借地権とは|土地を借りて家を建てる仕組み
「土地を借りて家を建てるってどういうこと?」「所有権と何が違うの?」と疑問に思う方は少なくありません。
この記事では、借地権の仕組み、種類、メリット・デメリット、地代や更新料の実態、契約時の注意点を、借地借家法や国税庁の公式情報を元に解説します。初期費用の安さという魅力と、地代負担や売却制約といったリスクをバランスよく理解できるようになります。
この記事のポイント
- 借地権は所有権の6〜8割程度の価格で取得でき、固定資産税・都市計画税の負担がない
- 普通借地権(契約更新可能、30年以上)と定期借地権(契約更新なし、50年以上)の2種類がある
- 地代の負担が継続し、売却・増改築には地主の承諾が必要
- 住宅ローンが組みにくく、売却時の買い手が見つかりにくいリスクがある
(1) 借地権の基本的な仕組み
借地権とは、建物を所有する目的で土地を借りる権利のことです。土地は地主が所有し、借地人は地代を支払って土地を使用します。建物の所有権は借地人にあります。
借地権には、地上権(物権)と賃借権(債権)の2種類があります。地上権は土地を直接支配できる権利で、自由に譲渡・転貸が可能です。一方、賃借権は土地を借りる権利で、譲渡・転貸には地主の承諾が必要です。
(2) 借地権と所有権の違い|土地の所有有無
所有権は土地と建物の両方を所有する権利です。借地権は建物のみを所有し、土地は借りる権利です。この違いにより、初期費用、税金負担、売却時の制約などが異なります。
| 項目 | 所有権 | 借地権 |
|---|---|---|
| 土地の所有 | あり | なし(借りる) |
| 初期費用 | 高い | 安い(6〜8割程度) |
| 固定資産税 | 土地・建物ともに負担 | 建物のみ負担 |
| 地代 | なし | あり(継続負担) |
| 売却 | 自由 | 地主の承諾が必要 |
借地権の基礎知識|種類と法律上の違い
(1) 地上権と賃借権の違い
地上権は物権で、土地を直接支配する強い権利です。譲渡・転貸が自由にでき、地主の承諾は不要です。一方、賃借権は債権で、譲渡・転貸には地主の承諾が必要です。実務では賃借権が多く、地上権は稀です。
(2) 旧法借地権と新法借地権の違い
1992年8月1日施行の借地借家法により、旧法(旧借地法)と新法(新借地借家法)に分かれます。旧法借地権は契約更新が原則で、地主は正当事由がなければ更新を拒絶できません。新法では普通借地権と定期借地権が設けられ、契約の柔軟性が高まりました。
契約書を確認し、旧法と新法のどちらに基づく契約かを必ず把握してください。
(3) 普通借地権|契約更新が可能(存続期間30年以上)
普通借地権は、契約更新が可能な借地権です。存続期間は30年以上で、契約期間満了後も建物が残っていれば、原則として契約が更新されます。地主が更新を拒絶するには正当事由が必要です。
(4) 定期借地権|契約更新なし(50年以上、更地返還)
定期借地権は、契約更新がなく、期間満了時に土地を更地にして返還する借地権です。一般定期借地権(50年以上)、建物譲渡特約付借地権(30年以上)、事業用定期借地権(10年以上50年未満)の3種類があります。
国土交通省の解説によると、定期借地権は契約書で期間と更地返還の条件を明記する必要があります。長期の居住計画を立てる場合は、契約期間に注意してください。
(5) 借地権割合|30〜90%(国税庁が設定)
借地権割合は、借地権の相続税・贈与税評価に用いる割合で、地域により30〜90%に設定されています。国税庁の路線価図で確認できます。借地権割合が高い地域ほど、借地権の評価額も高くなります。
借地権のメリット・デメリット
(1) メリット①初期費用が安い|所有権の6〜8割程度
借地権付き物件は、所有権付き物件の6〜8割程度の価格で取得できます。土地購入費用が不要なため、初期費用を大幅に抑えられます。
(2) メリット②固定資産税・都市計画税の負担なし
土地の固定資産税・都市計画税は地主が負担します。借地人は建物分の固定資産税のみを支払うため、税負担が軽減されます。
(3) メリット③都市部で手頃に戸建てを持てる
都市部の地価が高いエリアでも、借地権付き物件なら手頃な価格で戸建てを持てる可能性があります。立地を優先したい方にとって、魅力的な選択肢です。
(4) デメリット①地代の負担が継続
地代は毎月または毎年支払う必要があり、継続的なコストとなります。地代の相場は、普通借地権で土地価格の1%未満、定期借地権で2〜3%程度が目安ですが、地域や契約内容により異なります。
