不動産投資における利回りの重要性
不動産投資を検討する際、「この物件は本当に収益性が高いのか」と迷われる方は少なくありません。
この記事では、不動産投資における利回りの基本概念、表面利回りと実質利回りの違い、計算方法、エリア別の相場を日本不動産研究所の調査データ等を元に解説します。
投資判断で失敗しないために、表面利回りだけで判断する危険性を理解し、実質利回りを基準にした現実的な収益予測ができるようになります。
この記事のポイント
- 利回りは物件価格に対する1年間の運用収益の割合を示す重要指標
- 表面利回りは経費を考慮せず、実質利回りは諸経費を差し引いた正確な収益率
- 副業・安定資産形成は3~5%、本業は5~8%程度が目安
- 東京都心部は3.8~4.8%、地方都市は5.5%以上が相場(2024年)
- 高利回り物件ほど空室・築年数・立地リスクが高い傾向があり要注意
利回りの基本知識(表面利回りと実質利回り)
不動産投資の利回りには複数の種類があり、それぞれ計算方法と意味が異なります。
表面利回り(グロス利回り)とは
表面利回りは、諸経費や税金を考慮せずに計算された利回りです。年間家賃収入÷物件価格×100で算出されます。
物件情報サイトに掲載されている利回りは、ほとんどがこの表面利回りです。簡単に計算できる反面、実際の収益性とは乖離があります。
実質利回り(ネット利回り)とは
実質利回りは、購入時諸経費や年間の維持費(固定資産税、管理費、修繕積立金、保険料等)を考慮した利回りです。(年間家賃収入-年間諸経費)÷(物件購入価格+購入時諸経費)×100で算出されます。
実質利回りの方が、正確な収益予測に役立ちます。同じ物件でも表面利回り10%が実質利回り6.4%程度に下がることがあります。
想定利回りと現行利回りの違い
| 種類 | 説明 | 注意点 |
|---|---|---|
| 想定利回り | 満室経営を想定したときの利回り | 実際の入居率とは異なる可能性がある |
| 現行利回り | 現行の入居状況における実際の利回り | 空室がある場合は想定利回りより低い |
物件情報に掲載されている利回りは「満室想定」の表面利回りであることが多く、実際の収益性は現行利回り・実質利回りで判断する必要があります。
その他の利回り指標(NOI利回り、キャップレート)
- NOI利回り(Net Operating Income利回り):実質利回りの別称。純営業収益(家賃収入-経費)をベースに算出
- キャップレート(還元利回り):不動産鑑定で使用される利回り指標。純収益を物件価格で割った値
- 期待利回り:投資家が期待する利回り水準。日本不動産研究所の2024年4月の調査では東京城南地域で3.8%
これらの指標は、より専門的な投資判断で使用されます。
利回りの計算方法と具体例
実際の計算方法を、具体例とともに見ていきましょう。
表面利回りの計算式と計算例
計算式:
表面利回り(%)= 年間家賃収入 ÷ 物件購入価格 × 100
計算例:
- 物件価格:3,000万円
- 年間家賃収入:300万円(月25万円×12ヶ月)
表面利回り = 300万円 ÷ 3,000万円 × 100 = 10%
表面利回り10%は一見魅力的ですが、諸経費を考慮していない点に注意が必要です。
実質利回りの計算式と計算例
計算式:
実質利回り(%)= (年間家賃収入 − 年間諸経費)÷(物件購入価格 + 購入時諸経費)× 100
計算例:
- 物件価格:3,000万円
- 購入時諸経費:200万円(仲介手数料、登記費用、不動産取得税等)
- 年間家賃収入:300万円
- 年間諸経費:90万円(固定資産税、管理費、修繕積立金、保険料等)
実質利回り = (300万円 − 90万円)÷(3,000万円 + 200万円)× 100
= 210万円 ÷ 3,200万円 × 100
= 6.56%
表面利回り10%に対して、実質利回りは約6.6%と大きく下がります。
年間諸経費に含まれる項目
実質利回りの計算では、以下の年間諸経費を考慮します。
| 項目 | 内容 | 目安額 |
|---|---|---|
| 固定資産税 | 毎年支払う税金 | 年10-20万円 |
| 管理費 | マンションの共用部管理費 | 月1-2万円 |
| 修繕積立金 | 大規模修繕に備えた積立金 | 月1-2万円 |
| 火災保険 | 建物・家財の保険 | 年2-5万円 |
| 賃貸管理手数料 | 賃貸管理会社への手数料 | 家賃の5%程度 |
これらを考慮しないと、大幅な収益誤算となります。
購入時諸経費に含まれる項目
| 項目 | 内容 | 目安額 |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 物件価格の3%+6万円+消費税 | 100-150万円 |
| 登記費用 | 所有権移転登記等 | 30-50万円 |
| 不動産取得税 | 固定資産税評価額の3% | 30-50万円 |
