譲渡所得税の計算シミュレーション|売却価格別の税額を解説

公開日: 2025/10/27

譲渡所得税とは|不動産売却時の税金

不動産を売却して利益が出ると、「譲渡所得税」という税金を支払う必要があります。「自分のケースではいくらくらいになるのか」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、譲渡所得税の計算方法を、複数の具体的なシミュレーション例を用いて解説します。国税庁の公式情報を元に、長期譲渡所得・短期譲渡所得・3000万円特別控除適用時の税額を比較します。

初めて不動産を売却する方でも、自分のケースで税金がいくらになるか試算できるようになります。

この記事のポイント

  • 譲渡所得税は「売却価格-取得費-譲渡費用」で計算される譲渡所得に課税される
  • 長期譲渡(所有期間5年超)の税率は20.315%、短期譲渡(5年以下)は39.63%
  • 3000万円特別控除を適用すれば、譲渡所得が3000万円以下の場合は税額がゼロになる
  • 取得費が不明な場合は売却価格の5%で概算できるが、譲渡所得が過大になり税額が大幅に増える
  • 建物の減価償却費を取得費から差し引く必要がある

譲渡所得税の基本|計算式と税率

譲渡所得税は、不動産売却時の利益に課税される税金です。正確には、所得税・住民税・復興特別所得税の3つを合わせた税金を指します。

国税庁の定義によると、譲渡所得は以下の計算式で算出されます。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

給与所得や事業所得とは分離して課税される(分離課税)ため、他の所得とは独立して税額が計算されます。

長期譲渡所得と短期譲渡所得

所有期間により税率が大きく異なります。

所有期間 区分 所得税 住民税 復興特別所得税 合計税率
5年超 長期譲渡所得 15% 5% 0.315% 20.315%
5年以下 短期譲渡所得 30% 9% 0.63% 39.63%

(出典: 国税庁, 国税庁

所有期間の判定

所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定されます。実際の所有期間と異なる場合があるため注意が必要です。

例:

  • 2020年2月購入、2025年3月売却
  • 2025年1月1日時点では所有期間4年11か月 → 短期譲渡所得

譲渡所得税の計算方法

譲渡所得を計算するには、取得費と譲渡費用を正確に把握する必要があります。

取得費とは(購入価格+諸費用-減価償却費)

取得費は以下の計算式で算出されます。

取得費 = 購入価格 + 購入時諸費用 - 建物の減価償却費

購入時諸費用に含まれるもの

  • 仲介手数料
  • 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • 印紙税
  • 測量費

建物の減価償却費

建物の取得費からは、経年劣化分として減価償却費を差し引く必要があります。国税庁の規定により、償却率は構造により異なり、木造は0.046(耐用年数22年)、RC造は0.022(耐用年数47年)です。

構造 耐用年数 償却率
木造 22年 0.046
軽量鉄骨造 27年 0.038
鉄骨造 34年 0.030
RC造(鉄筋コンクリート造) 47年 0.022

計算式:

  • 減価償却費 = 建物の取得価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

取得費が不明な場合

購入時の契約書・領収書が見つからない場合、売却価格の5%を概算取得費として使用できます。ただし、譲渡所得が過大になり税額が大幅に増えるため、可能な限り実際の取得費を確認すべきです。

譲渡費用とは(仲介手数料・測量費等)

譲渡費用は、売却に直接要した費用です。

譲渡費用に含まれるもの

  • 仲介手数料
  • 測量費
  • 印紙税
  • 建物の取り壊し費用(更地にして売却した場合)
  • 立退料(賃借人がいる場合)

譲渡費用に含まれないもの

  • 修繕費(売却前のリフォーム等)
  • 固定資産税
  • 抵当権抹消費用

計算シミュレーション:長期譲渡所得の場合

長期譲渡所得(所有期間5年超)の具体的な計算例を3つ示します。

ケース1:売却価格3000万円・取得費2000万円

条件:

  • 売却価格: 3000万円
  • 取得費: 2000万円(購入価格1900万円+諸費用100万円)
  • 譲渡費用: 100万円(仲介手数料等)
  • 所有期間: 6年(長期譲渡所得)

計算:

  1. 譲渡所得 = 3000万円 - 2000万円 - 100万円 = 900万円
  2. 税額 = 900万円 × 20.315% = 約183万円

ケース2:売却価格5000万円・取得費3500万円

条件:

  • 売却価格: 5000万円
  • 取得費: 3500万円(購入価格3300万円+諸費用200万円)
  • 譲渡費用: 150万円
  • 所有期間: 8年(長期譲渡所得)

計算:

  1. 譲渡所得 = 5000万円 - 3500万円 - 150万円 = 1350万円
  2. 税額 = 1350万円 × 20.315% = 約274万円

ケース3:取得費不明の場合(概算取得費)

条件:

  • 売却価格: 3000万円
  • 取得費: 150万円(売却価格の5%で概算)
  • 譲渡費用: 100万円
  • 所有期間: 10年(長期譲渡所得)

計算:

  1. 譲渡所得 = 3000万円 - 150万円 - 100万円 = 2750万円
  2. 税額 = 2750万円 × 20.315% = 約559万円

ケース1との比較(試算):

