不動産売買とは?基本的な仕組みと売却・購入の全体像
不動産の売買を検討する際、「どのような流れで進めればよいのか」「費用はいくらかかるのか」と不安を感じる方は少なくありません。
この記事では、不動産売買の全体像、売却・購入の流れ、費用と税金、契約時の注意点を、不動産適正取引推進機構や国土交通省の公式情報を元に解説します。
初めて不動産取引を行う方でも、必要な知識を体系的に理解し、失敗を避けることができます。
この記事のポイント
- 不動産売買には仲介と買取の2種類があり、媒介契約は専属専任・専任・一般の3形態
- 売却は査定→媒介契約→売却活動→契約→決済→確定申告の7ステップで通常3-6ヶ月
- 購入は物件探し→内覧→契約→ローン審査→決済の流れで、諸費用は物件価格の5-10%
- 売却時の諸費用は売却価格の4-6%(仲介手数料が最大の費用項目)
- 売買契約書では売買価格・解約条項・引き渡し日・契約不適合責任を必ず確認
(1) 不動産売買の定義と市場規模(2024年は前年比63%増の5兆4,875億円)
不動産売買とは、土地や建物を売買契約に基づいて売主から買主へ所有権を移転する取引のことです。日本では、宅地建物取引業法により、不動産会社が仲介する場合は書面による契約が義務付けられています。
2024年の日本の不動産投資額は前年比63%増の5兆4,875億円に達し、9年ぶりに5兆円を超えました。特にホテルセクターが市場を牽引し、2024年通年で1兆円超の投資額を記録しました(JLL調査)。
市場全体では都市部と地方の二極化が進行しており、立地や物件種別によって価格動向が大きく異なります。
(2) 売却方法の種類:仲介と買取の違い
不動産を売却する方法には、主に「仲介」と「買取」の2種類があります。
| 項目 | 仲介 | 買取 |
|---|---|---|
| 売却価格 | 市場価格 | 市場価格の7-8割 |
| 売却期間 | 3-6ヶ月 | 数日~1ヶ月 |
| 仲介手数料 | あり(上限:売買価格×3%+6万円+消費税) | なし |
| 向いている人 | できるだけ高く売りたい | 早く現金化したい |
仲介は不動産会社が売主と買主の間に入り、売買契約の成立を支援する方法です。市場価格で売却できる可能性が高い反面、買主が見つかるまで時間がかかります。
買取は不動産会社が直接物件を買い取る方法です。売却価格は市場価格の7-8割程度になりますが、短期間で確実に現金化できるため、急いで売却したい場合に適しています。
(3) 媒介契約の3種類(専属専任媒介、専任媒介、一般媒介)
仲介を依頼する際は、不動産会社と「媒介契約」を締結します。媒介契約には以下の3種類があります。
| 契約形態 | 複数社への依頼 | 自己発見取引 | レインズ登録義務 | 活動報告義務 |
|---|---|---|---|---|
| 専属専任媒介 | 不可 | 不可 | あり(5日以内) | 1週間に1回以上 |
| 専任媒介 | 不可 | 可能 | あり(7日以内) | 2週間に1回以上 |
| 一般媒介 | 可能 | 可能 | なし | なし |
専属専任媒介契約は、1社のみに依頼し、依頼者が自分で買主を見つけることもできない契約です。不動産会社は積極的に販売活動を行う義務があり、レインズ(不動産流通標準情報システム)への登録義務と週1回以上の活動報告義務があります。
専任媒介契約は、1社のみに依頼しますが、依頼者が自分で買主を見つけることができる契約です。レインズ登録義務と2週間に1回以上の活動報告義務があります。
一般媒介契約は、複数の不動産会社に同時に依頼できる契約です。レインズ登録義務や活動報告義務はありませんが、複数社に依頼することで幅広く買主を探せます。
不動産売却の流れ:7ステップと各段階の注意点
不動産売却は通常3-6ヶ月かかり、以下の7ステップで進みます。
(1) ステップ1:査定(複数社に依頼して相場を把握)
売却を決めたら、まず不動産会社に査定を依頼します。査定方法には「机上査定」と「訪問査定」の2種類があります。
