不動産売買契約書とは?その役割と重要性
不動産の売買を初めて経験する際、「契約書の専門用語が分からない」「何を確認すればいいか不安」と感じる方は少なくありません。
この記事では、不動産売買契約書の基本構成、特に注意すべき条項(手付金、契約不適合責任、ローン特約)、契約前のチェックポイントを、国土交通省の公式情報を元に解説します。
初めて不動産を売買する方でも、契約書の見方を正しく理解し、トラブルを避けることができるようになります。
この記事のポイント
- 不動産売買契約書は宅地建物取引業法37条で記載事項が法定され、宅建士の記名・押印が必要
- 手付金は解約手付と違約手付の2つの性質を持ち、契約履行の着手後は手付金放棄でも解除できない
- 契約不適合責任は2020年民法改正で導入され、引渡しから2-3ヶ月の期間制限が一般的
- ローン特約の記載不備(金融機関名・ローン金額・承認期限の未明示)により融資不承認時の紛争リスクがある
- 契約書の専門的な法律判断は司法書士・弁護士に相談すべき(契約締結前、リスク要因がある場合)
不動産売買契約書の基本構成と記載項目
不動産売買契約書は、売主・買主双方の権利義務を定める重要書類です。国土交通省のモデル条項例に基づき、標準的な記載項目を解説します。
売買対象物件の表示(所在地・地番・面積)
物件の特定は契約書の最重要事項です。登記簿謄本と一致する正確な記載が必要です。
- 所在地(住居表示ではなく地番)
- 地目・地積(土地の場合)
- 家屋番号・種類・構造・床面積(建物の場合)
記載が不正確だと、後日「別の物件を購入してしまった」というトラブルになるリスクがあります。
売買代金・支払時期・支払方法
売買代金の内訳と支払スケジュールを明記します。
- 売買代金総額
- 手付金(契約時)
- 中間金(契約後・決済前、設定する場合)
- 残代金(決済時)
支払時期と支払方法(銀行振込・現金等)も明示し、売主・買主双方が合意することが重要です。
手付金の金額と性質
手付金は契約締結時に買主が売主に交付する金銭です。金額は売買代金の5-10%が一般的ですが、宅建業者が売主の場合は売買代金の20%が上限(宅建業法)です。
手付金の性質については、次のセクションで詳しく解説します。
引渡し時期と所有権移転時期
引渡し日と所有権移転時期を明記します。一般的には同時履行(引渡しと所有権移転を同時に行う)が原則です。
- 引渡し予定日
- 所有権移転登記申請日
- 引渡し前の滅失・毀損時の扱い
公租公課(固定資産税等)の分担
固定資産税・都市計画税の分担方法を明記します。一般的には引渡し日を基準に日割り計算します。
- 起算日(1月1日 or 4月1日)
- 分担方法(日割り計算)
- 清算方法(決済時に調整)
契約不適合責任の期間と内容
契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の期間と内容を明記します。詳細は後述のセクションで解説します。
ローン特約の有無と条件
買主が住宅ローンを利用する場合、ローン特約(融資特約)の有無と条件を明記します。詳細は後述のセクションで解説します。
特約事項(個別条件)
物件ごとの個別条件を特約事項として記載します。
- 境界確定の有無
- 測量の実施
- 建物解体費用の負担
- 設備の不具合(エアコン・給湯器等)
これらの特約事項は後日のトラブルを防ぐために重要です。
特に注意すべき条項①:手付金の性質と解除のタイミング
解約手付と違約手付の違い
手付金は解約手付と違約手付の2つの性質を持ちます。
解約手付:
契約履行の着手前であれば、買主は手付金を放棄して、売主は手付金の倍額を買主に返還して、契約を解除できます。
違約手付:
契約違反時に没収される金銭です。例えば、買主がローンを組まずに残代金を支払わない場合、手付金は没収されます。
契約履行の着手とは何か
「契約履行の着手」とは、契約内容を実行するための準備行為を開始したことを指します。
買主の履行着手例:
- 中間金の支払い
- 内装工事の着手
- 引越し業者との契約
売主の履行着手例:
- 引越しの実施
- 抵当権抹消手続きの開始
- 建物解体工事の着手
契約履行の着手後は、手付金放棄でも解除できず、違約金(売買代金の20%が一般的)が生じます。
手付金放棄での解除可能期限
手付金放棄で解除できる期限は、「契約履行の着手前まで」です。ただし、契約書で「契約から○日以内」と明示している場合もあります。
契約後に気が変わった場合でも、履行着手前なら手付金放棄で解除できますが、履行着手後は違約金が発生するため、慎重に判断することが重要です。
特に注意すべき条項②:契約不適合責任の期間と内容
民法改正(2020年)で変わったこと
2020年4月施行の民法改正により、「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変更されました。SUUMOの解説記事によると、主な変更点は以下の通りです。
