個人間で土地を売買する方法【仲介なし】手続き・契約書・注意点を解説

公開日: 2025/10/31

個人間で土地を売買する方法とは

親族や知人と土地を売買する際、「仲介手数料を節約したい」「どんな手続きが必要か」と考える方は少なくありません。

個人間売買とは、宅建業者を介さない当事者間の直接取引です。この記事では、法務局国税庁の公式情報を元に、個人間売買のメリット・デメリット、手続きの流れ、契約書作成方法、税務上の注意点を解説します(2025年時点の情報)。

リスクと注意点を理解することで、トラブルを避けた安全な取引が可能になります。

この記事のポイント

  • 個人間売買は仲介手数料が不要だが、手続きの煩雑さとトラブルリスクがある
  • 親族間売買では時価の80%未満の価格で売買するとみなし贈与課税のリスクがある
  • 売買契約書には物件の表示・売買代金・支払方法・引き渡し時期・特約事項が必須
  • 譲渡所得税の申告義務があり、親族間売買では3000万円特別控除の適用制限がある
  • 複雑なケースや高額物件では司法書士・税理士への相談が推奨される

個人間売買のメリットとデメリット

メリット:仲介手数料の節約と柔軟な条件交渉

個人間売買の最大のメリットは、仲介手数料が不要になることです。仲介手数料は売買代金×3%+6万円+消費税が上限(400万円超の場合)で、3,000万円の土地なら約105.6万円となります。

また、当事者間で直接交渉できるため、支払条件や引き渡し時期を柔軟に決められます。親族間・知人間であれば、事情を理解した上での取引が可能です。

デメリット:手続きの煩雑さとトラブルリスク

個人間売買には以下のデメリットがあります。

  • 手続きの煩雑さ:売買契約書の作成、登記手続き、税務申告等を自分で行う必要がある
  • 専門知識の不足:契約不適合責任、境界確定、税務リスク等の知識が必要
  • トラブルリスク:契約内容の認識違い、事後の瑕疵発見等でトラブルになる可能性が高い
  • 住宅ローン審査の困難さ:金融機関が個人作成の契約書を認めないケースが多い
  • 価格の適正性:第三者の査定がないため、適正価格の判断が難しい

宅建業法は個人間売買には適用されないため、重要事項説明義務や契約書面の交付義務がありません。すべて当事者の責任で進める必要があります。

個人間売買の手続きの流れ(7ステップ)

個人間売買は以下の7ステップで進めます。

ステップ1:価格交渉と条件の合意

売買価格、支払方法、引き渡し時期等を当事者間で協議します。親族間売買の場合、時価の80%未満で売買すると「みなし贈与課税」のリスクがあるため、適正価格での取引が重要です。

適正価格の目安は、以下の方法で確認できます。

  • 不動産鑑定士による鑑定評価
  • 複数の不動産会社による査定
  • 固定資産税評価額や路線価を参考(ただし実勢価格より低い)

ステップ2:売買契約書の作成

売買契約書は個人間売買でも必須です。後述する必須記載事項を含めて作成しましょう。法務局のホームページに契約書の参考様式があります。

ステップ3:手付金の授受

手付金(契約時に売主に支払う金銭で、契約解除の際の違約金として機能する)を授受します。一般的に売買代金の5~10%が目安です。手付金は契約成立の証拠となり、買主が契約を解除する場合は手付金を放棄、売主が解除する場合は手付金の倍返しとなります(民法)。

ステップ4:境界確定・測量(必要に応じて)

