住宅ローンの収入合算とは
夫婦共働きで住宅購入を検討する際、「一人の収入では希望額が借りられない」という悩みを抱える方は少なくありません。
この記事では、住宅ローンの収入合算の仕組み、ペアローンとの違い、メリット・デメリット、税制優遇(住宅ローン控除)と団信の扱いを、住宅金融支援機構や国税庁の公式情報を元に解説します。
収入合算とペアローンの違いを正確に理解し、ご自身に合った選択肢を見つけられるようになります。
この記事のポイント
- 収入合算は夫婦や親子で収入を合算し、単独では借りられない金額のローンを組める方法
- 収入合算には「連帯保証型」と「連帯債務型」があり、団信加入・住宅ローン控除の適用が異なる
- ペアローンは契約2本で諸費用が2倍、収入合算は契約1本で諸費用を抑えられる
- 連帯債務型なら両者とも住宅ローン控除を受けられるが、連帯保証型は主債務者のみ
- 借入額が増えると返済負担も増加し、離婚や収入減少時のリスクを事前に検討する必要がある
1. 住宅ローンの収入合算とは
(1) 収入合算の基本的な仕組み
収入合算とは、夫婦や親子などで収入を合算し、一人では借りられない金額の住宅ローンを組む方法です。主債務者が借入を行い、もう一方が連帯保証人または連帯債務者となります。
契約は1本で、返済口座も1つにまとめられます。これにより、単独申込では届かなかった希望額まで借入可能額を引き上げることができます。
(2) 誰と収入合算できるのか
フラット35では、以下の方と収入合算が可能です。
- 申込本人の配偶者
- 申込本人の親・子・孫(申込本人または配偶者の直系親族)
- 申込本人の配偶者の親・子・孫(配偶者の直系親族)
民間金融機関では一般的に正社員のみが対象ですが、フラット35では年収要件がなく、契約社員・派遣社員・パートも収入合算可能です。
(3) 借入可能額はどれだけ増えるか
収入合算により、年収基準が引き上げられ、借入可能額が増加します。
借入可能額の目安(返済負担率30%の場合)
| 年収 | 借入可能額(単独) | 収入合算後の年収 | 借入可能額(合算後) |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 約2,800万円 | 700万円(+300万円) | 約4,900万円 |
| 500万円 | 約3,500万円 | 800万円(+300万円) | 約5,600万円 |
※金利1.5%、返済期間35年、返済負担率30%で試算 ※民間金融機関では合算額が年収の半分までに制限される場合があります
2. 収入合算とペアローンの違い
(1) 契約本数の違い(収入合算1本、ペアローン2本)
収入合算は契約1本で、主債務者がローンを借り、もう一方が連帯保証人または連帯債務者となります。
一方、ペアローンは一つの物件に対し、夫婦または親子が各自の収入を基準にそれぞれ住宅ローンを組む方法で、契約は2本になります。
(2) 諸費用の違い(収入合算は諸費用1本分、ペアローンは2本分)
ペアローンは契約が2本になるため、諸費用(印紙税、事務手数料、登記費用等)が2倍かかります。
収入合算は契約1本のため、諸費用を抑えられる点がメリットです。
諸費用の比較例(借入額3,000万円の場合)
| 項目 | 収入合算 | ペアローン |
|---|---|---|
| 印紙税 | 2万円 | 4万円(2本分) |
| 事務手数料 | 約66万円 | 約132万円(2本分) |
| 登記費用 | 約20万円 | 約40万円(2本分) |
| 合計 | 約88万円 | 約176万円 |
※事務手数料は借入額の2.2%で試算 (参考: 三菱UFJ銀行、りそなグループ)
(3) 主債務者と連帯保証人・連帯債務者の関係
収入合算では、主債務者と連帯保証人(または連帯債務者)の関係になります。
連帯保証人は、主債務者が返済できない場合に保証人が責任を負う仕組みです。連帯債務者は、主債務者と同等の返済義務を負います。
3. 連帯保証型と連帯債務型の違い
収入合算には「連帯保証型」と「連帯債務型」の2種類があり、団信加入や住宅ローン控除の適用が大きく異なります。
(1) 連帯保証型の仕組みと特徴
連帯保証型は、主債務者が借入を行い、もう一方が連帯保証人となる方式です。
連帯保証人は債務者ではなく、主債務者が返済できない場合に責任を負う立場です。
(2) 連帯債務型の仕組みと特徴
連帯債務型は、主債務者と連帯債務者の両方が債務者となる方式です。
両者とも同等の返済義務を負い、金融機関は主債務者・連帯債務者のどちらにも全額の返済を請求できます。
