土地の名義変更費用とは何か
相続・贈与・売買等で土地を取得した際、「名義変更にいくらかかるのか」「自分でやるべきか司法書士に依頼すべきか」と悩まれる方は多くいらっしゃいます。
この記事では、土地の名義変更(所有権移転登記)にかかる費用を、原因別(相続・贈与・売買)に整理し、登録免許税と司法書士報酬の相場、自分で申請する場合との比較を、法務省や日本司法書士会連合会の公式情報を元に解説します。
費用の全体像を理解することで、現実的な資金計画を立てられるようになります。
この記事のポイント
- 土地の名義変更費用は「登録免許税(実費)」と「司法書士報酬」に大別される
- 登録免許税は原因により税率が異なる(相続0.4%、贈与2.0%、売買2.0%等)
- 司法書士報酬は5-10万円程度が相場で、土地の数や相続人の数により変動
- 自分で申請すれば司法書士報酬を節約できるが、複雑なケースではリスクがある
- 相続登記は2024年4月から義務化され、3年以内の申請が必要(過料10万円)
登録免許税の税率と計算方法
土地の名義変更には、国に納める登録免許税がかかります。税率は名義変更の原因により異なります。
相続による名義変更(0.4%)
相続で土地を取得した場合の登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%です。
計算式:
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 0.4%
例:
- 評価額1000万円の土地: 1000万円 × 0.4% = 4万円
- 評価額3000万円の土地: 3000万円 × 0.4% = 12万円
相続登記は2024年4月から義務化され、相続を知った日から3年以内の申請が必要です。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科されます。
贈与による名義変更(2.0%)
贈与で土地を取得した場合の登録免許税は、固定資産税評価額の2.0%です。相続の5倍の税率となります。
計算式:
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 2.0%
例:
- 評価額1000万円の土地: 1000万円 × 2.0% = 20万円
- 評価額3000万円の土地: 3000万円 × 2.0% = 60万円
贈与の場合、登録免許税に加えて、贈与税(基礎控除110万円)も発生する可能性があります。贈与税は、贈与を受けた財産の価額に応じて課税され、税率は累進課税(10-55%)です。
売買による名義変更(2.0%)
売買で土地を取得した場合の登録免許税は、固定資産税評価額の2.0%が本則ですが、2026年3月31日まで1.5%に軽減されています。
計算式:
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 1.5%(軽減時)
例:
- 評価額1000万円の土地: 1000万円 × 1.5% = 15万円
- 評価額3000万円の土地: 3000万円 × 1.5% = 45万円
軽減措置の期限が延長される可能性もあるため、最新情報は法務局または司法書士にご確認ください。
司法書士報酬の相場
司法書士に土地の名義変更を依頼する場合、報酬は事務所により異なりますが、一定の相場があります。
標準的な報酬相場(5-10万円)
日本司法書士会連合会の調査によると、土地の名義変更の司法書士報酬は標準的なケースで5-10万円程度です。
報酬額は以下の要因により変動します。
| 要因 | 影響 | 
|---|---|
| 土地の数 | 1物件目は基本報酬、2物件目以降は1-3万円/件の加算 | 
| 土地の評価額 | 高額物件は報酬が上がる傾向 | 
| 相続人の数 | 相続人が多いと戸籍収集・書類作成の手間が増える | 
| 遺産分割協議の有無 | 遺産分割協議書の作成が必要な場合は3-5万円追加 | 
| 管轄法務局の数 | 複数の法務局に申請する場合は追加費用 | 
最もシンプルなケース(土地1件、相続人2-3名、法定相続分での登記)であれば、6-10万円程度が相場です。
報酬が変動する要因
以下のようなケースでは、報酬が相場より高くなる可能性があります。
- 土地が複数ある: 2物件目以降は1-3万円/件の加算が一般的
- 相続人が多数: 5名以上の場合、戸籍収集や書類作成の手間が増える
- 遺産分割協議が必要: 遺産分割協議書の作成で3-5万円追加
- 数次相続: 相続人が既に死亡し、さらに相続が発生している場合(追加調査が必要)
- 管轄法務局が複数: 東京と大阪に土地がある等、複数の法務局に申請する場合
報酬の見積もりを取る際は、土地の数・評価額・相続人の数を正確に伝えることが重要です。
報酬に含まれる業務内容
司法書士報酬には、以下の業務が含まれるのが一般的です。
- 登記申請書の作成: 所有権移転登記申請書の作成
- 書類収集代行: 戸籍謄本・住民票・評価証明書等の取得(相続の場合)
- 遺産分割協議書の作成: 相続人全員の合意内容を書面化(相続の場合)
- 登記申請: 法務局への申請書類の提出、登記完了後の権利証の受領
- 相談対応: 名義変更の手続き全般に関する相談
書類取得の実費(戸籍謄本1通450-750円、評価証明書300円程度)や登録免許税は、報酬とは別に実費として請求されます。
原因別の名義変更費用シミュレーション
評価額1000万円の土地を例に、原因別の名義変更費用を試算します。
相続による名義変更の総額
登録免許税: 1000万円 × 0.4% = 4万円
司法書士報酬: 6-10万円
書類取得費: 5,000-10,000円(戸籍謄本・住民票・評価証明書等)
総額: 約11-15万円
