譲渡所得税率を完全解説!長期・短期の違いと計算方法

公開日: 2025/10/30

譲渡所得税率とは?基本的な仕組みを理解する

不動産や株式等の資産を売却する際、「譲渡所得税がいくらかかるのか」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、譲渡所得税の基本的な仕組み、長期・短期の税率差、所有期間の判定方法、軽減税率や特別控除等の特例を、国税庁の公式情報を元に詳しく解説します。

譲渡所得税とは、不動産や株式等の資産を譲渡(売却)した際に得た所得に対して課税される税金です。計算式は「譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用」で、この譲渡所得に対して税率が適用されます。税率は所有期間によって大きく異なり、長期(所有期間5年超)は約20%、短期(所有期間5年以下)は約40%と約2倍の差があります。

この記事のポイント

  • 長期譲渡所得(所有期間5年超)の税率は20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)
  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下)の税率は39.63%(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%)で長期の約2倍
  • 所有期間の判定は「売却年の1月1日時点で5年超か」で判断(購入から5年経過していても短期になる場合あり)
  • 居住用財産の3000万円特別控除、10年超所有の軽減税率等の特例あり
  • 確定申告は売却翌年2-3月に必須、個別具体的な税務相談は税理士に要相談

長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率

譲渡所得税の税率は、所有期間によって長期と短期に区分されます。

長期譲渡所得(所有期間5年超)の税率

国税庁のNo.3208長期譲渡所得の税額の計算によると、長期譲渡所得の税率は以下の通りです。

税目 税率
所得税 15%
住民税 5%
復興特別所得税 0.315%(所得税額の2.1%)
合計 20.315%

例:譲渡所得が1,000万円の場合、税額は約203万円になります。

短期譲渡所得(所有期間5年以下)の税率

国税庁のNo.3211短期譲渡所得の税額の計算によると、短期譲渡所得の税率は以下の通りです。

税目 税率
所得税 30%
住民税 9%
復興特別所得税 0.63%(所得税額の2.1%)
合計 39.63%

例:譲渡所得が1,000万円の場合、税額は約396万円になります。

長期と短期の税率差は約2倍

長期と短期の税率差を比較すると、約2倍の差があります。

項目 長期(5年超) 短期(5年以下) 差額
税率 20.315% 39.63% 19.315%
譲渡所得1,000万円の税額 203万円 396万円 193万円

所有期間を5年超にすることで、税負担を大幅に削減できる可能性があります。ただし、売却時期を遅らせることで価格下落リスクもあるため、総合的に判断することが重要です。

所有期間の判定方法と注意点

長期・短期の区分は、所有期間の判定方法が重要です。

所有期間は「売却年の1月1日時点」で判断

所有期間の判定は、「売却年の1月1日時点で5年超か」で判断します。購入日から売却日までの実際の経過期間ではありません。

具体例1(長期):

  • 購入日: 2018年12月1日
  • 売却日: 2024年6月1日
  • 判定: 2024年1月1日時点で5年超(2018年12月→2024年1月)→ 長期譲渡所得

具体例2(短期):

  • 購入日: 2019年6月1日
  • 売却日: 2024年12月1日
  • 判定: 2024年1月1日時点で5年以下(2019年6月→2024年1月)→ 短期譲渡所得

具体例2では、購入から5年以上経過していますが、売却年の1月1日時点では5年以下のため短期になります。

判定を誤ると税額が大幅に増加

所有期間の判定を誤ると、想定外の税負担が発生するリスクがあります。

例:譲渡所得1,000万円の場合、長期(203万円)と短期(396万円)の差は193万円です。売却時期を数ヶ月調整することで、税負担を削減できる可能性があります。

居住用財産の3000万円特別控除

マイホーム(居住用財産)を売却した場合、特別控除が適用できる場合があります。

3000万円特別控除とは

国税庁のNo.3302マイホームを売ったときの特例によると、居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。

計算式:

  • 譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 3,000万円

例:譲渡所得が2,500万円の場合、3,000万円控除後は0円になり、譲渡所得税は課税されません。

適用要件と注意点

3000万円特別控除の適用には、以下の要件があります。

主な要件:

  • 自己の居住用財産であること
  • 住まなくなってから3年以内に売却すること
  • 売却相手が配偶者・直系血族等の特別な関係でないこと
  • 前年・前々年にこの特例を受けていないこと

注意点:

  • 特例があれば必ず適用されるわけではなく、要件を満たす必要がある
  • 確定申告時に適用申請が必要
  • 住宅ローン控除との併用不可

個別の適用可否は、税理士に相談することをおすすめします。

10年超所有の軽減税率特例

居住用財産を10年超所有して売却した場合、さらに軽減税率が適用される場合があります。

軽減税率の内容

国土交通省の居住用財産の譲渡に関する特例措置によると、10年超所有の軽減税率特例では、6,000万円以下の部分に軽減税率が適用されます。

譲渡所得 税率
6,000万円以下の部分 14.21%(所得税10%+住民税4%+復興特別所得税0.21%)
6,000万円超の部分 20.315%(長期譲渡所得の通常税率)

3000万円控除との併用: 10年超所有の軽減税率は、3000万円特別控除と併用可能です。

計算例:

  • 譲渡所得: 5,000万円
  • 3,000万円控除後: 2,000万円
  • 軽減税率適用(6,000万円以下): 2,000万円 × 14.21% = 約284万円

