不動産投資で利回りが重要な理由
不動産投資を検討する際、「利回り」は最も重要な指標の1つです。物件価格に対してどれだけの収益が得られるかを示す利回りを正しく理解することで、投資判断の精度が大きく向上します。
この記事では、表面利回りと実質利回りの違い、計算方法、エリア・物件種別ごとの目安、高利回り物件のリスクを、複数の不動産会社の情報を元に解説します。
初めて不動産投資を検討する方でも、利回りを正しく計算し、リスクを把握した上で投資判断ができるようになります。
この記事のポイント
- 利回りには「表面利回り」と「実質利回り」の2種類があり、実質利回りは表面利回りより2〜3%程度低くなる
- 表面利回りは経費を含まない単純計算で、実質利回りは全経費を含むため実際の収益性に近い
- 新築区分マンションの理想的な利回りは4〜5%程度、一棟アパートは7〜10%程度が目安
- 物件比較時は表面利回りで絞り込み、購入判断時は実質利回りで最終判断するのが推奨される
- 高利回り物件には築古・立地が悪い・空室リスクが高いなどのリスクがあり、利回りだけで判断してはいけない
利回りの種類と計算方法
不動産投資の利回りには、主に「表面利回り」と「実質利回り」の2種類があります。それぞれの違いを正確に理解することが重要です。
(1) 表面利回り(グロス利回り)とは
表面利回りは、年間家賃収入を物件購入価格で割った単純な利回りです。各種経費を含まないため、実際の収益性より高く表示されます。
計算式:
表面利回り(%)= 年間家賃収入 ÷ 物件購入価格 × 100
計算例:
- 物件価格: 3,000万円
- 年間家賃収入: 180万円(月15万円×12ヶ月)
表面利回り = 180万円 ÷ 3,000万円 × 100 = 6.0%
物件広告で表示される利回りは、通常この「表面利回り」です。物件比較時の絞り込みには便利ですが、実際の収益性を判断するには不十分です。
(2) 実質利回り(ネット利回り)とは
実質利回りは、年間家賃収入から諸経費を差し引いた純収益を、物件価格と購入時諸経費の合計で割った利回りです。実際の収益性に近い指標となります。
計算式:
実質利回り(%)= (年間家賃収入 - 年間諸経費)÷(物件価格 + 購入時諸経費)× 100
計算例:
- 物件価格: 3,000万円
- 購入時諸経費: 200万円(仲介手数料、登記費用等)
- 年間家賃収入: 180万円
- 年間諸経費: 60万円(管理費、修繕積立金、税金等)
実質利回り = (180万円 - 60万円)÷(3,000万円 + 200万円)× 100 = 3.75%
表面利回り6.0%の物件でも、実質利回りは3.75%まで下がることが分かります。
(3) 2つの利回りの違いと換算方法
表面利回りと実質利回りの主な違いを表で整理すると以下のようになります。
| 項目 | 表面利回り | 実質利回り |
|---|---|---|
| 計算式 | 年間家賃÷物件価格×100 | (年間家賃-諸経費)÷(物件価格+購入諸経費)×100 |
| 経費の考慮 | なし | あり(全経費を含む) |
| 表示される数値 | 高め | 低め(表面より2〜3%低い) |
| 使用場面 | 物件比較・絞り込み | 購入判断・実際の収益計算 |
| 広告での表示 | ほとんどがこちら | ほとんど表示されない |
一般的に、実質利回りは表面利回りより2〜3%程度低くなります。経費が多い物件(管理費・修繕積立金が高い等)では、4〜5%の差がつくこともあります。
エリア・物件種別ごとの利回り目安
利回りの相場は、物件種別とエリアにより大きく異なります。
(1) 物件種別ごとの利回り相場
物件種別による利回りの目安を表で示すと以下のようになります。
