大家業と不動産投資の始め方:賃貸経営の基礎知識とリスク管理

著者: Room Match編集部公開日: 2025/11/21

大家業と不動産投資の基礎知識

不動産投資による賃貸経営(大家業)は、家賃収入を得られる資産形成の方法として注目されています。しかし、「不労所得で楽に稼げる」というイメージとは異なり、入居者対応・修繕・確定申告など、様々な業務と責任が伴います。

この記事では、大家業の基礎知識、必要な資金、収益構造、主要リスクと対策、成功のポイントを、国税庁データや業界調査を元に解説します。初めて不動産投資を検討する方でも、現実的な判断ができるようになります。

この記事のポイント

  • 大家になるには物件価格の10~20%の自己資金が必要(単身向けマンションで500万~2,000万円以上が目安)
  • 大家の平均所得は約521万円/年だが、手元に残る実額は家賃収入総額の約15%程度
  • 主要リスクは空室、家賃滞納、修繕費増加、過剰借入で、保証会社利用・予防的修繕・管理会社委託で軽減可能
  • 管理会社への委託は家賃収入の5%程度で、初心者や本業を持つ人に強く推奨
  • 表面利回りだけでなく実質利回りと空室率を考慮し、長期的で現実的な資金計画が成功の鍵

(1) 大家とは(賃貸で家賃収入を得る個人・法人)

大家とは、不動産を所有し、賃貸することで家賃収入を得る個人または法人のことです。建物1棟から区分マンション1戸まで、規模は様々です。

賃貸経営により、毎月安定した家賃収入を得られる一方、入居者募集、家賃集金、修繕対応、確定申告など、様々な業務が発生します。

(2) 収益物件の種類(アパート・マンション・一戸建て・店舗等)

収益物件とは、賃貸することで家賃収入を得られる不動産のことです。主な種類は以下の通りです。

種類 特徴 初期費用の目安
区分マンション(1戸) 少額で始められる、管理が容易 500万~2,000万円以上
アパート1棟 収益性が高い、複数戸で空室リスク分散 1億円以上
一戸建て ファミリー向け、長期入居が期待 1,000万~5,000万円
店舗・事務所 高利回りだが空室リスクも高い 物件により大きく異なる

(3) 大家と不動産投資家の違い(自主管理 vs 完全委託)

大家と不動産投資家の主な違いは、物件の管理スタイルです。

  • 大家: 自ら清掃・修繕などの管理業務を行う傾向があり、物件に対する関与度が高い
  • 不動産投資家: 本業を持ちながら管理を完全委託するスタイルが多く、効率的な資産運用を重視

(4) 賃貸併用物件とは(大家自身が住む+賃貸)

賃貸併用物件とは、大家自身が住む部分と賃貸部分を併せ持つ物件です。住居費削減と家賃収入を両立できます。

建物全体の50%以上が居住スペースであれば、住宅ローンを利用できる可能性があります。

大家になるための5つのステップ

大家になるには、以下の5つのステップを踏む必要があります。

(1) 必要な資金と初期費用(物件価格の10~20%の自己資金が目安)

一般的に物件価格の10~20%の自己資金が必要です。

  • 単身向けマンション: 500万~2,000万円以上
  • アパート1棟: 1億円以上

自己資金ゼロでの開始は、修繕費や空室時の資金繰りリスクが高いため推奨されません。

(2) 物件選定のポイント(人口流入エリア、駅近、生活利便施設が充実)

物件選定では、以下のポイントを重視しましょう。

  • 人口流入のあるエリア: 人口減少エリアは空室リスクが高い
  • 駅近: 通勤・通学に便利な立地は需要が高い
  • 生活利便施設が充実: 学校・病院・スーパーなどが近い

(3) 資金計画と融資の準備

金融機関から融資を受ける場合、自己資金の準備と収支シミュレーションが必要です。過剰な借入は空室による影響を吸収できる余地を減らすため、注意が必要です。

(4) 物件購入と登記手続き

物件購入時には、売買契約、融資契約、登記手続きを行います。司法書士や不動産会社のサポートを受けることが一般的です。

(5) 管理体制の構築(自主管理 or 管理委託)

入居者募集、家賃集金、クレーム対応などの管理業務を、自分で行うか管理会社に委託するかを決定します。初心者や本業を持つ人には管理委託を強く推奨します。

大家業の収益構造と実態

大家業の収益構造を正しく理解することが、成功の第一歩です。

(1) 大家の平均所得(国税庁調査:約521万円/年)

