建物の固定資産税の基礎知識
建物を所有すると、毎年固定資産税が課されます。固定資産税は住宅購入後の維持費として重要な項目であり、資金計画を立てる上で正確な理解が必要です。
この記事では、建物の固定資産税の計算方法、評価額の決まり方、新築住宅の軽減措置、築年数による変化を、総務省、国土交通省等の公的機関の情報を元に解説します。
(1) 固定資産税とは(地方税・課税対象)
固定資産税は、毎年1月1日時点で土地・建物・償却資産を所有する者に課される地方税です。
固定資産税の課税対象:
- 土地: 宅地・農地・山林等
- 建物: 住宅・店舗・工場等
- 償却資産: 事業用の機械・器具等
住宅所有者にとって、土地と建物の固定資産税が主な負担となります。この記事では、建物の固定資産税に焦点を当てて解説します。
(2) 納税義務者(1月1日時点の所有者)
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課税されます。
重要なポイント:
- 1月1日時点の所有者が1年分の納税義務を負う
- 年内に売却しても、1月1日時点で所有していれば1年分の納税義務がある
- 売買時は、引渡日以降の固定資産税を日割り計算で精算するのが一般的
例えば、2025年6月に建物を売却した場合でも、2025年1月1日時点で所有していたため、2025年度の固定資産税の納税義務は売主にあります。ただし、売買契約では引渡日以降の固定資産税を買主が負担することが多く、日割り計算で精算されます。
(3) 土地の固定資産税との違い
建物の固定資産税と土地の固定資産税には、以下の違いがあります。
建物の固定資産税:
- 評価額は経年劣化により減少する傾向
- 新築住宅には軽減措置がある
- 再建築価格方式で評価額を算出
土地の固定資産税:
- 評価額は地価に連動(経年で減少しない)
- 住宅用地には特例措置がある(小規模住宅用地は評価額の6分の1)
- 路線価や固定資産税路線価で評価額を算出
建物は経年劣化で評価額が下がる一方、土地は地価変動に連動するため、固定資産税の変化が異なります。
固定資産税の計算方法と評価額の決まり方
建物の固定資産税は、評価額と税率で計算されます。評価額の算出方法を理解することが重要です。
(1) 計算式(固定資産税評価額 × 1.4%)
建物の固定資産税は、「固定資産税評価額 × 税率1.4%(標準税率)」で計算されます。
計算式:
固定資産税 = 固定資産税評価額 × 1.4%(標準税率)
注意点:
- 標準税率は1.4%ですが、自治体により異なる場合があります(1.4〜1.7%程度)
- 都市計画税(0.3%が上限)が別途課される場合があります
- 都市計画税は、都市計画事業や土地区画整理事業の費用に充てられます
例えば、固定資産税評価額が1,000万円の建物の場合、固定資産税は以下のように計算されます。
1,000万円 × 1.4% = 14万円(年間)
(2) 建物の評価額の算出方法(再建築価格方式)
建物の固定資産税評価額は、「再建築価格方式」で算出されます。
再建築価格方式の仕組み:
- 再建築価格の算出: 同じ土地に同じ建物を建てた場合の建築価格を想定
- 経年減価の適用: 築年数に応じて劣化分を減額
- 評価額の決定: 再建築価格 × 経年減価補正率
経年減価補正率の例:
- 新築: 100%
- 築5年: 約85%
- 築10年: 約70%
- 築15年: 約60%
- 築20年: 約50%
(建物の構造・用途により異なります)
この方式により、築年数が経過するほど評価額が下がり、固定資産税も減少する傾向にあります。
(3) 評価額の目安(購入価格の50〜70%)
建物の固定資産税評価額は、一般的に**購入価格の約50〜70%**が目安です。
購入価格別の評価額の目安:
| 建物購入価格 | 評価額の目安(50〜70%) | 固定資産税の目安(1.4%) |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 500〜700万円 | 7〜9.8万円 |
| 2,000万円 | 1,000〜1,400万円 | 14〜19.6万円 |
| 3,000万円 | 1,500〜2,100万円 | 21〜29.4万円 |
| 4,000万円 | 2,000〜2,800万円 | 28〜39.2万円 |
(2025年時点の目安、新築住宅の軽減措置適用前)
