借地権付き建物とは|土地は借地・家は持ち家の仕組み
「土地は借地、家は持ち家」という状態について、「借地権とは何か」「メリット・デメリットは何か」「相続時や売却時にどうすればいいか」といった疑問を持つ方は多いでしょう。
この記事では、借地権付き建物の仕組み、借地権の種類、メリット・デメリット、地代や更新料、売却・相続時の注意点を、公的データや法律の解説を元に詳しく説明します。
初めて借地権付き建物に触れる方でも、具体的な情報をもとに判断できるようになります。
この記事のポイント
- 借地権とは、地代を払って他人から土地を借りて建物を建てる権利のこと
- 普通借地権は契約更新可能で半永久的に利用できるが、定期借地権は期間満了で土地返還が必要
- 初期費用が安く土地の固定資産税がかからないが、地代の継続的な負担がある
- 売却時は地主の承諾が必要で、譲渡承諾料(借地権価格の5〜15%)の支払いが一般的
- 相続時は地主の許可不要だが、2024年4月から相続登記が義務化された
(1) 借地権付き建物の基本的な仕組み
借地権付き建物とは、地主から借りた土地に自分の家を建てて所有している状態を指します。「土地は借地、家は持ち家」という表現がわかりやすいでしょう。
具体的には、以下のような状態です。
- 土地: 地主から借りている(借地権を保有)
- 建物: 自分が所有している(建物の所有権を保有)
- 地代: 地主に毎月または毎年支払う
- 土地の固定資産税: 地主が負担する
この仕組みにより、土地を購入せずに建物を所有できるため、初期費用を抑えることができます。
(2) 所有権との違い
借地権付き建物と所有権付き建物の主な違いは以下の通りです。
| 項目 | 借地権付き建物 | 所有権付き建物 |
|---|---|---|
| 土地の所有 | 借りている(借地権) | 所有している(所有権) |
| 初期費用 | 安い(土地代不要) | 高い(土地代が必要) |
| 地代 | 必要 | 不要 |
| 土地の固定資産税 | 地主が負担 | 自分が負担 |
| 売却時の制約 | 地主の承諾が必要 | 制約なし |
| 建替え・増改築 | 地主の承諾が必要な場合がある | 自由 |
所有権付き建物は自由度が高い一方、初期費用が高額です。借地権付き建物は初期費用が抑えられる一方、地主との関係性や制約があります。
(3) 借地権が選ばれる背景
借地権付き建物は、以下のような理由で選ばれることがあります。
- 好立地の物件を安く購入したい: 都心部など土地価格が高いエリアで、初期費用を抑えたい
- 土地の固定資産税を負担したくない: 地主が土地の固定資産税を負担するため、税負担が軽減される
- 長期的に住む予定: 普通借地権であれば契約更新が可能で、半永久的に利用できる
借地権の基礎知識|種類と法的根拠を理解する
(1) 借地借家法と借地権の法的根拠
借地権は、借地借家法に基づく権利です。この法律により、借地権者(借主)の権利が保護されており、地主が一方的に契約を解除することは困難です。
借地借家法は、1992年に旧借地法から改正され、普通借地権と定期借地権の2つの制度が設けられました。
(2) 普通借地権の特徴と存続期間
普通借地権は、契約更新が可能な借地権です。国土交通省によると、存続期間は以下の通りです。
- 当初の存続期間: 30年以上
- 更新後の存続期間: 初回は20年以上、以降は10年以上
正当な理由がない限り、地主は契約更新を拒絶できないため、実質的に半永久的に利用できます。
(3) 定期借地権の特徴と種類(一般定期・事業用定期・建物譲渡特約付)
定期借地権は、契約更新ができず、期間満了で土地を返還する必要がある借地権です。以下の3種類があります。
| 種類 | 存続期間 | 用途 | 期間満了時 |
|---|---|---|---|
| 一般定期借地権 | 50年以上 | 住宅・事業用 | 建物解体、更地で返還 |
| 事業用定期借地権 | 10年以上50年未満 | 事業用のみ | 建物解体、更地で返還 |
| 建物譲渡特約付借地権 | 30年以上 | 住宅・事業用 | 建物を地主に譲渡 |
定期借地権は、普通借地権と比べて契約が明確な一方、期間満了で土地を返還する必要があるため、長期的な居住を希望する場合は注意が必要です。
(4) 旧法借地権の扱い
1992年8月1日より前に設定された借地権は、旧借地法が適用されます。旧法借地権は、普通借地権と同様に契約更新が可能で、借主の権利が強く保護されています。
借地権付き住宅のメリット・デメリット
(1) メリット:初期費用が安い・土地の固定資産税負担なし
借地権付き住宅の主なメリットは以下の通りです。
初期費用が安い:
- 土地代が不要なため、所有権付き物件と比較して初期費用が大幅に抑えられる
- 都心部など土地価格が高いエリアでも、手頃な価格で購入できる
土地の固定資産税がかからない:
- 土地の所有者は地主であるため、土地の固定資産税は地主が負担する
- 借主は建物の固定資産税のみ負担すればよい
好立地の物件が多い:
- 借地権付き物件は、都心部や駅近など好立地にあることが多い
(2) デメリット:地代の継続的な負担・売却時の制約
借地権付き住宅の主なデメリットは以下の通りです。
地代の継続的な負担:
- 毎月または毎年、地代を地主に支払う必要がある
- 地代は立地や契約内容により異なるが、更地価格の2〜6%程度が目安
売却時の制約:
- 売却には地主の承諾が必要
