不動産売却で税金がかからないケースとは
不動産を売却する際、「税金がいくらかかるのか」「税金がかからない方法はあるのか」と不安を感じる方は多いでしょう。
この記事では、不動産売却で税金がかからないケースを、国税庁の公式情報を基に詳しく解説します。「譲渡所得がゼロまたはマイナス」のケースと「特例により課税対象額がゼロ」のケース、特に居住用財産の3000万円特別控除を中心にご案内します。
確定申告の要否や注意点も含め、初めて不動産を売却する方でも正確に理解できる内容です。
この記事のポイント
- 税金がかからないケースは「譲渡所得がゼロ以下」または「特例により課税対象額がゼロ」の2パターン
- 譲渡所得は「売却価格-(取得費+譲渡費用)」で計算され、この金額がゼロ以下なら税金はかからない
- 居住用財産の3000万円特別控除は、マイホーム売却時に所有期間に関わらず適用可能
- 特例を受けるには必ず確定申告が必要。申告しないと控除を受けられない
- 3000万円特別控除と住宅ローン控除は併用不可。どちらが有利か検討が必要
譲渡所得税の基本的な仕組み
不動産売却で税金がかかるかどうかは、「譲渡所得」の有無で決まります。まずは譲渡所得の計算方法と税率を理解しましょう。
譲渡所得の計算式
譲渡所得とは、不動産売却で得た利益のことです。以下の計算式で算出します。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
取得費とは、不動産を購入したときの価格と購入にかかった費用の合計です。建物の場合は減価償却費を差し引きます。
譲渡費用とは、売却時にかかった費用(仲介手数料、測量費、解体費など)で、譲渡所得から差し引けます。
譲渡所得がゼロ以下であれば、税金はかかりません。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率
譲渡所得がプラスの場合、所有期間に応じて税率が異なります。
| 所有期間 | 区分 | 税率 | 
|---|---|---|
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 39.63%(所得税30.63%+住民税9%) | 
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) | 
(出典: 国税庁)
所有期間が5年を超えていれば、税率は約半分になります。所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定する点に注意が必要です。
税金がかからないケース①譲渡所得がゼロまたはマイナス
譲渡所得がゼロまたはマイナスの場合、税金はかかりません。どのようなケースで譲渡所得がゼロ以下になるのか見ていきましょう。
売却損が出るケース
売却価格が取得費+譲渡費用以下であれば、譲渡所得はゼロまたはマイナスとなり、税金はかかりません。
例: 以下のようなケースを考えてみましょう。
| 項目 | 金額 | 
|---|---|
| 売却価格 | 3,000万円 | 
| 取得費 | 2,500万円 | 
| 譲渡費用 | 150万円 | 
| 譲渡所得 | 350万円 | 
この場合、譲渡所得がプラスのため税金が発生します。
一方、取得費が3,200万円の場合:
譲渡所得 = 3,000万円 - (3,200万円 + 150万円)
         = -350万円
譲渡所得がマイナスのため、税金はかかりません。
取得費不明の場合の注意点
購入時の契約書を紛失するなど、取得費が不明の場合は、**概算取得費(売却価格の5%)**を使用します。
例: 売却価格3,000万円の場合
概算取得費 = 3,000万円 × 5% = 150万円
譲渡所得 = 3,000万円 - (150万円 + 譲渡費用)
概算取得費を使うと取得費が非常に小さくなり、譲渡所得が大きくなって課税リスクが高まります。購入時の契約書や領収書は必ず保管しましょう。
税金がかからないケース②居住用財産の3000万円特別控除
居住用財産の3000万円特別控除は、マイホームを売却した場合に適用できる強力な節税手段です。
3000万円特別控除の適用要件
国税庁の公式サイトによると、以下の要件を満たす場合に適用できます。
主な要件:
- 自分が住んでいた家(マイホーム)であること
- 住まなくなってから3年以内の売却であること
- 売却先が配偶者や親族でないこと
- 過去2年間に同じ特例を使っていないこと
- 所有期間は問わない(1年未満でも適用可能)
譲渡所得から3000万円を控除できるため、譲渡所得が3000万円以下であれば税金はかかりません。
計算例:
譲渡所得: 2,500万円
3000万円特別控除適用後: 2,500万円 - 3,000万円 = -500万円
課税対象額: 0円(税金はかからない)
住まなくなってから3年以内のルール
重要なのは「住まなくなってから3年以内」という要件です。正確には「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売却する必要があります。
例: 2022年4月に転居した場合
売却期限: 2025年12月31日まで
この期限を過ぎると特例を受けられなくなるため、売却のタイミングには注意が必要です。
他の特例との併用不可に注意
3000万円特別控除と住宅ローン控除は併用できません。特例を適用した年とその前後2年間(計5年間)は、住宅ローン控除を受けられません。
どちらが有利かは、以下の要素を総合的に検討する必要があります。
- 譲渡所得の金額
- 住宅ローン残高
- 住宅ローン控除の適用期間
詳しくは税理士に相談することをおすすめします。
その他の特例で税金がかからないケース
3000万円特別控除以外にも、税金を軽減または非課税にできる特例があります。
所有期間10年超の軽減税率特例
所有期間が10年を超えるマイホームを売却した場合、税率が軽減されます。3000万円特別控除と併用可能です。
軽減後の税率:
- 課税譲渡所得6,000万円以下の部分: 14.21%(所得税10.21%+住民税4%)
- 6,000万円超の部分: 20.315%(通常の長期譲渡所得税率)
計算例:
譲渡所得: 5,000万円
3000万円特別控除適用後: 2,000万円
軽減税率適用: 2,000万円 × 14.21% = 284.2万円
通常税率(20.315%)なら406.3万円のため、約120万円の節税になります。
相続した空き家の3000万円特別控除
相続した空き家を売却する場合、一定要件を満たせば3000万円特別控除を受けられます(国税庁)。
主な要件:
- 1981年5月31日以前に建築された建物(旧耐震基準)
- 被相続人が一人暮らしだった
- 相続から3年以内の売却
- 2027年12月31日までの売却
- 耐震リフォームまたは建物を解体して売却
耐震要件があるため、古い実家を相続した場合は要注意です。リフォームまたは解体費用と控除額を比較し、有利な方を選びましょう。
取得費加算の特例(相続後3年以内)
相続した不動産を相続開始から3年以内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できます(国税庁)。
計算式:
加算できる取得費 = 相続税額 × (売却した不動産の相続税評価額 / 相続財産の総額)
取得費が増えれば譲渡所得が減るため、税負担を軽減できます。
確定申告の要否と注意点
税金がかからない場合でも、確定申告が必要なケースがあります。
特例適用には確定申告が必須
3000万円特別控除などの特例を受けるには、必ず確定申告が必要です(国税庁)。
申告期限は、売却した年の翌年2月16日~3月15日です。
重要: 特例適用後に税金がゼロになる場合でも、申告しないと特例を受けられません。結果として本来なら不要だった税金が発生してしまいます。
必要書類:
- 確定申告書
- 譲渡所得の内訳書
- 登記事項証明書
- 売買契約書のコピー
- その他特例に応じた書類
譲渡所得がマイナスでも確定申告が必要な場合
譲渡所得がマイナス(売却損)の場合、基本的には確定申告は不要です。
ただし、損益通算や繰越控除を使って給与所得など他の所得から税金を減らす場合は、確定申告が必須です。
損益通算とは、譲渡損失を給与所得など他の所得と相殺して税金を減らすことです。一定要件を満たす居住用財産のみ可能で、以下の条件があります。
- 住宅ローンが残っている
- 売却価格が住宅ローン残高を下回る
この場合、確定申告することで所得税・住民税の還付を受けられる可能性があります。
まとめ
不動産売却で税金がかからないケースは、「譲渡所得がゼロまたはマイナス」または「特例により課税対象額がゼロ」の2パターンです。
譲渡所得は「売却価格-(取得費+譲渡費用)」で計算され、この金額がゼロ以下なら税金はかかりません。また、居住用財産の3000万円特別控除は、マイホームを売却した場合に所有期間に関わらず適用でき、多くのケースで活用可能です。
ただし、特例を受けるには必ず確定申告が必要です。申告しないと控除を受けられないため、期限(翌年2月16日~3月15日)を守りましょう。
本記事は2025年1月時点の制度に基づいています。制度改正の可能性もあるため、最新情報は国税庁のウェブサイトで確認し、税理士への相談をおすすめします。
