個人間で土地を売買する方法とは
親族や知人と土地を売買する際、「仲介手数料を節約したい」「どんな手続きが必要か」と考える方は少なくありません。
個人間売買とは、宅建業者を介さない当事者間の直接取引です。この記事では、法務局や国税庁の公式情報を元に、個人間売買のメリット・デメリット、手続きの流れ、契約書作成方法、税務上の注意点を解説します(2025年時点の情報)。
リスクと注意点を理解することで、トラブルを避けた安全な取引が可能になります。
この記事のポイント
- 個人間売買は仲介手数料が不要だが、手続きの煩雑さとトラブルリスクがある
- 親族間売買では時価の80%未満の価格で売買するとみなし贈与課税のリスクがある
- 売買契約書には物件の表示・売買代金・支払方法・引き渡し時期・特約事項が必須
- 譲渡所得税の申告義務があり、親族間売買では3000万円特別控除の適用制限がある
- 複雑なケースや高額物件では司法書士・税理士への相談が推奨される
個人間売買のメリットとデメリット
メリット:仲介手数料の節約と柔軟な条件交渉
個人間売買の最大のメリットは、仲介手数料が不要になることです。仲介手数料は売買代金×3%+6万円+消費税が上限(400万円超の場合)で、3,000万円の土地なら約105.6万円となります。
また、当事者間で直接交渉できるため、支払条件や引き渡し時期を柔軟に決められます。親族間・知人間であれば、事情を理解した上での取引が可能です。
デメリット:手続きの煩雑さとトラブルリスク
個人間売買には以下のデメリットがあります。
- 手続きの煩雑さ:売買契約書の作成、登記手続き、税務申告等を自分で行う必要がある
- 専門知識の不足:契約不適合責任、境界確定、税務リスク等の知識が必要
- トラブルリスク:契約内容の認識違い、事後の瑕疵発見等でトラブルになる可能性が高い
- 住宅ローン審査の困難さ:金融機関が個人作成の契約書を認めないケースが多い
- 価格の適正性:第三者の査定がないため、適正価格の判断が難しい
宅建業法は個人間売買には適用されないため、重要事項説明義務や契約書面の交付義務がありません。すべて当事者の責任で進める必要があります。
個人間売買の手続きの流れ(7ステップ)
個人間売買は以下の7ステップで進めます。
ステップ1:価格交渉と条件の合意
売買価格、支払方法、引き渡し時期等を当事者間で協議します。親族間売買の場合、時価の80%未満で売買すると「みなし贈与課税」のリスクがあるため、適正価格での取引が重要です。
適正価格の目安は、以下の方法で確認できます。
- 不動産鑑定士による鑑定評価
- 複数の不動産会社による査定
- 固定資産税評価額や路線価を参考(ただし実勢価格より低い)
ステップ2:売買契約書の作成
売買契約書は個人間売買でも必須です。後述する必須記載事項を含めて作成しましょう。法務局のホームページに契約書の参考様式があります。
ステップ3:手付金の授受
手付金(契約時に売主に支払う金銭で、契約解除の際の違約金として機能する)を授受します。一般的に売買代金の5~10%が目安です。手付金は契約成立の証拠となり、買主が契約を解除する場合は手付金を放棄、売主が解除する場合は手付金の倍返しとなります(民法)。
ステップ4:境界確定・測量(必要に応じて)
土地の境界が明確でない場合は、測量士・土地家屋調査士に依頼して境界確定測量を行います。費用は30~80万円程度です(地域や土地の広さにより異なります)。
境界未確定のまま売買すると、後日隣地とのトラブルになる可能性があります。
ステップ5:残金決済
売買契約から1~2ヶ月後、残代金を支払います。同日に所有権移転登記と鍵の引き渡しを行うのが一般的です。
ステップ6:所有権移転登記
法務局に所有権移転登記を申請します。必要書類は以下の通りです。
- 売買契約書
- 登記済権利証(登記識別情報)
- 印鑑証明書(売主)
- 住民票(買主)
- 固定資産評価証明書
- 登記申請書
司法書士に依頼する場合の報酬は5~10万円が相場です。自分で申請することも可能ですが、手続きが複雑なため専門家への依頼が推奨されます。
ステップ7:税務申告
売主は売却翌年の確定申告で譲渡所得税を申告します。買主は不動産取得税(固定資産税評価額の3%、軽減措置あり)を納付します。
売買契約書の作成方法と必須記載事項
必須記載事項
売買契約書には以下の事項を必ず記載します。
| 項目 | 記載内容 | 
|---|---|
| 物件の表示 | 土地の所在・地番・地目・地積(登記簿通りに記載) | 
| 売買代金 | 金額を明記(例:金30,000,000円) | 
| 支払方法 | 手付金・残代金の額と支払時期 | 
| 引き渡し時期 | 具体的な日付または「残代金支払いと同時」等 | 