- 机上査定:物件情報や周辺の取引事例をもとに概算価格を算出(1-3日で結果が出る)
- 訪問査定:担当者が実際に物件を訪問し、建物の状態や周辺環境を踏まえて詳細な査定を実施(1-2週間で結果が出る)
査定は複数社(3社以上)に依頼し、査定価格だけでなく、査定根拠や販売戦略も比較することが重要です。査定価格が高い会社が必ずしも良いとは限らず、実際に売却できる価格(成約価格)を見極める必要があります。
国土交通省の不動産取引価格情報検索で、周辺の実際の取引価格を確認しておくと、適正な査定価格かどうかを判断しやすくなります。
(2) ステップ2:媒介契約の締結(契約形態の選択)
査定結果と販売戦略を比較し、依頼する不動産会社を選んだら、媒介契約を締結します。契約形態(専属専任媒介・専任媒介・一般媒介)は、売却スケジュールや物件の条件に応じて選択してください。
専属専任媒介・専任媒介は1社に絞るため、不動産会社の責任が明確になり、積極的な販売活動が期待できます。一般媒介は複数社に依頼できますが、各社の責任が曖昧になり、販売活動が消極的になる可能性もあります。
媒介契約の有効期間は最長3ヶ月で、契約書には売却価格、売却活動の内容、仲介手数料などが記載されます。
(3) ステップ3:売却活動(広告・内覧対応)
媒介契約締結後、不動産会社が以下の売却活動を行います。
- 不動産ポータルサイト(SUUMO、HOME'S等)への掲載
- レインズへの登録(専属専任媒介・専任媒介の場合)
- チラシ配布、新聞広告
- 内覧対応
内覧は購入希望者が物件を実際に見学する重要な機会です。部屋を清潔に保ち、明るい雰囲気を作ることで、好印象を与えられます。
売却活動中は、不動産会社から定期的に活動報告を受け、反響状況や市場動向を確認してください。
(4) ステップ4:購入申込と条件交渉
購入希望者が見つかると、「購入申込書」が提出されます。購入申込書には、購入希望価格、手付金の額、引き渡し希望日などが記載されています。
購入希望価格が売却希望価格と異なる場合、条件交渉を行います。価格だけでなく、引き渡し時期や付帯設備の有無なども交渉対象となります。
購入申込は法的拘束力がないため、この段階では契約は成立していません。条件が合意に至ったら、次のステップ(売買契約)に進みます。
(5) ステップ5:売買契約の締結(重要事項説明・手付金)
売買契約を締結する際は、宅地建物取引士から「重要事項説明」を受けます。重要事項説明では、物件の現状、法令制限、インフラ状況、契約解除の条件などが説明されます。
重要事項説明後、売買契約書に署名・押印し、買主から売主へ手付金(売買価格の5-10%が目安)が支払われます。手付金は売買代金の一部に充当されます。
売買契約書には、売買価格、手付金の額、引き渡し日、契約不適合責任の範囲などが記載されます。契約内容を十分に確認し、不明点は必ず質問してください。
(6) ステップ6:決済・引き渡し(残代金支払い・所有権移転)
決済日には、買主から売主へ残代金(売買価格-手付金)が支払われ、同時に物件の引き渡しが行われます。決済は金融機関で行われることが一般的です。
決済時には、以下の手続きが行われます。
- 残代金の支払い
- 所有権移転登記(司法書士が手続き)
- 固定資産税・都市計画税の清算
- 鍵の引き渡し
決済・引き渡しが完了すると、物件の所有権が買主に移転し、売却が完了します。
(7) ステップ7:確定申告(譲渡所得税の申告)
不動産を売却した場合、売却益(譲渡所得)が出たときは翌年の確定申告が必須です。譲渡所得税の税率は所有期間により異なります。
| 所有期間 | 税率(所得税+住民税) |
|---|---|
| 5年以下(短期譲渡所得) | 39.63% |
| 5年超(長期譲渡所得) | 20.315% |
譲渡所得は「売却価格-(取得費+譲渡費用)」で計算されます。取得費には購入価格、購入時の諸費用、リフォーム費用などが含まれます。譲渡費用には仲介手数料、登記費用、印紙税などが含まれます。
