譲渡所得税率とは?基本的な仕組みを理解する
不動産や株式等の資産を売却する際、「譲渡所得税がいくらかかるのか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、譲渡所得税の基本的な仕組み、長期・短期の税率差、所有期間の判定方法、軽減税率や特別控除等の特例を、国税庁の公式情報を元に詳しく解説します。
譲渡所得税とは、不動産や株式等の資産を譲渡(売却)した際に得た所得に対して課税される税金です。計算式は「譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用」で、この譲渡所得に対して税率が適用されます。税率は所有期間によって大きく異なり、長期(所有期間5年超)は約20%、短期(所有期間5年以下)は約40%と約2倍の差があります。
この記事のポイント
- 長期譲渡所得(所有期間5年超)の税率は20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下)の税率は39.63%(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%)で長期の約2倍
- 所有期間の判定は「売却年の1月1日時点で5年超か」で判断(購入から5年経過していても短期になる場合あり)
- 居住用財産の3000万円特別控除、10年超所有の軽減税率等の特例あり
- 確定申告は売却翌年2-3月に必須、個別具体的な税務相談は税理士に要相談
長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率
譲渡所得税の税率は、所有期間によって長期と短期に区分されます。
長期譲渡所得(所有期間5年超)の税率
国税庁のNo.3208長期譲渡所得の税額の計算によると、長期譲渡所得の税率は以下の通りです。
| 税目 | 税率 | 
|---|---|
| 所得税 | 15% | 
| 住民税 | 5% | 
| 復興特別所得税 | 0.315%(所得税額の2.1%) | 
| 合計 | 20.315% | 
例:譲渡所得が1,000万円の場合、税額は約203万円になります。
短期譲渡所得(所有期間5年以下)の税率
国税庁のNo.3211短期譲渡所得の税額の計算によると、短期譲渡所得の税率は以下の通りです。
| 税目 | 税率 | 
|---|---|
| 所得税 | 30% | 
| 住民税 | 9% | 
| 復興特別所得税 | 0.63%(所得税額の2.1%) | 
| 合計 | 39.63% | 
例:譲渡所得が1,000万円の場合、税額は約396万円になります。
長期と短期の税率差は約2倍
長期と短期の税率差を比較すると、約2倍の差があります。
| 項目 | 長期(5年超) | 短期(5年以下) | 差額 | 
|---|---|---|---|
| 税率 | 20.315% | 39.63% | 19.315% | 
| 譲渡所得1,000万円の税額 | 203万円 | 396万円 | 193万円 | 
所有期間を5年超にすることで、税負担を大幅に削減できる可能性があります。ただし、売却時期を遅らせることで価格下落リスクもあるため、総合的に判断することが重要です。
所有期間の判定方法と注意点
長期・短期の区分は、所有期間の判定方法が重要です。
所有期間は「売却年の1月1日時点」で判断
所有期間の判定は、「売却年の1月1日時点で5年超か」で判断します。購入日から売却日までの実際の経過期間ではありません。
具体例1(長期):
- 購入日: 2018年12月1日
- 売却日: 2024年6月1日
- 判定: 2024年1月1日時点で5年超(2018年12月→2024年1月)→ 長期譲渡所得
具体例2(短期):
- 購入日: 2019年6月1日
- 売却日: 2024年12月1日
- 判定: 2024年1月1日時点で5年以下(2019年6月→2024年1月)→ 短期譲渡所得
具体例2では、購入から5年以上経過していますが、売却年の1月1日時点では5年以下のため短期になります。
判定を誤ると税額が大幅に増加
所有期間の判定を誤ると、想定外の税負担が発生するリスクがあります。
例:譲渡所得1,000万円の場合、長期(203万円)と短期(396万円)の差は193万円です。売却時期を数ヶ月調整することで、税負担を削減できる可能性があります。
居住用財産の3000万円特別控除
マイホーム(居住用財産)を売却した場合、特別控除が適用できる場合があります。
3000万円特別控除とは
国税庁のNo.3302マイホームを売ったときの特例によると、居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。
計算式:
- 譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 3,000万円
例:譲渡所得が2,500万円の場合、3,000万円控除後は0円になり、譲渡所得税は課税されません。
適用要件と注意点
3000万円特別控除の適用には、以下の要件があります。
主な要件:
- 自己の居住用財産であること
- 住まなくなってから3年以内に売却すること
