不動産売買契約書の見方完全ガイド!チェックポイントと注意点を解説

公開日: 2025/10/27

不動産売買契約書とは?その役割と重要性

不動産の売買を初めて経験する際、「契約書の専門用語が分からない」「何を確認すればいいか不安」と感じる方は少なくありません。

この記事では、不動産売買契約書の基本構成、特に注意すべき条項(手付金、契約不適合責任、ローン特約)、契約前のチェックポイントを、国土交通省の公式情報を元に解説します。

初めて不動産を売買する方でも、契約書の見方を正しく理解し、トラブルを避けることができるようになります。

この記事のポイント

  • 不動産売買契約書は宅地建物取引業法37条で記載事項が法定され、宅建士の記名・押印が必要
  • 手付金は解約手付と違約手付の2つの性質を持ち、契約履行の着手後は手付金放棄でも解除できない
  • 契約不適合責任は2020年民法改正で導入され、引渡しから2-3ヶ月の期間制限が一般的
  • ローン特約の記載不備(金融機関名・ローン金額・承認期限の未明示)により融資不承認時の紛争リスクがある
  • 契約書の専門的な法律判断は司法書士・弁護士に相談すべき(契約締結前、リスク要因がある場合)

不動産売買契約書の基本構成と記載項目

不動産売買契約書は、売主・買主双方の権利義務を定める重要書類です。国土交通省のモデル条項例に基づき、標準的な記載項目を解説します。

売買対象物件の表示(所在地・地番・面積)

物件の特定は契約書の最重要事項です。登記簿謄本と一致する正確な記載が必要です。

  • 所在地(住居表示ではなく地番)
  • 地目・地積(土地の場合)
  • 家屋番号・種類・構造・床面積(建物の場合)

記載が不正確だと、後日「別の物件を購入してしまった」というトラブルになるリスクがあります。

売買代金・支払時期・支払方法

売買代金の内訳と支払スケジュールを明記します。

  • 売買代金総額
  • 手付金(契約時)
  • 中間金(契約後・決済前、設定する場合)
  • 残代金(決済時)

支払時期と支払方法(銀行振込・現金等)も明示し、売主・買主双方が合意することが重要です。

手付金の金額と性質

手付金は契約締結時に買主が売主に交付する金銭です。金額は売買代金の5-10%が一般的ですが、宅建業者が売主の場合は売買代金の20%が上限(宅建業法)です。

手付金の性質については、次のセクションで詳しく解説します。

引渡し時期と所有権移転時期

引渡し日と所有権移転時期を明記します。一般的には同時履行(引渡しと所有権移転を同時に行う)が原則です。

  • 引渡し予定日
  • 所有権移転登記申請日
  • 引渡し前の滅失・毀損時の扱い

公租公課(固定資産税等)の分担

固定資産税・都市計画税の分担方法を明記します。一般的には引渡し日を基準に日割り計算します。

  • 起算日(1月1日 or 4月1日)
  • 分担方法(日割り計算)
  • 清算方法(決済時に調整)

契約不適合責任の期間と内容

契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の期間と内容を明記します。詳細は後述のセクションで解説します。

ローン特約の有無と条件

買主が住宅ローンを利用する場合、ローン特約(融資特約)の有無と条件を明記します。詳細は後述のセクションで解説します。

特約事項(個別条件)

物件ごとの個別条件を特約事項として記載します。

  • 境界確定の有無
  • 測量の実施
  • 建物解体費用の負担
  • 設備の不具合(エアコン・給湯器等)

これらの特約事項は後日のトラブルを防ぐために重要です。

特に注意すべき条項①:手付金の性質と解除のタイミング

解約手付と違約手付の違い

手付金は解約手付違約手付の2つの性質を持ちます。

解約手付:

契約履行の着手前であれば、買主は手付金を放棄して、売主は手付金の倍額を買主に返還して、契約を解除できます。

違約手付:

契約違反時に没収される金銭です。例えば、買主がローンを組まずに残代金を支払わない場合、手付金は没収されます。

契約履行の着手とは何か

「契約履行の着手」とは、契約内容を実行するための準備行為を開始したことを指します。

買主の履行着手例:

