譲渡所得税の計算方法|不動産売却時の税金を理解する

公開日: 2025/10/31

譲渡所得税の計算方法とは?不動産売却時の税金を理解する

不動産を売却する際、「いくら税金がかかるのか」「どうやって計算するのか」は大きな関心事です。

この記事では、譲渡所得税の計算方法(譲渡所得の算出、税率、特例)を、国税庁の公式情報を元に具体例とともに分かりやすく解説します。

初めて不動産を売却する方でも、譲渡所得税の仕組みを理解し、納税資金を正確に把握できるようになります。

この記事のポイント

  • 譲渡所得税は「売却価格 - 取得費 - 譲渡費用」で計算される譲渡所得に対してかかる
  • 税率は所有期間5年超で20.315%、5年以下で39.63%と大きく異なる
  • 居住用財産(マイホーム)売却時は3,000万円特別控除が適用可能
  • 取得費が不明な場合は売却価格の5%を概算取得費として計上できる
  • 確定申告は売却翌年の2月16日-3月15日に行う必要がある

譲渡所得税の基本的な計算式

譲渡所得税は、不動産売却で得た利益(譲渡所得)に対してかかる税金です。

譲渡所得の計算式

国税庁によると、譲渡所得は以下の式で計算されます。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

各項目の説明

項目 内容
売却価格 不動産を売却した金額 3,000万円
取得費 購入価格、購入時の諸費用、リフォーム費用等 2,000万円
譲渡費用 売却時にかかった費用(仲介手数料、印紙税、測量費等) 150万円

この計算式により、実際の「利益」を算出し、その利益に対して税金がかかります。

計算例

設定

  • 売却価格:3,000万円
  • 取得費:2,000万円(購入価格1,900万円 + 購入時の諸費用100万円)
  • 譲渡費用:150万円(仲介手数料105万円 + 印紙税3万円 + その他42万円)

譲渡所得: 3,000万円 - 2,000万円 - 150万円 = 850万円

この850万円が課税対象となる譲渡所得です。

取得費の計算方法と注意点

取得費は譲渡所得を計算する上で重要な項目です。

取得費に含まれるもの

取得費に含まれる費用

  • 購入価格(土地・建物)
  • 購入時の仲介手数料
  • 購入時の印紙税、登録免許税
  • 不動産取得税
  • 測量費、整地費
  • リフォーム費用(資本的支出)
  • 設備の設置費用

建物の減価償却

建物部分は減価償却を行う必要があります。購入時の建物価格から、所有期間中の減価償却費を差し引いた金額が取得費となります。

減価償却費の計算(非事業用不動産の場合):

減価償却費 = 建物購入価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

  • 木造住宅の償却率:0.031
  • 鉄筋コンクリート造の償却率:0.015

計算例(木造住宅、建物購入価格1,000万円、所有期間10年):

  • 減価償却費:1,000万円 × 0.9 × 0.031 × 10年 = 279万円
  • 建物の取得費:1,000万円 - 279万円 = 721万円

取得費が不明な場合の概算取得費

購入時期が古く、取得費が不明な場合は、国税庁の規定により、売却価格の5%を概算取得費として計上できます。

概算取得費の計算例

  • 売却価格:3,000万円
  • 概算取得費:3,000万円 × 5% = 150万円

注意点

概算取得費を使用すると、実際の取得費より大幅に少なくなる可能性があり、譲渡所得税が高額になります。可能な限り、購入時の契約書や領収書を探して実額を証明することをおすすめします。

譲渡費用に含まれるもの

譲渡費用は、不動産売却時に直接かかった費用です。

譲渡費用に含まれる費用

  • 仲介手数料
  • 印紙税
  • 測量費
  • 取壊し費用(建物を取り壊して土地を売却した場合)
  • 立退料(賃貸物件の場合)
  • 売却時の広告費(売主負担の場合)

譲渡費用に含まれないもの

  • 抵当権抹消費用(登記費用)
  • 引越し費用
  • 修繕費(売却前の通常の修繕)
  • 固定資産税

仲介手数料は譲渡費用に含まれますが、抵当権抹消費用は含まれない点に注意しましょう。

譲渡所得税の税率:短期と長期の違い

譲渡所得税の税率は、所有期間により大きく異なります。

税率の区分

国税庁によると、税率は以下の通りです。

区分 所有期間 税率(所得税+住民税)
短期譲渡所得 5年以下 39.63%(所得税30.63% + 住民税9%)
長期譲渡所得 5年超 20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)

