不動産買い替え特例とは?要件・節税効果・申請方法

公開日: 2025/10/31

不動産買い替え特例とは?「課税の繰延」であり「非課税」ではない

マイホームを売却して新しい住宅に買い替える際、売却益に対する譲渡所得税が高額になることがあります。この税負担を軽減するため、「特定居住用財産の買換え特例」(以下、買い替え特例)という制度があります。

この記事では、買い替え特例の仕組み、適用要件、節税効果の試算、申請方法、他の特例との比較を、国税庁の公式情報を元に解説します。

最も重要なポイントは、買い替え特例は「課税の繰延」であり「非課税」ではないことです。税金がゼロになるわけではなく、次回売却時まで支払いを先送りする制度であることを理解しましょう。

この記事のポイント

  • 買い替え特例は譲渡益に対する課税を次回売却時まで繰り延べる制度(税金を免除するわけではない)
  • 適用要件は居住期間10年以上、売却価格1億円以下、買い替え物件の床面積50㎡以上等
  • 3000万円特別控除・軽減税率とは併用不可(いずれか一方のみ適用)
  • 住宅ローン控除との併用も不可(譲渡益の買い替え特例の場合)
  • 適用期限は令和7年12月31日まで(2025年12月31日まで)、2024年1月1日以降の新築住宅は省エネ基準を満たす必要

買い替え特例の基本的な仕組み

買い替え特例は、マイホーム売却時の譲渡益に対する課税を、次回売却時まで繰り延べる制度です。

課税の繰延とは

「課税の繰延」とは、税金の支払いを将来に先送りする仕組みです。買い替え特例を適用すると、今回の売却時には課税されませんが、次回売却時に繰り延べた税金と新たな譲渡益に対する税金が合算して課税されます。税金を免除するわけではないため、予期せぬ売却時に大きな税負担が発生するリスクがあります。

3000万円特別控除との違い

3000万円特別控除は、マイホーム売却時に譲渡益から最大3000万円を控除できる制度です。控除後の譲渡益がゼロになれば、税金もゼロになります。一方、買い替え特例は課税を繰り延べるだけなので、将来必ず税金を支払う必要があります。

どちらが有利かは、譲渡益の金額と次回売却の予定により異なります。譲渡益が3000万円以下なら、3000万円特別控除で課税額がゼロになるため、買い替え特例より有利です。譲渡益が3000万円を超える場合は、買い替え特例で課税を繰り延べることで、資金を運用する時間的メリットがあります。

買い替え特例の適用要件

買い替え特例を適用するには、売却物件と買い替え物件の両方で要件を満たす必要があります。

売却物件の要件

以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 居住期間10年以上: 売却する年の1月1日時点で所有期間が10年を超えていること
  • 居住用であること: 自分が住んでいる(または住んでいた)住宅であること
  • 売却価格1億円以下: 売却価格が1億円以下であること
  • 売却時期: 令和7年12月31日(2025年12月31日)までに売却すること

買い替え物件の要件

以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 床面積50㎡以上: 登記簿上の床面積が50㎡以上であること
  • 築年数: 耐火建築物は25年以内、非耐火建築物は25年以内または一定の耐震基準を満たすこと
  • 省エネ基準: 2024年1月1日以降に建築確認を受ける新築住宅は、断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上を満たすこと
  • 取得時期: 売却の前年1月1日から翌年12月31日までに取得すること
  • 居住時期: 取得の翌年12月31日までに居住すること

省エネ基準の重要性

2024年1月1日以降に建築確認を受ける新築住宅を買い替える場合、省エネ基準を満たす必要があります。この基準を満たさない場合、買い替え特例を適用できないため、購入前に必ず確認しましょう。

節税効果の試算と他の特例との比較

買い替え特例と3000万円特別控除、どちらが有利かを具体例で比較します。

ケース1:譲渡益3000万円以下の場合

条件:

  • 売却価格: 5000万円
  • 取得費・譲渡費用: 3000万円
  • 譲渡益: 2000万円

3000万円特別控除を適用:

