土地売買契約書とは?役割と重要性
土地の売買を検討する際、「契約書の専門用語が分からない」「トラブルを避けるために何を確認すればいいか分からない」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、土地売買契約書の見方と注意点、特にチェックすべき項目を、国土交通省の標準契約書式や法務省の民法改正情報を元に解説します。
契約前に確認すべきポイントを理解し、安全な土地取引ができるようになります。
この記事のポイント
- 土地売買契約書は宅建業法37条書面として取引の全条件を記載する最重要書類
- 手付金は売買代金の10%程度が相場で、履行着手前まで解除可能
- 契約不適合責任の免除特約があっても、売主が不適合を知っていて告げなかった場合は無効
- 契約書雛形をそのまま使用すると個別事情に対応できないため、司法書士・弁護士のチェックが必要
土地売買契約書の基本構成と記載項目
国土交通省の標準契約書式によると、土地売買契約書は以下の項目で構成されています。
売買対象物件の特定(所在・地番・地目・地積)
売買対象の土地を特定するため、以下の情報を登記簿謄本で確認し契約書に記載します。
| 項目 | 内容 | 確認方法 | 
|---|---|---|
| 所在 | 土地の住所(○○市○○町) | 登記簿謄本の表題部 | 
| 地番 | 土地の番号(○○番○○) | 登記簿謄本の表題部 | 
| 地目 | 土地の用途(登記上の土地の用途分類で、宅地・田・畑・山林等23種類があります) | 登記簿謄本の表題部 | 
| 地積 | 土地の面積(○○.○○㎡) | 登記簿謄本の表題部または確定測量図 | 
(出典: 国土交通省)
注意点: 地積は登記簿上の面積と実測面積が異なる場合があります。境界確定測量が完了している場合は確定測量図の面積を記載し、未完了の場合は引渡し前に測量を実施する特約を設けます。
売買代金と支払方法
売買代金の総額と支払方法を明記します。一般的には以下の3段階で支払います。
- 手付金: 契約締結時に支払い(売買代金の10%程度)
- 中間金: 契約締結後から引渡しまでの間に支払い(任意)
- 残代金: 引渡し時に支払い(売買代金から手付金・中間金を差し引いた額)
引渡し時期と所有権移転時期
土地の引渡し時期と所有権移転登記の時期を記載します。一般的には残代金支払いと同時に引渡し・所有権移転登記を行います。
記載例: 「売主は、令和○年○月○日限り、買主に本物件を引き渡し、同日付で所有権移転登記手続きを行う。」
その他の標準的な記載項目
- 公租公課の負担: 固定資産税・都市計画税の分担方法
- 危険負担: 引渡し前の滅失・毀損時の扱い
- 契約違反時の措置: 違約金の定め
- 印紙税: 契約書に貼付する印紙税額(国税庁によると、2027年3月31日まで軽減措置あり)
手付金と契約解除の仕組み
手付金は契約締結時に買主から売主に支払われますが、その性質によって契約解除の可否が変わります。
解約手付の性質と相場
土地売買契約では、特に定めがない限り手付金は「解約手付」として扱われます(民法557条)。解約手付とは、買主は手付金を放棄し、売主は手付金の倍額を現実に提供することで、相手方が履行に着手するまで契約を解除できる手付金の性質です。
相場: 売買代金の10%程度が一般的です(不動産取引の慣例として定着しています)。
記載例: 「本件手付金は、民法557条による解約手付とする。買主は手付金を放棄し、売主は手付金の倍額を現実に提供することで、相手方が履行に着手するまで契約を解除できる。」
手付解除ができる期間(履行の着手前まで)
手付解除は「履行の着手前」まで可能ですが、この「履行の着手」の判断は実務上トラブルになりやすいポイントです。
履行の着手の判断基準:
- 境界確定測量の着手
- ローンの本申込
- 所有権移転登記の準備(登記必要書類の取得等)
- 建物解体工事の着手(売主が更地渡しの場合)
これらの行為が客観的に外部から認識できる形で実施された場合、「履行の着手」と判断される可能性が高くなります。安易に「いつでも解除可能」と考えないよう注意が必要です。
履行の着手の判断基準
履行の着手とは、「客観的に外部から認識できる形で契約の履行行為の一部を実施すること」とされています。単なる準備行為(見積もり取得、資料収集等)では履行の着手とは認められません。
契約不適合責任とは?2020年民法改正のポイント
2020年4月1日の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ変更されました。
契約不適合責任の内容(追完請求・代金減額・損害賠償・解除)
法務省によると、契約不適合責任とは、売買対象物が契約内容に適合しない場合、買主は以下の請求ができる責任です。
- 追完請求: 不適合箇所の修補、代替物の引渡し等を請求
- 代金減額請求: 不適合の程度に応じて代金の減額を請求
