マンション減価償却とは - 節税の仕組みを理解する
マンションを購入して賃貸に出す際、または相続したマンションを売却する際、「減価償却」という言葉を耳にすることがあります。しかし、「どうやって計算するのか」「なぜ節税になるのか」と疑問に感じる方も少なくありません。
この記事では、マンション減価償却の仕組み・計算方法・節税効果を、国税庁の公式情報を元に解説します。
不動産投資を検討中の方、またはマンション売却を予定している方でも、減価償却の基本を理解し、正確な計算ができるようになります。
この記事のポイント
- 減価償却とは、建物の取得費用を耐用年数で按分して経費計上する会計処理
- 土地は減価償却の対象外、建物部分のみ償却可能
- RC造マンションの法定耐用年数は47年、居住用は70年(事業用の1.5倍)
- 中古マンションは簡便法耐用年数「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2」で計算
- 設備(給排水・電気等)は建物と別に償却でき、耐用年数15年で節税効果が高い
マンション減価償却の基本ルール - 土地と建物の按分
マンション減価償却の最も重要なルールは、土地は減価償却の対象外という点です。土地は経年劣化しないため、建物部分のみが減価償却の対象となります。
そのため、マンション購入価格を建物部分と土地部分に按分する必要があります。
土地は減価償却の対象外
土地は時間が経過しても価値が減少しない(むしろ上昇する場合もある)ため、減価償却の対象外です。建物部分のみが減価償却の対象となります。
建物と土地の按分方法(固定資産税評価額・売買契約書)
按分方法には以下の2つがあります。
1. 固定資産税評価額の比率で按分
固定資産税評価額は、市区町村が発行する固定資産税納税通知書に記載されています。建物と土地の評価額の比率で按分します。
計算例:
- マンション購入価格: 4,000万円
- 固定資産税評価額(建物): 1,500万円
- 固定資産税評価額(土地): 1,000万円
- 按分比率: 建物60%(1,500万円 ÷ 2,500万円)、土地40%(1,000万円 ÷ 2,500万円)
按分後の価格:
- 建物: 4,000万円 × 60% = 2,400万円
- 土地: 4,000万円 × 40% = 1,600万円
2. 売買契約書の内訳で按分
売買契約書に建物と土地の価格が明記されている場合は、その内訳を使用します。
按分比率の確認方法
按分比率は税務署に確認されることがあるため、固定資産税評価額または売買契約書の内訳を根拠として保管しておくことをおすすめします。税務署の判断は地域や個別ケースにより異なる場合があるため、専門家に相談することを推奨します。
構造別の法定耐用年数と償却率
マンションの減価償却は、構造別に法定耐用年数が定められており、それに応じた償却率を使用します。
RC造・SRC造マンション(47年)
RC造(鉄筋コンクリート造)・SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)のマンションは、法定耐用年数47年です。
| 用途 | 法定耐用年数 | 償却率 | 
|---|---|---|
| 事業用(賃貸等) | 47年 | 0.022 | 
| 居住用 | 70年(47年×1.5) | 0.015 | 
(出典: 国税庁 主な減価償却資産の耐用年数表)
重量鉄骨造(34年)
重量鉄骨造のマンションは、法定耐用年数34年です。
| 用途 | 法定耐用年数 | 償却率 | 
|---|---|---|
| 事業用 | 34年 | 0.030 | 
| 居住用 | 51年(34年×1.5) | 0.020 | 
(出典: 国税庁 主な減価償却資産の耐用年数表)
木造(22年)
木造のマンションは、法定耐用年数22年です。
| 用途 | 法定耐用年数 | 償却率 | 
|---|---|---|
| 事業用 | 22年 | 0.046 | 
| 居住用 | 33年(22年×1.5) | 0.031 | 
(出典: 国税庁 主な減価償却資産の耐用年数表)
居住用と事業用の違い
重要: 居住用マンション(自宅として居住)の場合、法定耐用年数の1.5倍で計算します。これは事業用(賃貸等)と比べて償却が遅くなることを意味します。
- 事業用: RC造47年、償却率0.022
- 居住用: RC造70年(47年×1.5)、償却率0.015
中古マンションの減価償却計算 - 簡便法耐用年数
中古マンションの減価償却は、簡便法耐用年数を使用します。
簡便法耐用年数の計算式
中古マンションの簡便法耐用年数は、以下の計算式で算出します。
簡便法耐用年数 = (法定耐用年数 - 経過年数) + 経過年数 × 0.2
経過年数の端数処理
経過年数の端数処理は以下のルールに従います。
- 6ヶ月以上: 1年として計算
- 6ヶ月未満: 切り捨て
例:
- 築5年7ヶ月 → 6年
- 築5年4ヶ月 → 5年
具体的な計算例
例: 築20年のRC造マンション(事業用)
- 簡便法耐用年数を計算 - (47年 - 20年) + 20年 × 0.2 = 27年 + 4年 = 31年
 
- 償却率を確認 - 31年の償却率: 0.033(国税庁の償却率表で確認)
 