  • 課税対象: 2000万円 - 3000万円 = 0円(控除額が譲渡益を上回る)
  • 税額: 0円

買い替え特例を適用:

  • 今回の税額: 0円(繰延)
  • 次回売却時: 繰り延べた2000万円分と新たな譲渡益に課税

このケースでは、3000万円特別控除の方が有利です。買い替え特例を適用すると、次回売却時に税金を支払う必要があるため、税金をゼロにできる3000万円特別控除を選ぶべきです。

ケース2:譲渡益5000万円の場合

条件:

  • 売却価格: 8000万円
  • 取得費・譲渡費用: 3000万円
  • 譲渡益: 5000万円
  • 所有期間: 10年超

3000万円特別控除+軽減税率を適用:

  • 課税対象: 5000万円 - 3000万円 = 2000万円
  • 税額: 2000万円 × 14.21% = 約284万円(軽減税率適用)

買い替え特例を適用:

  • 今回の税額: 0円(繰延)
  • 次回売却時: 繰り延べた5000万円分と新たな譲渡益に課税
  • メリット: 今回の284万円を運用できる時間的メリット

このケースでは、買い替え特例を適用することで、今回の税負担(284万円)を繰り延べられます。次回売却までの期間が長い場合、資金を運用できる時間的メリットがあります。ただし、次回売却時には必ず税金を支払う必要があることを忘れてはいけません。

買い替え特例の申請方法と必要書類

買い替え特例を適用するには、確定申告が必須です。

確定申告の期限と方法

譲渡した年の翌年2月16日~3月15日に、管轄の税務署窓口またはe-Taxで申告します。申告漏れや書類不備があると特例が適用されないため、注意が必要です。

必要書類

以下の書類を用意します。

  • 譲渡所得の申告書(確定申告書第一表・第二表)
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
  • 買換え特例の計算明細書
  • 売却物件の登記事項証明書
  • 買い替え物件の登記事項証明書
  • 売買契約書のコピー(売却・買い替え両方)
  • 住民票の写し(居住を証明するため)

不明な点がある場合は、税務署または税理士に相談することをおすすめします。

買い替え特例の注意点と他の特例との併用可否

買い替え特例を適用する際の重要な注意点を解説します。

3000万円特別控除との併用不可

買い替え特例と3000万円特別控除は併用できません。いずれか一方のみを選択する必要があります。譲渡益3000万円以下なら3000万円特別控除、それ以上なら買い替え特例が有利な場合が多いですが、次回売却の予定も考慮して選択すべきです。

所有期間10年超の軽減税率との併用不可

所有期間10年超の場合、6000万円以下の部分に対し税率14.21%に軽減される制度(軽減税率)がありますが、買い替え特例とは併用できません。

住宅ローン控除との併用不可

譲渡益の買い替え特例は、住宅ローン控除と併用できません。買い替え物件で住宅ローン控除を受けたい場合は、買い替え特例ではなく3000万円特別控除を選択すべきです。

ただし、譲渡損失の特例(マイホームを売って譲渡損失が出た場合の特例)は住宅ローン控除と併用可能です。譲渡益か譲渡損失かにより、併用可否が異なることに注意しましょう。

予期せぬ売却時のリスク

買い替え特例を適用すると、次回売却時に繰り延べた税金と新たな譲渡益に対する税金が合算して課税されます。転勤・介護・離婚など、予期せぬ事情で売却する場合、大きな税負担が発生するリスクがあります。次回売却の予定を慎重に検討した上で、特例を選択しましょう。

適用期限は令和7年12月31日まで

買い替え特例の適用期限は令和7年12月31日(2025年12月31日)までです。この期限までに売却する必要があります。期限を過ぎると特例を適用できないため、スケジュールに注意しましょう。

まとめ:買い替え特例は「繰延」であり「免除」ではない

買い替え特例は、マイホーム売却時の譲渡益に対する課税を次回売却時まで繰り延べる制度です。税金を免除するわけではなく、将来必ず支払う必要があることを理解しましょう。

