土地の個人間売買のやり方とリスク・注意点を徹底解説

公開日: 2025/11/6

土地の個人間売買とは?メリットとリスクを解説

土地の売買を検討する際、「不動産会社を介さず、親族や知人と直接取引できないか」と考える方がいらっしゃいます。個人間売買は仲介手数料が不要になるメリットがある一方、専門知識不足によるトラブルリスクが高く、慎重な判断が必要です。

この記事では、土地の個人間売買の流れ、メリット・デメリット、リスクと対策、専門家への依頼が必要な部分を法務局国土交通省等の公式情報を元に解説します。

読者の皆様が個人間売買のリスクを正しく理解し、トラブルを回避しながら安全に取引できるようになります。

この記事のポイント

  • 個人間売買は仲介手数料が不要になるが、重要事項説明書がなく物件調査が不十分になるリスクが高い
  • 境界未確定・接道義務違反・地中埋設物等の問題が後から発覚し、契約不適合責任で紛争になるケースが多い
  • 親族間で時価の1/2以下の価格で売買すると、差額が贈与とみなされ買主に贈与税(最高55%)が課税される可能性
  • 所有権移転登記は司法書士への依頼が必須、境界確定測量も売買前に実施すべき
  • 住宅ローン利用は原則困難で、金融機関は重要事項説明書(宅建士のみ作成可能)を審査で要求する

土地の個人間売買のメリットとデメリット

土地の個人間売買には、仲介手数料の節約というメリットがある一方、専門知識不足による複数のデメリットが存在します。両者を公平に理解することが重要です。

メリット:仲介手数料の節約

個人間売買の最大のメリットは、不動産会社への仲介手数料が不要になることです。

仲介手数料は、宅地建物取引業法で「物件価格×3%+6万円+消費税」が上限と定められています。例えば、2,000万円の土地の場合、仲介手数料は約72万円(2,000万円×3%+6万円+消費税10%)となります。

この費用が不要になることで、売買全体のコストを抑えることができます。また、売買価格を売主・買主間で自由に設定できる点も、メリットの一つです。

デメリット:専門知識不足によるトラブルリスク

一方、個人間売買には以下のデメリットがあります。

重要事項説明書がない

不動産会社が仲介する場合、宅地建物取引業法第35条に基づき、宅建士が契約前に「重要事項説明書」を作成・交付し、買主に説明する義務があります。重要事項説明書には、物件の法規制・インフラ・契約条件等が記載されます。

個人間売買では作成義務がないため、買主が物件の詳細情報を把握できず、後から問題が発覚するリスクが高まります。

物件調査が不十分

不動産会社は、契約前に以下の調査を行います。

  • 境界の確定状況
  • 接道義務(建築基準法43条)の確認
  • 市街化調整区域等の建築制限
  • 地中埋設物・土壌汚染の有無
  • インフラ(上下水道・ガス)の整備状況

個人間売買ではこれらの調査が省略されがちで、後に境界紛争・建築不可・地中埋設物撤去費用等の問題が発覚するケースが多くあります。

契約不適合責任のリスク

民法改正(2020年)により導入された「契約不適合責任」は、引渡後に契約内容と異なる不具合が発覚した場合、買主が売主に損害賠償・契約解除を請求できる制度です。

個人間売買では、売買契約書に契約不適合責任の免責特約を設けることが可能ですが、売主が知りながら告げなかった場合は免責無効となります。専門的な契約書作成なしに取引すると、後の紛争リスクが高まります。

住宅ローン利用が困難

金融機関は住宅ローン審査で重要事項説明書(宅建士のみ作成可能)を要求することが多いため、個人間売買では原則として住宅ローン利用が困難です。

一部金融機関では個人間売買でも融資可能ですが、金利が高い・審査が厳しい等の制約があります。買主は事前に金融機関へ個人間売買での融資可否を確認すべきです。

土地の個人間売買の流れ(5つのステップ)

土地の個人間売買は、以下の5つのステップで進めます。各ステップで専門家のサポートが必要な部分を明確にします。

ステップ1:契約前の準備(境界確定・価格査定)

契約前の準備が、個人間売買の成否を分けます。

境界確定測量

土地の境界が確定していない場合、隣地所有者立会いの下、土地家屋調査士が境界標を設置し、境界を確定する「境界確定測量」を実施します。費用は30-80万円程度(一般的な相場)です。