これはあくまで目安であり、実際の評価額は建物の構造・面積・仕様により異なります。正確な評価額は、課税明細書で確認してください。
(4) 3年ごとの評価替えと2024年の変化
固定資産税評価額は、3年に1度見直されます。
評価替えのスケジュール:
- 直近の評価替え: 令和6年度(2024年度)
- 次回の評価替え: 令和9年度(2027年度)
2024年度の変化:
- 2024年は3年に1度の評価替えの年で、材料費高騰により木造家屋の再建築費評点補正率が1.11に上昇
- 負担調整措置が3年間延長(令和6年4月1日〜令和9年3月31日)
- 新築住宅の減税が2年間延長(2026年3月31日まで)
材料費高騰により、2024年度は建物の評価額が上昇する可能性があります。ただし、負担調整措置により急激な税負担増は緩和されます。
新築住宅の軽減措置と適用要件
新築住宅には、固定資産税の軽減措置があり、購入後の税負担を抑えることができます。
(1) 一般住宅の軽減内容(3年間、マンション5年間、税額2分の1)
一般住宅の軽減内容:
| 住宅の種類 | 軽減期間 | 軽減内容 |
|---|---|---|
| 一戸建て | 3年間 | 固定資産税が2分の1 |
| マンション(3階建以上の耐火・準耐火建築物) | 5年間 | 固定資産税が2分の1 |
適用要件:
- 床面積が50㎡以上280㎡以下(一戸建て以外の貸家住宅は40㎡以上280㎡以下)
- 居住部分の床面積が全体の2分の1以上
軽減額の上限:
- 床面積120㎡相当分まで(120㎡を超える部分は軽減対象外)
適用期限:
- 令和8年3月31日(2026年3月31日)まで
(2) 長期優良住宅の軽減延長(一戸建て5年間、マンション7年間)
長期優良住宅の認定を受けると、軽減期間が延長されます。
長期優良住宅の軽減内容:
| 住宅の種類 | 軽減期間 | 軽減内容 |
|---|---|---|
| 一戸建て | 5年間 | 固定資産税が2分の1 |
| マンション(3階建以上の耐火・準耐火建築物) | 7年間 | 固定資産税が2分の1 |
長期優良住宅は、一般住宅よりも軽減期間が2年間長く、税負担を大幅に抑えられます。
(3) 適用要件と申請手続き
一般住宅の軽減措置:
- 自治体により自動適用される場合が多い
- 念のため、確定申告時に申請することを推奨
長期優良住宅の軽減措置:
- 申請が必須
- 新築年の翌年の1月31日までに、長期優良住宅の認定通知書の写し等を市区町村に提出
長期優良住宅の認定を受けている場合は、必ず申請手続きを行ってください。申請を怠ると、軽減措置を受けられません。
(4) 軽減期間終了後の負担増
軽減措置の期間終了後は、税額が2倍になります。
一戸建ての例:
- 軽減期間中(1〜3年目): 年間7万円
- 軽減期間終了後(4年目以降): 年間14万円
マンションの例:
- 軽減期間中(1〜5年目): 年間10万円
- 軽減期間終了後(6年目以降): 年間20万円
軽減期間終了後の負担増に備えて、資金計画を立てることが重要です。
築年数と固定資産税の関係
建物は経年劣化により評価額が下がるため、固定資産税も減少する傾向にあります。
(1) 経年劣化による評価額の減少
建物の固定資産税評価額は、築年数が経過するほど減少します。
評価額減少の仕組み:
- 再建築価格方式で算出される評価額に、経年減価補正率が適用される
- 経年減価補正率は、築年数に応じて下がる
- 評価額は3年に1度の評価替えで見直される
建物の劣化が進むほど、評価額は下がり、固定資産税も減少します。
(2) 築年数ごとの評価額の目安
築年数ごとの評価額の変化は、建物の構造により異なります。
木造住宅の評価額の目安:
| 築年数 | 経年減価補正率 | 評価額の変化(新築時を100とした場合) |
|---|---|---|
| 新築 | 100% | 100 |
| 5年 | 約85% | 85 |
| 10年 | 約70% | 70 |
| 15年 | 約60% | 60 |
| 20年 | 約50% | 50 |
| 25年 | 約40% | 40 |
(建物の構造・用途・状態により異なります)
固定資産税の変化:
- 新築時の固定資産税が年間14万円の場合
- 築10年: 約9.8万円(70%)
- 築20年: 約7万円(50%)
築年数が経過するほど、固定資産税は減少します。
(3) 評価額が下がらないケース(大規模修繕等)
大規模修繕やリフォームを行うと、評価額が上がる場合があります。
