不動産の減価償却とは何か?基本概念を理解する
賃貸不動産を所有している方の中には、「減価償却の仕組みが分からない」「確定申告で経費計上したい」と感じる方は少なくありません。減価償却は不動産投資の税務において非常に重要な概念です。
この記事では、不動産減価償却の仕組み、計算方法(定額法・定率法)、構造別の耐用年数、具体的な計算例、確定申告での活用方法を、国税庁の公式情報を元に解説します。
初めて不動産所得の確定申告をする方でも、減価償却の仕組みを正確に理解し、適切に経費計上できるようになります。
この記事のポイント
- 減価償却は建物の購入費用を法定耐用年数で分割して毎年経費計上する会計処理
- 対象は建物・建物附属設備のみ(土地は経年劣化しないため対象外)
- 計算方法は定額法(個人事業主は原則)と定率法(法人は選択可能、ただし建物は常に定額法)
- 耐用年数は構造別に木造22年、鉄骨造34年、鉄筋コンクリート47年等と定められている
- 中古物件の耐用年数は簡便法で計算(法定耐用年数 − 経過年数 + 経過年数 × 0.2)
不動産の減価償却とは何か
建物の経年劣化を経費として計上する会計処理
減価償却とは、建物等の固定資産の取得費用を、法律で定められた耐用年数に応じて毎年分割して経費計上する会計処理です。
例えば、3,000万円で建物を購入した場合、購入した年に3,000万円全額を経費計上するのではなく、耐用年数(例: 木造住宅なら22年)で分割して毎年一定額(3,000万円 ÷ 22年 ≒ 年間136万円)を経費計上します。
これは、建物が経年劣化により価値が減少していくことを反映した会計処理です。
なぜ減価償却が必要なのか(税務・会計上の意義)
減価償却が必要な理由は、以下の通りです。
- 収益と費用の対応: 建物から得られる賃貸収入は何年にもわたって発生するため、取得費用も同じ期間にわたって経費計上する方が合理的
- 税務上の節税効果: 不動産所得の計算で減価償却費を経費として計上することで、所得税・住民税を軽減できる
- 適正な利益の把握: 実際の支出がない年でも、建物の価値減少を経費として認識することで、正確な利益を把握できる
対象となる資産(建物は対象、土地は対象外)
減価償却の対象となる資産は以下の通りです。
対象となる資産:
- 建物本体(木造住宅、鉄筋コンクリート造マンション等)
- 建物附属設備(給排水設備、電気設備、ガス設備、冷暖房設備等)
対象外の資産:
- 土地(経年劣化しないため)
- 美術品(価値が減少しない場合)
- 借地権(減価しない権利)
重要な注意点: 不動産を購入する際、建物と土地の価格を分けて確認する必要があります。購入時の売買契約書に建物と土地の価格が記載されているので、必ず確認しましょう。契約書に記載がない場合は、固定資産税評価額の比率で按分する方法があります。
減価償却の計算方法(定額法・定率法)
減価償却の計算方法には、定額法と定率法の2種類があります。
定額法: 毎年一定額を償却(個人事業主は原則この方法)
定額法は、毎年一定額を償却する方法です。計算式は以下の通りです。
年間償却費 = 取得価額 × 償却率
償却率は、耐用年数に応じて国税庁が定める係数です(平成19年4月1日以後取得資産)。
| 耐用年数 | 定額法償却率 | 
|---|---|
| 22年 | 0.046 | 
| 34年 | 0.030 | 
| 47年 | 0.022 | 
(出典: 国税庁)
個人事業主(賃貸不動産の大家)は、原則として定額法を使用します。
定率法: 初期に多く償却(法人は選択可能、建物は常に定額法)
定率法は、初期に多く償却し、年々償却額が減少する方法です。計算式は以下の通りです。
年間償却費 = 期首未償却残高 × 償却率
法人は定率法を選択できますが、建物は常に定額法と法律で定められています。設備や機械などの償却資産については定率法も選択できますが、建物本体は定額法のみです。
個人事業主が定率法を使用する場合は、事前に税務署に届出が必要です。ただし、建物は定額法のみなので、実務上は定額法を使用するのが一般的です。
償却率の確認方法(国税庁の耐用年数表)
償却率は、耐用年数に応じて国税庁が定めています。国税庁のウェブサイトで「減価償却資産の償却率表」をダウンロードできます。
耐用年数が分かれば、この表から償却率を確認できます。
重要な注意: 誤った方法(個人事業主が建物に定率法を適用する等)で計上すると、税務署に否認されるリスクがあります。必ず正しい方法で計算しましょう。
構造別・用途別の法定耐用年数一覧
木造22年、鉄骨造34年、鉄筋コンクリート47年等
建物の法定耐用年数は、構造と用途によって以下のように定められています。
住宅用建物の法定耐用年数:
| 構造 | 法定耐用年数 | 
|---|---|
| 木造 | 22年 | 
| 鉄骨造(骨格材の肉厚3mm以下) | 19年 | 
| 鉄骨造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 27年 | 
| 鉄骨造(骨格材の肉厚4mm超) | 34年 | 
| 鉄筋コンクリート造(RC) | 47年 | 
| 鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC) | 47年 | 
(出典: 国税庁)
事業用建物の法定耐用年数:
事業用(店舗、事務所等)の場合、住宅用とは異なる耐用年数が適用されます。例えば、木造の店舗用建物は22年、事務所用建物は24年等です。
中古物件の耐用年数計算(簡便法)
中古物件を購入した場合、法定耐用年数ではなく、簡便法で耐用年数を計算します。
減価償却資産の耐用年数等に関する省令によると、簡便法の計算式は以下の通りです。
耐用年数 = (法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 0.2
(1年未満切捨て、2年未満は2年)
