不動産所得の青色申告とは|賃貸経営の節税メリット
不動産の賃貸経営を行っている方なら、「青色申告にすると税金が安くなる」と聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、青色申告特別控除の額は記帳方法により異なり、10万円・55万円・65万円の3段階があることをご存知でしょうか。
この記事では、不動産所得の青色申告の仕組み、青色申告特別控除の要件(10万円・55万円・65万円)、事業的規模の判定基準(5棟10室基準)、必要な帳簿と手続きを、国税庁の公式情報を元に解説します。
初めて青色申告を検討する方でも、自分に適した控除額と手続きを理解できるようになります。
この記事のポイント(2025年時点の制度に基づく)
- 青色申告特別控除は10万円・55万円・65万円の3段階があり、記帳方法と要件により異なる
- 55万円・65万円控除は事業的規模(5棟10室基準)が必要
- 65万円控除にはe-Taxによる電子申告または電子帳簿保存が必要
- 青色申告承認申請書は開業日から2ヶ月以内、または適用年の3月15日までに提出が必要
- 最新の制度は国税庁のウェブサイトでご確認ください
青色申告特別控除の3つの区分【10万円・55万円・65万円】
青色申告特別控除は、記帳方法と要件により10万円・55万円・65万円の3段階に分かれます。
10万円控除の要件
記帳方法: 簡易簿記(単式簿記)でOK
対象者:
- 不動産所得のある全ての青色申告者
- 事業的規模でなくても適用可能
必要な帳簿: 現金出納帳、経費帳、固定資産台帳等の簡易な帳簿
10万円控除は最も手軽に適用できる控除です。事業的規模に該当しない小規模な賃貸経営(アパート1棟・駐車場数台等)でも適用できます。
55万円控除の要件
記帳方法: 複式簿記(正規の簿記の原則)
対象者:
- 事業的規模の不動産所得がある青色申告者
- e-Taxまたは電子帳簿保存を行わない場合
必要な帳簿: 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳等
必要な書類: 貸借対照表、損益計算書を確定申告書に添付
55万円控除は、複式簿記による正確な記帳と、事業的規模の要件を満たす必要があります。
65万円控除の要件
記帳方法: 複式簿記(正規の簿記の原則)
対象者:
- 事業的規模の不動産所得がある青色申告者
- e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存を行う
必要な帳簿: 55万円控除と同じ
必要な書類: 貸借対照表、損益計算書を確定申告書に添付
追加要件:
- e-Taxで確定申告を行う、または
- 電子帳簿保存法の要件を満たした電子帳簿保存を行う
65万円控除は、55万円控除の要件に加えて、e-Taxまたは電子帳簿保存が必要です。2020年分の確定申告から、この要件が追加されました。
事業的規模の判定基準【5棟10室基準】
55万円・65万円控除を受けるには、不動産所得が事業的規模である必要があります。国税庁の判定基準は「5棟10室基準」として知られています。
5棟10室基準とは
以下のいずれかに該当する場合、事業的規模と判定されます。
| 不動産の種類 | 基準 | 
|---|---|
| アパート・マンション | 10室以上 | 
| 一戸建て | 5棟以上 | 
| 駐車場 | 50台以上 | 
| 混在する場合 | 一戸建て1棟=アパート2室=駐車場10台として換算 | 
(出典: 国税庁)
換算方法の例
一戸建て、アパート、駐車場が混在する場合、以下のように換算します。
例: 一戸建て2棟、アパート4室、駐車場10台を所有
- 一戸建て2棟 = アパート4室相当
- アパート4室 = アパート4室
- 駐車場10台 = アパート1室相当
- 合計: アパート9室相当 → 事業的規模に該当しない(10室未満)
事業的規模でない場合のデメリット
事業的規模でない場合、以下のデメリットがあります。
