譲渡所得税の税率とは
不動産や株式等を売却して利益が出た場合、「譲渡所得税」として所得税と住民税が課税されます。税率は売却した資産の種類や所有期間により大きく異なり、正確に理解しておかないと予想外の税負担が発生する可能性があります。
この記事では、譲渡所得税の税率、所有期間による違い、節税特例を国税庁の公式情報を元に解説します。
不動産や株式の売却を検討している方が、税率を正確に把握し、適切な節税対策を行えるようになります。
この記事のポイント
- 不動産の譲渡所得税率は所有期間により大きく異なり、長期(5年超)20.315%、短期(5年以下)39.63%
- 所有期間の判定は「売却年の1月1日時点」で行う(取得日から売却日までの期間ではない)
- 10年超所有の自宅には軽減税率14.21%(6000万円以下部分)が適用される
- 上場株式等の譲渡所得税率は一律20.315%(所有期間不問)
- 3000万円特別控除等の節税特例を活用すれば税額を大幅に抑えられる場合がある
不動産の譲渡所得税率
所有期間による税率の違い
不動産の譲渡所得税率は、所有期間により約2倍異なります。
| 区分 | 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計税率 | 
|---|---|---|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% | 
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% | 
(出典: 国税庁(短期譲渡所得)、国税庁(長期譲渡所得))
復興特別所得税は東日本大震災の復興財源として、2037年12月31日まで所得税額の2.1%が上乗せされます。
所有期間の判定基準
所有期間の計算は「売却した年の1月1日時点」で判定します。取得日から売却日までの期間ではない点に注意が必要です。
判定例1: 短期譲渡所得
- 取得日: 2019年4月1日
- 売却日: 2024年5月1日
- 判定: 2024年1月1日時点で4年9ヶ月 → 短期譲渡所得(39.63%)
判定例2: 長期譲渡所得
- 取得日: 2019年4月1日
- 売却日: 2025年1月以降
- 判定: 2025年1月1日時点で5年9ヶ月 → 長期譲渡所得(20.315%)
売却時期を数ヶ月ずらすだけで税率が約2倍変わるため、所有期間を正確に確認することが重要です。
10年超所有の自宅には軽減税率
軽減税率の適用要件
所有期間が10年を超える自宅(マイホーム)を売却した場合、さらに有利な軽減税率が適用されます。
| 課税譲渡所得 | 税率 | 
|---|---|
| 6000万円以下の部分 | 14.21%(所得税10%+住民税4%+復興特別所得税0.21%) | 
| 6000万円超の部分 | 20.315%(通常の長期譲渡所得の税率) | 
(出典: 国税庁)
重要: この軽減税率は、居住用財産の3000万円特別控除と併用可能です。
併用例
前提条件
- 所有期間: 15年
- 譲渡所得: 5000万円
計算
- 3000万円特別控除を適用 → 課税譲渡所得: 5000万円 - 3000万円 = 2000万円
- 2000万円に14.21%の軽減税率を適用 → 税額: 2000万円 × 14.21% = 約284万円
通常の長期譲渡所得(20.315%)なら約406万円なので、約122万円の節税になります。
上場株式等の譲渡所得税率
一律20.315%(所有期間不問)
上場株式等(株式、投資信託、ETF等)の譲渡所得税率は、所有期間に関係なく一律20.315%です。
| 項目 | 税率 | 
|---|---|
| 所得税 | 15% | 
| 住民税 | 5% | 
| 復興特別所得税 | 0.315% | 
| 合計 | 20.315% | 
(出典: 国税庁)
不動産と異なり、短期保有でも税率は変わりません。
損益通算・繰越控除
上場株式等の譲渡損失は、以下の所得と損益通算できます。
損益通算できるもの
- 他の上場株式等の譲渡所得
- 配当所得(申告分離課税を選択した場合)
損益通算できないもの
- 給与所得、事業所得、不動産所得
損益通算後も損失が残る場合、翌年以降3年間繰り越して翌年の利益と相殺できます。
主要な節税特例
居住用財産の3000万円特別控除
自宅(マイホーム)を売却した場合、譲渡所得から最大3000万円を控除できます。
国税庁によると、主な適用要件は以下の通りです。
適用要件
- 自己が居住していた住宅・土地であること
- 住まなくなってから3年経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却前年・前々年にこの特例を適用していないこと