| 物件種別 | 表面利回り(目安) | 実質利回り(目安) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 新築区分マンション | 4〜5% | 2〜3% | 少額で始められるが利回りは低め |
| 中古区分マンション | 5〜7% | 3〜4% | 築年数により利回りが上昇 |
| 新築一棟アパート | 7〜9% | 5〜6% | 建築費高騰により利回り低下傾向 |
| 中古一棟アパート | 8〜12% | 6〜9% | 高利回りだが修繕リスクも高い |
| 一棟マンション | 6〜8% | 4〜6% | 高額だが安定収益が期待できる |
(参考: 複数の不動産会社データを元に作成。2025年時点の目安)
新築区分マンションの理想的な利回りは**4〜5%**程度とされています。築年数が古い物件は、0.5%程度高くなる傾向があります。
(2) エリア別の利回り相場
エリアにより利回り相場は大きく異なります。
| エリア | 表面利回り(区分マンション) | 特徴 |
|---|---|---|
| 東京都心(港区・千代田区等) | 3〜5% | 物件価格が高く利回りは低いが、空室リスクも低い |
| 東京23区(城東・城西等) | 4〜6% | バランスが良く、初心者向け |
| 地方政令指定都市 | 5〜8% | 利回りは高めだが、人口減少リスクに注意 |
| 地方都市 | 8〜12% | 高利回りだが空室リスク・売却困難リスクが高い |
(参考: 複数の不動産情報サイトのデータを元に作成。2025年時点の目安)
エリアによる利回り差は、物件価格と家賃のバランスによって生じます。都心は物件価格が高いため利回りは低いですが、需要が安定しており空室リスクは低い傾向があります。
(3) 2024年の市場動向と利回り低下傾向
2024年時点で、2年前と比べて全物件種別で利回りが低下傾向にあります。不動産価格の上昇が家賃収入の増加を上回っているためです。
低金利環境の継続により、投資用不動産の価格が上昇し、利回りが圧迫されています。この傾向は今後も続く可能性があるため、投資判断時には最新の市場動向を確認することが重要です。
実質利回りで見るべきコスト
実質利回りを正確に計算するには、全ての諸経費を把握する必要があります。
(1) 購入時の諸経費(仲介手数料・登記費用等)
物件購入時には、以下の諸経費が発生します。
- 仲介手数料: 物件価格の3%+6万円+消費税(上限)
- 登記費用: 登録免許税+司法書士報酬(合計で物件価格の1〜2%程度)
- 不動産取得税: 固定資産税評価額の3%(軽減措置あり)
- 印紙税: 売買契約書・金銭消費貸借契約書に必要(数万円程度)
- 融資手数料: ローン利用時(数十万円〜融資額の2%程度)
物件価格3,000万円の場合、購入時諸経費は150万円〜250万円程度が目安となります。
(2) 運用時の諸経費(管理費・修繕積立金・税金等)
毎年発生する運用時の諸経費には、以下の項目があります。
- 管理費: 月額1万円〜2万円程度(区分マンション)
- 修繕積立金: 月額1万円〜2万円程度(築年数により増額)
- 固定資産税・都市計画税: 固定資産税評価額の1.4%+0.3%(年額)
- 火災保険料: 年額1万円〜3万円程度
- 賃貸管理委託料: 家賃の5%程度(管理会社に委託する場合)
- 修繕費・リフォーム費: 退去時に発生(数十万円〜)
これらを合計すると、年間家賃収入の30〜40%程度が諸経費として発生します。
(3) 実質利回りの計算例
具体的な物件での実質利回りの計算例を示します。
物件条件:
- 物件価格: 3,000万円
- 購入時諸経費: 200万円
- 月額家賃: 15万円(年間180万円)
- 管理費: 月1.5万円(年18万円)
- 修繕積立金: 月1.5万円(年18万円)
- 固定資産税・都市計画税: 年12万円
- 火災保険料: 年2万円
- 賃貸管理委託料: 家賃の5%(年9万円)