土地の境界が明確でない場合は、測量士・土地家屋調査士に依頼して境界確定測量を行います。費用は30~80万円程度です(地域や土地の広さにより異なります)。

境界未確定のまま売買すると、後日隣地とのトラブルになる可能性があります。

ステップ5:残金決済

売買契約から1~2ヶ月後、残代金を支払います。同日に所有権移転登記と鍵の引き渡しを行うのが一般的です。

ステップ6:所有権移転登記

法務局に所有権移転登記を申請します。必要書類は以下の通りです。

  • 売買契約書
  • 登記済権利証(登記識別情報)
  • 印鑑証明書(売主)
  • 住民票(買主)
  • 固定資産評価証明書
  • 登記申請書

司法書士に依頼する場合の報酬は5~10万円が相場です。自分で申請することも可能ですが、手続きが複雑なため専門家への依頼が推奨されます。

ステップ7:税務申告

売主は売却翌年の確定申告で譲渡所得税を申告します。買主は不動産取得税(固定資産税評価額の3%、軽減措置あり)を納付します。

売買契約書の作成方法と必須記載事項

必須記載事項

売買契約書には以下の事項を必ず記載します。

項目 記載内容
物件の表示 土地の所在・地番・地目・地積(登記簿通りに記載)
売買代金 金額を明記(例:金30,000,000円)
支払方法 手付金・残代金の額と支払時期
引き渡し時期 具体的な日付または「残代金支払いと同時」等
所有権移転時期 「残代金完済時」等
契約不適合責任 期間(例:引き渡し後3ヶ月)と範囲
特約事項 住宅ローン特約、境界確定の有無等
作成年月日 契約締結日
署名・押印 売主・買主双方の署名・押印(実印推奨)

契約不適合責任の明記

契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)は、引き渡した物件が契約内容と異なる場合の売主の責任です(民法)。

個人間売買では、責任の範囲と期間を明確にすることが重要です。

記載例: 「売主は、本物件の引き渡し後3ヶ月以内に発見された契約不適合については、修補または損害賠償の責任を負う。ただし、土壌汚染・地中埋設物・境界トラブルについては一切の責任を負わない。」

責任範囲を限定することで、売主のリスクを抑えられます。

印紙税の納付

売買契約書には印紙税が課税されます。

売買代金 印紙税額
1,000万円超~5,000万円以下 10,000円
5,000万円超~1億円以下 30,000円

(出典:国税庁

売買契約書を2通作成する場合、それぞれに印紙を貼付する必要があります。

税務上の注意点:みなし贈与課税と譲渡所得税

みなし贈与課税のリスク

親族間で時価より著しく低い価格で売買した場合、差額が贈与とみなされ贈与税が課税される可能性があります(相続税法第7条)。

国税庁によると、一般的に時価の80%未満での売買はみなし贈与のリスクが高いとされています。

:時価3,000万円の土地を親族に2,000万円で売却 → 差額1,000万円が贈与とみなされ、買主に贈与税が課される可能性

適正価格での取引を心がけ、不安な場合は税理士に相談しましょう。

譲渡所得税の申告義務

土地を売却して利益が出た場合、譲渡所得税が課税されます。

計算式:譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

  • 短期譲渡(5年以内):税率39.63%
  • 長期譲渡(5年超):税率20.315%

親族間売買の特別控除制限

居住用財産を売却した場合、通常は3,000万円特別控除が適用できます。しかし、親族間売買では以下の制限があります。

  • 配偶者・直系血族への売却:3,000万円特別控除が適用されない
  • 軽減税率の特例:同様に適用されない

親族間売買では税負担が大きくなる可能性があるため、税理士への相談が必須です。

不動産取得税の負担

買主は不動産取得税を納付します。

税額 = 固定資産税評価額 × 3%(軽減措置あり)