  • 中間金の支払い
  • 内装工事の着手
  • 引越し業者との契約

売主の履行着手例:

  • 引越しの実施
  • 抵当権抹消手続きの開始
  • 建物解体工事の着手

契約履行の着手後は、手付金放棄でも解除できず、違約金(売買代金の20%が一般的)が生じます。

手付金放棄での解除可能期限

手付金放棄で解除できる期限は、「契約履行の着手前まで」です。ただし、契約書で「契約から○日以内」と明示している場合もあります。

契約後に気が変わった場合でも、履行着手前なら手付金放棄で解除できますが、履行着手後は違約金が発生するため、慎重に判断することが重要です。

特に注意すべき条項②:契約不適合責任の期間と内容

民法改正(2020年)で変わったこと

2020年4月施行の民法改正により、「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変更されました。SUUMOの解説記事によると、主な変更点は以下の通りです。

  • 旧制度(瑕疵担保責任): 隠れた瑕疵のみ対象
  • 新制度(契約不適合責任): 契約内容に適合しない場合全般が対象

買主の5つの請求権

契約不適合責任により、買主は以下の5つの請求権を持ちます。

  1. 追完請求: 修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しを請求
  2. 代金減額請求: 追完が不能な場合、代金の減額を請求
  3. 催告解除: 追完を催告し、催告期間内に追完されない場合に解除
  4. 無催告解除: 重大な契約不適合で催告なしで即座に解除
  5. 損害賠償請求: 契約不適合により生じた損害の賠償を請求

契約不適合責任の期間制限(引渡しから2-3ヶ月が一般的)

契約書で責任期間を制限するのが一般的です。

  • 新築物件: 引渡しから2年
  • 中古物件: 引渡しから2-3ヶ月、または「知ってから1年以内」
  • 個人間売買: 「現況有姿(現状のまま)」として免責特約も可能

ただし、売主が知りながら告げなかった瑕疵は免責対象外です。シロアリ・雨漏り・設備不具合等を知っていた場合、免責特約があっても責任を負う可能性があります。

特に注意すべき条項③:ローン特約の記載不備リスク

ローン特約の2類型(解除条件型・解除権留保型)

三井住友トラスト不動産の解説によると、ローン特約には2つの類型があります。

解除条件型(自動解除):

融資不承認の場合、自動的に契約が解除される。買主の意思表示は不要。

解除権留保型(買主が解除可):

融資不承認の場合、買主が契約を解除できる権利を留保。買主が解除の意思表示をしない限り契約は継続。

どちらを採用するかを契約書で明確化する必要があります。

契約書に明記すべき4項目

ローン特約を有効に機能させるため、以下の4項目を明記します。

  1. 金融機関名: 具体的な金融機関名(複数可)
  2. ローン金額: 融資を受ける金額
  3. 承認期限: 融資承認の期限(契約から2-3週間程度)
  4. 不承認時の対応: 解除条件型 or 解除権留保型の明示

これらの記載が不備だと、融資不承認時の解除を巡って売主・買主間で紛争になるリスクがあります。

融資不承認時の対応と期限

融資承認期限(契約から2-3週間程度)内に融資承認が得られない場合、以下の対応を取ります。

  • 解除条件型: 自動的に契約解除、手付金全額返還
  • 解除権留保型: 買主が期限内に解除の意思表示、手付金全額返還

期限内に解除しないと、ローン特約の効力が失われ、手付金放棄または違約金が発生するため、注意が必要です。

契約前のチェックリストと専門家相談のタイミング

契約書で最低限確認すべき5項目

弁護士法人ポートの記事によると、契約書で最低限確認すべき項目は以下の5つです。

  1. 物件の特定: 登記簿謄本と一致しているか
  2. 代金・支払方法: 手付金・中間金・残代金の内訳と支払時期
  3. 契約不適合責任の期間: 引渡しから何ヶ月か、免責特約の有無
  4. ローン特約の有無: 金融機関名・ローン金額・承認期限の記載
  5. 特約事項: 境界確定・測量・解体費用負担等の個別条件