相続の場合、登録免許税が最も安い(0.4%)ため、総費用も抑えられます。ただし、相続人が多数の場合は戸籍収集の費用と手間が増えます。
贈与による名義変更の総額
登録免許税: 1000万円 × 2.0% = 20万円
司法書士報酬: 5-8万円
書類取得費: 3,000-5,000円
総額: 約26-29万円
贈与の場合、登録免許税が高い(2.0%)ため、総費用も高額になります。さらに、贈与税(基礎控除110万円超の部分)も別途発生する可能性があります。
売買による名義変更の総額
登録免許税: 1000万円 × 1.5% = 15万円(軽減時)
司法書士報酬: 5-8万円
書類取得費: 2,000-3,000円
総額: 約22-26万円
売買の場合、登録免許税は軽減措置により1.5%(2026年3月31日まで)です。軽減措置終了後は2.0%となり、総額は27-31万円程度になります。
自分で名義変更する場合との比較
土地の名義変更は自分で申請することも可能です。司法書士に依頼する場合と比較して、費用とリスクを理解しましょう。
自分で申請した場合の費用
自分で名義変更を申請する場合、司法書士報酬がかからないため、費用は実費のみです。
| 項目 | 金額 | 
|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産税評価額 × 税率(原因により異なる) | 
| 戸籍謄本等の取得費 | 1通450-750円 × 必要枚数(相続の場合) | 
| 固定資産税評価証明書 | 300円程度 | 
| 郵送費・交通費 | 数千円 | 
| 合計 | 登録免許税 + 5,000-10,000円程度 | 
司法書士に依頼する場合と比較して、5-10万円程度を節約できます。
自分でやる場合の手間とリスク
自分で名義変更を申請する場合、以下の手間とリスクがあります。
手間:
- 書類収集: 戸籍謄本・住民票・評価証明書等の取得(本籍地が遠方の場合は郵送)
- 登記申請書の作成: 法務局のWebサイトや窓口で様式を確認し、正確に記載
- 法務局への出頭: 平日8:30-17:15に法務局へ出頭(または郵送)
リスク:
- 書類不備: 戸籍謄本の取得漏れ、登記申請書の記載ミス等で補正が必要
- 時間と手間: 初めての場合、書類収集から登記完了まで数週間〜数ヶ月かかる
- 登記内容の誤り: 登記後に誤りが発覚した場合、更正登記が必要(追加費用)
単純なケース(土地1件、相続人2-3名、法定相続分での登記)であれば、自分で申請することも十分に可能です。法務局の窓口で相談しながら進めることもできます。
司法書士に依頼するメリット
司法書士に依頼することで、以下のメリットがあります。
- 手続きの確実性: 書類不備や記載ミスを防げる
- 時間の節約: 戸籍収集・書類作成・法務局への出頭を代行してもらえる
- 複雑なケースへの対応: 遺産分割協議・数次相続・共有持分の登記等の複雑なケースも適切に処理
- 法的リスクの回避: 登記内容の誤りによる後のトラブルを防げる
特に、以下のようなケースでは司法書士への依頼が推奨されます。
- 土地が複数ある
- 相続人が多数(5名以上)
- 遺産分割協議が必要
- 数次相続(相続人が既に死亡)
- 相続人の中に未成年者・認知症の方がいる
費用を抑えるポイント
司法書士に依頼する場合でも、費用を抑える方法があります。
複数の司法書士事務所で見積もりを取る
司法書士報酬は2003年に報酬規定が撤廃され、各事務所が自由に設定しています。そのため、同じ内容でも事務所により報酬が大きく異なることがあります。
以下の観点で3社以上の見積もりを取り、比較することをおすすめします。
- 基本報酬: 土地1件あたりの基本報酬
- 追加費用: 2件目以降の追加費用、遺産分割協議書作成費用
- 書類取得費用: 戸籍謄本等の取得を依頼する場合の費用
- 支払条件: 着手金・成功報酬の有無
見積もりを取る際は、土地の数・評価額・相続人の数を正確に伝えることが重要です。
書類を自分で揃える
戸籍謄本・住民票・評価証明書等の書類を自分で取得すれば、司法書士の書類取得代行費用を節約できます。
- 戸籍謄本: 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍(相続の場合)
- 相続人の戸籍謄本: 相続人全員の現在戸籍(相続の場合)
- 住民票: 被相続人の除票、相続人全員の住民票(相続の場合)
- 固定資産税評価証明書: 市区町村役場で取得
ただし、戸籍の取得漏れがあると登記ができないため、不安な場合は司法書士に依頼する方が確実です。
オンライン申請を利用する
オンライン申請を利用すると、一部の登記で登録免許税が軽減される場合があります。ただし、土地の所有権移転登記では軽減措置はありません。
オンライン申請は専用ソフトのインストールや電子証明書の取得が必要で、初めての方には難易度が高いため、窓口または郵送での申請が一般的です。
まとめ:土地の名義変更費用は原因により大きく異なる
土地の名義変更費用は、登録免許税と司法書士報酬を合わせて、原因により10-30万円程度です。
相続の場合は登録免許税が0.4%と最も安く、総額11-15万円程度。贈与の場合は登録免許税が2.0%と高く、総額26-29万円程度。売買の場合は登録免許税が1.5%(軽減時)で、総額22-26万円程度です。
司法書士に依頼すれば手続きが確実ですが、単純なケースは自分で申請することも可能です。複数の司法書士事務所で見積もりを取り、適正価格を確認することが重要です。
相続登記は2024年4月から義務化され、3年以内の申請が必要です。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科されるため、早めの対応が推奨されます。
信頼できる司法書士や不動産会社に相談しながら、適切に名義変更を進めてください。