国税庁調査によると、大家の平均所得は約521万円/年です。ただし、これは経費を差し引いた後の所得であり、家賃収入総額ではありません。

(2) 収入源(家賃収入、礼金、更新料等)

大家の主な収入源は以下の通りです。

  • 家賃収入: 毎月の家賃(最も安定した収入源)
  • 礼金: 入居時に受け取る(地域により慣習が異なる)
  • 更新料: 契約更新時に受け取る(通常2年ごと)
  • 敷金の精算: 退去時に修繕費等を差し引いた残額(トラブルの元になりやすい)

(3) 主要経費(管理費、修繕費、固定資産税、減価償却費等)

大家業には様々な経費が発生します。

経費項目 内容 目安額
管理委託料 管理会社への委託費用 家賃収入の5%程度
修繕費 設備故障、リフォーム等 築年数に応じて増加
固定資産税・都市計画税 毎年発生 物件評価額に応じる
損害保険料 火災保険、地震保険等 年間数万円~
減価償却費 建物の経年劣化分(会計上の経費) 取得価格を耐用年数で按分

(4) 実際の手取り収入(家賃収入総額の約15%が目安)

手元に残る実額は、家賃収入総額の約15%程度が目安です。これは、管理費、修繕費、固定資産税、減価償却費等の経費を差し引いた後の金額です。

(5) 表面利回り vs 実質利回りの違い

  • 表面利回り: 年間家賃収入を物件価格で割った利回り。経費を考慮しない
  • 実質利回り: 年間家賃収入から経費(管理費、修繕費、税金等)を差し引いた後の利回り。より実態に近い指標

物件選定では、表面利回りだけでなく実質利回りを重視しましょう。

大家業の主要リスクと対策10選

大家業には様々なリスクがあります。事前に理解し、対策を講じることが重要です。

(1) 過剰な借入金(空室による影響を吸収できない)

過剰な借入は、空室時の返済負担が重くなり、経営を圧迫します。耐用年数を超えた返済計画は税負担を増加させます。

(2) サブリース契約の理解不足(保証家賃は8~9割)

サブリース契約では、不動産会社が物件を一括借り上げし、入居者の有無に関わらず一定額を大家に支払います。ただし、保証家賃は通常の8~9割程度となり、実際の利回りが大幅に低下する場合があります。

(3) 自己資金ゼロでの開始(修繕費への対応余地なし)

自己資金ゼロでの開始は、修繕費やリフォーム代などがかさんだ際に資金繰りの余裕がなく、一般的なトラブルにも対応しきれなくなるリスクがあります。

(4) 節税目的だけの投資(経営採算の見落とし)

節税目的だけの投資では、実際の経営採算が見落とされやすく、赤字物件の追加購入は借金を増加させるだけで経営悪化につながります。

(5) 空室リスク(人口減少エリア、立地不良)

人口減少エリアや立地が悪い物件は、空室リスクが高くなります。人口流入のあるエリア、駅近、生活利便施設が充実した立地を選びましょう。

(6) 家賃滞納・夜逃げ(保証会社利用で軽減)

入居者の家賃滞納や夜逃げによる撤去費用は大きな損失となります。入居者の属性調査を徹底し、保証会社の利用を必須にすることでリスクを軽減できます。

(7) 修繕費の予測不足(築年数に応じて増加)

修繕費は築年数に応じて増加します。予防的修繕を行い、大規模修繕を回避することが重要です。

(8) 入居者トラブル(クレーム対応、騒音問題等)

入居者からのクレーム対応、騒音問題などのトラブルは、大家にとって大きな負担です。管理会社に委託することで、これらの対応を代行してもらえます。

(9) デザイン性重視のリノベーション失敗(万人受けする仕様が推奨)

デザイン性の高いリノベーションは、人によってイメージが左右されやすいため、万人受けする無地クロスや水回り交換が推奨されます。

(10) 管理会社の評価不足(空室対策の実績確認が重要)

管理会社の選定では、空室対策の実績を確認することが重要です。空室期間が長引くと、収益に大きな影響を与えます。

成功のポイントと管理会社の活用

大家業を成功させるには、以下のポイントを押さえましょう。

(1) キャッシュフローの最適化(減価償却費と経費の使い分け)

減価償却費と経費を適切に使い分けることで、キャッシュフローを最適化できます。税理士への相談を推奨します。

(2) こまめな建物維持管理(予防的修繕で大規模修繕を回避)

こまめな建物維持管理を行うことで、予防的修繕により大規模修繕を回避できます。

(3) 管理会社への委託のメリット(入居者募集、家賃集金、クレーム対応)

