土地売却を成功させるための全体像
土地を売却したいと考えているものの、「何から始めればいいのか分からない」「手続きが複雑そうで不安」と感じる方は多いでしょう。土地売却には、相場調査から不動産業者の選定、査定、媒介契約、売却活動、契約、引渡しまで、複数のステップがあります。
この記事では、土地売却の7つのステップを時系列で解説し、各段階で必要な書類や注意点を具体的に提示します。国土交通省や国税庁などの公的機関の情報を元に、安全に土地を売却するための実務的なガイドを提供します。
境界確定や測量、譲渡所得税の理解が不可欠であることを理解し、適切な準備を進めましょう。
この記事のポイント
- 土地売却は「相場調査→業者選定→査定→媒介契約→売却活動→契約→引渡し」の7ステップで進める
- 境界確定測量(費用35-80万円)は法的義務ではないが、トラブル防止のため実施を強く推奨
- 相続登記は2024年4月から義務化(3年以内に未登記だと10万円以下の過料)
- 譲渡所得税は所有期間5年超か否かで税率が約2倍異なる(長期20.315%、短期39.63%)
土地売却の7つのステップ
土地売却の流れを7つのステップに分けて解説します。各ステップで必要な書類と期間の目安を明記しますので、次に何をすればよいか明確に把握できます。
ステップ1: 相場調査と価格の目安を把握
まず、自分の土地がどのくらいの価格で売れるか、相場を把握しましょう。
調査方法:
- 国土交通省の土地総合情報システムで、近隣の取引事例を確認
- 固定資産税評価額を確認(固定資産税の納税通知書に記載)
- 不動産ポータルサイトで類似物件の売出価格を確認
相場を把握することで、査定額が妥当かどうか判断できるようになります。
ステップ2: 不動産業者の選定と比較
土地売却を依頼する不動産業者を選定します。業者選びは売却成功の鍵を握る重要なステップです。
選定基準:
- 土地売却の実績が豊富か
- 地域に詳しいか(地元の業者は有利)
- 対応が丁寧で信頼できるか
- 免許番号を確認(宅地建物取引業の免許を持っているか)
複数社(2-3社)に査定を依頼し、比較検討することをおすすめします。
ステップ3: 査定依頼と査定額の検討
不動産業者に査定を依頼し、売却価格の目安を把握します。
査定の種類:
- 机上査定: データのみで査定(所要時間:数日)
- 訪問査定: 現地調査を行い詳細に査定(所要時間:1-2週間)
査定額は業者によって異なるため、複数社の査定額を比較し、その根拠を確認しましょう。高すぎる査定額は「契約を取るための釣り」の可能性があるため注意が必要です。
ステップ4: 媒介契約の締結(専属専任・専任・一般)
不動産業者と媒介契約を締結します。媒介契約には3種類あり、それぞれメリット・デメリットがあります。
| 契約種類 | 特徴 | メリット | デメリット | 
|---|---|---|---|
| 専属専任媒介 | 1社のみ、自己発見取引不可 | 積極的な販売活動、週1回以上の報告義務 | 自分で買主を見つけても手数料発生 | 
| 専任媒介 | 1社のみ、自己発見取引可 | 積極的な販売活動、2週間に1回以上の報告義務 | 1社に依存 | 
| 一般媒介 | 複数社可 | 幅広く買主を探せる | 業者の販売意欲が低い可能性 | 
土地の売却しやすさや、自分の状況に応じて選択しましょう。
ステップ5: 売却活動と内覧対応
不動産業者が売却活動を開始します。土地の場合、内覧というよりは現地案内になります。
売却活動の内容:
- 不動産ポータルサイトへの掲載
- レインズ(不動産流通機構)への登録
- チラシ・広告の作成
- 購入希望者への現地案内
売却期間は平均3-6ヶ月ですが、立地や価格設定により大きく異なります。早期売却を目指す場合は、価格設定と業者選定が重要です。
ステップ6: 売買契約の締結
買主が見つかったら、売買契約を締結します。
契約時に必要な書類:
- 登記済権利証(または登記識別情報)
- 実印・印鑑証明書(3ヶ月以内)
- 測量図・境界確認書(測量済みの場合)
- 固定資産税の納税通知書
契約時に手付金(売買価格の10%程度)を受け取ります。契約書には、引渡し時期、契約不適合責任の範囲などを明記します。
ステップ7: 決済と引渡し
契約から約1ヶ月後、決済と引渡しを行います。
決済時の流れ:
- 買主が残代金を支払い
- 所有権移転登記の手続き
- 土地の引渡し(鍵がある場合は鍵の引渡し)
- 固定資産税の清算
決済が完了すれば、土地売却は完了です。
媒介契約の種類と選び方
媒介契約は売却活動の方針を決める重要な契約です。3種類の違いを理解し、自分の状況に合った契約を選びましょう。
専属専任媒介契約
特徴: 1社のみに依頼、自己発見取引不可
メリット: 業者が最も積極的に販売活動を行う、週1回以上の報告義務、契約後5日以内にレインズ登録
デメリット: 自分で買主を見つけても業者に仲介手数料を支払う必要がある
専任媒介契約
特徴: 1社のみに依頼、自己発見取引可
メリット: 業者が積極的に販売活動、2週間に1回以上の報告義務、契約後7日以内にレインズ登録
デメリット: 1社に依存するため、業者選びを慎重に行う必要がある
一般媒介契約
特徴: 複数社に同時依頼可
メリット: 幅広いネットワークで買主を探せる、業者間で競争が生まれる
デメリット: 業者の販売意欲が低くなる可能性、報告義務なし、レインズ登録任意
