不動産所得の青色申告とは?特別控除10万・55万・65万円の違いを解説

公開日: 2025/10/31

不動産所得の青色申告とは|賃貸経営の節税メリット

不動産の賃貸経営を行っている方なら、「青色申告にすると税金が安くなる」と聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、青色申告特別控除の額は記帳方法により異なり、10万円・55万円・65万円の3段階があることをご存知でしょうか。

この記事では、不動産所得の青色申告の仕組み、青色申告特別控除の要件(10万円・55万円・65万円)、事業的規模の判定基準(5棟10室基準)、必要な帳簿と手続きを、国税庁の公式情報を元に解説します。

初めて青色申告を検討する方でも、自分に適した控除額と手続きを理解できるようになります。

この記事のポイント(2025年時点の制度に基づく)

  • 青色申告特別控除は10万円・55万円・65万円の3段階があり、記帳方法と要件により異なる
  • 55万円・65万円控除は事業的規模(5棟10室基準)が必要
  • 65万円控除にはe-Taxによる電子申告または電子帳簿保存が必要
  • 青色申告承認申請書は開業日から2ヶ月以内、または適用年の3月15日までに提出が必要
  • 最新の制度は国税庁のウェブサイトでご確認ください

青色申告特別控除の3つの区分【10万円・55万円・65万円】

青色申告特別控除は、記帳方法と要件により10万円・55万円・65万円の3段階に分かれます。

10万円控除の要件

記帳方法: 簡易簿記(単式簿記)でOK

対象者:

  • 不動産所得のある全ての青色申告者
  • 事業的規模でなくても適用可能

必要な帳簿: 現金出納帳、経費帳、固定資産台帳等の簡易な帳簿

10万円控除は最も手軽に適用できる控除です。事業的規模に該当しない小規模な賃貸経営(アパート1棟・駐車場数台等)でも適用できます。

55万円控除の要件

記帳方法: 複式簿記(正規の簿記の原則)

対象者:

  • 事業的規模の不動産所得がある青色申告者
  • e-Taxまたは電子帳簿保存を行わない場合

必要な帳簿: 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳等

必要な書類: 貸借対照表、損益計算書を確定申告書に添付

55万円控除は、複式簿記による正確な記帳と、事業的規模の要件を満たす必要があります。

65万円控除の要件

記帳方法: 複式簿記(正規の簿記の原則)

対象者:

  • 事業的規模の不動産所得がある青色申告者
  • e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存を行う

必要な帳簿: 55万円控除と同じ

必要な書類: 貸借対照表、損益計算書を確定申告書に添付

追加要件:

  • e-Taxで確定申告を行う、または
  • 電子帳簿保存法の要件を満たした電子帳簿保存を行う

65万円控除は、55万円控除の要件に加えて、e-Taxまたは電子帳簿保存が必要です。2020年分の確定申告から、この要件が追加されました。

事業的規模の判定基準【5棟10室基準】

55万円・65万円控除を受けるには、不動産所得が事業的規模である必要があります。国税庁の判定基準は「5棟10室基準」として知られています。

5棟10室基準とは

以下のいずれかに該当する場合、事業的規模と判定されます。

不動産の種類 基準
アパート・マンション 10室以上
一戸建て 5棟以上
駐車場 50台以上
混在する場合 一戸建て1棟=アパート2室=駐車場10台として換算

(出典: 国税庁

換算方法の例

一戸建て、アパート、駐車場が混在する場合、以下のように換算します。

: 一戸建て2棟、アパート4室、駐車場10台を所有

  • 一戸建て2棟 = アパート4室相当
  • アパート4室 = アパート4室
  • 駐車場10台 = アパート1室相当
  • 合計: アパート9室相当 → 事業的規模に該当しない(10室未満)

事業的規模でない場合のデメリット

事業的規模でない場合、以下のデメリットがあります。

  • 青色申告特別控除は10万円のみ(55万円・65万円は不可)
  • 青色事業専従者給与を経費計上できない
  • 貸倒損失を全額経費計上できない(回収不能が確定した年度のみ)

事業的規模に該当するかどうかで、節税効果が大きく変わります。

青色申告に必要な帳簿と書類

青色申告を行うには、控除額に応じた帳簿と書類が必要です。

10万円控除の場合(簡易簿記)

必要な帳簿:

  • 現金出納帳(現金の収入・支出を記録)
  • 経費帳(経費の内訳を記録)
  • 固定資産台帳(建物・設備等の減価償却を記録)

必要な書類:

  • 確定申告書B(第一表・第二表)
  • 青色申告決算書(損益計算書のみ、貸借対照表は不要)

簡易簿記は、会計ソフトを使わなくても、Excelや手書きで記帳可能です。

55万円・65万円控除の場合(複式簿記)

必要な帳簿:

  • 仕訳帳(全ての取引を仕訳形式で記録)
  • 総勘定元帳(勘定科目ごとに取引を集計)
  • 現金出納帳
  • 売掛帳(家賃の未収金を記録)
  • 買掛帳(未払いの経費を記録)
  • 経費帳
  • 固定資産台帳