- 旧制度(瑕疵担保責任): 隠れた瑕疵のみ対象
- 新制度(契約不適合責任): 契約内容に適合しない場合全般が対象
買主の5つの請求権
契約不適合責任により、買主は以下の5つの請求権を持ちます。
- 追完請求: 修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しを請求
- 代金減額請求: 追完が不能な場合、代金の減額を請求
- 催告解除: 追完を催告し、催告期間内に追完されない場合に解除
- 無催告解除: 重大な契約不適合で催告なしで即座に解除
- 損害賠償請求: 契約不適合により生じた損害の賠償を請求
契約不適合責任の期間制限(引渡しから2-3ヶ月が一般的)
契約書で責任期間を制限するのが一般的です。
- 新築物件: 引渡しから2年
- 中古物件: 引渡しから2-3ヶ月、または「知ってから1年以内」
- 個人間売買: 「現況有姿(現状のまま)」として免責特約も可能
ただし、売主が知りながら告げなかった瑕疵は免責対象外です。シロアリ・雨漏り・設備不具合等を知っていた場合、免責特約があっても責任を負う可能性があります。
特に注意すべき条項③:ローン特約の記載不備リスク
ローン特約の2類型(解除条件型・解除権留保型)
三井住友トラスト不動産の解説によると、ローン特約には2つの類型があります。
解除条件型(自動解除):
融資不承認の場合、自動的に契約が解除される。買主の意思表示は不要。
解除権留保型(買主が解除可):
融資不承認の場合、買主が契約を解除できる権利を留保。買主が解除の意思表示をしない限り契約は継続。
どちらを採用するかを契約書で明確化する必要があります。
契約書に明記すべき4項目
ローン特約を有効に機能させるため、以下の4項目を明記します。
- 金融機関名: 具体的な金融機関名(複数可)
- ローン金額: 融資を受ける金額
- 承認期限: 融資承認の期限(契約から2-3週間程度)
- 不承認時の対応: 解除条件型 or 解除権留保型の明示
これらの記載が不備だと、融資不承認時の解除を巡って売主・買主間で紛争になるリスクがあります。
融資不承認時の対応と期限
融資承認期限(契約から2-3週間程度)内に融資承認が得られない場合、以下の対応を取ります。
- 解除条件型: 自動的に契約解除、手付金全額返還
- 解除権留保型: 買主が期限内に解除の意思表示、手付金全額返還
期限内に解除しないと、ローン特約の効力が失われ、手付金放棄または違約金が発生するため、注意が必要です。
契約前のチェックリストと専門家相談のタイミング
契約書で最低限確認すべき5項目
弁護士法人ポートの記事によると、契約書で最低限確認すべき項目は以下の5つです。
- 物件の特定: 登記簿謄本と一致しているか
- 代金・支払方法: 手付金・中間金・残代金の内訳と支払時期
- 契約不適合責任の期間: 引渡しから何ヶ月か、免責特約の有無
- ローン特約の有無: 金融機関名・ローン金額・承認期限の記載
- 特約事項: 境界確定・測量・解体費用負担等の個別条件
付帯設備表・物件状況報告書の確認
契約書と一体で確認が必須なのが、付帯設備表と物件状況報告書です。
付帯設備表:
- エアコン・給湯器・照明器具等の設備の有無と状態
- 「有・無・故障」の記載
物件状況報告書:
- 雨漏り・シロアリ・給排水管の故障の有無
- 近隣トラブル(騒音・境界紛争等)
- 事故物件(自殺・孤独死等)の告知
これらの書類に虚偽記載があると、契約不適合責任の対象となります。売主は正確に記載し、買主は慎重に確認することが重要です。
司法書士・弁護士への相談タイミング
契約書の専門的な法律判断は、司法書士・弁護士に相談すべきタイミングがあります。
相談すべきケース:
- 契約締結前(契約書のチェック)
- 境界未確定・旧耐震・再建築不可等のリスク要因がある場合
- 契約不適合責任の免責特約の妥当性を判断したい場合
- ローン特約の記載が不明確な場合
相談費用は数万円程度ですが、後日のトラブルを避けるために有益な投資と言えます。「契約書雛形があれば自分で作成できる」という誤解を避け、専門家のチェックを受けることを推奨します。
まとめ:不動産売買契約書は事前確認と専門家チェックが鍵
不動産売買契約書は、物件の表示、代金、手付金、引渡し、契約不適合責任、ローン特約、特約事項という基本構成を持ち、宅地建物取引業法37条で記載事項が法定されています。
特に注意すべき条項は、手付金の性質(解約手付と違約手付、契約履行の着手後は解除不可)、契約不適合責任の期間制限(引渡しから2-3ヶ月が一般的)、ローン特約の記載不備リスク(金融機関名・ローン金額・承認期限の明示が必須)です。
契約書は一度締結すると法的拘束力が発生し、一方的な解除には違約金が生じるため、契約前に十分な確認と専門家(司法書士・弁護士)のチェックを受けることが重要です。
次のアクションとして、契約書の事前入手、チェックリストでの確認、専門家への相談予約をおすすめします。