  • 取得費が分かる場合: 税額約183万円
  • 取得費が不明な場合: 税額約559万円
  • 差額: 約376万円

取得費が不明な場合、税額が大幅に増えるため、購入時の契約書・領収書を探すことが重要です。

計算シミュレーション:短期譲渡所得・特別控除適用時

ケース4:短期譲渡所得の場合(税率39.63%)

条件:

  • 売却価格: 3000万円
  • 取得費: 2000万円
  • 譲渡費用: 100万円
  • 所有期間: 4年(短期譲渡所得)

計算:

  1. 譲渡所得 = 3000万円 - 2000万円 - 100万円 = 900万円
  2. 税額 = 900万円 × 39.63% = 約357万円

長期譲渡所得(ケース1)との比較:

  • 長期譲渡所得: 税額約183万円
  • 短期譲渡所得: 税額約357万円
  • 差額: 約174万円

所有期間が5年を超えるかどうかで、税額が大きく変わります。

ケース5:3000万円特別控除適用時

国税庁の規定により、マイホーム(居住用財産)を売却した場合、3000万円の特別控除を受けられる場合があります。

控除の要件:

  • 自分が住んでいた家を売却すること
  • 売却先が配偶者や親族でないこと
  • 売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと
  • 確定申告を行うこと

条件:

  • 売却価格: 3000万円
  • 取得費: 2000万円
  • 譲渡費用: 100万円
  • 譲渡所得: 900万円
  • 所有期間: 6年(長期譲渡所得)

計算:

  1. 譲渡所得 = 900万円 - 3000万円特別控除 = 0円(控除額が譲渡所得を上回る場合は0円)
  2. 税額 = 0円

控除前(ケース1)との比較:

  • 控除前: 税額約183万円
  • 控除後: 税額0円
  • 節税額: 約183万円

3000万円特別控除を活用すれば、譲渡所得が3000万円以下の場合は税額がゼロになります。

計算時の注意点

所有期間の判定方法

所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定されます。実際の所有期間と異なる場合があるため、注意が必要です。

例:

  • 2020年2月1日購入、2025年3月1日売却
  • 実際の所有期間: 5年1か月
  • 判定時点(2025年1月1日): 4年11か月 → 短期譲渡所得

減価償却費の計算

建物の取得費からは、減価償却費を差し引く必要があります。減価償却費を差し引き忘れると、譲渡所得を過少申告し追徴課税のリスクがあります。

計算例(木造、取得価格1000万円、経過年数10年):

  • 減価償却費 = 1000万円 × 0.9 × 0.046 × 10年 = 414万円
  • 取得費(建物) = 1000万円 - 414万円 = 586万円

減価償却費の計算は複雑なため、税理士に相談することをおすすめします。

確定申告が必須

譲渡所得が発生した場合、または3000万円特別控除を適用する場合は、確定申告が必須です。確定申告を行わないと、3000万円特別控除が適用されず多額の税金が発生します。

確定申告の期限は、売却した年の翌年2月16日~3月15日です(3月15日が土日祝日の場合は翌平日まで)。

まとめ

譲渡所得税は、長期譲渡所得(所有期間5年超)の税率が20.315%、短期譲渡所得(5年以下)の税率が39.63%と大きく異なります。所有期間の判定は「売却した年の1月1日時点」で行われるため、注意が必要です。

取得費が不明な場合は売却価格の5%で概算できますが、税額が大幅に増えるため、購入時の契約書・領収書を探すべきです。

3000万円特別控除を活用すれば、譲渡所得が3000万円以下の場合は税額をゼロに抑えられます。ただし、確定申告を忘れずに行うことが重要です。

不動産売却時の税金は複雑なため、税理士に相談することをおすすめします。

よくある質問

Q1取得費が分からない場合はどうすればいいですか?

A1取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として使用できます。ただし、譲渡所得が過大になり税額が大幅に増えます。試算によると、売却価格3000万円の場合、概算取得費は150万円となり、実際の取得費が2000万円だった場合と比べて税額が約376万円増加します。購入時の契約書・領収書を探すことを強くおすすめします。見つからない場合は、購入先の不動産会社や金融機関に問い合わせてみましょう。

Q2減価償却費はどう計算しますか?

A2減価償却費は「建物の取得価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数」で計算されます。国税庁の規定により、償却率は構造により異なり、木造は0.046(耐用年数22年)、RC造は0.022(耐用年数47年)です。例えば、木造建物1000万円・経過年数10年の場合、減価償却費は1000万円×0.9×0.046×10年=414万円となります。計算が複雑なため、税理士に相談することをおすすめします。

Q33000万円特別控除の適用要件は?

A33000万円特別控除は、マイホーム(居住用財産)を売却した場合に適用できます。主な要件は①自分が住んでいた家を売却すること②売却先が配偶者や親族でないこと③売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと④確定申告を行うことです。所有期間に関係なく適用可能ですが、確定申告を行わないと適用されません。売却した年の翌年2月16日~3月15日(3月15日が土日祝日の場合は翌平日まで)に確定申告を行いましょう。

Q4復興特別所得税とは何ですか?

A4復興特別所得税は、東日本大震災の復興財源として2037年まで課税される税金です。所得税の2.1%を追加で納める必要があります。譲渡所得税の場合、長期譲渡所得は所得税15%×2.1%=0.315%、短期譲渡所得は所得税30%×2.1%=0.63%が復興特別所得税として加算されます。例えば、長期譲渡所得900万円の場合、復興特別所得税は900万円×0.315%=約2.8万円となります。