- 損害賠償請求: 契約不適合により被った損害の賠償を請求
- 契約解除: 契約目的を達成できない場合に契約を解除
契約不適合責任の免除特約とその限界
実務では、売主の負担を軽減するため、契約不適合責任を免除する特約が設けられることがあります。特に個人間売買や中古物件では「現状有姿売買」として契約不適合責任を免除する特約が見られます。
記載例: 「本物件について、売主は契約不適合責任を負わない。ただし、売主が知っていて告げなかった不適合については、この限りではない。」
特約が無効になるケース(売主が知っていて告げなかった場合)
契約不適合責任の免除特約は有効ですが、売主が不適合を知りながら告げずに契約した場合は無効となります(民法572条)。
具体例:
- 売主が地中埋設物(コンクリート片、廃材等)の存在を知っていて告げなかった場合
- 売主が土壌汚染の事実を知っていて告げなかった場合
- 売主が境界紛争の事実を知っていて告げなかった場合
このため、特約があれば必ず免責されるという誤解は禁物です。売主は知っている不適合事項を告知する義務があります。
特に注意すべき特約事項
土地売買契約では、個別事情に応じた特約を設けることが重要です。
境界確定・測量に関する特約
境界が未確定の土地を売買する場合、引渡し前に売主が確定測量を実施する特約を設けるのが一般的です。
記載例: 「売主は、引渡しまでに隣地所有者との間で境界を確定し、確定測量図を買主に交付する。測量費用は売主が負担する。」
費用相場: 境界確定測量の費用は30-80万円程度(一般的な相場として定着しており、土地の形状・隣地数により変動)。費用負担は売主が一般的ですが、買主負担とする場合もあるため、契約前に必ず確認します。
ローン特約(融資利用の特約)
買主が住宅ローンを利用する場合、ローンが不承認になった場合に白紙解除できるローン特約を設けます。
記載例: 「買主は、○○銀行から金額○○万円、金利年○%以内、期間○年以内の融資を受ける。令和○年○月○日までに融資が不承認となった場合、本契約は白紙解除され、売主は受領済みの手付金を無利息で買主に返還する。」
重要ポイント:
- ローン特約がない場合、ローンが不承認でも手付解除(手付金放棄)または違約金が発生する
- 融資承認期限を明記しないとトラブルになる
- 金融機関名・融資額・金利・期間を具体的に記載する
その他のトラブルになりやすい特約
- 地中埋設物に関する特約: 引渡し後に地中埋設物が発見された場合の費用負担を定める
- 土壌汚染に関する特約: 土壌汚染が発見された場合の処理費用負担を定める
- 引渡し前の滅失・毀損: 天災等で土地が損壊した場合の扱い(一般的には危険負担として売主負担)
契約前に確認すべきチェックリストと専門家相談
契約締結前に以下の項目を確認しましょう。
契約前の確認事項(重要事項説明書との整合性等)
チェックリスト:
- 重要事項説明書と契約書の内容が一致しているか
- 手付金額・引渡し時期・契約不適合責任の期間が明記されているか
- 境界確定・測量に関する特約があるか(境界未確定の場合)
- ローン特約があるか(ローン利用の場合)
- 地中埋設物・土壌汚染に関する特約があるか
- 固定資産税・都市計画税の分担方法が明記されているか
- 契約違反時の違約金額が明記されているか
印紙税の金額
土地売買契約書には印紙税が必要です。国税庁によると、2027年3月31日までは軽減措置が適用されます。
| 契約金額 | 本則税額 | 軽減税額 | 
|---|---|---|
| 500万円超~1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 | 
| 1,000万円超~5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 | 
| 5,000万円超~1億円以下 | 6万円 | 3万円 | 
(出典: 国税庁)
司法書士・弁護士のチェックを受けるタイミング
土地売買契約書は専門的な内容が多く、契約書雛形をそのまま使用すると個別事情(境界未確定、地中埋設物、土壌汚染等)に対応できずトラブルになるリスクがあります。
専門家に相談すべきタイミング: 契約書案を受け取った時点で、契約締結前に司法書士・弁護士のチェックを受けることを推奨します。
費用相場: 契約書チェック費用は3-10万円程度(一般的な相場として定着しており、司法書士・弁護士により異なる)。
まとめ:土地売買契約書の見方と安全な取引のために
土地売買契約書の基本構成(物件特定・代金・引渡し・契約不適合責任・特約)を理解し、特に手付金・契約不適合責任・特約事項を重点的に確認することが重要です。
契約書雛形をそのまま使用せず、個別事情(境界未確定、地中埋設物、土壌汚染等)に応じた特約を盛り込むこと、契約前に司法書士・弁護士のチェックを受けることで、安全な取引が可能になります。
専門家に相談しながら、トラブルのない土地取引を実現しましょう。
