投資不動産で節税できる仕組み
不動産投資を検討する際、「節税効果がある」という話を耳にすることがあります。しかし、節税だけを目的とした投資はリスクが高く、本末転倒になる可能性があります。
この記事では、投資不動産による節税の仕組み、減価償却、経費計上の範囲、リスク・注意点について、国税庁等の公的機関の情報を元に解説します。
節税効果を正確に理解し、収益性を第一に考えた投資判断ができるようになります。
この記事のポイント
- 減価償却による帳簿上の赤字を給与所得等と損益通算することで、所得税・住民税が減少する
- 減価償却は法定耐用年数で終了するため、節税効果は一時的(数年~十数年)
- デッドクロス(ローン元本返済額が減価償却費を上回る状態)でキャッシュフローがマイナスになるリスク
- 節税だけを目的とせず、立地・収益性を第一に考えることが重要
投資不動産で節税できる仕組みは、以下の3つです。
- 減価償却による帳簿上の赤字: 建物部分を法定耐用年数で按分し、毎年経費として計上
- 不動産所得の赤字を給与所得等と損益通算: 所得税・住民税が減少
- 経費計上: 減価償却費、修繕費、管理費、ローン金利、固定資産税等
国税庁によると、不動産所得は以下の計算式で求められます。
不動産所得 = 家賃収入 - 必要経費
必要経費には、減価償却費、修繕費、管理費、ローン金利、固定資産税等が含まれます。減価償却費は実際の支出を伴わない経費のため、帳簿上の赤字を作りやすくなります。
減価償却による節税効果
減価償却は、建物の購入価格を法定耐用年数で按分し、毎年経費として計上する会計処理です。
減価償却の計算方法(建物価格×償却率)
国税庁によると、減価償却費は定額法で計算します。
減価償却費 = 建物価格 × 償却率
償却率は、法定耐用年数により異なります。
法定耐用年数(木造22年・RC47年)
2025年時点での建物の構造により、法定耐用年数が異なります。
| 構造 | 法定耐用年数 | 償却率 | 
|---|---|---|
| 木造 | 22年 | 0.046 | 
| 鉄骨造(厚さ3mm以下) | 19年 | 0.053 | 
| 鉄骨造(厚さ3mm超4mm以下) | 27年 | 0.038 | 
| 鉄骨造(厚さ4mm超) | 34年 | 0.030 | 
| RC造(鉄筋コンクリート) | 47年 | 0.022 | 
築古物件の耐用年数短縮
築古物件は、法定耐用年数を短縮できるため、減価償却費が大きくなり、節税効果が高まります。
中古物件の耐用年数は、以下の計算式で求められます。
耐用年数 = (法定耐用年数 - 経過年数) + 経過年数 × 0.2
例えば、築20年の木造物件の場合:
(22年 - 20年) + 20年 × 0.2 = 6年
耐用年数が短いほど、年間の減価償却費が大きくなり、節税効果が高まります。
経費として計上できるもの・できないもの
不動産投資では、様々な費用を経費として計上できます。ただし、計上できないものもあるため、注意が必要です。
計上できる経費(減価償却費、修繕費、管理費、ローン金利等)
国税庁によると、以下の費用を経費として計上できます。
- 減価償却費: 建物の購入価格を法定耐用年数で按分
- 修繕費: 建物・設備の修繕・維持管理費用
- 管理費: 賃貸管理会社への手数料
- ローン金利: 不動産購入のための借入金の金利
- 固定資産税・都市計画税: 不動産に課税される税金
- 火災保険料: 建物・家財の保険料
- 税理士報酬: 確定申告の代行費用
- 交通費: 物件の視察・管理のための交通費
計上できない経費(元本返済、土地の減価償却、プライベート使用分等)
以下の費用は経費として計上できません。
- ローン元本返済: 借入金の元本部分(金利部分のみ経費)
- 土地の減価償却: 土地は減価償却の対象外
- プライベート使用分: 自己使用部分は経費外
- 生活費: 生活に関する費用は経費外
ローン返済のうち、元本部分は経費計上できず、金利部分のみ経費として認められることに注意しましょう。
損益通算の仕組みと制限
不動産所得の赤字を給与所得等と損益通算することで、所得税・住民税が減少します。
不動産所得の赤字を給与所得等と通算
国税庁によると、不動産所得の赤字は、給与所得、事業所得等の他の所得と相殺できます。
例えば、以下のケースで損益通算すると、所得税・住民税が減少します。
| 項目 | 金額 | 
|---|---|
| 給与所得 | 1,000万円 | 
| 不動産所得 | -100万円 | 
| 課税所得 | 900万円 | 
課税所得が900万円に減少するため、所得税・住民税が減少します。
土地取得に係る借入金利子は通算不可
国税庁によると、土地取得に係る借入金利子は、損益通算の対象外です。
不動産所得の赤字のうち、土地取得に係る借入金利子に相当する部分は、給与所得等と相殺できません。建物部分の借入金利子のみ損益通算できます。
投資不動産の節税リスク・注意点
投資不動産の節税には、以下のリスク・注意点があります。
デッドクロスとキャッシュフローのマイナス
デッドクロスとは、ローン元本返済額が減価償却費を上回る状態です。減価償却終了後に発生しやすく、帳簿上は黒字でもキャッシュフローがマイナスになるリスクがあります。
減価償却費は実際の支出を伴わないため、減価償却期間中は帳簿上の赤字でもキャッシュフローはプラスになります。しかし、減価償却終了後は帳簿上の黒字でも、ローン元本返済により実際のキャッシュフローがマイナスになる可能性があります。
減価償却は一時的(期間終了後の所得税増加)
減価償却は法定耐用年数で終了するため、節税効果は一時的(数年~十数年)です。減価償却終了後は、不動産所得が黒字になり、所得税・住民税が増加します。
永続的な節税効果ではなく、課税の繰延であることを理解しましょう。
売却時の譲渡所得税
減価償却費は、売却時の取得費から差し引かれます。そのため、譲渡所得が増加し、売却時に課税されます。
例えば、5,000万円で購入した建物を1,000万円減価償却した場合、売却時の取得費は4,000万円になります。5,000万円で売却すると、譲渡所得は1,000万円になり、譲渡所得税が課税されます。
節税効果は課税の繰延であり、永続的な利益ではないことを理解しましょう。
空室・金利上昇リスク
空室が続くと、家賃収入が減少し、キャッシュフローがマイナスになる可能性があります。また、変動金利でローンを組んでいる場合、金利上昇により返済額が増加し、キャッシュフローが悪化するリスクがあります。
節税だけを目的とせず、立地・収益性を第一に考え、空室リスク・金利上昇リスクを最小限に抑えることが重要です。
まとめ
投資不動産の節税は、減価償却による帳簿上の赤字と損益通算の仕組みです。経費計上の範囲を理解し、損益通算の制限も確認しましょう。
ただし、デッドクロス、減価償却期間終了後の所得税増加、売却時の譲渡所得税等のリスクがあるため、節税だけを目的とせず、収益性を第一に考えることが重要です。
不明点は税理士に相談することをおすすめします。