宅地の場合、固定資産税評価額が1/2に軽減される特例があります(2027年3月31日まで)。

専門家への相談が必要なケース

以下のケースでは、司法書士・税理士・不動産鑑定士への相談が推奨されます。

親族間売買

  • みなし贈与課税のリスク:適正価格の判断に不動産鑑定士の鑑定評価が有効
  • 特別控除の適用制限:税理士への相談で最適な税務戦略を立てる

高額物件

  • 契約リスクの大きさ:数千万円の取引で契約トラブルが発生すると、損失が大きい
  • 登記手続きの複雑さ:司法書士への依頼で確実な登記を実現

境界未確定・測量が必要な土地

  • 測量士・土地家屋調査士への依頼:境界確定測量(費用30~80万円、地域や土地の広さにより異なります)
  • 隣地所有者との協議:専門家の仲介で円滑に進める

住宅ローン残債がある土地

  • 抵当権抹消手続き:金融機関との協議、司法書士への依頼が必要
  • 売却価格がローン残債を下回る場合:任意売却等の検討が必要

共有名義の土地

  • 共有者全員の同意:1人でも反対すると売買できない
  • 持分の売却:持分のみの売却は買主が見つかりにくい

まとめ:個人間売買は慎重に進めるべき

個人間で土地を売買する方法は、仲介手数料を節約できるメリットがある一方、手続きの煩雑さとトラブルリスクがあります。

成功のための3つのポイントは以下の通りです。

  • 適正価格での取引:時価の80%未満での売買はみなし贈与課税のリスクがある
  • 売買契約書の作成:必須記載事項を含め、契約不適合責任の範囲を明確化
  • 税務申告の徹底:譲渡所得税の申告義務を忘れずに、親族間売買の特別控除制限に注意

次のアクションとして、以下を推奨します。

  1. 適正価格の確認:不動産鑑定士の鑑定評価または複数の不動産会社による査定
  2. 専門家への相談:司法書士(登記手続き)・税理士(税務申告)に相談
  3. 契約書の作成:法務局の参考様式を元に、必須記載事項を含めて作成

個人間売買は、専門家のサポートを受けながら慎重に進めることが重要です。「仲介なしで誰でも簡単」とは考えず、リスクを理解した上で判断しましょう。

よくある質問

Q1個人間売買で契約書は自作でOKですか?

A1法律上は自作でも問題ありませんが、必須記載事項(物件の表示、売買代金、支払方法、引き渡し時期、契約不適合責任等)を漏れなく記載する必要があります。法務局のホームページに参考様式があるため、それを元に作成することを推奨します。不安な場合は司法書士に契約書作成を依頼しましょう(費用3~5万円程度)。住宅ローンを利用する場合は、金融機関が契約書の形式を指定することがあります。

Q2登記は自分でできますか?

A2法律上は本人による登記申請も可能です。法務局のホームページに登記申請書の様式があり、それを元に作成して法務局に提出します。ただし、書類の不備があると補正を求められ、手続きが長期化する可能性があります。住宅ローンを利用する場合は、金融機関が司法書士への依頼を条件とするケースが多いです。司法書士報酬は5~10万円が相場で、確実な登記を実現できます。

Q3親族間売買でも税金は発生しますか?

A3発生します。売主は譲渡所得税を申告する義務があり、買主は不動産取得税を納付します。ただし、親族間売買では3,000万円特別控除や軽減税率の特例が適用されないため、税負担が大きくなる可能性があります。また、時価の80%未満で売買するとみなし贈与課税のリスクがあり、差額に対して贈与税が課される可能性があります。親族間売買では税理士への相談が必須です。

Q4境界が不明な土地は売買できますか?

A4売買自体は可能ですが、後日隣地所有者とのトラブルになる可能性が高いため推奨されません。境界確定測量(費用30~80万円)を行い、境界を明確にしてから売買することが望ましいです。売買契約書に「境界未確定のまま引き渡す」旨を明記し、後日のトラブルに対する責任範囲を明確化することも可能ですが、買主が納得しない可能性があります。

Q5住宅ローンは利用できますか?

A5個人間売買でも住宅ローンの利用は可能ですが、金融機関が個人作成の契約書を認めないケースが多いです。金融機関は契約書の形式を指定し、司法書士の関与を条件とすることが一般的です。また、親族間売買では住宅ローン控除が適用されない、金融機関が融資を拒否する等の制約があります。住宅ローンを利用する予定がある場合は、事前に金融機関に確認しましょう。