計算:
年間諸経費 = 18万円 + 18万円 + 12万円 + 2万円 + 9万円 = 59万円
年間純収益 = 180万円 - 59万円 = 121万円
実質利回り = 121万円 ÷(3,000万円 + 200万円)× 100 = 3.78%
表面利回り6.0%の物件が、実質利回りでは3.78%まで下がることが分かります。
利回りだけで判断してはいけない理由
利回りは重要な指標ですが、これだけで投資判断をするのは危険です。
(1) 高利回り物件のリスク(築古・立地・空室)
利回り10%以上の高利回り物件には、以下のようなリスクが潜んでいることが多いです。
- 築年数が古い: 大規模修繕や設備故障のリスクが高く、想定外の出費が発生する可能性
- 立地が悪い: 駅から遠い、商業施設が少ない、治安が悪いなど、入居者が集まりにくい
- 空室リスクが高い: 人口減少エリアや供給過剰エリアでは、空室期間が長くなる
- 売却が困難: 将来的に買い手が見つからず、売却価格が大幅に下がる可能性
高利回りには相応の理由があるため、表面的な数字だけで飛びつかないよう注意が必要です。
(2) 空室リスクと満室想定の落とし穴
利回りの計算は、満室稼働を前提としています。実際には空室期間が発生するため、実質的な収入は計算値より下がります。
例:
- 表面利回り6.0%の物件
- 年間の空室率10%(12ヶ月中1.2ヶ月空室)
実質的な収入 = 180万円 × 0.9 = 162万円
実質的な利回り = 162万円 ÷ 3,000万円 × 100 = 5.4%
空室が発生すれば、利回りはさらに低下します。エリアの需給バランス・競合物件の状況を確認し、空室リスクを慎重に評価しましょう。
(3) 修繕費用と大規模修繕の負担
実質利回りの計算に含まれない費用もあります。
- 大規模修繕費用: 10〜15年ごとに発生(一棟物件の場合、数百万円〜数千万円)
- リフォーム費用: 退去時に発生(10万円〜100万円以上)
- 設備交換費用: エアコン・給湯器等の故障時(数十万円)
これらの費用は、実際の収益を大きく圧迫する可能性があります。築年数が古い物件ほど、修繕費用のリスクは高まります。
(4) 立地・将来性の総合的な検討
利回りだけでなく、以下の要素も総合的に検討する必要があります。
- 立地: 駅徒歩距離、商業施設・学校・病院へのアクセス、治安
- 人口動態: エリアの人口増減、年齢構成、世帯数の推移
- 競合状況: 周辺の賃貸物件の供給状況、家賃相場
- 将来性: 再開発計画、交通インフラの整備予定
- 管理状態: 共用部の清掃状況、管理組合の運営状況
これらの要素を総合的に判断することで、長期的に安定した収益を得られる物件を選ぶことができます。
まとめ:利回りを正しく活用する方法
不動産投資の利回りは、収益性を判断する重要な指標ですが、正しく理解し活用することが必要です。
利回りの使い分け:
- 物件比較・絞り込み: 表面利回りで候補を絞る
- 購入判断: 実質利回りで最終判断する
- 運用計画: 空室率・修繕費用を含めた実質的な収益を試算する
注意すべきポイント:
- 表面利回りと実質利回りの差は2〜3%程度(経費が多い物件では4〜5%)
- 高利回り物件には相応のリスク(築古・立地が悪い・空室リスク高)がある
- 利回りは満室想定のため、実際の収益は空室率により下がる
- 大規模修繕費用・リフォーム費用など、実質利回りに含まれない費用もある
投資判断の際の推奨事項:
- 複数の物件を比較し、エリア・築年数・管理状態を総合的に評価する
- 税理士・不動産鑑定士などの専門家に相談し、キャッシュフロー・税金対策を検討する
- 最新の市場動向(利回り低下傾向等)を確認する
利回りは投資判断の出発点ですが、立地・将来性・管理状態など多角的な視点で物件を評価することで、長期的に安定した不動産投資を実現できます。
