不動産の名義変更は自分でできる?手順・必要書類・注意点を解説

公開日: 2025/10/26

不動産の名義変更は自分でできる?判断基準を理解する

親や親族が亡くなり不動産を相続した際、または不動産を売買・贈与する際、「名義変更を自分でできるのか」「費用を抑えたい」と考える方は少なくありません。しかし、名義変更の難易度はケースによって大きく異なります。

この記事では、不動産の名義変更を自分でやる場合の手順、必要書類、費用、注意点を、法務省法務局の公式情報を元に解説します(2025年10月時点の情報)。

自分でできるケースと専門家に依頼すべきケースを正しく判断し、適切に対応できるようになります。

この記事のポイント

  • 自分でできるかはケース次第(単純な相続、書類が揃っている場合は可能)
  • 複雑なケース(代襲相続、兄弟相続、遺産分割協議が必要)は専門家への依頼を推奨
  • 必要書類の収集(戸籍謄本を複数の市区町村役場から取得)と法務局への複数回訪問(3-5回)が必要
  • 費用は登録免許税等の実費のみ(数千円-数万円)だが、時間的コストが大きい
  • 2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内の登記が必要

自分でできるケース・難しいケース

自分でできる「単純なケース」の条件

以下の条件を満たす場合、自分で名義変更できる可能性があります。

  • 相続人が1名のみ、または法定相続分通りに相続する場合
  • 遺言書がある場合
  • 必要書類が揃っている(戸籍謄本、住民票等)
  • 不動産が1つのみ
  • 平日に法務局に行ける
  • 時間的余裕がある(書類収集に2週間-1ヶ月、登記完了まで1-2ヶ月)

これらの条件を満たせば、登録免許税等の実費のみで名義変更できます。

専門家に依頼すべき「複雑なケース」

以下のケースでは、専門家(司法書士)への依頼を強く推奨します。

  • 代襲相続・兄弟相続(相続人の確定が複雑)
  • 遺産分割協議が必要(相続人全員の合意が必要)
  • 複数の不動産(複数の法務局に申請が必要)
  • 抵当権設定・抹消(金融機関との調整が必要)
  • 期限が迫っている(3年以内の登記義務)
  • 平日に法務局に行けない

これらのケースで自分でやろうとすると、書類不備での再申請や期限遅れのリスクがあります。

2024年4月施行の相続登記義務化の影響

2024年4月から、相続登記が義務化されました。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行う必要があります。

正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。期限を守ることが最優先であり、自分でやる場合は時間的余裕を十分に確保する必要があります。

2024年以前に発生した相続についても、2027年3月31日までに登記する必要があります(経過措置)。

名義変更に必要な書類一覧(取得先・取得方法付き)

名義変更に必要な書類は、相続のケースによって異なります。ここでは、一般的な相続登記(法定相続分通り、または遺産分割協議による)に必要な書類を説明します。

被相続人に関する書類(戸籍謄本・除籍謄本等)

  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本

    • 取得先: 被相続人の本籍地があった市区町村役場(複数ヶ所の場合あり)
    • 目的: 相続人を確定するため
    • 注意: 婚姻・転籍等で本籍地が変わっている場合、複数の市区町村役場から取得する必要があります。ケースによっては取得先が多数になる場合があり、専門家への相談を推奨します
  • 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)

    • 取得先: 被相続人の最後の住所地の市区町村役場
    • 目的: 登記簿上の住所と死亡時の住所を結びつける

相続人に関する書類(戸籍謄本・住民票等)

  • 相続人全員の戸籍謄本

    • 取得先: 各相続人の本籍地の市区町村役場
    • 目的: 相続人が存命であることを証明
  • 不動産を取得する相続人の住民票

    • 取得先: 相続人の住所地の市区町村役場
    • 目的: 新しい所有者の住所を登記簿に記載
  • 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議の場合)

    • 取得先: 各相続人の住所地の市区町村役場
    • 目的: 遺産分割協議書の実印を証明

不動産に関する書類(登記事項証明書・固定資産評価証明書)

  • 登記事項証明書(登記簿謄本)

    • 取得先: 法務局(窓口、郵送、オンライン)
    • 目的: 不動産の現在の所有者・地番・家屋番号を確認
    • 注意: 地番・家屋番号住居表示は異なる。登記簿謄本または固定資産税納税通知書で確認
  • 固定資産評価証明書

    • 取得先: 不動産所在地の市区町村役場
    • 目的: 登録免許税を計算するための評価額を確認

その他の書類(遺産分割協議書・印鑑証明書等)

  • 遺産分割協議書(法定相続分と異なる割合で相続する場合)
    • 作成者: 相続人全員
    • 内容: 誰がどの財産を相続するかを記載
    • 注意: 相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付