(所得税には復興特別所得税2.1%が含まれています)

所有期間の判定

所有期間は、売却年の1月1日時点で判定されます。

  • 取得日:2018年7月1日
  • 売却日:2024年3月31日
  • 判定日:2024年1月1日
  • 所有期間:2018年7月1日 - 2024年1月1日 = 5年6ヶ月 → 5年超(長期)

重要ポイント

所有期間が5年以下の場合、税率が約2倍になります。売却タイミングを慎重に検討し、可能であれば5年超まで待つことで、大幅な節税が可能です。

税額の計算例

短期譲渡所得の場合(所有期間4年):

  • 譲渡所得:850万円
  • 税率:39.63%
  • 譲渡所得税:850万円 × 39.63% = 約337万円

長期譲渡所得の場合(所有期間6年):

  • 譲渡所得:850万円
  • 税率:20.315%
  • 譲渡所得税:850万円 × 20.315% = 約173万円

所有期間が1年違うだけで、約164万円の差が生じます。

居住用財産の3,000万円特別控除

居住用財産(マイホーム)を売却した場合、特例により最大3,000万円の控除が受けられます。

3,000万円特別控除の適用要件

国税庁によると、適用要件は以下の通りです。

主な要件

  1. 自己の居住用財産であること(マイホーム)
  2. 居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
  3. 売却先が親子・配偶者等の特別な関係者でないこと
  4. 過去2年以内に同特例を利用していないこと
  5. 他の特例(買い替え特例、軽減税率の特例等)を利用していないこと

控除額

  • 譲渡所得から最大3,000万円を控除
  • 所有期間の長短は不問

3,000万円特別控除適用後の税額計算例

設定

  • 譲渡所得:850万円
  • 所有期間:6年(長期譲渡所得)
  • 3,000万円特別控除を適用

控除後の譲渡所得: 850万円 - 3,000万円 = -2,150万円(ゼロとみなす)

譲渡所得税: 0円 × 20.315% = 0円

この特例により、多くのマイホーム売却では譲渡所得税が発生しません。

注意点

控除後の利益がゼロ以下でも、確定申告は必須です。申告しないと特例が適用されず、後で追徴課税される可能性があります。

軽減税率の特例(所有期間10年超)

所有期間10年超の居住用財産を売却した場合、さらに軽減税率の特例が適用可能です。

軽減税率の特例の適用要件

国税庁によると、適用要件は以下の通りです。

主な要件

  1. 3,000万円特別控除の要件を満たすこと
  2. 売却年の1月1日時点で所有期間が10年超であること

税率

課税譲渡所得 税率
6,000万円以下の部分 14.21%(所得税10.21% + 住民税4%)
6,000万円超の部分 20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)

3,000万円特別控除と軽減税率の併用例

設定

  • 譲渡所得:4,000万円
  • 所有期間:12年
  • 3,000万円特別控除 + 軽減税率を適用

控除後の譲渡所得: 4,000万円 - 3,000万円 = 1,000万円

譲渡所得税: 1,000万円 × 14.21% = 約142万円

(通常の長期譲渡所得税率20.315%なら約203万円なので、約61万円の節税)

この特例は3,000万円特別控除と併用可能なため、大きな節税効果があります。

確定申告の手続きと期限

譲渡所得税は、売却翌年の確定申告で申告・納付します。

確定申告の期限

申告期限: 売却翌年の2月16日 - 3月15日

  • 2024年に売却した場合 → 2025年2月16日 - 3月15日に申告

確定申告に必要な書類

主な必要書類

  • 確定申告書(第一表、第二表、第三表(分離課税用))
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
  • 売買契約書のコピー(売却時・購入時)
  • 仲介手数料の領収書
  • 登記事項証明書
  • 居住用財産の特例を受ける場合:住民票の写し等

確定申告を税理士に依頼する場合

譲渡所得税の計算は複雑で、特例の適用判断も専門的です。

税理士報酬の相場

  • 5-10万円程度(申告内容により異なる)

