不動産所得の確定申告の書き方|必要書類と経費計上のポイント

公開日: 2025/10/27

不動産所得の確定申告とは

賃貸物件を所有している方は、家賃収入に対して「不動産所得」として確定申告が必要です。「何を経費にできるのか」「青色申告と白色申告の違いは何か」と疑問に感じる方は少なくありません。

この記事では、不動産所得の確定申告の手順、経費にできるもの・できないもの、青色申告特別控除のメリット、必要書類を国税庁の公式情報を元に解説します。

初めて確定申告する方でも、正確に申告し、適切な節税対策を行えるようになります。

この記事のポイント

  • 不動産所得は「総収入金額-必要経費」で計算し、他の所得と合算して確定申告
  • 経費にできるもの(固定資産税、修繕費、減価償却費、管理委託費等)と経費にできないもの(借入金元本返済、所得税・住民税)を正確に区別
  • 青色申告なら最大65万円控除、赤字の3年繰越、家族への給与を経費化可能(事前申請と帳簿作成が必要)
  • 確定申告の期限は翌年2月16日-3月15日、e-Taxまたは郵送で提出
  • 事業的規模(おおむね5棟10室)でない場合、青色申告特別控除は10万円が上限

不動産所得の計算方法

不動産所得の計算式

不動産所得は以下の計算式で求めます。

不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費

国税庁によると、不動産所得は不動産の貸付け(地代、家賃、駐車場代等)による所得です。

総収入金額の範囲

総収入金額には以下が含まれます。

項目 内容
家賃 毎月の賃料
共益費・管理費 入居者が負担する共益費
礼金・更新料 契約時・更新時に受け取る金額
駐車場代 駐車場の賃料
敷金・保証金 返還しない部分(退去時に修繕費等に充当)

(出典: 国税庁

必要経費の範囲

必要経費として計上できるのは、不動産収入を得るために直接必要な費用です。

経費にできるもの・できないもの

✅ 経費にできるもの

以下の費用は必要経費として計上できます。

項目 内容 注意点
固定資産税・都市計画税 物件にかかる税金 全額経費化可能
損害保険料 火災保険・地震保険 保険期間で按分
修繕費 原状回復のための費用 資本的支出(価値向上)は減価償却
減価償却費 建物・設備の取得価格を耐用年数で分割 土地は対象外
管理委託費 不動産管理会社への委託料 全額経費化可能
仲介手数料 入居者募集の仲介手数料 全額経費化可能
借入金利子 住宅ローン・事業ローンの利息部分 元本返済は経費化不可
税理士報酬 確定申告の代行費用 全額経費化可能
交通費 物件の管理・確認のための交通費 私的な移動は経費化不可
通信費 物件管理に使用した電話代・ネット代 事業用割合で按分

(出典: 国税庁

❌ 経費にできないもの

以下の費用は必要経費として計上できません。

項目 理由
借入金元本の返済 元本は負債の返済であり、経費ではない(利息部分のみ経費化可能)
所得税・住民税 税金の二重控除を防ぐため
私的な支出 家族旅行、私的な食事代等
敷金・保証金(返還する部分) 預かり金であり、収入にも経費にもならない

減価償却費の計算方法

減価償却とは

減価償却とは、建物・設備等の取得価格を耐用年数で分割して毎年経費計上する仕組みです。土地は経年劣化しないため、減価償却の対象外です。

減価償却の計算式

減価償却費 = 建物の取得価格 ÷ 耐用年数

耐用年数は建物の構造により異なります。

構造 耐用年数
木造 22年
鉄骨造(軽量) 27年
鉄筋コンクリート造 47年

(出典: 減価償却資産の耐用年数等に関する省令)

具体例

前提条件

  • 建物の取得価格: 2200万円(土地を除く)
  • 構造: 木造
  • 耐用年数: 22年

計算

  • 減価償却費 = 2200万円 ÷ 22年 = 100万円/年

毎年100万円を経費として計上できます。

青色申告と白色申告の違い

青色申告のメリット

青色申告は、事前に申請し、帳簿を作成することで以下のメリットが受けられます。

メリット 内容
青色申告特別控除 最大65万円控除(事業的規模の場合)、10万円控除(それ以外)
赤字の繰越 赤字を翌年以降3年間繰り越して黒字と相殺可能
家族への給与を経費化 青色事業専従者給与として経費計上可能
少額減価償却資産の特例 30万円未満の資産を一括経費化可能(年間300万円まで)

(出典: 国税庁

青色申告の要件

青色申告を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。

事前申請

  • 青色申告承認申請書を、申告する年の3月15日まで(新規開業の場合は開業から2ヶ月以内)に税務署に提出

帳簿作成

  • 複式簿記による帳簿作成(65万円控除の場合)
  • 簡易帳簿(10万円控除の場合)

e-Tax申告

  • 65万円控除を受けるにはe-Taxでの電子申告が必要(2020年分以降)

事業的規模とは

不動産貸付けが「事業的規模」と認められる場合、青色申告特別控除65万円が適用されます。

事業的規模の目安

  • おおむね5棟10室(戸建て5棟またはアパート10室)
  • 駐車場は5台で1室としてカウント

事業的規模でない場合、青色申告特別控除は10万円が上限です。

白色申告

白色申告は事前申請不要で、簡単な記帳で済みますが、青色申告のようなメリットはありません。

項目 白色申告
控除 なし
赤字の繰越 不可
家族への給与 経費化不可(配偶者は86万円、その他親族は50万円の事業専従者控除のみ)