管理会社に委託することで、以下の業務を代行してもらえます。

  • 入居者募集(広告、内覧対応)
  • 家賃集金(滞納督促)
  • クレーム対応(騒音、設備故障等)
  • 契約更新手続き

特に初心者や本業を持つ人には、管理会社への委託を強く推奨します。

(4) 管理委託料の相場(家賃収入の5%程度)

管理委託料は、一般的に家賃収入の5%程度が相場です。この費用で煩雑な業務を代行してもらえるため、コストパフォーマンスは高いと言えます。

(5) 少額から始める選択肢(不動産クラウドファンディング)

少額から不動産投資を始めたい場合、不動産クラウドファンディング(「みんなで大家さん」「大家どっとこむ」など)があります。1口1万円~100万円程度から参加可能で、管理業務は専門家が代行します。

ただし、運用期間中の換金不可、事業者リスク(配当遅延・訴訟等)があるため注意が必要です。2025年11月には「みんなで大家さん」運営会社に対し、1,191人の投資家が約114億円の返還を求める集団訴訟が提起されています。

まとめ:大家業を始める前のチェックリスト

大家業は、家賃収入を得られる資産形成の方法ですが、空室、家賃滞納、修繕費増加、過剰借入など、様々なリスクが伴います。

人口流入のあるエリア、駅近、生活利便施設が充実した立地を選び、保証会社利用、予防的修繕、管理会社への委託でリスクを軽減しましょう。表面利回りだけでなく実質利回りと空室率を考慮し、長期的で現実的な資金計画を立てることが成功の鍵です。

大家業を始める前に、以下のチェックリストを確認してください。

  • 自己資金の準備(物件価格の10~20%)
  • 物件選定(人口流入エリア、駅近、生活利便施設が充実)
  • 資金計画(収支シミュレーション、過剰借入の回避)
  • 管理体制の構築(管理会社への委託を推奨)
  • 保証会社の利用(家賃滞納リスクの軽減)
  • 予防的修繕の計画(修繕費の予測と準備)
  • 専門家への相談(宅建士、税理士、不動産コンサルタント)

信頼できる管理会社や専門家に相談しながら、無理のない賃貸経営計画を立てましょう。

よくある質問

Q1大家になるにはどのくらいの資金が必要か?

A1一般的に物件価格の10~20%の自己資金が必要です。単身向けマンションで500万~2,000万円以上、アパート1棟で1億円以上が目安です。自己資金ゼロでの開始は、修繕費や空室時の資金繰りリスクが高いため推奨されません。金融機関から融資を受ける場合も、自己資金の準備と収支シミュレーションが必要です。過剰な借入は空室による影響を吸収できる余地を減らすため、注意が必要です。

Q2大家の平均年収はどのくらいか?

A2国税庁調査によると、大家の平均所得は約521万円/年です。ただし、これは経費を差し引いた後の所得であり、家賃収入総額ではありません。手元に残る実額は、家賃収入総額の約15%程度が目安です。管理費、修繕費、固定資産税、減価償却費等の経費が発生するため、表面利回りと実質利回りには大きな差があります。物件選定では実質利回りを重視しましょう。

Q3大家業は本当に儲かるのか?リスクは?

A3立地・管理状態により大きく異なります。主要リスクは空室、家賃滞納、修繕費増加、過剰借入です。人口流入のあるエリア、駅近、生活利便施設が充実した立地を選び、保証会社利用、予防的修繕、管理会社への委託でリスクを軽減できます。表面利回りだけでなく実質利回りと空室率を考慮し、長期的で現実的な資金計画を立てることが成功の鍵です。

Q4管理会社に委託する必要はあるか?費用はどのくらいか?

A4初心者や本業を持つ人には強く推奨します。入居者募集、家賃集金、クレーム対応など煩雑な業務を代行してもらえます。管理委託料は家賃収入の5%程度が相場です。この費用で煩雑な業務を代行してもらえるため、コストパフォーマンスは高いと言えます。空室対策に強い管理会社を選ぶことが成功のポイントです。管理会社選定では、空室対策の実績を確認しましょう。

Q5少額から不動産投資を始める方法はあるか?

A5不動産クラウドファンディング(「みんなで大家さん」「大家どっとこむ」など)では1口1万円~100万円から投資可能です。管理業務は専門家が代行します。ただし、運用期間中の換金不可、事業者リスク(配当遅延・訴訟等)があるため注意が必要です。2025年11月には「みんなで大家さん」運営会社に対し、1,191人の投資家が約114億円の返還を求める集団訴訟が提起されています。

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Room Match編集部

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