- 売却相手が配偶者・直系血族等の特別な関係でないこと
- 前年・前々年にこの特例を受けていないこと
注意点:
- 特例があれば必ず適用されるわけではなく、要件を満たす必要がある
- 確定申告時に適用申請が必要
- 住宅ローン控除との併用不可
個別の適用可否は、税理士に相談することをおすすめします。
10年超所有の軽減税率特例
居住用財産を10年超所有して売却した場合、さらに軽減税率が適用される場合があります。
軽減税率の内容
国土交通省の居住用財産の譲渡に関する特例措置によると、10年超所有の軽減税率特例では、6,000万円以下の部分に軽減税率が適用されます。
| 譲渡所得 | 税率 | 
|---|---|
| 6,000万円以下の部分 | 14.21%(所得税10%+住民税4%+復興特別所得税0.21%) | 
| 6,000万円超の部分 | 20.315%(長期譲渡所得の通常税率) | 
3000万円控除との併用: 10年超所有の軽減税率は、3000万円特別控除と併用可能です。
計算例:
- 譲渡所得: 5,000万円
- 3,000万円控除後: 2,000万円
- 軽減税率適用(6,000万円以下): 2,000万円 × 14.21% = 約284万円
通常の長期譲渡所得税率(20.315%)なら約406万円なので、約122万円の節税になります。
適用要件
10年超所有の軽減税率特例の主な要件は以下の通りです。
- 売却年の1月1日時点で所有期間10年超
- 居住用財産であること
- 3000万円特別控除の要件を満たすこと
譲渡所得の計算方法と取得費の扱い
譲渡所得税を計算するには、譲渡所得を正確に算出する必要があります。
譲渡所得の基本計算式
計算式: 譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
各項目の内容:
- 譲渡価額: 売却価格
- 取得費: 購入価格 + 購入時の諸費用(仲介手数料・登記費用等) - 減価償却費(減価償却費とは、建物の経年劣化による価値減少分のことで、取得費から差し引きます)
- 譲渡費用: 売却時の諸費用(仲介手数料・測量費・印紙税等)
取得費不明時の概算取得費(5%ルール)
相続等で取得費が不明な場合、概算取得費(譲渡価額の5%)を使用できます。
例:
- 譲渡価額: 3,000万円
- 概算取得費: 3,000万円 × 5% = 150万円
- 譲渡費用: 100万円
- 譲渡所得: 3,000万円 - 150万円 - 100万円 = 2,750万円
デメリット: 概算取得費(5%)は実際の取得費より大幅に低くなる場合が多く、譲渡所得が大きくなり税額が高くなるリスクがあります。購入時の契約書・領収書を探す、市区町村で固定資産税評価額の推移を確認する等、実際の取得費を証明する努力が推奨されます。
減価償却費の計算
建物の取得費は、減価償却費を差し引く必要があります。
減価償却費の計算式:
- 事業用: 取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
- 非事業用(マイホーム): 取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数 × 1.5
国税庁の減価償却資産の償却率表によると、償却率は構造により異なります(木造0.031、鉄筋コンクリート0.015等)。詳細は国税庁の減価償却資産の償却率表を参照してください。
確定申告の時期と手続き
不動産や株式等の資産を売却した場合、確定申告が必須です。
確定申告の時期
売却した翌年の2月16日~3月15日に確定申告を行います。
例:
- 売却日: 2024年10月1日
- 確定申告期間: 2025年2月16日~3月15日
必要書類
国税庁によると、確定申告時に必要な書類は以下の通りです。
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書(売却時・購入時)
- 仲介手数料等の領収書
- 登記事項証明書
- 特例適用時の証明書類(居住用財産の3000万円控除等)
税理士への相談を推奨
譲渡所得税の計算は複雑で、特例の適用判断も難しい場合があります。個別具体的な税務相談・判断は税理士法により税理士の業務とされているため、税理士に相談することをおすすめします。
まとめ:所有期間と特例を理解して税負担を抑えよう
譲渡所得税率は、長期(所有期間5年超)が20.315%、短期(所有期間5年以下)が39.63%と約2倍の差があります。所有期間の判定は「売却年の1月1日時点で5年超か」で判断するため、購入から5年経過していても短期になる場合があります。
居住用財産を売却する場合、3000万円特別控除や10年超所有の軽減税率等の特例を活用することで、税負担を大幅に削減できる可能性があります。ただし、特例には適用要件があり、確定申告時に適用申請が必要です。
譲渡所得の計算、特例の適用判断、確定申告手続きは複雑です。個別具体的な税務相談は税理士に依頼し、正確な税額計算と適切な節税対策を行うことをおすすめします。売却を検討している方は、早めに税理士に相談し、売却時期や手続きを計画することが重要です。
