住宅ローン減税と一括払いどっちが得?基礎知識
住宅購入資金を一括で支払える余裕がある方の中には、「住宅ローンを組んで減税を受けるべきか、一括で払うべきか」と悩む方は少なくありません。
この記事では、住宅ローン減税の仕組み、一括払いのメリット・デメリット、損益分岐点の計算方法を、国税庁や住宅金融支援機構の公式情報を元に解説します。
初めて住宅ローン減税を検討する方でも、自分の状況に応じた最適な選択ができるようになります。
この記事のポイント
- 住宅ローン控除は年末残高の0.7%を最大13年間所得税・住民税から控除(2022年以降入居者)
- 低金利(0.5%前後)なら控除額が利息を上回るケースが多い
- 所得税額が少ないと控除しきれない、変動金利上昇リスクにも注意
- 一括払いは利息負担ゼロ・団信保障喪失・手元資金枯渇のリスクあり
- 判断基準:金利水準・所得税額・家計の余裕度・金利上昇リスクへの耐性
住宅ローン控除(減税)の仕組みとメリット
住宅ローン控除(住宅ローン減税)は、住宅ローンを利用して住宅を取得した場合に、所得税・住民税から一定額を控除する制度です。
控除額の計算方法
2022年以降に入居した場合、以下のルールで控除額が決まります。
- 控除率:年末残高の0.7%
- 控除期間:最大13年間(新築住宅、2024年入居まで)
- 借入限度額:長期優良住宅5,000万円、ZEH水準4,500万円、省エネ基準4,000万円、その他3,000万円
(参考: 国税庁 - 住宅ローン控除)
計算例(長期優良住宅、借入5,000万円、2025年時点の変動金利0.5%前後を例に計算)
| 年 | 年末残高 | 控除額(0.7%) | 年間利息(0.5%) | 差額(控除額-利息) |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 4,850万円 | 33.9万円 | 24.3万円 | +9.6万円 |
| 5年目 | 4,250万円 | 29.8万円 | 21.3万円 | +8.5万円 |
| 10年目 | 3,400万円 | 23.8万円 | 17.0万円 | +6.8万円 |
低金利(0.5%)の場合、控除額が利息を上回るため、住宅ローンを組む方が経済的に有利です。
控除を受けるための条件
住宅ローン控除を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 床面積50㎡以上(新築、2023年までの契約は40㎡以上)
- 10年以上のローン
- 年収3,000万円以下(2022年以降)
- 入居時期:2025年12月31日まで(2026年以降は制度変更の可能性)
一括払いのメリットとデメリット
一括払い(現金購入)には、以下のメリット・デメリットがあります。
メリット:利息負担ゼロ・返済の心配不要
一括払いの最大のメリットは、利息負担がゼロであることです。35年間で数百万円の利息を支払う必要がなく、総支払額が最小化されます。
また、毎月の返済の心配がなく、精神的な負担が軽減されます。失業・病気などで収入が途絶えても、住宅を失うリスクがありません。
デメリット:団信保障喪失・手元資金枯渇・機会損失
一方で、一括払いには以下のデメリットがあります。
団信保障喪失リスク
住宅ローンを組むと、団体信用生命保険(団信)により、契約者が死亡・高度障害になった場合に残債が免除されます。一括払いでは団信保障がなく、万が一の際に家族に住宅ローンが残りません。
手元資金枯渇リスク
一括払いで現金が減ると、病気・失業等の緊急事態に対応できなくなる可能性があります。住宅購入後も、生活費の6ヶ月〜1年分は手元資金として残しておくことが推奨されます。
機会損失リスク
低金利(0.4%)で借りて手元資金を投資(年利3-5%)すれば、一括払いより総資産が増える可能性があります。ただし、投資にはリスクが伴うため、慎重な判断が必要です。
損益分岐点:金利0.7%が重要なライン
住宅ローン控除と一括払いの損益分岐点は、**金利0.7%**です。
金利0.7%以下:住宅ローンが有利