選び方のポイント:
- 売りやすい土地(駅近、整形地)→ 一般媒介も検討
- 売りにくい土地(郊外、変形地)→ 専属専任・専任媒介で業者に注力してもらう
境界確定測量の重要性と費用
土地売却で最もトラブルになりやすいのが境界問題です。境界が不明確なまま売却すると、買主と隣地所有者との間でトラブルが発生し、売主が契約不適合責任を問われる可能性があります。
境界確定測量とは
境界確定測量とは、隣接地所有者と官公署(道路・水路の管理者)の立会いのもと、境界を確定し、測量図を作成することです。
流れ:
- 土地家屋調査士に依頼
- 隣接地所有者・官公署に立会い依頼
- 境界標の設置
- 測量図・境界確認書の作成
測量費用の目安(35-80万円)
測量費用は土地の広さや形状、隣接地の数によって異なります。
| 土地の広さ | 費用の目安 | 
|---|---|
| 100㎡未満 | 35-50万円 | 
| 100-200㎡ | 50-65万円 | 
| 200㎡以上 | 65-80万円以上 | 
測量には数カ月かかる場合もあるため、売却を急ぐ場合は早めに着手しましょう。
測量を怠った場合のリスク
境界未確定のまま売却すると、以下のリスクがあります。
- 買主と隣地所有者との間でトラブルが発生
- 売主が契約不適合責任を問われ、損害賠償請求される可能性
- 売買契約が解除されるリスク
測量費用は売主負担が一般的ですが、安全に売却するための必要経費と考えましょう。
土地売却のリスクと注意点
土地売却にはいくつかのリスクがあります。事前に理解し、対策を講じることが重要です。
相続登記の義務化(2024年4月~)
2024年4月から相続登記が義務化されました。相続発生から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が課されます。
相続した土地を売却する場合は、まず名義変更(相続登記)を行う必要があります。相続登記は司法書士に依頼するのが一般的で、費用は5-10万円程度です。
地下埋設物・土壌汚染の調査
売却後に地下埋設物(旧建物の基礎・廃材等)や土壌汚染が発覚すると、売主が契約不適合責任を負います。
対策:
- 地盤調査・土壌汚染調査を事前に実施
- 売買契約書で免責特約を設ける(「現状有姿」での売却)
特に、過去に工場や給油所があった土地は、土壌汚染の可能性が高いため、調査を強く推奨します。
国土利用計画法の届出義務
一定面積以上の土地取引には、国土利用計画法による事後届出義務があります。
| 区域 | 面積 | 
|---|---|
| 市街化区域 | 2,000㎡以上 | 
| 都市計画区域 | 5,000㎡以上 | 
| その他の区域 | 10,000㎡以上 | 
届出期限は契約締結後2週間以内です。違反すると6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金が課される可能性があります。
譲渡所得税の計算と特別控除
土地売却で利益が出た場合、譲渡所得税と住民税が課税されます。税金の計算方法と軽減措置を理解し、売却時期を検討しましょう。
譲渡所得税の基本的な計算方法
計算式:
譲渡所得 = 譲渡価格 - (取得費 + 譲渡費用)
- 取得費: 購入代金、購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用等)
- 譲渡費用: 売却時の諸費用(仲介手数料、測量費、解体費等)
取得費が不明な場合は、概算取得費(譲渡価格の5%)を使用できます。
長期・短期の税率の違い
譲渡所得税の税率は、所有期間によって大きく異なります。
| 所有期間 | 税率 | 
|---|---|
| 5年超(長期) | 所得税15.315% + 住民税5% = 20.315% | 
| 5年以下(短期) | 所得税30.63% + 住民税9% = 39.63% | 
※復興特別所得税(2.1%)を含む
所有期間は、譲渡した年の1月1日時点で判定します。例えば、2020年2月に取得し、2025年3月に譲渡した場合、2025年1月1日時点では所有期間4年11ヶ月のため「短期」となります。
3,000万円特別控除の活用
居住用財産(自宅)を売却する場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる特例があります。
適用要件:
- 自己の居住用財産であること
- 居住しなくなってから3年以内の譲渡
- 過去2年以内に同特例を受けていないこと
土地のみの売却でも、建物を取り壊してから1年以内に売買契約を締結すれば適用される場合があります。詳細は税理士にご確認ください。
まとめ:土地を高く、安全に売るために
土地売却は、相場調査→業者選定→査定→媒介契約→売却活動→契約→引渡しという7つのステップで進めます。各ステップで必要な書類を準備し、期限を守ることが重要です。
境界確定測量は法的義務ではありませんが、トラブル防止のため実施を強く推奨します。費用は35-80万円、期間は数カ月かかるため、早期に着手しましょう。
譲渡所得税は所有期間5年超か否かで税率が約2倍異なります。相続登記も2024年4月から義務化されているため、相続した土地を売却する場合は名義変更を忘れずに行いましょう。
専門家(不動産業者、土地家屋調査士、税理士)に早期相談し、安全に土地売却を進めてください。