境界未確定のまま売買すると、後に隣地所有者と紛争になり、買主が測量費用を負担するリスクがあります。売買前に境界確定測量を実施することを強く推奨します。

適正価格の確認

国土交通省の土地総合情報システムでは、公的な土地取引価格データを公開しています。周辺の取引事例を確認し、適正価格を把握することで、贈与税リスク(後述)を回避できます。

接道義務・建築可能性の確認

建築基準法第43条で定められた「接道義務」(建物敷地が幅4m以上の道路に2m以上接すること)を満たしているか、市区町村の都市計画課で確認します。

接道義務違反の土地は建物再建築不可となり、資産価値が大幅に低下します。個人間売買では調査不足で後から判明するケースがあるため、必ず事前確認が必要です。

ステップ2:売買契約書の作成と締結

売買契約書には、以下の内容を明記します。

  • 物件情報(所在・地番・地目・地積)
  • 売買代金・支払時期・支払方法
  • 引渡時期
  • 契約不適合責任の範囲と期間(または免責特約)
  • 境界の確定状況
  • 特約事項(地中埋設物の取扱い等)

インターネットで契約書のひな形を入手できますが、読者固有の状況(境界・地中埋設物・接道義務等)を反映させないと、後の契約不適合責任追及で紛争になる可能性があります。司法書士または弁護士のリーガルチェック(費用5-10万円程度、一般的な相場)を受けることを推奨します。

ステップ3:代金決済と引渡し

売買契約書に定めた時期・方法で代金を決済し、土地を引き渡します。

一般的には、買主が売主指定の口座に売買代金を振り込み、売主が所有権移転登記に必要な書類(登記識別情報・印鑑証明書等)を買主に引き渡します。

ステップ4:所有権移転登記

所有権移転登記は、法務局への申請が必要です。

登記申請には、以下の書類が必要です。

  • 登記申請書
  • 登記原因証明情報(売買契約書または登記原因証明情報)
  • 売主の登記識別情報(権利証)
  • 売主の印鑑証明書(3ヶ月以内)
  • 買主の住民票
  • 固定資産評価証明書
  • 登録免許税の納付

個人で登記申請することも可能ですが、書類の不備や手続きミスのリスクがあるため、司法書士への依頼が推奨されます(費用5-15万円程度、一般的な相場、登録免許税別)。

ステップ5:税務申告(確定申告・不動産取得税)

売主の確定申告

売主は、譲渡所得税の確定申告が必要です。譲渡所得は「譲渡価格 - 取得費 - 譲渡費用」で計算され、所有期間5年以下の短期譲渡所得は税率39.63%、5年超の長期譲渡所得は税率20.315%です(2025年時点)。

買主の不動産取得税

買主は、都道府県に不動産取得税を納付します。税率は固定資産税評価額の3%(2027年3月31日までの特例、原則4%)です。

個人間売買で注意すべきリスクと対策

個人間売買には、契約不適合責任・贈与税課税・境界トラブル等のリスクがあります。それぞれの対策を解説します。

契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)

民法改正(2020年)で導入された契約不適合責任は、引渡後に契約内容と異なる不具合(地中埋設物・土壌汚染等)が発覚すると、買主は損害賠償・契約解除を請求できる制度です。

個人間売買では、売買契約書に「契約不適合責任を負わない」という免責特約を設けることが可能ですが、売主が知りながら告げなかった場合は免責無効となります。

対策:

  • 売主は、物件の不具合を正直に告知する
  • 契約書に「現況有姿取引」と明記し、具体的な不具合内容を列挙する
  • 専門家(司法書士・弁護士)に契約書のリーガルチェックを依頼する

贈与税課税リスク(親族間取引)

親族間で時価より著しく低い価格で売買すると、差額が贈与とみなされ、買主に贈与税(最高55%)が課税されます(相続税法第7条)。

一般的に、時価の1/2以下の価格で取引すると贈与認定リスクが高くなります。

対策:

境界・接道義務の確認不足

境界未確定・接道義務違反の土地は、後に紛争や資産価値低下のリスクがあります。

対策:

  • 売買前に境界確定測量を実施する(費用30-80万円程度、一般的な相場)
  • 市区町村の都市計画課で接道義務・建築制限を確認する
  • 売買契約書に境界の確定状況を明記する

専門家への依頼が必要な部分と費用の目安

個人間売買でも、専門家への依頼が必須または推奨される部分があります。

司法書士:所有権移転登記(必須)