必要な書類:

  • 確定申告書B(第一表・第二表)
  • 青色申告決算書(貸借対照表・損益計算書)

複式簿記は会計の専門知識が必要なため、会計ソフト(freee・マネーフォワード・やよいの青色申告等)の利用を推奨します。

帳簿の保存期間

青色申告の帳簿と書類は、以下の期間保存する必要があります。

種類 保存期間
帳簿(仕訳帳・総勘定元帳等) 7年
決算書類(貸借対照表・損益計算書) 7年
領収書・請求書 7年
その他の書類 5年

(出典: 国税庁

青色申告の手続きと期限

青色申告を行うには、事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。

青色申告承認申請書の提出期限

青色申告承認申請書の提出期限は、以下の通りです。

状況 提出期限
新規開業の場合 開業日から2ヶ月以内
すでに事業を行っている場合 適用年の3月15日まで

:

  • 2025年4月1日に開業 → 2025年5月31日までに提出
  • 2025年分から青色申告に変更 → 2025年3月15日までに提出

提出期限を過ぎると、その年は白色申告となり、青色申告特別控除を受けられません。

確定申告の期限

確定申告は、毎年2月16日から3月15日までに行います。不動産所得の青色申告では、以下の書類を提出します。

  • 確定申告書B(第一表・第二表)
  • 青色申告決算書(貸借対照表・損益計算書)
  • 各種控除の証明書類(医療費控除・社会保険料控除等)

e-Taxで電子申告すると、65万円控除を受けられ、添付書類の省略も可能です。

青色申告のその他のメリット

青色申告特別控除以外にも、以下のメリットがあります。

  • 青色事業専従者給与: 家族に支払う給与を経費計上できる(事業的規模の場合のみ)
  • 純損失の繰越控除: 赤字を翌年以降3年間繰り越して、黒字と相殺できる
  • 減価償却の特例: 30万円未満の資産を一括経費計上できる(年間300万円まで)

これらのメリットを活用することで、さらに節税効果が高まります。

まとめ:不動産所得の青色申告で節税しよう

不動産所得の青色申告特別控除は、10万円・55万円・65万円の3段階があり、記帳方法と事業的規模により異なります。事業的規模(5棟10室基準)を満たせば55万円・65万円控除を受けられ、さらにe-Taxで電子申告すれば65万円控除を受けられます。

青色申告を行うには、事前に「青色申告承認申請書」を提出し、控除額に応じた帳簿(簡易簿記または複式簿記)を作成する必要があります。複式簿記は会計ソフトの利用を推奨します。

次のアクションとして、①自分の賃貸経営が事業的規模に該当するか確認(5棟10室基準)、②青色申告承認申請書を税務署に提出(期限厳守)、③会計ソフトを導入して複式簿記を開始することをおすすめします。税理士に相談しながら、適切な帳簿付けと確定申告を進めましょう。

よくある質問

Q1青色申告と白色申告の違いは何ですか?

A1青色申告は事前に承認申請が必要ですが、青色申告特別控除(最大65万円)、青色事業専従者給与、純損失の繰越控除等のメリットがあります。白色申告は事前手続き不要、簡易な記帳で済みますが、特別控除がありません。不動産所得がある場合、青色申告の方が節税効果が高いため推奨されます。

Q210万円控除と65万円控除はどちらを選ぶべきですか?

A2事業的規模(5棟10室基準)に該当するなら65万円控除を選ぶべきです。55万円多く控除を受けられるため、所得税・住民税が大幅に減額されます。ただし、複式簿記とe-Tax電子申告が必要なため、会計ソフトの導入を推奨します。事業的規模に該当しない場合は10万円控除のみ適用可能です。

Q3青色申告承認申請書の提出を忘れた場合はどうなりますか?

A3提出期限(開業日から2ヶ月以内、または適用年の3月15日まで)を過ぎると、その年は白色申告となり、青色申告特別控除を受けられません。翌年分から青色申告に変更したい場合は、翌年3月15日までに改めて申請書を提出してください。提出忘れを防ぐため、開業届と同時に申請書を提出することをおすすめします。

Q4複式簿記は自分でできますか?会計ソフトは必要ですか?

A4簿記の知識がある方は自分でも可能ですが、会計ソフトの利用を推奨します。freee・マネーフォワード・やよいの青色申告等の会計ソフトは、簿記の知識がなくても複式簿記の帳簿を自動作成でき、確定申告書も作成できます。月額1,000-2,000円程度で利用でき、節税効果(55-65万円控除)を考えれば十分に元が取れます。

Q5駐車場5台だけでも青色申告できますか?

A5できますが、10万円控除のみです。駐車場5台は事業的規模(50台以上)に該当しないため、55万円・65万円控除は受けられません。ただし、青色申告特別控除10万円、純損失の繰越控除等のメリットはあります。将来的に事業拡大を予定している場合は、青色申告承認申請書を提出しておくことをおすすめします。