計算例: 鉄筋コンクリート造(RC)築20年の建物を購入した場合:
- 法定耐用年数: 47年
- 経過年数: 20年
- 耐用年数 = (47 - 20) + 20 × 0.2 = 27 + 4 = 31年
法定耐用年数を全て経過している場合(例: 木造築30年):
耐用年数 = 法定耐用年数 × 0.2
例: 木造築30年 → 22年 × 0.2 = 4.4年 → 4年(1年未満切捨て)
ただし、2年未満の場合は2年とします。
建物附属設備の耐用年数(給排水設備15年、電気設備15年等)
建物附属設備は、建物本体と耐用年数が異なります。
| 設備の種類 | 法定耐用年数 | 
|---|---|
| 給排水設備 | 15年 | 
| 電気設備 | 15年 | 
| ガス設備 | 15年 | 
| 冷暖房設備 | 13年 | 
| 昇降機(エレベーター) | 17年 | 
(出典: 国税庁)
実務上の注意点: 建物附属設備を建物本体と分けて計算すると、耐用年数が短くなり、年間の償却費が大きくなります。ただし、購入時の売買契約書に設備の価格が明記されていない場合、按分計算が必要になり複雑です。
複雑なケースでは、税理士への相談を検討しましょう。
具体的な計算例(新築・中古のパターン別)
新築木造の計算例(取得価額3000万円、耐用年数22年)
条件:
- 新築木造住宅を購入
- 建物の取得価額: 3,000万円(土地の価格は別)
- 法定耐用年数: 22年
- 定額法償却率: 0.046
計算:
年間償却費 = 3,000万円 × 0.046 = 138万円
毎年138万円を減価償却費として経費計上できます。
中古RCの計算例(築20年、取得価額5000万円、耐用年数31年)
条件:
- 鉄筋コンクリート造(RC)築20年のマンションを購入
- 建物の取得価額: 5,000万円(土地の価格は別)
- 簡便法で耐用年数を計算: (47 - 20) + 20 × 0.2 = 31年
- 定額法償却率: 0.033(耐用年数31年の場合)
計算:
年間償却費 = 5,000万円 × 0.033 = 165万円
毎年165万円を減価償却費として経費計上できます。
建物と土地の価格を分ける方法
不動産を購入する際、建物と土地の価格を分ける必要があります。以下の方法で確認します。
1. 売買契約書で確認
購入時の売買契約書に建物と土地の価格が記載されている場合、その金額を使用します。
2. 固定資産税評価額の比率で按分
契約書に記載がない場合、固定資産税評価額の比率で按分します。
例:
- 購入価格(総額): 5,000万円
- 固定資産税評価額(建物): 1,200万円
- 固定資産税評価額(土地): 1,800万円
- 合計: 3,000万円
建物の価格 = 5,000万円 × (1,200万円 ÷ 3,000万円)= 2,000万円
土地の価格 = 5,000万円 × (1,800万円 ÷ 3,000万円)= 3,000万円
重要な注意: 減価償却費は実際の支出を伴わない帳簿上の経費です。購入時に3,000万円を支払っても、毎年138万円を支払っているわけではありません。キャッシュフロー(実際の現金の出入り)と混同しないよう注意が必要です。
売却時の注意点: 減価償却費を経費計上した分、建物の帳簿価額(未償却残高)が減少します。売却時に譲渡所得を計算する際、取得費が減少するため、譲渡所得が増える可能性があります。詳細は税理士に相談してください。
確定申告での減価償却費の活用方法
不動産所得の計算に減価償却費を計上
不動産所得は、以下の計算式で求めます。
不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費
総収入金額:
- 家賃収入
- 礼金・更新料等
必要経費:
- 減価償却費
- 固定資産税
- 火災保険料
- 修繕費
- 管理費
- ローン利息(元本は経費にならない)
この必要経費に減価償却費を含めることで、不動産所得を減らし、所得税・住民税を軽減できる場合があります(個別の状況により効果は異なります)。
青色申告決算書の記載方法
確定申告で青色申告を選択している場合、青色申告決算書(不動産所得用)の「減価償却費の計算」欄に以下を記載します。
- 資産の種類(例: 建物、給排水設備等)
- 取得価額
- 耐用年数
- 償却率
- 本年分の償却費
この欄に正しく記載することで、減価償却費を経費として計上できます。
税理士への相談も検討すべきケース
以下のケースでは、税理士への相談を検討しましょう。
- 建物附属設備を分けて計算する場合(給排水設備、電気設備等を個別に計算)
- 複数の不動産を所有している場合
- 特例措置を適用する場合(特別償却等)
- 中古物件の耐用年数計算が複雑な場合
誤った計算で過大な償却費を計上すると、税務署に否認されるリスクがあります。複雑なケースでは、税理士に依頼して正確な申告を行うことをおすすめします。
注意: 減価償却費は「経費計上できる」という意味であり、「必ず節税になる」とは限りません。個別の状況(他の所得、控除額等)により効果は異なります。
まとめ:減価償却を理解して適切に活用する
不動産の減価償却は、建物の購入費用を法定耐用年数で分割して毎年経費計上する会計処理です。対象は建物・建物附属設備のみで、土地は経年劣化しないため対象外です。
計算方法は定額法(個人事業主は原則)で、耐用年数は構造別に木造22年、鉄骨造34年、鉄筋コンクリート47年等と定められています。中古物件の耐用年数は簡便法で計算します。
具体的な計算例(新築木造3,000万円→年間138万円、中古RC5,000万円→年間165万円)を参考に、自分の不動産の減価償却費を計算してみましょう。
確定申告で減価償却費を適切に計上することで、不動産所得を減らし、所得税・住民税を軽減できます。複雑なケースでは税理士への相談も有効です。正しく理解し、適切に活用しましょう。