所有権移転登記の書類作成・法務局への申請を代行します。費用は5-15万円程度(一般的な相場、登録免許税別)です。

個人で登記申請することも可能ですが、書類の不備や手続きミスのリスクがあるため、専門家依頼が推奨されます。日本司法書士会連合会のウェブサイトで、費用目安や業務範囲を確認できます。

土地家屋調査士:境界確定測量(推奨)

境界確定測量の費用は30-80万円程度(一般的な相場)です。境界未確定のまま売買すると、後のトラブルリスクが高いため、売買前の実施を強く推奨します。

弁護士・税理士への相談(必要に応じて)

弁護士:契約書のリーガルチェック

売買契約書の内容確認・修正アドバイスを受けることができます。費用は5-10万円程度(一般的な相場)です。

税理士:贈与税・譲渡所得税の申告サポート

親族間取引での贈与税リスク確認、譲渡所得税の申告サポートを受けることができます。費用は3-10万円程度(一般的な相場)です。

仲介手数料を節約しても、専門家費用で数十万円は必要になる点を理解しておきましょう。

よくあるトラブル事例と回避方法

個人間売買では、以下のようなトラブルが発生しやすいです。

境界トラブル(隣地との紛争)

事例: 境界確定測量を省略し、買主が後に隣地所有者と境界を巡って紛争になり、測量費用を負担するケース。

回避方法: 売買前に境界確定測量を実施し、境界標を設置する。売買契約書に境界の確定状況を明記する。

住宅ローン審査で断られる

事例: 金融機関が重要事項説明書を要求し、買主が資金調達できず契約解除するケース。

回避方法: 買主が事前に金融機関へ個人間売買での融資可否を確認する。融資が困難な場合、自己資金または親族からの借入を検討する。

贈与税の追徴課税

事例: 親族間で時価の1/2以下の価格で売買し、後に税務署から贈与税(差額の最高55%)の追徴課税を受けるケース。

回避方法: 国土交通省の土地総合情報システムで周辺の取引事例を確認し、適正価格で取引する。税理士に事前相談する。

まとめ:個人間売買は専門家のサポートが不可欠

土地の個人間売買は、仲介手数料を節約できるメリットがありますが、境界確定・契約不適合責任・贈与税等のリスクが高く、専門知識が不足していると重大なトラブルに発展する可能性があります。

契約前の準備(境界確定測量・適正価格確認・建築可能性確認)が重要です。所有権移転登記は司法書士への依頼が必須で、境界確定測量・契約書のリーガルチェック・税務申告も専門家依頼を推奨します。

仲介手数料を節約しても、専門家費用で数十万円は必要になります。トラブル回避のため、不動産会社の仲介も選択肢として検討すべきです。個別具体的な判断は、法務局・市区町村税務課・司法書士・税理士へ相談してください。

よくある質問

Q1個人間売買で売買契約書は自分で作れますか?

A1法的には可能ですが、専門家(司法書士・弁護士)の確認を推奨します。契約書のひな形をインターネットで入手できますが、境界・地中埋設物・接道義務等の個別事情を反映させないと、後の契約不適合責任で紛争になるリスクがあります。司法書士のリーガルチェック費用は5-10万円程度です。専門家に依頼することで、トラブルを未然に防ぐことができます。

Q2親族間で土地を売買する場合、価格はいくらでもいいですか?

A2時価より著しく低い価格(時価の1/2以下が目安)で売買すると、差額が贈与とみなされ買主に贈与税(最高55%)が課税されます(相続税法第7条)。適正価格は国土交通省の土地総合情報システムで確認し、税理士へ事前相談を推奨します。親族間でも時価で取引するのが安全です。贈与税の追徴課税は数百万円に達する可能性があるため、注意が必要です。

Q3個人間売買で住宅ローンは利用できますか?

A3原則として困難です。金融機関は住宅ローン審査で重要事項説明書(宅建士のみ作成可能)を要求するため、個人間売買では提出できません。一部金融機関では個人間売買でも融資可能ですが、金利が高い・審査が厳しい等の制約があります。買主は事前に金融機関へ個人間売買での融資可否を確認すべきです。融資が困難な場合、自己資金または親族からの借入を検討してください。

Q4境界確定測量は必ずやらないといけませんか?

A4法的義務ではありませんが、強く推奨します。境界未確定のまま売買すると、後に隣地所有者と紛争になり、買主が測量費用(30-80万円)を負担するリスクがあります。売買契約書に「現況有姿取引(境界未確定)」と明記しても、トラブルリスクは残ります。売買前に土地家屋調査士へ依頼し境界確定測量を実施することで、後のトラブルを回避できます。