(5) デメリット②売却・増改築に地主の承諾が必要
借地権付き物件の売却や建物の増改築には、地主の承諾が必要です。承諾料が発生する場合があり、地主が承諾しない場合は売却や増改築ができません。
(6) デメリット③住宅ローンが組みにくい場合がある
借地権付き物件は担保価値が低いため、住宅ローンの審査が厳しくなることがあります。金融機関によっては融資を受けられない場合もあるため、事前に確認が必要です。
(7) デメリット④定期借地権は期間満了時に更地返還
定期借地権の場合、契約期間満了時に建物を解体し、土地を更地にして返還する必要があります。解体費用は借地人が負担するため、長期の居住計画を立てる際は注意が必要です。
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地代と更新料|継続的なコストの実態
(1) 地代の相場|普通借地権1%未満、定期借地権2〜3%
地代の相場は、普通借地権で土地価格の1%未満、定期借地権で2〜3%程度が目安です。例えば、土地価格が3,000万円の場合、普通借地権では年間30万円未満(月2.5万円未満)、定期借地権では年間60〜90万円(月5〜7.5万円)程度です。
ただし、契約内容や地域により異なるため、具体的な金額は個別に確認してください。
(2) 更新料の相場と支払い時期
普通借地権の契約更新時には、更新料が発生する場合があります。相場は更地価格の3〜5%程度ですが、契約により異なります。契約期間満了の1年前から6ヶ月前までに地主と協議し、更新料の金額を確認してください。
(3) 地代の値上げリスク
地代は、地価の上昇や経済状況の変化により値上げされる可能性があります。地主から値上げの申し出があった場合、協議が必要です。合意に至らない場合は、裁判所に調停や訴訟を申し立てることができます。
(4) 承諾料|売却・建替え時の費用
借地権付き物件の売却や建物の建替えには地主の承諾が必要で、承諾料が発生する場合があります。承諾料の相場は、売却時は借地権価格の10%程度、建替え時は更地価格の3〜5%程度が目安ですが、契約により異なります。
借地権契約時の注意点とリスク
(1) 契約書の内容を必ず確認|旧法か新法か
契約書を確認し、旧法借地権か新法借地権か、普通借地権か定期借地権かを把握してください。契約期間、地代、更新料、承諾料、更地返還の条件などを明記した契約書を交わすことが重要です。
(2) 住宅ローン審査|担保価値が低く融資が厳しい場合
借地権付き物件は担保価値が低いため、住宅ローンの審査が厳しくなる場合があります。金融機関によっては融資を受けられないこともあるため、事前に複数の金融機関に相談することをお勧めします。
(3) 売却時の制約|買い手が見つかりにくい
借地権付き物件は、所有権付き物件より買い手が見つかりにくく、売却価格も低くなる傾向があります。地主の承諾が必要で承諾料が発生するため、売却前に地主と協議してください。
(4) 建物の増改築|地主の承諾が必要
建物の増改築(建替え、改築、増築)には地主の承諾が必要です。承諾料が発生する場合があり、地主が承諾しない場合は増改築ができません。将来的なリフォームや建替えを考慮し、契約時に条件を確認してください。
(5) 定期借地権マンションの増加|2024年時点で累計7,015件
日本住宅総合センターの調査によると、2024年時点で定期借地権マンションは累計7,015件に達しています。都市部の地価高騰により、定期借地権マンションが増加傾向にあります。
定期借地権マンションは、契約期間満了時に建物を解体し、土地を更地にして返還する必要があるため、長期の居住計画を立てる際は注意が必要です。
(6) 宅建士や弁護士への相談を推奨
借地権契約は専門的な法律知識が必要です。契約書の内容、地代の妥当性、更新料・承諾料の相場、更新拒否のリスクなど、確認すべき事項は多岐にわたります。宅地建物取引士や弁護士への相談を推奨します。
まとめ|借地権は自分に合った選択か
借地権は、所有権の6〜8割程度の価格で取得でき、固定資産税・都市計画税の負担がありません。一方、地代の継続負担、売却・増改築時の地主承諾、住宅ローンの組みにくさといったリスクもあります。
普通借地権と定期借地権の違い、旧法と新法の違いを理解し、契約書の内容を必ず確認してください。地代の相場、更新料・承諾料の負担、将来の売却可能性を考慮した上で、借地権が自分に合った選択かを判断しましょう。
信頼できる宅地建物取引士や弁護士に相談しながら、無理のない資金計画を立ててください。