| 所有権移転時期 | 「残代金完済時」等 | 
| 契約不適合責任 | 期間(例:引き渡し後3ヶ月)と範囲 | 
| 特約事項 | 住宅ローン特約、境界確定の有無等 | 
| 作成年月日 | 契約締結日 | 
| 署名・押印 | 売主・買主双方の署名・押印(実印推奨) | 
契約不適合責任の明記
契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)は、引き渡した物件が契約内容と異なる場合の売主の責任です(民法)。
個人間売買では、責任の範囲と期間を明確にすることが重要です。
記載例: 「売主は、本物件の引き渡し後3ヶ月以内に発見された契約不適合については、修補または損害賠償の責任を負う。ただし、土壌汚染・地中埋設物・境界トラブルについては一切の責任を負わない。」
責任範囲を限定することで、売主のリスクを抑えられます。
印紙税の納付
売買契約書には印紙税が課税されます。
| 売買代金 | 印紙税額 | 
|---|---|
| 1,000万円超~5,000万円以下 | 10,000円 | 
| 5,000万円超~1億円以下 | 30,000円 | 
(出典:国税庁)
売買契約書を2通作成する場合、それぞれに印紙を貼付する必要があります。
税務上の注意点:みなし贈与課税と譲渡所得税
みなし贈与課税のリスク
親族間で時価より著しく低い価格で売買した場合、差額が贈与とみなされ贈与税が課税される可能性があります(相続税法第7条)。
国税庁によると、一般的に時価の80%未満での売買はみなし贈与のリスクが高いとされています。
例:時価3,000万円の土地を親族に2,000万円で売却 → 差額1,000万円が贈与とみなされ、買主に贈与税が課される可能性
適正価格での取引を心がけ、不安な場合は税理士に相談しましょう。
譲渡所得税の申告義務
土地を売却して利益が出た場合、譲渡所得税が課税されます。
計算式:譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
- 短期譲渡(5年以内):税率39.63%
- 長期譲渡(5年超):税率20.315%
親族間売買の特別控除制限
居住用財産を売却した場合、通常は3,000万円特別控除が適用できます。しかし、親族間売買では以下の制限があります。
- 配偶者・直系血族への売却:3,000万円特別控除が適用されない
- 軽減税率の特例:同様に適用されない
親族間売買では税負担が大きくなる可能性があるため、税理士への相談が必須です。
不動産取得税の負担
買主は不動産取得税を納付します。
税額 = 固定資産税評価額 × 3%(軽減措置あり)
宅地の場合、固定資産税評価額が1/2に軽減される特例があります(2027年3月31日まで)。
専門家への相談が必要なケース
以下のケースでは、司法書士・税理士・不動産鑑定士への相談が推奨されます。
親族間売買
- みなし贈与課税のリスク:適正価格の判断に不動産鑑定士の鑑定評価が有効
- 特別控除の適用制限:税理士への相談で最適な税務戦略を立てる
高額物件
- 契約リスクの大きさ:数千万円の取引で契約トラブルが発生すると、損失が大きい
- 登記手続きの複雑さ:司法書士への依頼で確実な登記を実現
境界未確定・測量が必要な土地
- 測量士・土地家屋調査士への依頼:境界確定測量(費用30~80万円、地域や土地の広さにより異なります)
- 隣地所有者との協議:専門家の仲介で円滑に進める
住宅ローン残債がある土地
- 抵当権抹消手続き:金融機関との協議、司法書士への依頼が必要
- 売却価格がローン残債を下回る場合:任意売却等の検討が必要
共有名義の土地
- 共有者全員の同意:1人でも反対すると売買できない
- 持分の売却:持分のみの売却は買主が見つかりにくい
まとめ:個人間売買は慎重に進めるべき
個人間で土地を売買する方法は、仲介手数料を節約できるメリットがある一方、手続きの煩雑さとトラブルリスクがあります。
成功のための3つのポイントは以下の通りです。
- 適正価格での取引:時価の80%未満での売買はみなし贈与課税のリスクがある
- 売買契約書の作成:必須記載事項を含め、契約不適合責任の範囲を明確化
- 税務申告の徹底:譲渡所得税の申告義務を忘れずに、親族間売買の特別控除制限に注意
次のアクションとして、以下を推奨します。
- 適正価格の確認:不動産鑑定士の鑑定評価または複数の不動産会社による査定
- 専門家への相談:司法書士(登記手続き)・税理士(税務申告)に相談
- 契約書の作成:法務局の参考様式を元に、必須記載事項を含めて作成
個人間売買は、専門家のサポートを受けながら慎重に進めることが重要です。「仲介なしで誰でも簡単」とは考えず、リスクを理解した上で判断しましょう。
