売買契約書(不動産)とは|法的拘束力のある重要書類
不動産の売買契約を控えている方は、「契約書の内容が難しくて理解できない」「サイン前に確認すべき項目を知りたい」と不安に感じることがあるかもしれません。
この記事では、不動産売買契約書の見方、重要チェックポイント、契約後のキャンセル方法を、国土交通省・全国宅地建物取引業協会連合会の公式情報を元に解説します。
不動産の売買契約書は、売主と買主が不動産の売買条件に合意したことを証明する法的拘束力のある書類です。民法上は口頭契約も有効ですが、不動産取引は金額が大きく、宅地建物取引業法により書面交付が義務付けられています。
重要: 契約書に署名・押印すると、原則としてキャンセル不可です(クーリングオフは一定条件のみ適用)。契約前に内容を十分に確認することが重要です。
この記事のポイント
- 不動産売買契約書は法的拘束力があり、署名・押印後は原則キャンセル不可
- 契約前に宅地建物取引士による重要事項説明が行われる(宅建業法で義務)
- 主要な記載事項は物件の表示、売買代金、手付金、引渡し時期、契約不適合責任、特約事項
- 契約不適合責任は2020年民法改正で導入され、売主が契約内容に適合しない物件を引き渡した場合の責任
- 契約後のキャンセルは手付解除、ローン特約による解除、違約解除の3つの方法がある
売買契約書の主要な記載事項
不動産売買契約書には以下の6つの主要な記載事項があります。
売買物件の表示
所在・地番・地積・建物面積等を登記簿謄本に基づき明記します。物件の表示が登記簿謄本と一致するか確認してください。
売買代金・支払方法
総額、手付金、中間金、残代金の金額と支払日を明記します。売買代金・支払日が合意通りか確認してください。
例えば、売買代金3,000万円の場合、以下のように記載されます。
| 項目 | 金額 | 支払日 | 
|---|---|---|
| 手付金 | 300万円(10%) | 契約締結時 | 
| 中間金 | 500万円 | ○月○日 | 
| 残代金 | 2,200万円 | 引渡し時 | 
| 合計 | 3,000万円 | - | 
手付金
手付金は通常、売買代金の5-10%です。全国宅地建物取引業協会連合会によると、宅建業者が売主の場合、手付金は売買代金の20%を超えてはならないと規制されています。
手付金は解約手付として機能します。買主は手付金を放棄、売主は手付金の倍額を返還することで契約解除できます(ただし、相手方が履行に着手するまで)。
引渡し時期・所有権移転時期
通常は残代金支払いと同時に引渡し・所有権移転が行われます。引渡し日が合意通りか確認してください。
契約不適合責任
契約不適合責任は、売主が契約内容に適合しない物件を引き渡した場合に負う責任です。2020年4月の民法改正により、旧法の「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変更されました。
民法改正の詳細によると、契約不適合責任では、買主は以下の5つの権利を行使できます。
- 修補請求(欠陥の修理を求める)
- 代金減額請求(代金の減額を求める)
- 損害賠償請求(損害の賠償を求める)
- 契約解除(契約を解除する)
- 追完請求(契約内容に適合する物件の引渡しを求める)
契約不適合責任の期間は、引渡しから3ヶ月〜2年が一般的です。契約書に明記された期間を確認してください。
特約事項
特約事項には、ローン特約(融資不承認時に契約解除可能)、設備の引継ぎ、境界確定の有無等が記載されます。不利な内容がないか確認してください。
契約締結の流れ
不動産売買契約は以下の4ステップで進みます。
ステップ1: 重要事項説明
契約前に、宅地建物取引士が買主に対して、物件・取引条件の重要事項を説明します。宅地建物取引業法第35条で義務付けられています。
重要事項説明書(35条書面)には、物件の権利関係、法令上の制限、契約解除に関する事項等が記載されています。不明点があれば、この段階で質問してください。
ステップ2: 契約書の読み合わせ
仲介会社が契約書の内容を読み上げ、売主・買主双方が確認します。読み合わせの際に、前述の主要な記載事項を確認してください。
ステップ3: 署名・押印
売主・買主が契約書に署名・押印します(実印または認印)。署名・押印後は原則としてキャンセル不可です。
ステップ4: 手付金の支払い