- 青色申告特別控除は10万円のみ(55万円・65万円は不可)
- 青色事業専従者給与を経費計上できない
- 貸倒損失を全額経費計上できない(回収不能が確定した年度のみ)
事業的規模に該当するかどうかで、節税効果が大きく変わります。
青色申告に必要な帳簿と書類
青色申告を行うには、控除額に応じた帳簿と書類が必要です。
10万円控除の場合(簡易簿記)
必要な帳簿:
- 現金出納帳(現金の収入・支出を記録)
- 経費帳(経費の内訳を記録)
- 固定資産台帳(建物・設備等の減価償却を記録)
必要な書類:
- 確定申告書B(第一表・第二表)
- 青色申告決算書(損益計算書のみ、貸借対照表は不要)
簡易簿記は、会計ソフトを使わなくても、Excelや手書きで記帳可能です。
55万円・65万円控除の場合(複式簿記)
必要な帳簿:
- 仕訳帳(全ての取引を仕訳形式で記録)
- 総勘定元帳(勘定科目ごとに取引を集計)
- 現金出納帳
- 売掛帳(家賃の未収金を記録)
- 買掛帳(未払いの経費を記録)
- 経費帳
- 固定資産台帳
必要な書類:
- 確定申告書B(第一表・第二表)
- 青色申告決算書(貸借対照表・損益計算書)
複式簿記は会計の専門知識が必要なため、会計ソフト(freee・マネーフォワード・やよいの青色申告等)の利用を推奨します。
帳簿の保存期間
青色申告の帳簿と書類は、以下の期間保存する必要があります。
| 種類 | 保存期間 | 
|---|---|
| 帳簿(仕訳帳・総勘定元帳等) | 7年 | 
| 決算書類(貸借対照表・損益計算書) | 7年 | 
| 領収書・請求書 | 7年 | 
| その他の書類 | 5年 | 
(出典: 国税庁)
青色申告の手続きと期限
青色申告を行うには、事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。
青色申告承認申請書の提出期限
青色申告承認申請書の提出期限は、以下の通りです。
| 状況 | 提出期限 | 
|---|---|
| 新規開業の場合 | 開業日から2ヶ月以内 | 
| すでに事業を行っている場合 | 適用年の3月15日まで | 
例:
- 2025年4月1日に開業 → 2025年5月31日までに提出
- 2025年分から青色申告に変更 → 2025年3月15日までに提出
提出期限を過ぎると、その年は白色申告となり、青色申告特別控除を受けられません。
確定申告の期限
確定申告は、毎年2月16日から3月15日までに行います。不動産所得の青色申告では、以下の書類を提出します。
- 確定申告書B(第一表・第二表)
- 青色申告決算書(貸借対照表・損益計算書)
- 各種控除の証明書類(医療費控除・社会保険料控除等)
e-Taxで電子申告すると、65万円控除を受けられ、添付書類の省略も可能です。
青色申告のその他のメリット
青色申告特別控除以外にも、以下のメリットがあります。
- 青色事業専従者給与: 家族に支払う給与を経費計上できる(事業的規模の場合のみ)
- 純損失の繰越控除: 赤字を翌年以降3年間繰り越して、黒字と相殺できる
- 減価償却の特例: 30万円未満の資産を一括経費計上できる(年間300万円まで)
これらのメリットを活用することで、さらに節税効果が高まります。
まとめ:不動産所得の青色申告で節税しよう
不動産所得の青色申告特別控除は、10万円・55万円・65万円の3段階があり、記帳方法と事業的規模により異なります。事業的規模(5棟10室基準)を満たせば55万円・65万円控除を受けられ、さらにe-Taxで電子申告すれば65万円控除を受けられます。
青色申告を行うには、事前に「青色申告承認申請書」を提出し、控除額に応じた帳簿(簡易簿記または複式簿記)を作成する必要があります。複式簿記は会計ソフトの利用を推奨します。
次のアクションとして、①自分の賃貸経営が事業的規模に該当するか確認(5棟10室基準)、②青色申告承認申請書を税務署に提出(期限厳守)、③会計ソフトを導入して複式簿記を開始することをおすすめします。税理士に相談しながら、適切な帳簿付けと確定申告を進めましょう。
