土地評価額とは?一物四価の仕組み
土地を所有している方や相続を控えている方にとって、「土地評価額」は税金や売却の判断において重要な基準となります。しかし、「評価額」と一口に言っても、実は複数の種類があり、それぞれ目的が異なることをご存知でしょうか。
この記事では、4つの土地評価額(公示地価・基準地価・路線価・固定資産税評価額)の違いと計算方法、調べ方を、国税庁や国土交通省の公式情報を元に解説します。
相続税・固定資産税の計算や、売却価格の目安を知りたい方が、正確な知識を得られる内容です。
この記事のポイント
- 土地評価額には「一物四価」と呼ばれる4つの価格(公示地価、基準地価、相続税路線価、固定資産税評価額)が存在する
- 路線価は公示地価の約80%、固定資産税評価額は約70%に設定されており、それぞれ税金計算の基準として使用される
- 全国地価マップや国税庁の路線価図サイトを利用すれば、誰でも無料で土地評価額を調べられる
- 評価額は税金計算の基準であり、実際の売買価格(実勢価格)とは異なる点に注意が必要
- 複雑な土地の評価や税金計算は、税理士や不動産鑑定士への相談が推奨される
(1) 土地評価額が複数存在する理由
土地には「一物四価」と呼ばれる、4つの異なる評価額が存在します。これは、評価の目的や実施主体が異なるためです。
- 公示地価: 国土交通省が土地取引の指標として公表
- 基準地価: 都道府県が公示地価を補完する形で公表
- 相続税路線価: 国税庁が相続税・贈与税の計算基準として公表
- 固定資産税評価額: 市町村が固定資産税の計算基準として決定
これらは、それぞれ異なる法律や制度に基づいて算出されており、用途によって使い分けられます。
(2) 実勢価格との違い
「実勢価格」とは、実際に土地が売買される価格のことです。市場の需給バランスによって決まるため、公的な評価額とは異なります。
一般的に、実勢価格は公示地価の1.1~1.3倍程度とされていますが、立地や形状、周辺環境によって大きく変動します。評価額はあくまで税金計算の基準であり、売買価格を保証するものではありません。
(3) なぜ評価額を知る必要があるのか
土地評価額を把握することで、以下のような場面で役立ちます。
- 相続税・贈与税の試算: 路線価を基に事前に税額を見積もれる
- 固定資産税の確認: 固定資産税評価額から年間の税額を把握できる
- 売却価格の目安: 評価額から実勢価格をおおよそ逆算できる
- 不動産取引の判断: 適正価格かどうかを客観的に判断できる
特に相続が発生する前に評価額を調べておくことで、納税資金の準備がしやすくなります。
2. 4つの土地評価額の種類と違い
土地評価額には、目的や公表時期が異なる4つの種類があります。それぞれの特徴を理解することで、適切な評価額を選択できます。
(1) 公示地価(国土交通省、毎年3月公表)
国土交通省が毎年1月1日時点の標準地の価格を調査し、3月に公表する価格です。土地取引の指標として、不動産鑑定士による評価が行われます。
- 目的: 土地取引の指標、公共事業の用地買収価格の基準
- 公表時期: 毎年3月下旬
- 対象: 全国約2.6万地点の標準地
公示地価は、他の評価額の基準となる重要な指標です。
(2) 基準地価(都道府県、毎年9月公表)
都道府県が毎年7月1日時点の基準地の価格を調査し、9月に公表する価格です。公示地価を補完する役割を持ちます。
- 目的: 公示地価を補完し、半年後の地価動向を把握
- 公表時期: 毎年9月下旬
- 対象: 全国約2.1万地点の基準地
公示地価と基準地価を合わせることで、年2回の地価動向を把握できます。
(3) 相続税路線価(国税庁、毎年7月公表、公示地価の約80%)
国税庁が毎年1月1日時点の路線(道路)に面する土地の1㎡当たりの評価額を公表します。相続税・贈与税の計算に使用されます。
- 目的: 相続税・贈与税の計算基準
- 公表時期: 毎年7月1日
- 水準: 公示地価の約80%
- 対象: 全国の主要道路
路線価は、公示地価の約80%に設定されることで、税負担が過度にならないよう調整されています。
(4) 固定資産税評価額(市町村、3年に1度見直し、公示地価の約70%)
市町村が固定資産税、都市計画税、不動産取得税の計算基準として決定する評価額です。3年に1度見直されます(評価替え)。
- 目的: 固定資産税、都市計画税、不動産取得税の計算基準
- 公表時期: 3年に1度(次回は2027年)
- 水準: 公示地価の約70%
- 確認方法: 毎年4月初旬に送付される納税通知書の課税明細書
固定資産税評価額は、他の評価額より低く設定されており、税負担の軽減に配慮されています。
3. 土地評価額の計算方法(路線価方式・倍率方式)
相続税・贈与税の計算に必要な土地評価額は、「路線価方式」または「倍率方式」で算出します。
(1) 路線価方式の計算式(路線価×奥行価格補正率×土地面積)
路線価が設定されている地域では、以下の計算式で評価額を算出します。
計算式:
路線価 × 奥行価格補正率 × 土地面積
計算例:
路線価200D(1㎡当たり20万円)、奥行価格補正率0.95、土地面積300㎡の場合
20万円 × 0.95 × 300㎡ = 5,700万円
この5,700万円が相続税評価額となります。
(2) 路線価図の見方と記号の読み取り
路線価図では、道路に数字とアルファベットが記載されています。
- 数字: 1㎡当たりの価格を千円単位で表示(例:200D = 20万円/㎡)
- アルファベット: 借地権割合を示す(A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%)
国税庁の財産評価基準書サイトで、全国の路線価図を閲覧できます。
(3) 倍率方式(路線価が設定されていない地域)
路線価が設定されていない地域(主に郊外や農村部)では、倍率方式を使用します。
計算式:
固定資産税評価額 × 倍率
倍率は国税庁の評価倍率表で確認できます。
計算例:
固定資産税評価額2,000万円、倍率1.1の場合
2,000万円 × 1.1 = 2,200万円
(4) 不整形地の補正率
土地の形状が不整形な場合、奥行価格補正率以外にも以下の補正率を適用します。
- 間口狭小補正: 道路に接する間口が狭い場合
- 奥行長大補正: 奥行が極端に長い場合
- 不整形地補正: 三角形や台形など、形状が不整形な場合
- がけ地補正: がけ地を含む土地の場合
複雑な形状の土地は、税理士や不動産鑑定士への相談が推奨されます。
4. 土地評価額の調べ方と確認方法
土地評価額は、インターネットや公的書類で簡単に調べることができます。
(1) 全国地価マップでの確認(4つの評価額を一度に閲覧)
全国地価マップは、一般財団法人資産評価システム研究センターが提供するサイトで、4つの公的土地評価情報を一度に確認できます。
- 公示地価
- 基準地価
- 相続税路線価
- 固定資産税路線価・評価額
住所や地番を入力するだけで、誰でも無料で利用できます。
(2) 国税庁の路線価図・評価倍率表
国税庁の財産評価基準書サイトでは、平成30年分から令和6年分までの路線価図と評価倍率表を閲覧できます。
相続税・贈与税の申告に必要な路線価を確認する際に利用します。
(3) 固定資産税課税明細書(納税通知書)
固定資産税評価額は、毎年4月初旬に市町村から送付される固定資産税の納税通知書に添付された「課税明細書」で確認できます。
課税明細書には、土地・建物それぞれの評価額が記載されています。
(4) 国土交通省の地価公示データ
国土交通省の地価公示サイトでは、全国の公示地価データを検索できます。
最新の地価動向を把握する際に有用です。
5. 土地評価額と税金・売却価格の関係
土地評価額は、税金の計算や売却価格の目安として活用できます。
(1) 相続税・贈与税の計算(路線価ベース)
相続税・贈与税は、路線価または倍率方式で算出した評価額を基に計算します。
相続税の計算例:
評価額5,000万円、基礎控除3,600万円(法定相続人1人)の場合
課税遺産額 = 5,000万円 - 3,600万円 = 1,400万円
相続税額 = 1,400万円 × 15% - 50万円 = 160万円
(※実際の税額は各種控除や特例により異なります)
(2) 固定資産税の計算(固定資産税評価額ベース)
固定資産税は、固定資産税評価額に税率(標準税率1.4%)を乗じて計算します。
計算例:
固定資産税評価額2,000万円の場合
固定資産税額 = 2,000万円 × 1.4% = 28万円/年
(※住宅用地の特例で評価額が1/6~1/3に軽減される場合があります)
(3) 実勢価格の目安としての使い方
路線価や固定資産税評価額から、おおよその実勢価格を逆算できます。
| 評価額の種類 | 公示地価との比率 | 実勢価格の逆算式(目安) |
|---|---|---|
| 相続税路線価 | 約80% | 路線価 ÷ 0.8 ÷ 0.8~0.9 |
| 固定資産税評価額 | 約70% | 評価額 ÷ 0.7 ÷ 0.8~0.9 |
ただし、これはあくまで目安であり、実際の売買価格は市場の需給により変動します。
(4) 不動産会社の査定との違い
不動産会社の査定は、実勢価格を反映した市場価格を提示します。評価額とは異なり、以下の要素を考慮します。
- 周辺の取引事例
- 土地の形状・接道状況
- 周辺環境(駅距離、商業施設等)
- 市場の需給状況
売却を検討する際は、複数の不動産会社に査定を依頼し、評価額と比較することが推奨されます。
6. まとめ:状況別の土地評価額活用法
土地評価額には、公示地価、基準地価、相続税路線価、固定資産税評価額の4種類があり、それぞれ目的が異なります。相続税・贈与税の計算には路線価、固定資産税の計算には固定資産税評価額を使用します。
全国地価マップや国税庁の路線価図サイトを利用すれば、誰でも無料で土地評価額を調べられます。ただし、評価額はあくまで税金計算の基準であり、実際の売買価格とは異なる点に注意が必要です。
複雑な土地の評価や税金計算が必要な場合は、税理士や不動産鑑定士への相談をおすすめします。正確な評価額を把握することで、相続や売却の判断がよりスムーズになります。
