相続土地売却にかかる税金の全体像
相続で土地を取得した後に売却を検討する際、「税金がいくらかかるのか」「どのタイミングで売るべきか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、相続土地売却にかかる税金(相続税・譲渡所得税・登録免許税等)の計算方法と節税対策を、国税庁・財務省の公式情報を元に解説します。
特に譲渡所得税の計算では取得費の引き継ぎが重要なポイントとなり、相続税の取得費加算特例(相続開始から3年10ヶ月以内)を活用すれば大幅な節税が可能です。
この記事のポイント
- 相続土地売却では相続時と売却時の2段階で税金が発生する
- 譲渡所得税の計算では取得費は被相続人の取得費を引き継ぐ(相続時の評価額ではない)
- 相続税の取得費加算特例(相続開始から3年10ヶ月以内)で大幅な節税が可能
- 相続空き家の3000万円特別控除も活用できる場合がある(2027年12月31日まで)
- 売却タイミングは特例の期限と市場動向を考慮して判断する
相続土地売却では2段階で税金が発生します。まず①相続時に相続税・登録免許税がかかり、次に②売却時に譲渡所得税・印紙税がかかります。
売却を前提としても相続登記は必須です。2024年4月から相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に登記しないと過料10万円以下の可能性があります。
主な税金の種類と発生タイミングは以下の通りです。
| 税金の種類 | 発生タイミング | 税率・計算方法 | 
|---|---|---|
| 相続税 | 相続時 | 基礎控除超過分に課税 | 
| 登録免許税 | 相続登記時 | 固定資産税評価額×0.4% | 
| 譲渡所得税 | 売却時 | 譲渡所得×20.315%または39.63% | 
| 印紙税 | 売買契約時 | 契約金額に応じて数万円 | 
(出典: 国税庁)
譲渡所得税の計算方法:取得費の引き継ぎがポイント
譲渡所得税は土地の売却益に対してかかる税金です。計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
ここで最も重要なのは、取得費は被相続人の取得費を引き継ぐという点です。相続時の評価額(固定資産税評価額や相続税評価額)ではありません。
譲渡所得の計算式(売却価格-取得費-譲渡費用)
- 売却価格: 実際に土地を売却した金額
- 取得費: 被相続人が土地を購入した際の価格+購入時の仲介手数料・測量費・登記費用等
- 譲渡費用: 売却時にかかった仲介手数料・測量費・建物の解体費等
取得費は被相続人の取得費を引き継ぐ
相続の場合、被相続人の取得費をそのまま引き継ぎます。被相続人が昭和の時代に数百万円で購入した土地でも、その購入価格が取得費となります。
取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として使用できますが、実際の取得費より不利になることが多いため、被相続人の購入時の契約書等を探すことが重要です。
(出典: 国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期)
長期・短期の税率の違い(長期20.315%、短期39.63%)
譲渡所得税の税率は、売却した年の1月1日時点での所有期間により異なります。
| 所有期間 | 区分 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 | 
|---|---|---|---|---|---|
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% | 
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% | 
相続の場合、被相続人の所有期間を引き継ぐため、相続直後に売却しても被相続人が5年超所有していれば長期譲渡所得(20.315%)となります。
(出典: 国税庁 土地や建物を売ったとき)
計算例:
- 被相続人が2000万円で購入した土地を3000万円で売却(譲渡費用100万円)
- 譲渡所得 = 3000万円 - 2000万円 - 100万円 = 900万円
- 譲渡所得税(長期) = 900万円 × 20.315% = 約183万円
相続税の取得費加算の特例:最大の節税策
相続土地売却で最も効果的な節税策が「相続税の取得費加算の特例」です。
特例の概要(相続税の一部を取得費に加算)
この特例は、支払った相続税の一部を譲渡所得の計算上の取得費に加算できる制度です。取得費が増えれば譲渡所得が減り、譲渡所得税を軽減できます。
適用要件(相続税申告期限の翌日から3年以内に売却)
主な適用要件は以下の通りです。
- 相続または遺贈により財産を取得した人が相続税を納付していること
- 相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から3年10ヶ月以内)に売却すること
- 相続した財産を売却すること