- 譲渡承諾料として借地権価格の5〜15%を地主に支払うのが一般的
- 地主の承諾が得られない場合、売却が困難になる
建替え・増改築の制約:
- 建替えや大規模な増改築には、地主の承諾が必要な場合がある
- 承諾料を求められることもある
住宅ローンの制約:
- 借地権付き物件は、所有権付き物件と比べて住宅ローンの審査が厳しい場合がある
- 金融機関によっては融資を断られることもある
(3) 地主との関係性で考慮すべきこと
借地権付き住宅では、地主との良好な関係を維持することが重要です。以下の点に注意しましょう。
- 地代の支払い: 滞納せず、期限通りに支払う
- 契約内容の確認: 契約書を保管し、更新時期や条件を把握しておく
- 地主の変更: 地主が変わる場合があるため、新しい地主との関係構築が必要
地代・更新料・譲渡承諾料の詳細
(1) 地代の相場と計算方法
地代の相場は、立地や契約内容により大きく異なりますが、一般的には以下のような計算方法が使われます。
地代の目安:
- 更地価格の2〜6%程度(年額)
- 月額に換算すると、更地価格の0.17〜0.5%程度
例:
- 更地価格3,000万円の土地の場合、年間60〜180万円(月額5〜15万円)
地代は、契約時に金額と改定条件を確認しておくことが重要です。近年では、地価の変動や物価上昇を理由に、地代の値上げを求められるケースもあります。
(2) 更新料の支払い時期と金額
普通借地権の場合、契約更新時に更新料を支払うことが一般的です。
更新料の相場:
- 借地権価格の5〜10%程度
- 地域や契約内容により異なる
支払い時期:
- 契約更新時(当初契約から30年後、以降20年または10年ごと)
更新料の金額は、契約書に明記されていることが多いため、事前に確認しておきましょう。
(3) 譲渡承諾料(借地権価格の5〜15%)
借地権付き建物を第三者に売却する場合、地主の承諾が必要です。その際、地主に譲渡承諾料を支払うのが一般的です。
譲渡承諾料の相場:
- 借地権価格の5〜15%程度
- 地域や地主との関係により異なる
例:
- 借地権価格2,000万円の場合、100〜300万円
譲渡承諾料は法律で定められた金額ではなく、地主との交渉により決定されます。地主の承諾が得られない場合、借地非訟手続きにより裁判所に許可を求めることも可能です。
借地権付き建物の売却・相続時の注意点
(1) 売却時の手続きと地主の承諾
借地権付き建物を売却する際は、以下の手続きが必要です。
- 地主への承諾依頼: 売却の意思を地主に伝え、承諾を求める
- 譲渡承諾料の交渉: 譲渡承諾料の金額を地主と交渉する
- 売買契約: 買主と売買契約を締結
- 地主への名義変更通知: 地主に借地権者の変更を通知
地主の承諾が得られない場合、売却が困難になるため、事前に地主との関係を良好に保っておくことが重要です。
(2) 相続時の手続き(地主の許可は不要)
借地権は相続が可能で、地主の許可は不要です。ただし、名義変更(相続登記)は必要です。
相続時の手続き:
- 相続人の確定: 遺産分割協議で借地権を誰が相続するか決定
- 相続登記: 法務局で建物の相続登記を行う
- 地主への通知: 地主に借地権者の変更を通知(承諾は不要)
(3) 相続税評価額の計算方法(土地の価格×借地権割合)
借地権の相続税評価額は、国税庁によると、以下の計算式で算出されます。
計算式:
借地権の相続税評価額 = 土地の価格 × 借地権割合
借地権割合:
- 住宅地: 60〜70%が一般的
- 商業地: 70〜90%が一般的
例:
- 土地の価格3,000万円、借地権割合70%の場合、借地権の相続税評価額は2,100万円
借地権割合は、路線価図や評価倍率表で確認できます。詳細は税理士にご相談ください。
(4) 2024年4月からの相続登記義務化
2024年4月から、相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得した場合、3年以内に相続登記を行う必要があります。
義務化の内容:
- 相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記
- 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料の可能性
借地権付き建物を相続した場合も、建物の相続登記が必要です。期限内に手続きを行いましょう。
まとめ:借地権付き建物が向いている人と判断基準
借地権付き建物は、「土地は借地、家は持ち家」という仕組みで、初期費用を抑えて好立地の物件を購入できる一方、地代の継続的な負担や売却時の制約があります。
普通借地権は契約更新が可能で半永久的に利用できますが、定期借地権は期間満了で土地を返還する必要があるため、契約内容をよく確認することが重要です。
売却時は地主の承諾と譲渡承諾料(借地権価格の5〜15%)が必要ですが、相続時は地主の許可は不要です。ただし、2024年4月から相続登記が義務化されたため、3年以内に登記を行う必要があります。
借地権付き建物が向いているのは、以下のような方です。
- 初期費用を抑えて好立地の物件を購入したい
- 土地の固定資産税を負担したくない
- 長期的に住む予定で、地代の負担が許容できる
契約内容を十分に確認し、地主との関係を良好に保ちながら、納得できる判断を行ってください。税金や法律の詳細については、税理士や弁護士などの専門家にご相談ください。