(3) 団信加入の可否
連帯保証型:
- 主債務者のみ団信加入可能
- 連帯保証人は団信に加入できない
- 主債務者が死亡・高度障害時にローン残高がゼロになるが、連帯保証人が死亡してもローンは残る
連帯債務型:
- 主債務者のみ団信加入(一般的)
- 一部金融機関では「夫婦連生団信」で両者カバー可能
- 連帯債務者も団信に加入できる場合がある(条件・追加保険料あり)
(4) 住宅ローン控除の適用可否
連帯保証型:
- 主債務者のみ住宅ローン控除を受けられる
- 連帯保証人は控除対象外
連帯債務型:
- 主債務者・連帯債務者の両者とも住宅ローン控除を受けられる
- 控除額は持分割合に応じて計算される
4. 収入合算のメリット・デメリット
(1) メリット①:借入可能額の増加
収入合算により、年収基準が引き上げられ、単独では借りられなかった金額まで借入可能になります。
希望額が単独では届かない場合、収入合算は有効な選択肢です。
(2) メリット②:諸費用の削減(ペアローンと比較)
収入合算は契約1本のため、ペアローン(契約2本)と比較して諸費用を半分程度に抑えられます。
初期費用を抑えたい場合に有利です。
(3) デメリット①:返済負担の増加リスク
借入額が増えると、月々の返済額も増加します。
将来の収入減少(産休・育休・退職等)や支出増加(子供の教育費等)に備え、無理のない返済計画を立てることが重要です。
(4) デメリット②:離婚時のリスク
離婚しても連帯保証・連帯債務の関係は法的に解消されず、返済義務は継続します。
どちらか一方が物件を出て行っても、両者とも返済義務を負い続けるため、離婚時の取り決めが重要です。
(参考: SBI新生銀行)
(5) デメリット③:収入減少時のリスク
産休・育休・退職などで合算者の収入が減少しても、返済額は変わりません。
どちらか一方が収入減少した場合でも返済計画が維持できるよう、事前にシミュレーションし、余裕を持った借入額にすることが必要です。
5. 税制優遇(住宅ローン控除)と団信の扱い
(1) 連帯保証型の場合(主債務者のみ控除可能)
連帯保証型では、主債務者のみが住宅ローン控除を受けられます。
連帯保証人は債務者ではないため、住宅ローン控除の対象外です。
(2) 連帯債務型の場合(両者とも控除可能)
連帯債務型では、主債務者・連帯債務者の両者とも住宅ローン控除を受けられます。
控除額は持分割合に応じて計算されます。
控除額の計算例(借入額4,000万円、持分割合5:5の場合)
| 項目 | 主債務者 | 連帯債務者 |
|---|---|---|
| 借入残高 | 4,000万円 | 4,000万円 |
| 持分割合 | 50% | 50% |
| 控除対象額 | 2,000万円 | 2,000万円 |
| 年間控除額 | 14万円 | 14万円 |
| 合計 | 28万円 |
※控除率0.7%、新築住宅(2025年入居)の場合 (参考: SBI新生銀行、国税庁)
(3) 団信加入の違い(連帯保証型vs連帯債務型)
連帯保証型:
- 主債務者のみ団信加入
- 主債務者死亡時:ローン残高がゼロになる
- 連帯保証人死亡時:ローンは残る(返済継続)
連帯債務型:
- 主債務者のみ団信加入(一般的)
- 主債務者死亡時:ローン残高がゼロになる
- 連帯債務者死亡時:ローンは残る(返済継続)
(4) 夫婦連生団信の活用
一部金融機関では「夫婦連生団信」を提供しています。
どちらか一方が死亡・高度障害時にローン残高がゼロになる保険で、両者をカバーできます。追加保険料が必要な場合がありますが、リスク分散に有効です。
(参考: SUUMO)
6. まとめ:収入合算が向いている人・向かない人
住宅ローンの収入合算は、単独では希望額が借りられない場合に有効な選択肢です。収入合算には連帯保証型と連帯債務型があり、団信加入・住宅ローン控除の適用が異なる点を正確に理解することが重要です。
収入合算が向いている人:
- 単独では希望額に届かないが、収入合算で借入可能額を増やしたい
- 諸費用を抑えたい(ペアローンと比較)
- 連帯債務型を選び、両者とも住宅ローン控除を受けたい
収入合算が向かない人:
- 将来の収入減少(産休・育休・退職等)が見込まれ、返済計画が不安定
- 両者とも団信に加入したい(ペアローンや夫婦連生団信を検討)
- 離婚リスクを懸念している
税制・金利は改正・変動の可能性があり、また金融機関により収入合算の要件が異なるため、複数の金融機関を比較し、ファイナンシャルプランナーや税理士など専門家への相談を推奨します。