- 年間減価償却費を計算 - 建物部分の取得価額: 1,800万円
- 年間減価償却費 = 1,800万円 × 0.033 = 59.4万円
 
(出典: 国税庁 減価償却資産の償却率等表)
例: 法定耐用年数を超えた物件
築50年のRC造マンション(法定耐用年数47年を超過)の場合、以下の計算式を使用します。
簡便法耐用年数 = 法定耐用年数 × 0.2
- 47年 × 0.2 = 9.4年 → 9年(1年未満切り捨て)
- 償却率: 0.112
設備の減価償却 - 建物と分けて償却する節税テクニック
給排水設備、電気設備、エレベーター等の付帯設備(建物に付属する給排水・電気・エレベーター等の設備)は、建物本体とは別に償却できます。
設備の法定耐用年数: 15年
償却率: 0.067
設備の法定耐用年数は15年(償却率0.067)で、建物本体(RC造47年、償却率0.022)より早く償却できるため、節税効果が高まります。
設備を分けるメリット:
- 年間減価償却費が増加し、課税所得が減少
- 早期に減価償却費を計上できる
設備を分けるための条件: 取得時に建物と設備の金額を区分する必要があります。売買契約書や固定資産税評価額で確認してください。
例: 建物と設備を分けた場合の比較
| パターン | 建物部分 | 設備部分 | 年間減価償却費 | 
|---|---|---|---|
| 設備を分けない | 3,000万円 | - | 66万円(3,000万円×0.022) | 
| 設備を分ける | 2,500万円 | 500万円 | 88.5万円(55万円+33.5万円) | 
設備を分けることで、年間減価償却費が22.5万円増加し、節税効果が高まります。
マンション減価償却の計算例とシミュレーション
具体的な計算例を3パターン提示します。
新築RC造マンション(事業用)の計算例
条件:
- 購入価格: 5,000万円
- 建物按分: 60%(3,000万円)
- 土地按分: 40%(2,000万円)
- 構造: RC造(法定耐用年数47年)
- 用途: 事業用(賃貸)
- 償却率: 0.022
計算:
- 年間減価償却費 = 3,000万円 × 0.022 = 66万円
中古RC造マンション(居住用)の計算例
条件:
- 購入価格: 3,000万円
- 建物按分: 60%(1,800万円)
- 築年数: 20年
- 構造: RC造
- 用途: 居住用
- 簡便法耐用年数: (47年 - 20年) + 20年 × 0.2 = 31年
- 居住用のため: 31年 × 1.5 = 46.5年 → 46年
- 償却率: 0.022(46年の償却率)
計算:
- 年間減価償却費 = 1,800万円 × 0.9 × 0.022 × 20年 = 約71.3万円(売却時の計算方法)
注: 居住用マンションの減価償却は、売却時に譲渡所得を計算する際に使用します。計算式は「建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数」です。(出典: 国税庁 建物の取得費の計算)
設備を分けた場合の比較
条件:
- 購入価格: 5,000万円
- 建物按分: 60%(3,000万円)
- 設備を分けた場合: 建物2,500万円 + 設備500万円
- 構造: RC造(事業用)
計算:
| 項目 | 取得価額 | 耐用年数 | 償却率 | 年間減価償却費 | 
|---|---|---|---|---|
| 建物(設備込み) | 3,000万円 | 47年 | 0.022 | 66万円 | 
| 建物(設備分離) | 2,500万円 | 47年 | 0.022 | 55万円 | 
| 設備 | 500万円 | 15年 | 0.067 | 33.5万円 | 
| 合計(設備分離) | - | - | - | 88.5万円 | 
設備を分けることで、年間減価償却費が22.5万円増加し、節税効果が高まります。
減価償却の注意点 - 売却時の譲渡所得への影響
減価償却により建物の簿価が減少し、マンション売却時の譲渡所得が増加する点に注意が必要です。
譲渡所得の計算式
譲渡所得は以下の計算式で算出します。
譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 - 減価償却累計額) - 譲渡費用
- 譲渡価額: 売却価格
- 取得費: 購入時の価格・仲介手数料・登記費用等
- 減価償却累計額: 減価償却費の累計
- 譲渡費用: 仲介手数料・測量費等
計算例:
- 譲渡価額: 5,000万円
- 取得費: 6,000万円
- 減価償却累計額: 1,000万円
- 譲渡費用: 200万円
譲渡所得 = 5,000万円 - (6,000万円 - 1,000万円) - 200万円 = ▲200万円(譲渡損失)
減価償却費が大きいほど譲渡所得が増える
減価償却費が大きいほど、取得費が減少し、譲渡所得が増加します。譲渡所得が増えると、譲渡所得税(長期譲渡20.315%・短期譲渡39.63%)が増える可能性があります。
個別具体的な税務判断は税理士に相談
減価償却の計算は複雑であり、個別具体的な税務判断は税理士法違反となるため、本記事では一般的な計算方法を説明しています。個別のケースについては、税理士に相談することをおすすめします。
執筆時点(2025年)の税制に基づく
本記事は2025年時点の税制に基づいて執筆しています。減価償却制度は税制改正で変更される可能性があるため、最新情報を確認してください。
まとめ - マンション減価償却で賢く節税する
マンション減価償却の基本ルールは、建物のみ償却(土地は対象外)、構造別耐用年数、設備の分離償却です。RC造マンションの法定耐用年数は47年(事業用)、居住用は70年(事業用の1.5倍)です。
中古マンションは簡便法耐用年数「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2」で計算し、設備(給排水・電気等)は建物と別に償却できるため節税効果が高まります。
減価償却は不動産投資の節税効果を高める重要な仕組みですが、売却時の譲渡所得への影響も考慮する必要があります。次のアクションとして、税理士への相談、確定申告での正確な計算、最新税制の確認を行いましょう。