評価額が上がるケース:
- 増築(床面積の増加)
- 大規模修繕(外壁・屋根の全面改修等)
- 設備の大幅なグレードアップ
これらの工事を行った場合、評価額が上がり、固定資産税も増加する可能性があります。工事後は、市区町村の固定資産税課に申告する必要がある場合があります。
固定資産税評価額の調べ方と納税スケジュール
固定資産税評価額は、複数の方法で調べることができます。また、納税スケジュールを把握して計画的に支払うことが重要です。
(1) 課税明細書での確認(毎年4月頃送付)
課税明細書は、毎年4月頃に送付される納税通知書に同封される書類で、固定資産税評価額が記載されています。
課税明細書の記載内容:
- 固定資産税評価額
- 課税標準額(軽減措置適用後の金額)
- 税額
- 物件の所在地・面積
課税明細書は追加手数料なしで送付されるため、最も簡単に評価額を確認できる方法です。
(2) 固定資産課税台帳の閲覧(4〜5月は無料)
固定資産課税台帳は、市区町村の固定資産税課で閲覧できます。
閲覧方法:
- 市区町村の固定資産税課に本人確認書類を持参
- 4〜5月は無料で閲覧可能(自治体により異なる場合あり)
- それ以外の時期は手数料がかかる場合がある
課税明細書を紛失した場合や、詳細な情報を確認したい場合に利用できます。
(3) 固定資産評価証明書の取得
固定資産評価証明書は、市区町村の固定資産税課で取得できます。
取得方法:
- 市区町村の固定資産税課に本人確認書類を持参
- 手数料: 300円程度(自治体により異なる)
- 郵送での取得も可能
用途:
- 不動産売買時の評価額確認
- 住宅ローン申請時の添付書類
- 相続税申告時の評価額確認
固定資産評価証明書は、公的な証明書として利用できます。
(4) 納税スケジュール(年4回の分割払いが可能)
固定資産税は、年4回の分割払いが可能です。
納税スケジュールの例(自治体により異なる):
- 第1期: 4月末
- 第2期: 7月末
- 第3期: 12月末
- 第4期: 翌年2月末
支払い方法:
- 銀行・郵便局・コンビニエンスストアでの支払い
- 口座振替
- クレジットカード払い(手数料がかかる場合あり)
- スマートフォン決済(PayPay・LINE Pay等)
一括払いの割引:
- 一部の自治体では、第1期に全額を一括払いすると割引がある場合があります
- 割引率は1〜3%程度
納税スケジュールを把握し、計画的に資金を準備することが重要です。
まとめ:固定資産税を理解して資金計画を立てる
建物の固定資産税は、住宅所有者にとって毎年の負担となる重要な税金です。計算方法や軽減措置を理解し、将来の負担を見据えた資金計画を立てることが大切です。
この記事のポイント:
- 固定資産税は「固定資産税評価額 × 1.4%(標準税率)」で計算
- 建物の評価額は購入価格の約50〜70%が目安
- 新築住宅は3年間(マンション5年間)、税額が2分の1に軽減
- 長期優良住宅は軽減期間が5年間(マンション7年間)に延長
- 築年数が経過すると評価額が下がり、固定資産税も減少する傾向
- 評価額は3年に1度の評価替えで見直される
固定資産税を抑えるポイント:
- 新築住宅の軽減措置を活用: 3〜5年間の軽減措置で税負担を大幅に抑える
- 長期優良住宅の認定を検討: 軽減期間が2年間延長される
- 軽減期間終了後の負担増に備える: 税額が2倍になることを見越して資金を準備
- 課税明細書で評価額を確認: 毎年4月頃に送付される課税明細書で評価額を確認
- 評価替えの年(3年に1度)に注意: 評価額の変動により税額が変わる可能性
資金計画のポイント:
- 新築住宅購入時は、軽減期間中の税額で計算せず、軽減期間終了後の税額も考慮
- 築年数が経過すると固定資産税は減少するが、修繕費等の他の維持費が増加する
- 都市計画税(0.3%が上限)が別途課される場合があることを確認
固定資産税に関する相談先:
- 評価額の算出方法: 市区町村の固定資産税課
- 軽減措置の適用: 市区町村の固定資産税課または国土交通省
- 税額の計算: 税理士
- 資金計画: ファイナンシャルプランナー
この記事は2025年時点の税率・軽減措置を基に作成しており、税制改正により内容が変わる可能性があります。最新情報は総務省、国土交通省の公式サイトで確認するか、市区町村の固定資産税課や税理士にご相談ください。
固定資産税を正確に理解し、長期的な視点で資金計画を立てることで、安心して住宅を所有できます。