| ローン諸費用 | 事務手数料、保証料等 | 50-100万円 |
購入時諸経費は物件価格の6-10%程度が目安です。
エリア別・物件種別の利回り相場(2024年版)
利回りの相場は、エリアや物件種別によって大きく異なります。
エリア別の相場
日本不動産研究所の2024年4月の調査によると、エリア別の期待利回りは以下の通りです。
| エリア | 期待利回り(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| 東京都心部 | 3.8-4.8% | 最も低い、安定需要 |
| 首都圏(東京以外) | 4.5-5.5% | 東京より高め |
| 地方都市 | 5.5%以上 | 高利回りだがリスクも高い |
首都圏が最も低く、地方ほど高い傾向にあります。これは、都心ほど物件価格が高い一方、地方は空室リスクが高いためです。
物件種別の相場
物件種別ごとの平均相場は以下の通りです。
| 物件種別 | 平均利回り | 特徴 |
|---|---|---|
| 区分マンション | 3-5% | 初期投資少、流動性高 |
| 一棟マンション | 8% | 高額投資、管理複雑 |
| 一棟アパート | 8.5% | 比較的高利回り |
区分マンションは利回りが低めですが、初期投資額が少なく流動性が高いため、初心者向けと言われています。
投資目的別の理想的な利回り
投資目的によって、目指すべき利回りは異なります。
| 投資目的 | 目安利回り | 考え方 |
|---|---|---|
| 副業・安定資産形成 | 3-5% | リスクを抑えて安定収益 |
| 不動産投資を本業 | 5-8% | より高い収益を目指す |
副業や安定資産形成の場合は3~5%程度、不動産投資を本業とする場合は5~8%程度を目指すとよいでしょう。
最新トレンド(2024年の期待利回り動向)
CBRE Japanの2024年6月のアンケートでは、東京のプライムアセット(ホテル運営委託型・賃貸マンション)の期待利回りが5~7bps低下しました。
一方、日本不動産研究所の2024年4月の調査では、東京城南地域のワンルーム・ファミリータイプの期待利回りは3.8%で横ばいとなっています。
市場環境の変化により、期待利回りは変動するため、最新のデータを確認することが重要です。
高利回り物件のリスクと注意点
「利回りが高ければ良い」というわけではありません。高利回り物件には、それなりのリスクが潜んでいます。
高利回り物件に潜むリスク
利回りが高い物件ほど、以下のリスクが高い傾向にあります。
- 空室リスク:駅から遠い、需要が少ないエリア
- 築年数リスク:築古物件は修繕費が高額になる可能性
- 立地条件リスク:人口減少エリア、災害リスクが高いエリア
- 物件品質リスク:建物の劣化、設備の老朽化
高利回りの背景には、何らかのリスクが隠れていることが多いのです。
満室想定の表面利回りの落とし穴
物件情報に掲載されている利回りは「満室想定」の表面利回りです。実際には以下のような状況があります。
- 空室が発生すると、実際の収益は大幅に減少
- 諸経費(固定資産税、管理費、修繕積立金等)を考慮していない
- 入居者募集コスト(広告費、仲介手数料)も実際には発生
表面利回り10%の物件が、空室率20%、諸経費30%となると、実質利回りは5.6%程度に下がります。
利回り以外の確認ポイント
物件選定では、利回りだけでなく以下の点も総合的に確認しましょう。
| 確認ポイント | 内容 |
|---|---|
| 立地 | 駅徒歩圏内、生活利便性、将来性 |
| 築年数 | 新耐震基準(1981年以降)か、修繕履歴 |
| 管理状況 | 共用部の清掃状態、修繕計画の有無 |
| 入居状況 | 現行の入居率、過去の空室期間 |
| 周辺相場 | 周辺物件の家賃相場、売買相場 |
これらを総合的に判断することで、リスクを抑えた投資が可能になります。
初心者が避けるべき物件の特徴
以下のような物件は、初心者には難易度が高いため避けた方が無難です。
- 駅から徒歩15分以上の物件(空室リスクが高い)
- 築30年以上の物件(修繕費が高額になる可能性)
- 地方の過疎地域の物件(人口減少により需要減)
- 利回りが相場より極端に高い物件(何らかのリスクが潜む)
初心者は、都心部や主要都市の駅近物件から始めることをおすすめします。
まとめ:現実的な収益予測と投資判断
不動産投資の利回りは、物件価格に対する1年間の運用収益の割合を示す重要指標です。表面利回りは簡易計算ですが、実質利回りの方が正確な収益予測に役立ちます。
表面利回り10%の物件でも、諸経費を考慮すると実質利回りは6.4%程度に下がることがあります。物件選定では、利回りだけでなく、立地・築年数・空室リスク・管理状況も総合的に考慮することが重要です。
投資判断で迷った際は、税理士や不動産投資アドバイザーなどの専門家に相談しながら、現実的な収益予測を立てることをおすすめします。