マイホーム売却の場合、「3,000万円特別控除」「軽減税率の特例」などの特例が適用できる可能性があります。詳細は税理士への相談を推奨します。
不動産購入の流れ:物件探しから引き渡しまでの手順
不動産購入の流れは、以下の5ステップで進みます。
(1) 物件探しと資金計画(住宅ローン事前審査)
物件探しを始める前に、購入予算を明確にし、住宅ローンの事前審査を受けることを推奨します。事前審査により借入可能額を把握でき、無理のない資金計画を立てられます。
物件探しは、不動産ポータルサイト、不動産会社への相談、現地見学などを通じて行います。立地、間取り、築年数、周辺環境などを総合的に検討してください。
(2) 内覧と物件の確認(共用部分・専有部分のチェック)
気になる物件が見つかったら、内覧を申し込みます。内覧時には、以下のポイントを確認してください。
- 日当たり、風通し、騒音
- 設備の状態(水回り、エアコン、給湯器等)
- 共用部分の管理状況(マンションの場合)
- 周辺環境(駅までの距離、スーパー、学校等)
複数回内覧し、曜日や時間帯を変えて訪問することで、より正確に物件を評価できます。
(3) 購入申込と売買契約(手付金の準備)
購入を決めたら、購入申込書を提出します。売主との条件交渉が成立したら、重要事項説明を受け、売買契約を締結します。
売買契約時には、手付金(売買価格の5-10%が目安)を売主に支払います。手付金は売買代金の一部に充当されます。
(4) 住宅ローン本審査と金銭消費貸借契約
売買契約後、住宅ローンの本審査を申し込みます。本審査では、物件の担保価値、申込者の返済能力などが詳細に審査されます。
本審査が承認されたら、金融機関と「金銭消費貸借契約」を締結します。この契約により、正式に融資が実行されます。
(5) 決済・引き渡し(残代金支払い・鍵の受取)
決済日には、住宅ローンが実行され、売主へ残代金が支払われます。同時に所有権移転登記が行われ、物件の鍵が引き渡されます。
決済・引き渡しが完了すると、正式に物件の所有者となり、入居が可能になります。
不動産売買にかかる費用と税金の詳細
不動産売買には、売買価格以外にさまざまな諸費用がかかります。
(1) 売却時の諸費用(売却価格の4-6%:仲介手数料、登記費用、印紙税)
売却時にかかる主な諸費用は以下の通りです。
| 項目 | 内容 | 目安額(3,000万円の物件) |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 売買価格×3%+6万円+消費税 | 105.6万円 |
| 抵当権抹消登記費用 | 司法書士への報酬 | 1-3万円 |
| 印紙税 | 売買契約書に貼付 | 1万円 |
| 譲渡所得税 | 売却益にかかる税金 | 売却益による |
| 合計 | 約108-110万円+譲渡所得税 |
仲介手数料は売買契約成立時に支払う成功報酬で、売却価格×3%+6万円+消費税が上限です。
抵当権抹消登記費用は、住宅ローンが残っている場合に必要となる費用で、司法書士への報酬として1-3万円が目安です。
(2) 購入時の諸費用(物件価格の5-10%:仲介手数料、登記費用、不動産取得税)
購入時にかかる主な諸費用は以下の通りです。
| 項目 | 内容 | 目安額(3,000万円の物件) |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 売買価格×3%+6万円+消費税 | 105.6万円 |
| 登記費用 | 所有権移転登記・抵当権設定登記 | 10-30万円 |
| 印紙税 | 売買契約書・金銭消費貸借契約書 | 2-4万円 |
| 不動産取得税 | 固定資産税評価額×3% | 30-50万円(軽減措置適用可) |
| 火災保険料 | 10年一括払い | 20-30万円 |
| 住宅ローン事務手数料 | 金融機関への手数料 | 3-6万円 |