戸籍謄本の収集は非常に労力がかかる点です。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得するには、婚姻・転籍等で本籍地が変わっている場合、複数の市区町村役場に請求する必要があります。実務では、この作業で挫折する人が多いと司法書士の実務経験に基づく解説で指摘されています。

名義変更の手順(法務局への申請方法)

名義変更は以下の5つのステップで進めます。

ステップ1: 必要書類を収集する

前述の必要書類を収集します。戸籍謄本の収集には2週間-1ヶ月程度かかる場合があるため、早めに着手しましょう。

郵送で請求する場合は、定額小為替(手数料分)と返信用封筒(切手貼付)を同封します。

ステップ2: 登記申請書を作成する

法務局のウェブサイトから登記申請書のひな形をダウンロードできます。

登記申請書に記載する内容:

  • 登記の目的(例:所有権移転)
  • 登記の原因(例:令和〇年〇月〇日相続)
  • 相続人(住所・氏名)
  • 不動産の表示(地番・家屋番号、地積・床面積等)
  • 申請日・申請人・添付書類の目録

注意点: 地番・家屋番号と住居表示は異なります。登記事項証明書または固定資産税納税通知書で正確な地番・家屋番号を確認してください。誤った物件を登記してしまった場合、更正登記(訂正の登記)が必要になり、追加の費用と時間がかかります。このような誤りを防ぐため、専門家(司法書士)への相談を強く推奨します。

ステップ3: 登録免許税を計算・納付する

登録免許税は以下の計算式で求めます。

登録免許税 = 固定資産評価額 × 0.4%(相続の場合)

相続の場合は0.4%ですが、売買や贈与の場合は税率が異なります(売買2%、贈与2%)。詳細は法務局または税理士に確認してください。

例: 固定資産評価額2,000万円の場合 → 2,000万円 × 0.4% = 8万円

登録免許税は、収入印紙を購入して登記申請書に貼付するか、オンライン申請の場合は電子納付します。

ステップ4: 法務局に申請書と必要書類を提出する

不動産の所在地を管轄する法務局に、登記申請書と必要書類を提出します。

  • 窓口提出: 法務局の窓口に直接提出
  • 郵送提出: 書留郵便で送付
  • オンライン申請: 法務局の登記・供託オンライン申請システムを利用

初めて申請する場合は、事前に法務局の無料相談(電話予約制)を利用して、書類の不備がないか確認することをおすすめします。

重要: 法務局への複数回訪問(3-5回)が必要です。①事前相談、②申請書の提出、③補正(書類不備があった場合)、④登記完了後の書類受取等で複数回訪問することになります。平日に時間を取れない人は、この点が大きな負担になります。

ステップ5: 登記完了・登記識別情報通知を受け取る

申請から1-2週間程度で登記が完了します。登記完了後、以下の書類を受け取ります。

  • 登記識別情報通知: 12桁の英数字(従来の「権利書」に代わるもの)
  • 原本還付書類: 戸籍謄本等の原本(原本還付の手続きをした場合)

登記識別情報通知は、将来の売却時や抵当権設定時に必要になるため、大切に保管してください。

名義変更にかかる費用(自分でやる場合と司法書士に依頼する場合の比較)

登録免許税の計算方法(実費)

相続登記の場合、登録免許税は固定資産評価額の0.4%です。

固定資産評価額 登録免許税
1,000万円 4万円
2,000万円 8万円
3,000万円 12万円
5,000万円 20万円

その他の実費(戸籍謄本・評価証明書等)

その他に必要な実費は以下の通りです。

  • 戸籍謄本: 450円/通(3-5通必要)
  • 除籍謄本: 750円/通(2-3通必要)
  • 住民票: 300円/通(相続人の人数分)
  • 印鑑証明書: 300円/通(相続人の人数分)
  • 固定資産評価証明書: 300円/通
  • 登記事項証明書: 600円/通
  • 郵送料: 実費(定額小為替の手数料含む)

合計で数千円程度です。

司法書士に依頼する場合の費用(数万円-10万円超)

司法書士に依頼する場合、報酬として以下の費用がかかります。

  • 単純な相続登記: 一般的な目安として5万円-8万円程度
  • 複雑な相続登記(代襲相続、兄弟相続、複数の不動産): 一般的な目安として8万円-15万円超

登録免許税やその他の実費は別途必要です。

費用と時間的コストの比較:

項目 自分でやる場合 司法書士に依頼する場合
登録免許税 実費のみ 実費のみ
その他実費 数千円 数千円
司法書士報酬 なし 5万円-15万円超
時間的コスト 大きい(2-3ヶ月) 小さい(1ヶ月程度)
期限遅れのリスク あり 小さい