申告ミスによる追徴課税リスクを考慮すると、税理士への依頼をおすすめします。

譲渡所得税を減らすための対策

譲渡所得税を減らすために、以下の対策を検討しましょう。

対策一覧

対策 効果
所有期間5年超まで待つ 税率が39.63% → 20.315%に半減
3,000万円特別控除を適用 最大3,000万円の所得控除
軽減税率の特例を適用(所有期間10年超) 6,000万円以下の部分が14.21%に軽減
取得費を実額で証明 概算取得費(5%)より有利
リフォーム費用を取得費に計上 資本的支出として計上可能
譲渡費用を漏らさず計上 仲介手数料、測量費等を計上

特に重要なポイント

所有期間5年以下で売却すると税率が約2倍になるため、可能であれば5年超まで待つことをおすすめします。また、取得費を実額で証明できれば、概算取得費(5%)より大幅に有利になります。購入時の契約書や領収書を探して保管しましょう。

まとめ:譲渡所得税の計算手順をチェックリスト化

譲渡所得税は「売却価格 - 取得費 - 譲渡費用」で計算される譲渡所得に対して、所有期間5年超で20.315%、5年以下で39.63%の税率がかかります。

居住用財産(マイホーム)売却時は3,000万円特別控除が適用可能で、多くの場合は譲渡所得税が発生しません。ただし、控除後の利益がゼロ以下でも確定申告は必須です。

計算手順チェックリスト

  1. 売却価格を確認
  2. 取得費を計算(購入価格 + 諸費用 - 減価償却費)
  3. 譲渡費用を計算(仲介手数料 + 印紙税 + その他)
  4. 譲渡所得を計算(売却価格 - 取得費 - 譲渡費用)
  5. 所有期間を判定(5年以下 or 5年超)
  6. 特例の適用を検討(3,000万円特別控除、軽減税率)
  7. 税額を計算(譲渡所得 × 税率)
  8. 確定申告を実施(翌年2月16日 - 3月15日)

次のアクション

  • 取得費・譲渡費用の資料を集める(契約書、領収書等)
  • 所有期間を確認し、売却タイミングを検討
  • 税理士に相談して正確な税額を試算

譲渡所得税の計算は複雑なため、税理士への相談をおすすめします。正確な税額を把握し、納税資金を確保しましょう。

よくある質問

Q1譲渡所得税はいくらかかりますか?

A1譲渡所得税は、譲渡所得(売却価格 - 取得費 - 譲渡費用)に対して、所有期間5年超で20.315%、5年以下で39.63%の税率がかかります。例えば、譲渡所得が850万円、所有期間6年の場合、約173万円です。ただし、居住用財産(マイホーム)売却時は3,000万円特別控除が適用可能で、多くの場合は譲渡所得税が0円になります。控除後の利益がゼロ以下でも確定申告は必須です。

Q2取得費が分からない場合はどうすればいいですか?

A2取得費が不明な場合、国税庁の規定により、売却価格の5%を概算取得費として計上できます。例えば、売却価格3,000万円の場合、概算取得費は150万円です。ただし、概算取得費を使用すると、実際の取得費より大幅に少なくなり、譲渡所得税が高額になる可能性があります。可能な限り、購入時の契約書や領収書を探して実額を証明することをおすすめします。金融機関や法務局に問い合わせることも検討しましょう。

Q3所有期間5年以下で売却すると損ですか?

A3所有期間5年以下で売却すると、税率が39.63%(5年以下)と、5年超の20.315%の約2倍になります。例えば、譲渡所得850万円の場合、所有期間4年なら約337万円、6年なら約173万円で、約164万円の差が生じます。売却タイミングを慎重に検討し、可能であれば5年超(売却年の1月1日時点で判定)まで待つことで、大幅な節税が可能です。ただし、市況や資金繰りも考慮して総合的に判断しましょう。

Q4確定申告を忘れたらどうなりますか?

A4確定申告を忘れると、無申告加算税(税額の15-20%)、延滞税(年2.4-8.7%程度)が課される可能性があります。また、3,000万円特別控除等の特例は、確定申告を行わないと適用されません。売却翌年の2月16日-3月15日までに必ず申告してください。申告期限を過ぎた場合でも、速やかに申告することで、無申告加算税が軽減される場合があります。不安な場合は税理士に相談しましょう。