確定申告の手順と必要書類

確定申告の期限

不動産所得の確定申告は、翌年の2月16日-3月15日に行います。

期限を過ぎると以下のペナルティが発生します。

ペナルティ 内容
無申告加算税 納税額の15-20%
延滞税 年率7.3-14.6%
青色申告の取消 2年連続で期限内申告を怠ると青色申告が取り消される

(出典: 国税通則法)

必要書類

確定申告時に必要な書類は以下の通りです。

基本書類

  • 確定申告書B(第一表・第二表)
  • 青色申告決算書(青色申告の場合)または収支内訳書(白色申告の場合)

添付書類

  • 家賃収入の証明(賃貸借契約書、通帳のコピー等)
  • 経費の領収書・請求書(固定資産税納税通知書、修繕費の領収書等)
  • 借入金の返済予定表(利息部分を確認)
  • 減価償却資産の取得価格がわかる書類(売買契約書等)

申告方法(e-Tax・郵送)

確定申告は以下の方法で提出できます。

e-Tax(電子申告)

郵送

  • 所轄税務署宛に簡易書留で送付
  • 消印有効(3月15日の消印があれば期限内申告と認められる)

税務署窓口

  • 所轄税務署に直接提出
  • 混雑するため、e-Taxまたは郵送が推奨される

損益通算と赤字の繰越

損益通算とは

不動産所得が赤字の場合、給与所得等の黒字と相殺して税額を減らせる制度です。

  • 給与所得: 500万円
  • 不動産所得: -100万円(赤字)
  • 損益通算後の所得: 500万円 - 100万円 = 400万円

所得が400万円に減少するため、所得税・住民税が減額されます。

赤字の繰越(青色申告のみ)

青色申告者は、赤字を翌年以降3年間繰り越して黒字と相殺できます。

  • 1年目: 不動産所得 -100万円(赤字)
  • 2年目: 不動産所得 150万円(黒字)
  • 繰越控除後: 150万円 - 100万円 = 50万円

課税所得が50万円に減少し、税額が抑えられます。

白色申告では赤字の繰越はできません。

よくある間違いと対策

借入金元本を経費にする誤り

借入金元本の返済は経費にできません。経費にできるのは利息部分のみです。

  • 月々返済額: 10万円(元本7万円+利息3万円)
  • 経費にできるのは利息3万円のみ

修繕費と資本的支出の区別

原状回復のための修繕費は全額経費化できますが、価値を向上させる資本的支出は減価償却が必要です。

項目 修繕費(全額経費化) 資本的支出(減価償却)
内容 原状回復 価値向上・耐用年数延長
壁紙張替え、畳表替え 間取り変更、設備グレードアップ

判断が難しい場合は税理士に相談することをおすすめします。

事業的規模の誤認

5棟10室未満の場合、青色申告特別控除は10万円が上限です。65万円控除を受けるには事業的規模が必要です。

まとめ

不動産所得の確定申告は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。経費にできるもの(固定資産税、修繕費、減価償却費、管理委託費、借入金利子等)と経費にできないもの(借入金元本返済、所得税・住民税)を正確に区別することが重要です。

青色申告なら最大65万円控除、赤字の3年繰越、家族への給与を経費化できるメリットがあります。ただし、事前申請と帳簿作成が必要で、事業的規模(おおむね5棟10室)でない場合は10万円控除が上限です。

確定申告の期限は翌年2月16日-3月15日で、期限を過ぎると無申告加算税・延滞税が課されます。e-Taxまたは郵送で提出し、必要書類(確定申告書、青色申告決算書または収支内訳書、経費の領収書等)を正確に準備しましょう。

次のアクション

  1. 青色申告を検討する場合、申告する年の3月15日までに承認申請書を提出
  2. 家賃収入・経費の領収書を整理し、帳簿を作成
  3. 減価償却費を計算し、経費に計上
  4. 確定申告書を作成し、期限内に提出

不動産所得の確定申告は複雑なため、初めての方や物件が複数ある方は税理士に相談することをおすすめします。正確な申告で適切な節税対策を行いましょう。

よくある質問

Q1不動産所得が赤字の場合も確定申告が必要ですか?

A1不動産所得が赤字の場合、確定申告は義務ではありませんが、給与所得等と損益通算することで税額を減らせる場合があるため申告が推奨されます。また、青色申告者は赤字を翌年以降3年間繰り越して黒字と相殺できる「繰越控除」のメリットがあります。損益通算・繰越控除を受けるには確定申告が必須です。

Q2青色申告と白色申告、どちらがお得ですか?

A2青色申告の方がお得です。青色申告なら最大65万円控除、赤字の3年繰越、家族への給与を経費化できるメリットがあります。ただし、事前申請(申告する年の3月15日まで)と帳簿作成が必要で、事業的規模(おおむね5棟10室)でない場合は10万円控除が上限です。白色申告は事前申請不要で簡単ですが、控除や繰越はできません。物件が1-2件でも青色申告(10万円控除)は検討する価値があります。

Q3住宅ローンの返済は経費にできますか?

A3住宅ローンの返済のうち、利息部分のみ経費にできます。元本部分は負債の返済であり、経費にできません。例えば、月々返済額10万円(元本7万円+利息3万円)の場合、経費にできるのは利息3万円のみです。借入金の返済予定表で利息と元本の内訳を確認し、利息部分のみを経費計上してください。

Q4減価償却費の計算方法を教えてください。

A4減価償却費は「建物の取得価格÷耐用年数」で計算します。耐用年数は建物の構造により異なり、木造22年、鉄骨造(軽量)27年、鉄筋コンクリート造47年が目安です。例えば、木造建物2200万円(土地を除く)なら、減価償却費は2200万円÷22年=100万円/年です。土地は経年劣化しないため減価償却の対象外です。詳細は税理士に相談することをおすすめします。