付帯設備表・物件状況報告書の確認

契約書と一体で確認が必須なのが、付帯設備表物件状況報告書です。

付帯設備表:

  • エアコン・給湯器・照明器具等の設備の有無と状態
  • 「有・無・故障」の記載

物件状況報告書:

  • 雨漏り・シロアリ・給排水管の故障の有無
  • 近隣トラブル(騒音・境界紛争等)
  • 事故物件(自殺・孤独死等)の告知

これらの書類に虚偽記載があると、契約不適合責任の対象となります。売主は正確に記載し、買主は慎重に確認することが重要です。

司法書士・弁護士への相談タイミング

契約書の専門的な法律判断は、司法書士・弁護士に相談すべきタイミングがあります。

相談すべきケース:

  • 契約締結前(契約書のチェック)
  • 境界未確定・旧耐震・再建築不可等のリスク要因がある場合
  • 契約不適合責任の免責特約の妥当性を判断したい場合
  • ローン特約の記載が不明確な場合

相談費用は数万円程度ですが、後日のトラブルを避けるために有益な投資と言えます。「契約書雛形があれば自分で作成できる」という誤解を避け、専門家のチェックを受けることを推奨します。

まとめ:不動産売買契約書は事前確認と専門家チェックが鍵

不動産売買契約書は、物件の表示、代金、手付金、引渡し、契約不適合責任、ローン特約、特約事項という基本構成を持ち、宅地建物取引業法37条で記載事項が法定されています。

特に注意すべき条項は、手付金の性質(解約手付と違約手付、契約履行の着手後は解除不可)、契約不適合責任の期間制限(引渡しから2-3ヶ月が一般的)、ローン特約の記載不備リスク(金融機関名・ローン金額・承認期限の明示が必須)です。

契約書は一度締結すると法的拘束力が発生し、一方的な解除には違約金が生じるため、契約前に十分な確認と専門家(司法書士・弁護士)のチェックを受けることが重要です。

次のアクションとして、契約書の事前入手、チェックリストでの確認、専門家への相談予約をおすすめします。

よくある質問

Q1不動産売買契約書は自分で作成できますか?

A1作成自体は可能ですが推奨されません。宅地建物取引業法37条で記載事項が法定されており、不備があると後日トラブルの原因になります。通常は不動産会社が作成し、宅建士が記名・押印します。個人間売買の場合でも司法書士・弁護士に作成依頼すべきです。記載不備により高額な損害賠償リスクがあるため、専門家の関与が重要です。

Q2契約書にサインした後、クーリングオフはできますか?

A2宅建業者が売主の場合、事務所等以外の場所(喫茶店・自宅等)で契約した場合のみクーリングオフ可能(契約日から8日以内)です。個人間売買や、宅建業者の事務所で契約した場合はクーリングオフ不可です。一度締結した契約は原則として履行義務があり、解除には手付金放棄または違約金が発生します。

Q3契約不適合責任を免責する特約は有効ですか?

A3個人間売買では有効です。中古物件の売買では「現況有姿(現状のまま)」として契約不適合責任を免責する特約が一般的です。ただし、宅建業者が売主の場合は、引渡しから2年未満に短縮する特約は無効(宅建業法で最低2年の保証義務)です。また、売主が知りながら告げなかった瑕疵は免責対象外となります。

Q4契約書の印紙税はいくらかかりますか?

A4売買代金により異なります(100万超~500万以下:1,000円、500万超~1,000万以下:5,000円、1,000万超~5,000万以下:1万円、5,000万超~1億以下:3万円)。売主・買主双方が契約書を保有する場合は各自が印紙税を負担します。2024年3月末まで軽減措置があり、現在も継続されています。

Q5重要事項説明書と売買契約書の違いは何ですか?

A5重要事項説明書(35条書面)は契約締結前に宅建士が買主に説明する書面で、物件の権利関係・法令制限・インフラ状況等を記載します。売買契約書(37条書面)は契約内容を定める書面で、代金・引渡し時期・契約不適合責任等を記載します。重要事項説明は契約前、契約書は契約時に交付され、両方とも宅建士の記名・押印が必要です。