| 合計 | 約171-226万円 |
購入時の諸費用は物件価格の5-10%が目安です。3,000万円の物件なら150-300万円程度を自己資金で用意する必要があります。
(3) 税金の詳細(譲渡所得税、不動産取得税、固定資産税)
不動産売買にかかる主な税金は以下の通りです。
譲渡所得税は、不動産売却時の利益にかかる税金です。所有期間が5年以下なら39.63%、5年超なら20.315%の税率が適用されます。マイホーム売却の場合、3,000万円特別控除が適用できる可能性があります。
不動産取得税は、不動産を購入した際に都道府県が課税する税金です。固定資産税評価額×3%が原則ですが、住宅用地の場合は軽減措置が適用されます。
固定資産税・都市計画税は、不動産を所有している間、毎年課税される税金です。決済時に売主と買主で日割り清算を行います。
税金の詳細については、国税庁の公式サイトを確認するか、税理士への相談を推奨します。
売買契約の重要ポイントとトラブル回避策
売買契約は不動産取引で最も重要な手続きです。契約内容を十分に確認し、トラブルを未然に防ぎましょう。
(1) 売買契約書のチェックポイント(売買価格、解約条項、引き渡し日、契約不適合責任)
売買契約書では、以下の項目を必ず確認してください。
- 売買価格:物件価格、手付金の額、残代金の支払い時期
- 引き渡し日:所有権移転の日時、鍵の引き渡し時期
- 解約条項:手付解除の期限、ローン特約の有無、違約金の額
- 契約不適合責任:売主が負う責任の範囲と期間
- 付帯設備:エアコン、照明、家具等の有無
- 特約事項:その他の条件
契約書の内容に不明点があれば、署名・押印前に必ず質問してください。契約後の変更は困難なため、事前の確認が重要です。
(2) 重要事項説明の確認(物件の現状、法令制限、インフラ状況)
重要事項説明は、宅地建物取引士が物件の重要な事項を説明する手続きです。以下の項目を確認してください。
- 物件の現状:築年数、構造、面積、設備の状態
- 法令制限:都市計画法、建築基準法等の制限
- インフラ状況:水道、ガス、電気、下水道の整備状況
- 管理状況:マンションの管理費・修繕積立金(マンションの場合)
- ハザードマップ:水害・土砂災害リスク
重要事項説明は契約当日に行われることが多いですが、可能であれば事前に説明書を受け取り、内容を確認しておくと安心です。
(3) よくあるトラブルと対策(手付金の扱い、ローン特約、瑕疵の開示)
不動産売買でよくあるトラブルと対策を以下に示します。
手付金の扱い:手付解除期限内であれば、買主は手付金を放棄、売主は手付金の倍額を返還することで契約を解除できます。期限を過ぎると違約金が発生するため、期限を必ず確認してください。
ローン特約:住宅ローン審査が不承認になった場合、契約を無条件で解除できる特約です。ローン特約がない場合、審査が不承認でも違約金が発生するため、必ず契約書に記載されているか確認してください。
瑕疵の開示:売主は物件の瑕疵(欠陥)を買主に開示する義務があります。瑕疵を隠して売却すると、契約不適合責任を問われ、損害賠償や契約解除を請求される可能性があります。
トラブルを避けるためには、契約内容を十分に理解し、不明点は宅地建物取引士や司法書士に相談することが重要です。
まとめ:不動産売買で失敗しないための実践ガイド
不動産売買は人生で最も大きな取引の一つです。売却は査定→媒介契約→売却活動→契約→決済→確定申告の7ステップで通常3-6ヶ月、購入は物件探し→内覧→契約→ローン審査→決済の流れで進みます。
売却時の諸費用は売却価格の4-6%、購入時の諸費用は物件価格の5-10%が目安です。売買契約書では、売買価格、解約条項、引き渡し日、契約不適合責任を必ず確認してください。
税金や契約内容については、専門家(宅地建物取引士、税理士、司法書士)への相談を推奨します。不動産適正取引推進機構や国土交通省の公式サイトで最新情報を確認しながら、信頼できる不動産会社を選び、無理のない資金計画を立てましょう。
