相続した土地を3年以内に売却すると税金が安くなる特例を解説

公開日: 2025/10/26

相続した土地を3年以内に売却すると税金が安くなる特例とは

親族から土地を相続した際、「売却すると税金がかかるのでは」と不安に感じる方は少なくありません。しかし、「相続税額の取得費加算の特例」を使えば、相続開始から3年10ヶ月以内に売却することで譲渡所得税を大幅に節税できる可能性があります。

この記事では、特例の仕組み、適用要件、節税額の計算方法を、国税庁の公式情報を元に解説します。

期限内に売却すべきか判断するための実用的な情報を、初めての方でも理解できるように提示します。

この記事のポイント

  • 相続した土地を3年10ヶ月以内に売却すると、相続税額の一部を取得費に加算でき譲渡所得税を節税できる
  • 特例の適用には相続税を納付していることが前提、基礎控除内で相続税がかからなかった場合は対象外
  • 取得費加算の特例と相続空き家の3000万円控除は原則併用不可、どちらか有利な方を選ぶ
  • 2024年4月から相続登記が義務化、3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象
  • 期限内に売却できないと譲渡所得税が高額になり、維持コストも増加する

特例の適用要件と期限の計算方法

3年10ヶ月という期限の仕組み

「相続税額の取得費加算の特例」の期限は、正確には相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年です。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内のため、合計で約3年10ヶ月が売却の目安になります。

計算例:

  • 相続開始日: 2024年1月1日
  • 相続税申告期限: 2024年11月1日(10ヶ月後)
  • 売却期限: 2027年11月1日(申告期限の翌日から3年後)

特例の適用要件

以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 相続税を納付していること: 基礎控除内で相続税がかからなかった場合は適用対象外
  • 相続財産であること: 相続または遺贈により取得した土地
  • 期限内の売却: 相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年以内に売却

(出典: 国税庁)

節税額の計算シミュレーション

取得費加算額の計算方法

取得費加算の特例では、以下の計算式で相続税額の一部を取得費に加算できます。

計算式:

取得費加算額 = 相続税額 × (売却した土地の相続税評価額 / 相続財産の合計額)

具体的な数値例

項目 金額
売却価格 5,000万円
取得費(購入価格) 1,000万円
相続税額 500万円
売却した土地の相続税評価額 4,000万円
相続財産の合計額 1億円

取得費加算額:

500万円 × (4,000万円 / 1億円) = 200万円

譲渡所得の計算:

  • 特例なし: 5,000万円 - 1,000万円 = 4,000万円
  • 特例あり: 5,000万円 - (1,000万円 + 200万円) = 3,800万円

節税額(長期譲渡所得、税率20.315%の場合):

200万円 × 20.315% = 約40万円

このように、取得費加算の特例を使うことで約40万円の節税が可能です。

他の特例との比較と選び方

2つの主な特例の比較

特例 対象 控除額 期限 併用
取得費加算の特例 相続財産全般 相続税額の一部を取得費に加算 相続開始から3年10ヶ月 空き家控除と原則併用不可
相続空き家の3000万円控除 被相続人の居住用財産(空き家) 譲渡所得から最大3,000万円控除 相続開始から3年後の12月31日まで 取得費加算と原則併用不可

どちらを選ぶべきか

  • 土地のみの場合: 取得費加算の特例
  • 建物付きで要件を満たす場合: 相続空き家の3000万円控除が有利なケースが多い

どちらが有利かは、相続税額、売却価格、取得費により異なります。税理士に相談して試算することを推奨します。

(出典: 相続税専門税理士)

売却の準備と必要書類

相続登記の義務化(2024年4月施行)

売却前に相続登記が必須です。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記申請が必要になりました。違反すると10万円以下の過料の対象になります。

登記に必要な書類:

  • 戸籍謄本(被相続人の出生から死亡まで)
  • 遺産分割協議書(共有名義の場合)
  • 印鑑証明書
  • 固定資産評価証明書

登記手続きには通常1-2ヶ月かかるため、期限が迫っている場合は早めに司法書士に相談しましょう。

特例適用のための必要書類

  • 相続税申告書の写し: 税務署に提出した申告書
  • 譲渡所得の内訳書: 確定申告時に提出
  • 売買契約書: 不動産会社との契約書
  • 登記事項証明書: 法務局で取得

期限内に売却できない場合のリスクと対処法

期限を過ぎた場合のリスク

  • 取得費加算が使えない: 譲渡所得税が高額になる
  • 短期譲渡所得の適用: 所有期間5年以下の場合、税率39.63%(長期譲渡所得は20.315%)
  • 維持コストの増加: 固定資産税、管理費用等が毎年発生
  • 共有名義の場合の売却困難: 全員の同意が必要で、時間がかかる

期限が迫っている場合の対処法

  1. 相続登記を最優先: 登記なしでは売却できない
  2. 複数の不動産会社に査定依頼: 早期売却を目指す
  3. 税理士に相談: 特例適用の可否、節税額を試算
  4. 必要書類を揃える: 相続税申告書、登記事項証明書等

まとめ:特例を活用して賢く売却する

相続した土地を3年10ヶ月以内に売却すると、「相続税額の取得費加算の特例」により譲渡所得税を節税できます。ただし、相続税を納付していることが前提で、基礎控除内で相続税がかからなかった場合は適用対象外です。

特例を使うべきかは、相続税額、売却価格、他の特例(相続空き家の3000万円控除)との比較により判断が必要です。期限が迫っている場合は、相続登記と査定を優先しましょう。

不明点は税理士に相談し、自分の状況に最適な方法を選ぶことを推奨します。次のアクションとして、不動産会社に査定を依頼し、売却の準備を始めましょう。

よくある質問

Q1相続税を払っていない場合でも特例は使えますか?

A1使えません。取得費加算の特例は相続税を納付していることが前提条件です。基礎控除内で相続税がかからなかった場合は適用対象外です。ただし、相続空き家の3000万円控除など他の特例が使える可能性があります。

Q23年10ヶ月を過ぎてしまった場合、他に節税方法はありますか?

A2取得費加算の特例は使えませんが、長期譲渡所得(所有期間5年超、税率20.315%)の適用を狙う、または別の特例(空き家の3000万円控除など)の適用可能性を検討できます。ただし、期限や要件が異なるため税理士に相談することを推奨します。

Q3共有名義で相続した場合、特例はどう適用されますか?

A3共有名義でも各相続人が自分の持分について特例を適用できます。ただし、売却時に全員の同意が必要で、手続きが複雑になります。相続税額の按分方法や売却価格の配分について、事前に税理士に相談することを推奨します。

Q4土地を売却せずに活用する場合、何か優遇措置はありますか?

A4売却以外の選択肢として、賃貸住宅の建築による固定資産税の軽減(住宅用地の特例)、生産緑地指定による税負担の軽減などがあります。ただし、初期投資や管理負担を考慮する必要があります。活用方法は土地の立地や規模により異なるため、専門家に相談することを推奨します。