個人事業主の住宅ローン審査の現状
個人事業主やフリーランスの方が住宅購入を検討する際、「住宅ローンに通らないのではないか」「審査が厳しいと聞いた」と不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
結論から言うと、個人事業主でも住宅ローンは組めます。国土交通省の調査では、977の金融機関のうち「自営業者対象外」はわずか10機関のみです。ただし、会社員と比べて審査基準が厳しく、通らない原因を理解し、対策を講じる必要があります。この記事では、個人事業主が住宅ローン審査に通らない理由、審査基準、通過するための具体的な対策を、フラット35や大手銀行の公式情報をもとに解説します。
個人事業主の方が、審査のポイント・通らない原因・有利な金融機関選びを具体的に把握できるようになります。
この記事のポイント
- 個人事業主でも住宅ローンは組めるが、会社員より審査が厳しい
- 審査は「年収」ではなく「所得(収入-経費)」で判定され、節税しすぎると借入額が減る
- 3期連続黒字、税金・保険料の滞納なし、事業年数3年以上が一般的な条件
- フラット35は個人事業主に有利(決算書不要、確定申告書2期分でOK、事業年数指定なし)
- 自己資金(頭金)を多く用意し、複数社(5社以上推奨)に申請することが重要
個人事業主が審査で不利になる理由
(1) 収入の不安定性(景気変動・季節変動)
個人事業主の収入は、景気変動や季節変動の影響を受けやすく、会社員のように毎月安定した給与が保証されていません。金融機関は、長期にわたる返済能力を重視するため、収入の不安定性がマイナス評価につながります。
(2) 審査は「年収」ではなく「所得」で判定される
個人事業主の審査では、「年収」ではなく「所得(収入-経費)」が基準となります。経費控除後の実質的な返済能力を見るためです。
節税のために経費を多く計上し、所得を低く申告していると、借入可能額が大幅に減少する点に注意が必要です。
(3) 必要書類が多く複雑(確定申告書3期分、納税証明書等)
会社員は源泉徴収票1枚で所得証明できますが、個人事業主は以下の書類が必要です。
- 確定申告書: 通常2〜3期分
- 納税証明書: 税務署発行、税金の納付状況を証明
- 事業計画書: 一部金融機関で必要
書類の準備に手間がかかり、不備があると審査が進まない場合があります。
(4) 事業の継続性が重視される
金融機関は、事業が将来にわたって継続できるかを重視します。一般的に事業年数3年以上が求められ、開業から間もない場合は審査に通りにくくなります。
審査に落ちる主な原因
(1) 3期のうち1期でも赤字決算がある
多くの金融機関では、直近3期連続で黒字決算を求めます。3期のうち1期でも赤字があると、審査に落ちる可能性が高くなります。
赤字決算は「事業が不安定」「返済能力に不安」と判断されるためです。
(2) 税金・社会保険料の滞納
税金(所得税、住民税、事業税)や社会保険料の滞納は、審査落ちの大きな原因です。少額でも未払いがあると審査で不利になります。
完済してから申込を行う必要があります。
(3) 節税しすぎて所得が低い
節税のために経費を多く計上し、所得を低く抑えていると、住宅ローンの借入可能額が想定より大幅に少なくなります。
例えば、年収600万円でも経費300万円を計上すると、所得は300万円となり、借入可能額は所得ベースで計算されます。
(4) 事業年数が短い(3年未満)
一般的に、事業年数3年以上が求められます。開業から3年未満の場合、事業の継続性が不透明と判断され、審査に通りにくくなります。
(5) 自己資金(頭金)が不足している
自己資金(頭金)が少ないと、借入額が増え、返済負担率が高くなります。返済負担率が30%を超えると審査に通りにくくなります。
理想的には、返済負担率20〜25%以下に抑えることが推奨されます。
| 審査落ちの原因 | 影響度 | 対策 |
|---|---|---|
| 3期のうち1期でも赤字 | 高 | 黒字決算を3期連続で維持 |
| 税金・保険料の滞納 | 高 | 完済してから申込 |
| 所得が低い(節税しすぎ) | 中〜高 | 所得と借入額のバランスを考える |
| 事業年数3年未満 | 中 | フラット35を検討(年数指定なし) |
| 自己資金不足 | 中 | 頭金を多く用意(返済負担率20〜25%以下) |
審査に通るための具体的な対策
(1) 所得を安定させる(3期連続黒字が理想)
直近3期連続で黒字決算を維持することが重要です。赤字決算がある場合は、黒字化してから住宅ローンを申し込むことをおすすめします。
所得が年ごとに大きく変動する場合は、金融機関に事業計画書を提出し、安定性をアピールすることも有効です。
(2) 節税と借入額のバランスを考える