通常の長期譲渡所得税率(20.315%)なら約406万円なので、約122万円の節税になります。

適用要件

10年超所有の軽減税率特例の主な要件は以下の通りです。

  • 売却年の1月1日時点で所有期間10年超
  • 居住用財産であること
  • 3000万円特別控除の要件を満たすこと

譲渡所得の計算方法と取得費の扱い

譲渡所得税を計算するには、譲渡所得を正確に算出する必要があります。

譲渡所得の基本計算式

計算式: 譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用

各項目の内容:

  • 譲渡価額: 売却価格
  • 取得費: 購入価格 + 購入時の諸費用(仲介手数料・登記費用等) - 減価償却費(減価償却費とは、建物の経年劣化による価値減少分のことで、取得費から差し引きます)
  • 譲渡費用: 売却時の諸費用(仲介手数料・測量費・印紙税等)

取得費不明時の概算取得費(5%ルール)

相続等で取得費が不明な場合、概算取得費(譲渡価額の5%)を使用できます。

:

  • 譲渡価額: 3,000万円
  • 概算取得費: 3,000万円 × 5% = 150万円
  • 譲渡費用: 100万円
  • 譲渡所得: 3,000万円 - 150万円 - 100万円 = 2,750万円

デメリット: 概算取得費(5%)は実際の取得費より大幅に低くなる場合が多く、譲渡所得が大きくなり税額が高くなるリスクがあります。購入時の契約書・領収書を探す、市区町村で固定資産税評価額の推移を確認する等、実際の取得費を証明する努力が推奨されます。

減価償却費の計算

建物の取得費は、減価償却費を差し引く必要があります。

減価償却費の計算式:

  • 事業用: 取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
  • 非事業用(マイホーム): 取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数 × 1.5

国税庁の減価償却資産の償却率表によると、償却率は構造により異なります(木造0.031、鉄筋コンクリート0.015等)。詳細は国税庁の減価償却資産の償却率表を参照してください。

確定申告の時期と手続き

不動産や株式等の資産を売却した場合、確定申告が必須です。

確定申告の時期

売却した翌年の2月16日~3月15日に確定申告を行います。

:

  • 売却日: 2024年10月1日
  • 確定申告期間: 2025年2月16日~3月15日

必要書類

国税庁によると、確定申告時に必要な書類は以下の通りです。

  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書(売却時・購入時)
  • 仲介手数料等の領収書
  • 登記事項証明書
  • 特例適用時の証明書類(居住用財産の3000万円控除等)

税理士への相談を推奨

譲渡所得税の計算は複雑で、特例の適用判断も難しい場合があります。個別具体的な税務相談・判断は税理士法により税理士の業務とされているため、税理士に相談することをおすすめします。

まとめ:所有期間と特例を理解して税負担を抑えよう

譲渡所得税率は、長期(所有期間5年超)が20.315%、短期(所有期間5年以下)が39.63%と約2倍の差があります。所有期間の判定は「売却年の1月1日時点で5年超か」で判断するため、購入から5年経過していても短期になる場合があります。

居住用財産を売却する場合、3000万円特別控除や10年超所有の軽減税率等の特例を活用することで、税負担を大幅に削減できる可能性があります。ただし、特例には適用要件があり、確定申告時に適用申請が必要です。

譲渡所得の計算、特例の適用判断、確定申告手続きは複雑です。個別具体的な税務相談は税理士に依頼し、正確な税額計算と適切な節税対策を行うことをおすすめします。売却を検討している方は、早めに税理士に相談し、売却時期や手続きを計画することが重要です。

よくある質問

Q1譲渡所得税はいつ支払うのですか?

A1売却した翌年の2月16日~3月15日に確定申告を行い、その際に納税します。例えば2024年10月に売却した場合、2025年2月16日~3月15日に確定申告・納税が必要です。所得税は確定申告時に一括納付、住民税は翌年度(6月以降)に分割納付されます。納税資金を事前に準備しておくことが重要です。

Q2所有期間5年の判定はどう計算しますか?

A2売却年の1月1日時点で5年超かどうかで判断します。購入日から売却日までの実際の経過期間ではありません。例:2019年6月購入→2024年12月売却の場合、2024年1月1日時点では5年以下のため短期譲渡所得になります。売却時期を数ヶ月調整することで、税負担を削減できる可能性があります。

Q33000万円特別控除は誰でも使えますか?

A3要件を満たす必要があります。主な要件は、自己の居住用財産であること、住まなくなってから3年以内に売却すること、売却相手が配偶者・直系血族等でないこと、前年・前々年にこの特例を受けていないこと等です。確定申告時に適用申請が必要で、住宅ローン控除との併用不可です。個別の適用可否は税理士に相談することをおすすめします。

Q4取得費が分からない場合どうすればいいですか?

A4概算取得費(譲渡価額の5%)を使用できます。ただし、実際の取得費より大幅に低くなり税額が高くなるデメリットがあります。購入時の契約書・領収書を探す、市区町村で固定資産税評価額の推移を確認する等、実際の取得費を証明する努力が推奨されます。税理士に相談することで、取得費の証明方法をアドバイスしてもらえる場合があります。

Q5株式の譲渡所得税率は不動産と同じですか?

A5株式の譲渡所得税率は20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)で、不動産の長期譲渡所得と同じ税率です。ただし、株式は所有期間に関わらず一律20.315%で、長期・短期の区分はありません。また、上場株式は源泉徴収ありの特定口座を選択すると確定申告不要になる場合があります。