適用要件は、居住期間10年以上、売却価格1億円以下、買い替え物件の床面積50㎡以上等です。2024年1月1日以降の新築住宅は省エネ基準を満たす必要があります。

3000万円特別控除・軽減税率・住宅ローン控除とは併用不可のため、どの特例が有利かを試算して選択すべきです。譲渡益3000万円以下なら3000万円特別控除、それ以上なら買い替え特例が有利な場合が多いですが、次回売却の予定も考慮することが重要です。

確定申告は必須で、申告漏れや書類不備があると特例が適用されません。不明な点がある場合は、税理士に相談することをおすすめします。

よくある質問

3000万円特別控除と買い替え特例は併用できますか?

併用不可です。いずれか一方のみ適用されます。譲渡益3000万円以下なら3000万円特別控除で課税額がゼロになるため、買い替え特例より有利です。譲渡益3000万円超なら買い替え特例が有利な場合がありますが、次回売却時まで資金を運用できるメリットと、将来の税負担を比較して選択すべきです。

住宅ローン控除と買い替え特例は併用できますか?

譲渡益の買い替え特例は住宅ローン控除と併用不可です。ただし、譲渡損失の特例(マイホームを売って譲渡損失が出た場合の特例)は住宅ローン控除と併用可能です。買い替え物件で住宅ローン控除を受けたい場合は、買い替え特例ではなく3000万円特別控除を選択すべきです。

買い替え特例の適用期限はいつまでですか?

令和7年12月31日まで(2025年12月31日まで)です。この期限までに売却する必要があります。また、2024年1月1日以降に建築確認を受ける新築住宅は省エネ基準(断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上)を満たす必要があります。

次回売却時に繰り延べた税金はどうなりますか?

次回売却時に繰り延べた税金と新たな譲渡益に対する税金が合算して課税されます。予期せぬ売却時に大きな税負担が発生するリスクがあるため、次回売却の予定を考慮して特例を選択すべきです。

確定申告をしないと買い替え特例は適用されませんか?

確定申告が必須です。申告漏れや書類不備があると特例が適用されません。譲渡した年の翌年2月16日~3月15日に、管轄の税務署窓口またはe-Taxで申告してください。必要書類は譲渡所得の申告書、買換え特例の計算明細書、売却・買い替え物件の登記事項証明書、売買契約書のコピー等です。

よくある質問

Q13000万円特別控除と買い替え特例は併用できますか?

A1併用不可です。いずれか一方のみ適用されます。譲渡益3000万円以下なら3000万円特別控除で課税額がゼロになるため、買い替え特例より有利です。譲渡益3000万円超なら買い替え特例が有利な場合がありますが、次回売却時まで資金を運用できるメリットと、将来の税負担を比較して選択すべきです。

Q2住宅ローン控除と買い替え特例は併用できますか?

A2譲渡益の買い替え特例は住宅ローン控除と併用不可です。ただし、譲渡損失の特例(マイホームを売って譲渡損失が出た場合の特例)は住宅ローン控除と併用可能です。買い替え物件で住宅ローン控除を受けたい場合は、買い替え特例ではなく3000万円特別控除を選択すべきです。

Q3買い替え特例の適用期限はいつまでですか?

A3令和7年12月31日まで(2025年12月31日まで)です。この期限までに売却する必要があります。また、2024年1月1日以降に建築確認を受ける新築住宅は省エネ基準(断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上)を満たす必要があります。

Q4次回売却時に繰り延べた税金はどうなりますか?

A4次回売却時に繰り延べた税金と新たな譲渡益に対する税金が合算して課税されます。予期せぬ売却時に大きな税負担が発生するリスクがあるため、次回売却の予定を考慮して特例を選択すべきです。

Q5確定申告をしないと買い替え特例は適用されませんか?

A5確定申告が必須です。申告漏れや書類不備があると特例が適用されません。譲渡した年の翌年2月16日~3月15日に、管轄の税務署窓口またはe-Taxで申告してください。必要書類は譲渡所得の申告書、買換え特例の計算明細書、売却・買い替え物件の登記事項証明書、売買契約書のコピー等です。