iDeCoと住宅ローン控除は併用できる?
iDeCoと住宅ローン控除の併用を検討する際、「両方使うと損するのでは?」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、iDeCoと住宅ローン控除が併用可能かどうか、併用時の税額への影響、所得税・住民税の控除の仕組みを、国税庁・厚生労働省の公式情報を元に解説します。
年収や借入額に応じた具体的なシミュレーション例も示し、あなたに最適な活用法を判断できるようになります。
この記事のポイント
- iDeCoと住宅ローン控除は併用可能だが、所得控除と税額控除という違いがある
- iDeCoは課税所得を減らし、住宅ローン控除は所得税額を直接減らす
- 併用により住宅ローン控除が所得税で引ききれず住民税に回る金額が増える場合がある
- 所得税額が少ない人はiDeCoの掛金を調整する方が有利なケースもあるが、基本的には両方活用すべき
- 住宅ローン控除終了後はiDeCoの節税効果が全面的に活きるため長期視点での判断が重要
所得控除と税額控除の違い
iDeCoと住宅ローン控除は、どちらも税負担を軽減する制度ですが、仕組みが大きく異なります。
iDeCoの所得控除(課税所得を減らす)
iDeCoの掛金は所得控除の対象です。所得控除とは、収入から差し引かれ課税所得を減らす控除で、計算式は以下の通りです。
課税所得 = 収入 - 所得控除(基礎控除・社会保険料控除・iDeCo掛金等)
iDeCoに月2万円(年24万円)拠出すると、課税所得が24万円減少します。所得税率20%の方なら、24万円×20%=4.8万円の所得税が軽減されます。
住宅ローン控除の税額控除(税額を直接減らす)
住宅ローン控除は税額控除です。税額控除とは、算出された所得税額から直接引かれる控除で、計算式は以下の通りです。
納税額 = 所得税額 - 税額控除(住宅ローン控除)
国税庁によると、住宅ローン控除は2022年以降、年末ローン残高の0.7%が控除額となります。借入残高3000万円なら、3000万円×0.7%=21万円が所得税額から直接引かれます。
控除の適用順序(所得控除→税額控除)
重要なのは、所得控除(iDeCo等)が先に適用され、その後に税額控除(住宅ローン控除)が適用される点です。
計算順序:
- 収入 - 所得控除(iDeCo・社会保険料等)= 課税所得
- 課税所得 × 税率 = 所得税額
- 所得税額 - 税額控除(住宅ローン控除)= 納税額
この順序により、iDeCoで課税所得が減ると所得税額も減り、住宅ローン控除が所得税で引ききれない金額が増える場合があります。
併用時の税額シミュレーション
年収や借入額により、併用時の税額は大きく変動します。具体的なシミュレーション例を見てみましょう。
年収500万円・借入3000万円の場合
前提条件:
- 年収: 500万円(会社員・扶養家族なし)
- 住宅ローン借入: 3000万円(年末残高3000万円)
- 住宅ローン控除額: 3000万円×0.7%=21万円
- iDeCo掛金: 月2万円(年24万円)
iDeCoなしの場合:
- 課税所得: 約280万円
- 所得税額: 約15万円
- 住宅ローン控除: 15万円(所得税で全額控除)
- 納税額: 0円
iDeCoありの場合:
- 課税所得: 約256万円(iDeCo掛金24万円分減少)
- 所得税額: 約10万円
- 住宅ローン控除: 10万円(所得税で引ききれず、残り11万円は住民税へ)
- 納税額: 0円(所得税)+ 住民税から控除
住民税の控除上限(9万7500円)
所得税で引ききれない住宅ローン控除は、住民税から最大9万7500円まで控除できます。
三井住友銀行の解説によると、住民税の控除上限は課税所得の7%または13万6500円のいずれか少ない額です。
上記のシミュレーションでは、住宅ローン控除の残り11万円のうち、9万7500円が住民税から控除され、約1万円が使いきれないことになります。
ただし、iDeCoの所得控除による節税効果(約4.8万円)を考慮すると、トータルの節税効果は依然として大きいと言えます。
併用で損するケースと対策
基本的にはiDeCoと住宅ローン控除の併用は推奨されますが、一部のケースでは調整が必要です。
所得税額が少ない人(年収が低い・扶養家族が多い)
所得税額が少ない人(年収400万円未満・扶養家族3人以上等)がiDeCoに多額の掛金を拠出すると、住宅ローン控除を使いきれず損する可能性があります。
りそなグループの解説では、このようなケースでiDeCoの掛金を調整する方法が紹介されています。
iDeCo掛金の調整方法(年1回変更可能)
iDeCoの掛金額は年1回、12月〜翌年11月の間に変更可能です。
住宅ローン控除の使い切り状況を確認して、必要に応じてiDeCoの掛金を減額・増額できます。ただし、変更手続きには1-2ヶ月かかるため、早めに申請すべきです。
住宅ローン控除終了後の見直し
住宅ローン控除の期間(13年)終了後はiDeCoの節税効果が全面的に活きるため、控除終了のタイミングでiDeCoの掛金を増額する戦略が有効です。
厚生労働省によると、iDeCoには掛金の全額所得控除・運用益非課税・受取時の控除の3つの税制優遇があり、長期的な老後資金形成に適しています。
基本的には両方活用すべき理由
iDeCoと住宅ローン控除の併用により、一部の住宅ローン控除が使い切れないケースがあっても、トータルの節税効果は大きいと言えます。
トータルの節税効果は大きい
iDeCoの所得控除による節税効果(年収500万円・掛金月2万円なら年約4.8万円)と、住宅ローン控除(年21万円)を合わせると、年間20万円以上の税負担軽減が期待できます。
一部の控除が使いきれなくても、トータルでは大きな節税効果があります。
老後資金形成の重要性
iDeCoは老後資金形成のための制度であり、掛金の所得控除だけでなく運用益非課税・受取時の控除の3つの税制優遇があります。
住宅ローン控除の期間(13年)は限定的ですが、老後資金は生涯にわたり必要です。長期視点でiDeCoを活用することが推奨されます。
住宅ローン控除が住民税で使える
所得税で引ききれない住宅ローン控除は、住民税から最大9万7500円まで控除できます。
国税庁の解説によると、2022年以降の住宅ローン控除は所得税・住民税の両方で適用可能です。所得税がゼロでも住民税で一定額は控除されるため、完全に無駄にはなりません。
まとめ:個別の状況に応じた判断を
iDeCoと住宅ローン控除は併用可能で、基本的には両方活用すべきです。
所得控除(iDeCo)と税額控除(住宅ローン控除)の違いを理解し、併用により住宅ローン控除が所得税で引ききれない金額が増える点に注意してください。
所得税額が少ない人(年収が低い・扶養家族が多い)はiDeCoの掛金を抑えて住宅ローン控除を優先する方が有利なケースもありますが、長期視点ではiDeCoの老後資金形成も重要です。
年収・借入額・家族構成により最適解は異なるため、シミュレーションを行い個別に判断することが推奨されます。必要に応じて税理士やファイナンシャルプランナーに相談しながら、無理のない節税プランを立てましょう。