時間的余裕があり、平日に法務局に行ける人は自分でやって費用を節約できます。一方、複雑なケース、期限が迫っている、平日に時間を取れない人は、司法書士に依頼する方が合理的です。

注意点とよくある失敗

戸籍謄本の収集で挫折する人が多い

実務では、戸籍謄本の収集で挫折する人が非常に多いと指摘されています。

被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得するには、婚姻・転籍等で本籍地が変わっている場合、複数の市区町村役場に請求する必要があります。

郵送で請求する場合、1ヶ所あたり1-2週間かかるため、全体で1-2ヶ月以上かかることもあります。

法務局への複数回訪問(3-5回)が必要

法務局への訪問は、以下のタイミングで必要になります。

  1. 事前相談(任意だが推奨)
  2. 登記申請書の提出
  3. 補正(書類不備があった場合)
  4. 登記完了後の書類受取

平日の日中(8:30-17:15)のみ対応しているため、平日に休めない人は訪問が困難です。

書類不備での再申請と期限遅れのリスク

書類に不備があった場合、法務局から補正(訂正・追加書類の提出)を求められます。補正には通常1週間程度の期限があり、期限内に対応しないと申請が却下されます。

再申請が必要になると、登記完了までの期間が延び、相続登記の期限(3年以内)に間に合わないリスクがあります。期限を過ぎると、10万円以下の過料が科される可能性があります。

地番・家屋番号の誤記載に注意

地番・家屋番号と住居表示は異なります。住居表示をそのまま登記申請書に記載すると、誤った物件を登記してしまうリスクがあります。

必ず登記事項証明書または固定資産税納税通知書で正確な地番・家屋番号を確認してください。

まとめ:自分でやるか専門家に依頼するかの判断基準

不動産の名義変更を自分でできるかは、①ケース(単純か複雑か)、②時間的余裕、③平日に法務局に行けるか、によって判断します。

自分でできる場合:

  • 単純な相続(相続人1名または法定相続分通り)
  • 書類が揃っている
  • 時間的余裕がある(2-3ヶ月)
  • 平日に法務局に行ける

司法書士に依頼すべき場合:

  • 複雑な相続(代襲相続、兄弟相続、遺産分割協議が必要)
  • 期限が迫っている(3年以内の登記義務)
  • 平日に時間を取れない
  • 複数の不動産

まずは法務局の無料相談(電話予約制)を利用して、自分でできそうか確認してから判断する方法もあります。相続登記義務化(3年以内)の期限を守ることが最優先です。

よくある質問

Q1本当に自分でできますか?難しくないですか?

A1単純な相続(相続人1名または法定相続分通り、必要書類が揃っている)であれば自分でできます。ただし、戸籍謄本の収集(被相続人の出生から死亡まで、複数の市区町村役場から取得)、法務局への複数回訪問(3-5回)が必要で、時間がかかります。書類収集に2週間-1ヶ月、登記申請書の作成に数日、法務局への提出・登記完了まで1-2週間で、合計1-2ヶ月程度です。複雑な相続(代襲相続、兄弟相続、遺産分割協議が必要)は専門家に依頼すべきです。

Q2どのくらい時間がかかりますか?

A2書類収集に2週間-1ヶ月、登記申請書の作成に数日、法務局への提出・登記完了まで1-2週間で、合計1-2ヶ月程度かかります。複雑なケースでは、戸籍謄本の収集(被相続人の出生から死亡まで、複数の市区町村役場に請求)に3ヶ月以上かかることもあります。平日に法務局に行けない人は、さらに時間がかかります。法務局への訪問は平日の日中(8:30-17:15)のみ対応しているため、仕事を休む必要があります。

Q3書類不備で失敗したらどうなりますか?

A3書類に不備があった場合、法務局から補正(訂正・追加書類の提出)を求められます。補正には通常1週間程度の期限があり、期限内に対応しないと申請が却下され、再申請が必要になります。再申請が発生すると登記完了までの期間が延び、登記完了まで通常よりも時間がかかります。相続登記は2024年4月から義務化され、相続発生から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があるため、期限を守ることが重要です。書類不備を避けるため、事前に法務局の無料相談を利用することをおすすめします。

Q4どういう場合は司法書士に頼むべきですか?

A4以下のケースでは司法書士に依頼すべきです。①代襲相続・兄弟相続等の複雑な相続(相続人の確定が困難)、②遺産分割協議が必要(相続人全員の合意が必要)、③複数の不動産(複数の法務局に申請が必要)、④抵当権設定・抹消(金融機関との調整が必要)、⑤期限が迫っている(3年以内の登記義務)、⑥平日に法務局に行けない。司法書士への報酬は数万円-10万円超かかりますが、時間的コストを削減でき、期限遅れのリスクを避けられるため、合理的な選択です。