(出典: 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)
計算方法と節税効果
加算できる相続税額は以下の式で計算します。
加算額 = 支払った相続税 × (売却した土地の相続税評価額 / 相続財産全体の相続税評価額)
計算例:
- 相続税総額: 500万円
- 相続財産全体の評価額: 5000万円
- 売却した土地の評価額: 2000万円
- 加算額 = 500万円 × (2000万円 / 5000万円) = 200万円
先ほどの例(譲渡所得900万円)に適用すると:
- 譲渡所得 = 900万円 - 200万円 = 700万円
- 譲渡所得税(長期) = 700万円 × 20.315% = 約142万円
- 節税効果 = 183万円 - 142万円 = 41万円
この特例は売却タイミングが重要です。相続開始から3年10ヶ月を過ぎると適用できなくなるため、早めの判断が必要です。
相続空き家の3,000万円特別控除
被相続人が居住していた家屋と土地を売却する場合、「相続空き家の3,000万円特別控除」を活用できる可能性があります。
適用要件(1981年5月31日以前建築、耐震基準適合等)
主な適用要件は以下の通りです。
- 被相続人が居住していた家屋(1981年5月31日以前建築)
- 相続開始から3年経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却前に耐震基準に適合させる、または家屋を解体する
- 売却価格が1億円以下
(出典: 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)
適用期限(2027年12月31日まで)
この特例は2027年12月31日までの売却が対象です。期限後は適用できない可能性があるため、早めの検討が必要です。
取得費加算の特例との選択
相続税の取得費加算の特例と相続空き家の3,000万円特別控除は併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。
一般的には以下の判断基準があります。
| ケース | 有利な特例 | 
|---|---|
| 相続税が多額(数百万円以上) | 取得費加算 | 
| 譲渡所得が多額(3,000万円以下) | 空き家特例 | 
| 譲渡所得が3,000万円超 | 税理士に試算依頼 | 
どちらが有利かは個別のケースにより異なるため、税理士に試算してもらうことを推奨します。
相続時にかかる税金:相続税と登録免許税
売却前の相続時にも税金が発生します。
相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)
相続税は遺産総額が基礎控除を超えた場合に課税されます。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
- 法定相続人が3人の場合: 3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
- 遺産総額が4,800万円以下なら相続税は発生しません
小規模宅地等の特例(最大80%減額)
被相続人の居住用土地を相続する場合、小規模宅地等の特例により330㎡まで評価額を80%減額できます。
ただし、売却前提の場合は適用が難しいケースがあります。被相続人と同居していなかった場合や、賃貸住宅に住んでいる相続人が取得する場合(家なき子特例)は細かい要件があるため、税理士への相談を推奨します。
登録免許税(固定資産税評価額×0.4%)
相続登記には登録免許税がかかります。
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 0.4%
- 固定資産税評価額が2,000万円の土地: 2,000万円 × 0.4% = 8万円
2024年4月から相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に登記しないと過料10万円以下の可能性があります。売却の有無にかかわらず、早めの登記が必要です。
(出典: 法務省 相続登記義務化)
まとめ:売却タイミングと専門家への相談
相続土地売却では、相続時に相続税・登録免許税、売却時に譲渡所得税・印紙税が発生します。
譲渡所得税の計算では、取得費は被相続人の取得費を引き継ぐため、被相続人の購入時の契約書等を探すことが重要です。所有期間も引き継ぐため、相続直後でも長期譲渡所得(20.315%)となることが多いです。
最大の節税策は「相続税の取得費加算の特例」で、相続開始から3年10ヶ月以内の売却が条件です。「相続空き家の3,000万円特別控除」も活用できる場合がありますが、併用はできません。
売却タイミングは特例の期限(取得費加算は3年10ヶ月以内、空き家特例は3年経過する日の属する年の12月31日まで)と市場動向を考慮して判断してください。
個別の財産状況により最適解が異なるため、税理士への相談を強く推奨します。まずは複数の不動産会社に査定を依頼し、売却価格の目安を把握することから始めましょう。