節税と住宅ローンの借入額はトレードオフの関係です。住宅購入を検討している場合、数年間は経費計上を抑え、所得を高く保つことを検討してください。
例えば、住宅購入の3年前から所得を意図的に高めに申告し、審査に備える方法があります。
(3) 自己資金(頭金)を多く用意する(返済負担率20〜25%以下)
自己資金(頭金)を多く用意することで、借入額を抑え、返済負担率を下げることができます。返済負担率20〜25%以下が理想的です。
返済負担率 = 年間返済額 ÷ 所得 × 100
頭金を2〜3割用意することで、審査通過率が大幅に向上します。
(4) 税金・保険料の滞納を解消する
税金(所得税、住民税、事業税)や社会保険料の滞納がある場合、完済してから申込を行う必要があります。
納税証明書を提出する際に、滞納がないことを証明できるようにしてください。
(5) フラット35を検討する(決算書不要、事業年数指定なし)
フラット35は、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携する長期固定金利住宅ローンで、個人事業主に有利な条件が揃っています。
- 決算書不要: 確定申告書2期分でOK
- 事業年数指定なし: 開業から1〜2年でも申込可能
- 所得証明が柔軟: 2期分の所得を平均して判定
フラット35の2025年5月時点の金利は年1.82%(融資率9割以下、21年以上、最頻金利)です。
個人事業主が審査に通りやすい金融機関の選び方
(1) フラット35(最も通りやすい)
フラット35は、個人事業主にとって最も通りやすい住宅ローンです。決算書不要、事業年数指定なし、確定申告書2期分でOKという点が大きなメリットです。
全期間固定金利のため、金利上昇リスクもありません。
(2) SBI新生銀行(業歴2年・所得300万円以上から)
SBI新生銀行は、業歴2年・所得300万円以上から申込可能で、多くの銀行が3年以上を要求する中、個人事業主に優しい条件を提示しています。
(3) auじぶん銀行、りそな銀行
auじぶん銀行、りそな銀行も、個人事業主向けの柔軟な審査を行っています。ネット銀行は対面相談がないため、書類の準備が重要です。
(4) メインバンクに相談するメリット
日頃から取引のあるメインバンクに相談することで、事業の実態を理解してもらいやすく、審査に通りやすくなる場合があります。
事業用口座の入出金履歴を把握しているため、所得の安定性を評価してもらいやすい点もメリットです。
(5) 複数社(5社以上推奨)に申請する
審査基準は金融機関により異なるため、複数社(5社以上推奨)に申請することが重要です。A社で落ちてもB社で通る可能性があります。
一度に複数社に申し込んでも、信用情報に大きな影響はありません(短期間の複数申込は住宅ローン申込と判断される)。
| 金融機関 | 事業年数 | 所得条件 | 必要書類 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| フラット35 | 指定なし | - | 確定申告書2期分 | 最も通りやすい、全期間固定金利 |
| SBI新生銀行 | 2年以上 | 300万円以上 | 確定申告書2期分 | 業歴2年からOK |
| auじぶん銀行 | 3年以上 | - | 確定申告書3期分 | ネット銀行、審査が柔軟 |
| りそな銀行 | 3年以上 | - | 確定申告書3期分 | 地域密着、対面相談可 |
| メインバンク | 要相談 | 要相談 | 要相談 | 事業の実態を理解、審査に有利 |
(出典: 各金融機関公式サイト、2025年1月時点)
まとめ:個人事業主が住宅ローン審査を通過するために
個人事業主でも住宅ローンは組めますが、会社員と比べて審査が厳しく、3期連続黒字、税金・保険料の滞納なし、事業年数3年以上が一般的な条件です。審査は「年収」ではなく「所得(収入-経費)」で判定されるため、節税しすぎると借入可能額が大幅に減少します。
審査に通るための対策として、以下を実践してください。
- 所得を安定させる: 3期連続黒字を維持
- 節税と借入額のバランス: 住宅購入前は所得を高めに申告
- 自己資金を多く用意: 頭金2〜3割、返済負担率20〜25%以下
- 税金・保険料の滞納を解消: 完済してから申込
- フラット35を検討: 決算書不要、事業年数指定なし、個人事業主に有利
- 複数社に申請: 5社以上に申し込み、審査通過率を高める
フラット35は、個人事業主にとって最も通りやすい住宅ローンです。決算書不要、事業年数指定なし、確定申告書2期分でOKという点が大きなメリットです。
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