますか?

A52025年12月31日までの入居が現行制度の対象です。2026年以降は制度変更の可能性があり、控除率・控除期間・借入限度額が縮小される可能性があります。国税庁の公式サイトで最新情報を確認し、住宅購入のタイミングを検討してください。制度変更後は、住宅ローン減税のメリットが減少するため、一括払いの方が有利になる可能性もあります。