買主が売主に手付金を支払い、契約が成立します。手付金は現金または銀行振込で支払います。
契約書のチェックポイント
契約書に署名・押印する前に、以下の5つのポイントを確認してください。
物件の表示が登記簿謄本と一致するか
所在・地番・地積・建物面積が登記簿謄本と一致するか確認してください。異なる場合は、物件が特定されない可能性があります。
売買代金・支払日が合意通りか
総額、手付金、残代金の金額・支払日が合意通りか確認してください。支払日が現実的かどうかも確認が必要です。
手付金の取扱い
手付金の金額、解約手付としての取扱いを確認してください。手付金の金額が売買代金の5-10%の範囲内か確認してください。
契約不適合責任の範囲
売主が負う責任の範囲・期間(通常は引渡しから3ヶ月〜2年)を確認してください。期間が短すぎる場合は、売主に交渉することも検討してください。
ローン特約の有無
融資不承認時に契約解除できるか確認してください。ローン特約がない場合、融資不承認でも手付放棄で解約する必要があります。
ローン特約には、融資申込先の金融機関、融資金額、申込期限、承認期限等が記載されます。期限が現実的かどうかも確認してください。
契約後のキャンセルと違約金
契約後にキャンセルする場合、以下の3つの方法があります。
手付解除
契約後、相手方が履行に着手するまでは、買主は手付金を放棄、売主は手付金の倍額を返還することで契約解除できます。
三井住友トラスト不動産によると、「履行の着手」とは契約の本格的な履行に向けた準備行為を指します。例えば、買主が残代金を用意した、売主が引越しの手配をした等が該当します。
手付解除の期限は契約書に明記されることが一般的です。期限を確認してください。
ローン特約による解除
融資不承認時、買主は手付金の返還を受けて契約解除できます(違約金なし)。ローン特約は買主を保護する重要な特約です。
ただし、買主が故意に融資を受けないようにした場合(申込書類を提出しない、虚偽の申告をする等)は、ローン特約による解除はできません。
違約解除
正当な理由なくキャンセルする場合、契約書に違約金の金額が明記されている場合はそれに従い、明記されていない場合は売買代金の10-20%が一般的とされています。違約金は手付金とは別に支払うため、経済的損失が大きくなります。
印紙税と電子契約
印紙税の金額
売買契約書には収入印紙を貼付する必要があります。国税庁によると、印紙税の金額は売買金額により異なります。
| 売買金額 | 本則 | 軽減措置(2027年3月末まで) | 
|---|---|---|
| 100万円超500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 | 
| 500万円超1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 | 
| 1,000万円超5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 | 
| 5,000万円超1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 | 
(出典: 国税庁)
2025年時点で、軽減措置は2027年3月末まで延長されています。
電子契約の可否
国土交通省によると、2022年5月の宅地建物取引業法改正により、不動産取引の書面が電子書面で提供できるようになりました。
電子契約の場合、印紙税は不要です。仲介会社が電子契約に対応しているか確認してください。
クーリングオフは適用されるか
クーリングオフは一定条件のみ適用されます。宅建業者が売主で、買主が事務所等以外の場所で契約した場合、8日以内に書面で通知すればクーリングオフ可能です。
ただし、買主が自宅や勤務先で契約した場合は適用外です。クーリングオフの適用条件を事前に確認してください。
まとめ|契約前に内容を十分確認
不動産の売買契約書は法的拘束力があり、署名・押印後は原則としてキャンセル不可です。
契約前に物件の表示・売買代金・手付金・契約不適合責任・ローン特約等を十分に確認することが重要です。不明点があれば、契約前に仲介会社や専門家(弁護士・司法書士)に相談してください。
契約書に疑問点があれば必ず質問し、納得できない場合は契約を見送る勇気も必要です。焦らず、慎重に判断しましょう。