- 売主と買主が親族等の特別な関係でないこと
- 所有期間は不問(1年未満でも適用可能)
この特例を適用すれば、譲渡所得3000万円以下の場合は税金がゼロになります。
10年超所有軽減税率の特例
前述の通り、所有期間が10年を超える自宅を売却した場合、課税譲渡所得6000万円以下の部分に14.21%の軽減税率が適用されます。3000万円特別控除と併用可能です。
相続空き家の3000万円特別控除
相続により取得した空き家(土地を含む)を売却した場合、一定要件を満たせば譲渡所得から3000万円を控除できます。
主な要件
- 1981年5月31日以前に建築された家屋であること
- 相続開始直前まで被相続人が1人で居住していたこと
- 相続開始から3年経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 適用期限: 2027年12月31日まで
期限があるため、該当する場合は早めの売却検討が推奨されます。
税率別の税額シミュレーション
ケース1: 短期譲渡所得(5年以下)
前提条件
- 売却価格: 3000万円
- 取得費: 2000万円
- 譲渡費用: 100万円
- 所有期間: 4年
- 特別控除: なし
計算
- 譲渡所得 = 3000万円 - 2000万円 - 100万円 = 900万円
- 税額 = 900万円 × 39.63% = 約357万円
ケース2: 長期譲渡所得(5年超)
前提条件(ケース1と同じ、所有期間のみ異なる)
- 所有期間: 6年(長期譲渡所得)
計算
- 譲渡所得 = 900万円
- 税額 = 900万円 × 20.315% = 約183万円
所有期間を1年伸ばすことで、税額が約174万円減少します。
ケース3: 3000万円特別控除を適用
前提条件(ケース2と同じ、3000万円特別控除を適用)
- 譲渡所得: 900万円
- 3000万円特別控除を適用
計算
- 課税譲渡所得 = 900万円 - 3000万円 = マイナス(ゼロ)
- 税額 = ゼロ
3000万円特別控除を適用できれば、このケースでは税金がかかりません。
ケース4: 10年超所有軽減税率+3000万円特別控除
前提条件
- 譲渡所得: 5000万円
- 所有期間: 15年
- 3000万円特別控除+軽減税率を適用
計算
- 3000万円特別控除を適用 → 課税譲渡所得: 5000万円 - 3000万円 = 2000万円
- 2000万円に14.21%の軽減税率を適用 → 税額: 2000万円 × 14.21% = 約284万円
通常の長期譲渡所得(20.315%)なら約1017万円(5000万円×20.315%)なので、約733万円の節税になります。
確定申告の必要性
確定申告が必要なケース
譲渡所得が発生した場合、売却した翌年の2月16日-3月15日に確定申告が必要です。
確定申告が必要な場合
- 不動産・株式等を売却して利益が出た場合
- 特別控除を適用する場合(控除後に税金がゼロになる場合でも申告が必須)
確定申告が不要な場合
- NISA口座で上場株式等を売却した場合(非課税)
- 源泉徴収ありの特定口座で上場株式等を売却し、確定申告を選択しない場合
期限を過ぎた場合のペナルティ
確定申告の期限を過ぎると以下のペナルティが発生します。
| ペナルティ | 内容 | 
|---|---|
| 無申告加算税 | 納税額の15-20% | 
| 延滞税 | 年率7.3-14.6% | 
| 特別控除の不適用 | 期限内申告が要件の特別控除が受けられない | 
(出典: 国税通則法)
まとめ
譲渡所得税の税率は、売却した資産の種類や所有期間により大きく異なります。
不動産
- 短期譲渡所得(5年以下): 39.63%
- 長期譲渡所得(5年超): 20.315%
- 10年超所有の自宅: 14.21%(6000万円以下部分)
上場株式等
- 一律20.315%(所有期間不問)
所有期間の判定は「売却年の1月1日時点」で行うため、売却時期を慎重に検討することで税率を抑えられる場合があります。
3000万円特別控除、10年超所有軽減税率等の節税特例を活用すれば、税額を大幅に抑えることができます。ただし、特例を適用するには売却翌年の確定申告が必須です。
次のアクション
- 所有期間を確認し、長期譲渡所得になるか判定
- 3000万円特別控除等の適用要件を確認
- 税理士に相談して正確な税額を把握
- 確定申告の準備(必要書類の整理、申告書の作成)
税制は年度により変更される可能性があるため、最新情報は国税庁や税理士にご確認ください。正確な税率を理解し、適切な節税対策を行いましょう。