金利0.7%以下(控除率と同じ)の場合、控除額が利息を上回るため、住宅ローンを組む方が経済的に有利です。
住宅金融支援機構のフラット35金利推移によると、2025年時点の変動金利は0.4%前後、固定金利(35年)は1.5%前後のため、変動金利であれば控除が有利です。
金利0.7%超:一括払いが有利
金利0.7%を超える場合、利息が控除額を上回るため、一括払いの方が総支払額が少なくなります。
所得税額が少ない場合の注意点
控除は所得税額が上限です。所得税額が少ないと、控除を満額受けられません。
年収別の控除可能額(目安)
| 年収 | 所得税額(概算) | 控除可能額 |
|---|---|---|
| 300万円 | 5万円 | 5万円 |
| 400万円 | 10万円 | 10万円 |
| 500万円 | 15万円 | 15万円 |
| 600万円 | 20万円 | 20万円 |
| 700万円以上 | 25万円以上 | 控除枠の上限まで |
年収400万円以下の場合、控除枠(最大35万円)を満額活用できない可能性があります。
ケース別の判断基準:どちらを選ぶべきか
住宅ローン減税と一括払いのどちらが得かは、以下の基準で判断してください。
ケース1:低金利+高所得+手元資金に余裕あり → 住宅ローンが有利
以下の条件を満たす場合、住宅ローンを組む方が経済的に有利です。
- 金利0.7%以下(変動金利0.4%前後)
- 年収600万円以上(控除を満額活用可能)
- 手元資金に余裕あり(生活費の6ヶ月〜1年分を残せる)
控除額が利息を上回り、手元資金も確保できるため、住宅ローンを組む方が総資産が増えます。
ケース2:高金利+低所得+手元資金が限られる → 一括払いが有利
以下の条件を満たす場合、一括払いの方が経済的に有利です。
- 金利0.7%超(固定金利1.5%など)
- 年収400万円以下(控除を満額活用できない)
- 手元資金が限られる(一括払い後も生活費を確保できる)
利息が控除を上回り、控除も満額活用できないため、一括払いの方が総支払額が少なくなります。
ケース3:変動金利上昇リスクが心配 → 一括払いまたは繰上返済
変動金利は、日銀の政策金利により変動します。今後、金利が0.7%を超えると、利息が控除を上回る可能性があります。
金利上昇リスクを避けたい場合は、一括払いまたは繰上返済を検討してください。
住宅ローン減税と一括払いのシミュレーション例
具体的な数値例で、住宅ローン減税と一括払いを比較します。
前提条件
- 物件価格:5,000万円
- 頭金:1,000万円
- 借入額:4,000万円
- 金利:0.5%(変動金利)
- 返済期間:35年
- 年収:600万円(所得税額20万円/年)
パターン1:住宅ローン(控除あり)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総返済額 | 4,373万円(元金4,000万円+利息373万円) |
| 控除額(13年間) | 280万円(20万円×13年+α) |
| 実質負担 | 4,093万円 |
パターン2:一括払い
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総支払額 | 4,000万円(元金のみ) |
| 控除額 | 0円 |
| 実質負担 | 4,000万円 |
結論:住宅ローン(控除あり)の方が、実質負担が93万円多くなります。ただし、手元資金を投資(年利3%)に回せば、総資産が増える可能性があります。
まとめ:自分の状況に応じた最適な選択を
住宅ローン減税と一括払いのどちらが得かは、金利水準・所得税額・家計の余裕度により異なります。
- 低金利(0.5%前後)+高所得(600万円以上):住宅ローンが有利
- 高金利(0.7%超)+低所得(400万円以下):一括払いが有利
- 変動金利上昇リスクが心配:一括払いまたは繰上返済
住宅ローン控除は2025年入居までの制度のため、2026年以降は制度変更の可能性があります。最新情報は国税庁の公式サイトで確認してください。
ファイナンシャルプランナーや金融機関に相談し、自分の状況に応じた最適な選択をすることをおすすめします。
